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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──

作者:なべさん
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ALO
~妖精郷と魔法の歌劇~
  英雄達の戦歌

多刀流

それは、今はなきあの鋼鉄の魔城にて、ある老人を開祖とした個流剣術だ。

しかしそれが本当に凄いのは、それがシステムに規定されたソードスキルやプログラムではないことである。

そう、それは《システム外スキル》。プレイヤー自身の身体能力と五感に大きく依存された、言わばプレイヤー自身の能力なのである。

そんなシステム外スキル《多刀流》のロジックは、極めて簡単だ。

斬撃系武器を振った直後に離し、あらかじめ空中に放り投げておいた別の武器をキャッチして薙ぐ。後はこれの繰り返しだ。

要は、ピエロや大道芸人などがよくやるジャグリングと同じなのである。

失敗の反動ももちろん大きいが、しかしそれを吟味してなお有り余る可能性をこれは秘めている。

よく考えて欲しい。

格ゲーなどの対戦型ゲームで始終ずっと攻撃しているキャラクターがいるだろうか。

もしいたら、それはただのチートキャラ以外の何物でもない。あの手のゲームは、技後硬直時間があってこそゲームが成り立っているのだ。

無限攻撃とはつまるところ、鉄壁の攻撃要塞と何も変わらない。そんなキャラクターが一人でもいたら、そのゲームは途端にクソゲーに成り下がってしまうだろう。

それほどの、絶大なデメリットを補ってなおお釣りが繰るほどのメリットを持つ《システム外スキル》が、なぜ出回ってないのかと言うと、そこには意外と深い事情があったりする。

習得が困難すぎるから?いや、そんな単純な理由とは違う。

それを開発した開祖が、それを秘匿したのだ。どんな意図があってかは知らないが。

《多刀流》を開発したのは、《六王》第四席《老僧(ろうそう)千手(せんじゅ)》シゲクニ。

もともと彼がリーダーを務めるギルド【風魔忍軍】は、謎の多い事で知られている。

公式にメンバーが発表されているのは長であるシゲクニとその副官ツバキの両名だけで、ボス戦に参加する顔ぶれも毎回違い、さらに、肝心のギルド本部はSAO終盤になっても、どこにあるのか見当もつかなかったほどだ。

噂では、大胆にもどこかの層のボス部屋を占拠ているとかしていないとかの噂も立ったが、今日でもその真相は闇の中だ。

そんな、異常に秘密主義の【風魔忍軍】で生まれた奥義とも言えるそれは、当然のごとく門外不出の物となった。

代々、一子相伝のように受け継がれたそれは【風魔忍軍】内だけで伝えられている物だった。

その──────はずだった。










───なぜ、そんな物を【神聖爵連盟】副長である彼が!!?

カグラは混乱の中でも、精一杯できることをやった。身体を思いっきり捻り、第二撃目を回避しようとした。

だがやはり時すでに遅く、嫌な感触とともに左腕から力が抜けた。

「ぐっ!…………ハァアアアアァァァッッッ!!!」

力任せに、カグラは長大な炎の塊となっている冬桜を薙ぎ払った。

空気が焼け焦げるのを通り越して消滅させながら、大太刀はウィルの身体を真っ二つにしようと迫る。

しかし、ウィルはあっさりと翅を震わせてバックステップでかわした。

舌打ちとともに、カグラは返す刀で切り裂こうとしたが、すでにウィルは心意技《煉王聖火》の射程圏外まで待避してしまっていた。

白衣(びゃくえ)が、鮮血に染まっていくのを感じた。

左腕に血に浸った白衣がべっとりと張り付いて気持ちが悪い。

「なぜ……、なぜあなたが《多刀流》を体得しているのですか?あれは、【風魔忍軍】メンバー、それも長が認めた者にしか伝えられないもののはず………」

「よく知ってるッスねー。それこそ機密事項なのに。スパイでもして潜り込んでたんスか?」

ヘラヘラと笑いながら、それでもウィルの構えに隙は欠片も見当たらない。

眼光はいよいよ鋭くなり、軽い言葉との大きすぎるギャップに、こちらが目を回しそうだ。

「………知っていただけです。もしよければ、返答願いますか?【神聖爵連盟】に所属するあなたがなぜ、機密至上主義の【風魔忍軍】の最上級の機密を体得しているのかを」

「…………いいッスね。バカ正直なヒトは好きッスよ?」

そう言い、ウィルヘイムは笑う。どこか、自嘲めいた笑みで。

「話は簡単ッスよ。俺は【風魔忍軍】創設以来の裏切り者なんスよ」

「裏切り者?」

問い返したカグラに、《夕闇の化神》と呼ばれるスプリガンはくすんだ金髪を縦に振った。

「イエス。俺は【風魔忍軍】サブリーダー………だったッス。シゲさんの後継者だーとか言われてたんスけど、ほら、あそこって異常にメンバーを縛るんスよね。俺は自由気ままっつーか、要は縛られたくなかったんスよ。だから平和的に脱退しようとしたら、今度はこの技術を会得している者を出させる訳にはいかんって…………無茶苦茶ッスよねぇ~?」

ウィルは饒舌に喋り、そして思わずといった感じで苦笑した。

それにはカグラも同様の表情しか取れない。彼の言ったことは嘘ではなく、ほとんど真実だろう。

大規模なギルドには彼の言う通り、確かにそういう部分が少なからずある。その中でも、【風魔忍軍】はその特色がかなり強いと言わざるを得ない。

と言うか、【風魔忍軍】がそうせざるをえないほどに、《多刀流》は絶大な力を発揮するのだ。

その技術を天才的に習得した者が、じゃあ辞めますと言ってすんなりと放してくれるはずがない。

「それで……逃げたのですか?」

「逃げたッスよ。付き合ってられないス、あんなマッドカルトども。あいつらが大人しいのは表面上だけで、中身は《裏切り者には須らく死を》がスローガンなくらいッスからねぇ。まーそれでも、肝心のシゲさんはそれを頑張って治そうとしてたみたいですけど。俺から言わせてみりゃ、ありゃ完全に無駄でしたねぇ」

肩をすくめるウィルに、カグラは再び同情の眼差しを少し向けた後、きっぱりと言った。

「………なるほど。これであなたが《多刀流》を持っている訳が分かりました。そして同時に、なぜクナイなのかという事も」

「お、分かっちゃったッスか?」

「はい。《多刀流》はその理論上、複数の武器を同時に装備をしていないと意味がありません。そしてそれができるのは、同時に複数の刀剣カテゴリの武器を装備できる《老僧の千手》シゲクニのユニークスキル《自在剣(マルチソード)》のみ………」

淡々と語るカグラに、ウィルはニヤニヤ笑いを止めない。

「しかしその他にも、同時に武器を装備できる方法はあった」

「………その方法とは?」

「《投擲武器》です。私も、今の今まで忘れていましたが、投擲武器は装備重量が許す限りいくらでも装備欄に移すことができます。そして、あなたの持つそのクナイのカテゴリは………《投擲》」

「ビンゴ。そうッスよ。何で俺がこんな、特殊すぎる得物を選んだかと言うと、全てはそのためッスね」

「《投擲武器》クナイ。………確か、《短剣》スキルの上位派生スキルでしたか」

ウィルはニヤリ、と笑いを深くした。

「要は、投げれる短剣ってとこスかねぇ。攻撃力がイマイチなのが、玉に瑕ッスけど」

「……………なるほど。万事解かりました」

カグラの足元。

そこには、地獄の亡者のように残酷で、しかし美しい炎が辺りの空気を嘗め回しながら拡大していた。

それを見ながら、ウィルは更に笑みを大きくする。

残忍で、獰猛に。猛々しき獣のように。

()()()()ッスか?」

「えぇ………。あなたがべらべらと喋っている間に、イメージがつきました。…………あなたを焼き尽くすための」

「おぉこわ。そんじゃこっちもとっておきを出すとしますか」

そう言って彼が取り出したのは、これまでとは色合いの違う、五つのクナイ。

それぞれが、赤、青、黄、緑、茶に、鮮やかにカラーリングされている。

───それぞれのシンボルカラーで集中深度を上げようとしているのか?

しかし、それだけでは彼の言った《とっておき》ほどの効果は得られないだろう。ならば何がとっておきなのか………。

疑念を振り払い、カグラは手元に集中した。

いまだに炎の勢いは治まらない《煉王聖火》状態の、肥大化した《冬桜》の刀身。

しかし、これではダメだ。射程は延びるが、威力は出ない。

───もっと深く。

ならばどうするか。

それは、《圧縮》するのだ。この馬鹿でかいエネルギーをもっと圧縮すれば、必ずもっと大きな威力が出るに違いない。

───もっと………。もっと、ずっと深く。

ならば────

カッとカグラの両目が見開かれた。

自然と口が動き、脳裏に出現した言葉の羅列を刻む。

「《人は塵に、塵は灰に。全てを、灰塵と化せ》ッッ!!」

次いでウィルが感じたのは、熱でも、音でもなかった。

衝撃

体中を金属バットでタコ殴りにされたような衝撃が、ウィルのアバターを襲った。視界が堪らずに揺れ、平衡感覚が早速おかしくなってくる。

その中で、カグラの声だけははっきりと聞こえる。

「冬を越せ、《冬桜(とうおう)》」

揺れる視界の向こうで、ウィルは不思議とはっきりと見た。

あれほど空中を焦がさんばかりに渦巻いていた烈火の炎が、跡形もなく消えている。そしてその中心で、正眼に構えたカグラの大太刀の鏡のようなその表面が焦げたように黒くなっていた。

しかし、それだけではない。

まるでその中から何かが産まれてくるように、その黒い刀身の内側からは赤き光が漏れ出している。

やがて薄皮が剥けるように、ペリ、ペリ、と黒い表面が剥がれ落ちていく。

その中から現れたのは太陽が刀の形を取ったような、赤を通り越して純白に光り輝く刀身。

見ているだけで眼が潰れそうだ。

呆気に取られるウィルの目の前で、カグラは静かに

「《繚炎火乱(りょうえんからん)》」

言った。 
 

 
後書き
なべさん「はい、始まりました!そーどあーとがき☆おんらいん!!」
レン「延ばすねぇ、この戦い」
なべさん「うん。あと五話くらい続くかな」
レン「延ばしすぎだ!なんで中ボス戦的な戦闘でそんだけ枠取らないといけないんだよ!」
なべさん「いやぁ、だって使ってるのが読者様から送られてきた自作キャラ達だよ?あんまりやられキャラ感を出したくなかったんだよね~」
レン「ぶっちゃけすぎだろ!作者側の腹黒い胸のうちを吐き出すなよ!」
なべさん「てことでまだまだ続きますぜぇ?旦那がた」
レン「誰だよ。はい、自作キャラ、感想を送ってきてくださいねー」
──To be continued── 
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