| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──

作者:なべさん
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

ALO
~妖精郷と魔法の歌劇~
  英雄達の凱旋歌

ぜひゅっ、ぜひゅーっ、とレンはふらつく足を必死で支えながら、ぼやける視界の向こうにいる二つの影を喰い殺さんばかりに睨みつけた。

脳裏ではどぐん、どぐん、と脳の悲鳴のような鼓動が聞こえる。

ごぷ、と吐き気が時々襲い、目眩が絶えず平衡感覚を狂わせる。

───や………ば……。さすがに慣れない心意防御を全力でやったのはまずかった。一気に体力………持ってかれた。

ぐらり、と体が傾く。それを必死に支える。

深呼吸をするとようやく焦点が定まってきて、数十メートルほど先にある大木の上に立つリョロウとセイの姿を視認できた。

同時に、両手の拳に僅かな過剰光がゆらりと纏わりつく。

心意技とも言えない、心意の力。

普通の状態のレンでは、ありえないくらいの量の少なさだ。

「今は……、これが限界か…………」

集中(コンセントレーション)が、限界まで落ち込んでいる。

心意の力を使用するに当たって、重要なファクターは想像と投影である。

本能レベルで、投影したい物のイメージを脳裏で描く。そして、それを使って現実と因果律さえも捻じ曲げるほどの力を現実に投影するのだ。

だが計二年と二ヶ月、そして二ヶ月の間一睡もしていないほどのダメージを蓄積している今の状態なら、ほとんど集中できるはずもない。

もともと、人間というのは奇跡の上に成り立っているジグソーパズルのような物だ。

一つ一つのピースが修復はできても量産はできない、かけがえのないパズル。

病気というのはそのピースにヒビが入る程度の物。

それだけならば修復できるだろうが、睡眠というの物はその重要なピースその物なのだ。それを失うと言うことは、人間という生物のジグソーパズルが根幹から瓦解するということなのだ。

人間は長い間睡眠を取っていないと、かなりの確立で死に至る。

最初は赤血球の生成量が減り始め、そのうち身体全体が衰弱し始めることになる。最後には、脳機能が停止することになる。

《疲れ》という物は、地味に見えるが人間には充分に致命的なもので、脳が発する危険信号なのだ。

───これ以上戦いが長引いたら、こっちに得はない……か。

はぁ、とレンはため息をつく。

この世にある全てを憂うように。

次いで、大きく息を吸う。

ミシッ、と足元の地面が悲鳴のように音を立てる。

そして―───

「行くよ」

一言だけ、短く言った。

ドゴンッ!!!と砲弾のようにレンの体がスタートする。瞬きする間もなく、枝の上に立つ二人の背後に回った。

反応させる間もなく、ワイヤーを展開する。

鈍い音とともに、硬い手応えが手の中に伝わる。

二つの影が、弾かれたように吹っ飛んだ。だが、明らかにダメージの気配はない。

───リョロウにーちゃんの十八番(おはこ)の心意防御か………

仮想の重力に従って落下しながら、レンはそんなことを思う。

《宵闇の軍神》リョロウの得意とする心意防御、さすがに硬い。今のレンならば、あれを真正面から突破することは困難だろう。

同時に────

地面に着地したレンを迎え撃ったのはセイだった。

空中に残光を残すがごとき太刀筋で、レンに迫る。

《暗闇の瞬神》セイの得意とする心意は、二つ名からも分かるように《移動速度拡張》だ。

時々物理法則と真っ向から対立するような移動法をするので、速さだけでは勝っているレンでも油断はできない。

眼前に迫る刀身をレンは避けずに、思いっきり手を合わせるようにして受け止めた。俗に言う、真剣白羽取りである。

真剣白羽取りは、リスクが大きすぎるために敬遠されがちだが、その実対武器保持者戦でのメリットは計り知れない。

何せ、刀と言う武器は基本的に薙いで相手にダメージを与える物だ。手に挟まれてまったく動かせない状態では、相手への殺傷力など無にも等しくなる。

「くっ!!」

だが、レンは顔を歪ませた。

手の中にしっかりと納まっている片手剣、固有銘《スターチェイサー》の刀身が、徐々に、しかし確実に食い込んできているのだ。必死に目を凝らすと、その鏡のように磨き上げられた刀身にはうっすらと薄緑色の過剰光が。

───このままの硬直状態でも、不利なだけか………!

一瞬でそう判断したレンは、挟み込んだセイの片手剣を思いっきり左手にねじり、わざと自らの生み出した硬直状態を解いた。

一瞬の刹那、交錯する互いの目線。

レンから見たセイの目は、このコロシアイの最中にも関わらず、異常なほどに静かで、そしてどこまでも透き通っていた。

ぞわっ、と背筋に冷水をぶちまけられたような悪寒が襲う。

レンはこの瞬間に気付いた。

己の身が狩る側ではなく、狩られる側であると言うことに。

嫌な汗が、あごを伝う。

それを振り払うように────

「う、おわああぁぁぁああああああぁぁああーっっっっっっ!!!!!」

レンは絶叫し、己を狩る者達を葬るべく鋼糸(ワイヤー)を振るった。










「凄いな………」

大木の上に立つリョロウは、感嘆したようにそう呟いた。

その隣には、同じく感心したように腕組みをするセイ。

二人の視線を、全く同じ方を向いている。

その先には、絶叫しながら辺り一帯を見境なしに攻撃している《ヒト》がいた。ソレが放つ攻撃のせいで、もう何十本の大樹が犠牲になったのだろうか。

まったく、現実世界でやれば自然保護団体が黙っていないような光景だ。常識を逸脱しすぎている。

「ストルの話では二週間ってことだったんだけどね。まったく、人間もそうだけど、火事場の馬鹿力って本当に信じられないようなことを可能にするんだね」

そう言って、セイは何が面白いのかくすくすと笑う。

飛んでくる凶刃は、それ一振りで何人の命を奪うのだろうか。

そう考えさせられるほどに、ドス黒い。

「笑ってる場合じゃないぞ、セイ君。あれじゃあ近付くことも困難だ」

「心配する必要はないよ、リョロウ。今のレン君の体で、あれレベルの心意に生体脳がいつまでも持つはずもない。じきに気を失うさ」

「だといいんだが………。その時、彼の脳は耐えられるのかい?」

疑念の念を口に出すリョロウに、セイはひょいっと肩をすくめた。

何の気負いもなく、中性的な少年は口を開く。

「さあ?」

「…………………………………」

「人間って言うのは、簡単には死なないものさ。大丈夫、大丈夫」

何の重みもなく放たれたことばに、今度もリョロウは答えられなかった。











レンは真っ黒な空間の中に立っていた。

いや、上下左右何もない空間の中にいたのだから、浮いていたという言い方が正しいかもしれない。

漆黒の宇宙のような、真に何もないような空間。

しかし、何もないと言うことはなかった。

レンの目の前には、ドアがあった。

西洋風の、寂れたドアである。スチールではなく木製で、血色に塗られた塗装が所々剥げて、中身の木目が覗けられる。

鬼の顔をモチーフにしたドアノブだけが驚くほどに

精巧で

緻密で

醜悪で

驚くほどにそのドアにミスマッチだった。

レンはそのドアをノックしようとして思いとどまり、少し考えてドアノブに手を伸ばした。

てっきり鍵でも掛かっているかと思っていたが、般若のような鬼の顔はするりと真横になって、鍵が掛かっていないことを知らせた。

ドアをゆっくりと開ける。

ギキイィィィィー、とホラー映画も真っ青なほどのリアルな効果音とともにドアは開いた。

その向こうにあったのは、レンが今の今まで浮かんでいた《無》の空間ではなかった。

その中は真っ黒い部屋だった。

十メートル四方の、そこそこ広いその部屋にある調度品のカラーリングは全てツヤ消しのマットブラック。

隅に置かれているバカでかいブラックソファ、何も入っていない本棚の色も黒。真っ黒な壁紙に掛けられている額縁に入っているのは、子供が黒のクレヨンで塗りつぶしたような真っ黒な紙が入っていた。

そして、部屋の中で異彩を放っているのが、中央にドデンと置かれている漆黒のグランドピアノ。

そして、この部屋で唯一白い色の鍵盤の前に座る、一人の黒髪の青年。

幼さを少しだけ残すその青年は、レンの背後で閉まった扉の音に伏せていた瞳をこちらに向けてきた。

深海を思わせる深い青色を称えたその瞳を正面から見たレンは、不思議な感慨を覚えた。

どこか懐かしいような、そんな感覚。

その青年はパタリと鍵盤を閉じると、静かに立ち上がった。

そして、言う。

「やぁっと来たか。待ちくたびれたぞコラ」

そんな、お世辞でも品のない口調で言葉を紡ぐ。しかし、その声にもどこか深いいらえが混じっている。

「あなたは…………誰?」

思わずといったレンの言葉に、その青年はフン、と盛大に鼻を鳴らした。

「何を言うかと思ったら、誰と来たか。ハッ!ったく、誰がお前ぇを見守ってきてやったんだっつぅの」

吐き捨てるように言う青年。しかし、その顔は全く嫌そうじゃない。

なぜか、ワクワクという擬音語が付きそうな勢いで顔を輝かせている。それを不器用に隠そうとしているのがかえって滑稽であった。

それに、レンには男の口調に心当たりがあった。

そう。命を懸けるような局面で、いつも心の奥底で自分の叱咤し、時には叱りつけて外れかけた道を正してくれた正体不明の《声》。

「キミは………、まさか《鬼》?」

「へぇ、お前ぇは俺のことをそう呼んでるのか。まぁいいぜぇ?お前ぇが俺をどぉ呼ぼうが、知ったこっちゃねぇ事だしな」

そう言って、クククッと青年は嗤う。

「まぁ、自己紹介するならぁ、狂怒(きょうど)ってとこかねぇ。俺の名ぁ」

「狂怒?」

「あぁ、《災禍》より産まれ落ちた三兄弟の一人だ」

男の言葉を聞いて、レンは息を呑んだ。

災禍。

それは最も忌まわしい言葉だ。

それを聞き、レンが連想するのは唯一つ。

災禍の鎧。

一人のプレイヤーが残した負の遺産であり、そして忌まわしき呪いの連鎖。

しかし、その鎖は六代目所有者《鬼神》PoHを倒した時に断ち切ったはずだ。しかし、目の前にいる男はそれから産まれ落ちた存在だと言っている。

「そ、それは、どういうことなの?」

「あぁ?どぉもこぉも、手前ぇ等《六王》が親父をブッ倒した時に、親父の体ぁ三つに分かたれたのさ。俺以外の二人はどっかに行ったが、俺は一番近くにいたお前ぇにへばり付いた。手前ぇも覚えてんだろ?」

もちろん覚えていた。

レンはまざまざと覚えている。

五代目《災禍の鎧》討伐戦、《六王》一丸となって戦ったあの血みどろの戦いだ。その最後、レン自身が刎ねた首が突如として動き回り、肩口を喰い千切らんばかりに噛み付いたのだ。

その時についた傷は、よほど負の心意が詰まっていたのか、その後一ヶ月間に渡ってレンを痛みに苦しめた。

レンの顔色から何を読み取ったのか、青年は蒼色の称える目元をふっと緩ませ、ひらひらと手を振る。

「心配すんじゃねぇよ。俺は親父みてぇにお前ぇを乗っ取るほどの精神感応力はねぇ。あくまでお前ぇの意識にへばり付いてる虫ケラみてぇなモンだ。お前ぇから消そうと思えば、いつでも消せる」

「…………………信じるよ、キミはいつも僕を救ってくれた。それは絶対に揺るがない事実」

「かっかっか、そぉかい。んじゃまぁ、それはそれとして本題に行くぞ」

そう言い終えるとともに、己の名を狂怒と名乗った蒼い瞳の青年は緩みかけていた表情を引き締めた。

途端に、幼さを残していた雰囲気が跡形もなく消え失せ、ゆらり、と瘴気のようなオーラが立ち昇る。

「お前ぇ、今の状況分かってんのか?死にかけてんぞ」

「………うん」

「うんじゃねぇ。お前ぇは絶対に分かってねぇ。相手はかなりの手練れ、しかも心意も使う。しかもそれが二人だぞ?今のお前ぇの集中力がどこまで持つかは知れねぇが、正直言って旗色はかなり悪ぃぞ」

「………うん」

「お前ぇが望むなら、力を貸してやらんでもないが、そしたら今度はお前の体がもたねぇ」

分かっている。

この局面で、この戦局で、すでに場は詰んでいるのだ。

将棋で今の自分が置かれている状況を例えるならば、四方八方を固められた王将のような状態。飛車も、角も、金将も銀将すらもない。

まさに詰み。

それもこれも、レンの現実を丸ごと犠牲にした修行のせいだ。

自業自得とは、こういう事なのだ。

諦めたように目を瞑るレン。

しかし、その前で狂怒という名の男はにやりと嗤った。

獰猛に。

残忍に。

凄惨に。

「だが、まだ手はあるぜ?」

言った。 
 

 
後書き
なべさん「へいへーい!皆さん、お久し振りデース!始まりました!そーどあーとがき☆おんらいん!!」
レン「本ッ当にひさびさだよ!何やってたこの二週間~!」
なべさん「わ、わがりまじだ。わがっだがら胸元締め上げてる手を離せ……」
レン「……………………チッ!」
なべさん「げほっげほっ!……あれ?今舌打ちみたいなのが聞こえたんだけど」
レン「気のせいだ。んで、どこで何してた」
なべさん「うん。自室で艦これやってた」
レン「………………………………」

~三分後~

レン「はい、自作キャラ、感想を送ってきてくださいねー♪」
なべさん「すいませんでしたすいませんでしたすいませんでしたすいませんでしたすいませんでしたすいませんでした…………」
──To be continued── 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧