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ニュルンベルグのマイスタージンガー

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第一幕その十


第一幕その十

「確かそれは」
「私の家の者が細かいことをしてくれたそうで」
「その通りです。ここに来てわかったことですが」
「やはり注意するべきか」
 ベックメッサーはまたヴァルターを見て呟いた。
「この男には」
「あの時は有り難うございました」
 ヴァルターはまたポーグナーに対して礼を述べた。
「さて、私がマイスタージンガーを名乗り得る名誉を得られることですが」
「それですか」
「それは今日のうちにも出来るでしょうか」
「何ということを言うのだ」
 今のヴァルターの言葉にはベックメッサーも絶句だった。
「そんなこと出来る筈がないだろうに」
「騎士殿」
 しかしポーグナーはそのヴァルターに対して穏やかに告げるのだった。
「このことには規則がありまして」
「はい」
「今日は丁度試験の日です」
 ダーヴィットと全く同じことを言っていた。
「貴方にマイスタージンガー達を紹介させてもらいましょう」
「マイスタージンガー達をですか」
「そうです。丁度集まってきております」 
 見ればもうであった。それぞれの弟子達を席の後ろに従えて座っていた。もう席はその殆どが埋まってしまっていたのだった。
「いい具合に」
「さて、皆さん」
 その中の茶色の髪を短く刈り見事な髭を口にたくわえた鋭い目の男が声をあげた。目は黒く知的な光をたたえている。青と白の縦縞のシャツに茶色のズボンをはいている。職人というよりは学者に見える、そうした雰囲気を醸し出している初老の男であった。
「おられますか?」
「おや、ハンス=ザックス」
 ベックメッサーは彼に目をやって悪戯っぽく笑う。
「今日も来られましたな」
「おかげさまで。書記殿もですね」
「私は何時でもおりますよ」
 愛想笑いを浮かべてザックスに答えるのだった。
「いつも通りね」
「左様ですか」
「それではです」
「はい、ナハティガルさん」
 皆今声をあげた禿頭の男に応える。
「宜しいでしょうか」
「はい、集まっておりますよ」
「ここに」
「それではです」
 それを受けていかつい顔の男が口を開いてきた。随分と背が高く身体つきも立派だ。
「まずはこの末席を汚すフリッツ=コートナーが」
「はい、コートナーさん」
「点呼を取りましょう」
「是非」
 皆で言い合う。そうしてこのポーグナーが点呼を取りはじめた。
「クンツ=フォーゲルザングさん」
「はい」
 先程の禿げた男が頷いた。
「こちらに」
「そしてヘルマン=オルテルさん」
「どうも」
 小柄な男が応える。
「いつも出席です」
「バルタザール=ツォルンさん」
「ここですよ」
 肥満した男が笑顔で名乗り出る。
「欠席したことはありません」
「コンラット=ナハティガルさん」
「ええ、ここに」
 茶色の髪の男だった。
「いつも通りさえずります」
「アウグスティン=モーザーさん」
「欠席はしない男」
 勿体ぶった男であった。
 
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