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フィガロの結婚

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37部分:第四幕その一


第四幕その一

                          第四幕  晴れて大団円
 婚礼の賑やかな宴の後。多くの者は満足した気持ちで広場を後にした。だがその広場で今。バルバリーナが夜の闇の中で何かを必死に探していた。
「困ったわ」
 不安に満ちた顔で蹲り探し回っている。
「何処に行ったのかしら。あれは」
「あれっ、そこにいるのは」
「バルバリーナではないの?」
 そこに通り掛ったのはフィガロとマルチェリーナだった。晴れて親子仲良く夜の散歩を楽しんでいたのだ。
「どうしたんだ、こんなところで」
「あっ、フィガロさん」
 バルバリーナも彼に気付き顔をあげる。
「お散歩なの?」
「そうさ。ところで御前さんはどうしてここに?」
「探しものをもしているの」
「ケルビーノならお屋敷の中だよ」
 ここでは軽くこう言って彼女をからかった。
「早くお屋敷の中に入るんだね。もう寒くなるしな」
「違うわ」
 だがバルバリーナは彼のこの冗談に首を横に振るのだった。
「ケルビーノじゃないの。悪いけれど」
「じゃあ一体何なんだい?」
「瓶よ」
 バルバリーナはこう答えた。
「瓶を探しているのを」
「瓶を?」
「ええ。伯爵様が私に言ったの」
 ここで伯爵の名前が出て来た。フィガロは彼の名前が出て来てその眉を無意識にぴくりと動かしてしまった。
「その瓶をスザンナに届けるようにって」
「スザンナに瓶」
 流石に鋭かった。すぐに不吉なものを感じ取った。
「そういうことか」
「そういうことかって?」
「瓶ならここにあるさ」
 こう言って懐からその瓶を取り出したのだった。
「さっきわしは拾ったものだ。伯爵様が落とされたんだな」
「それなの」
「そうだ。これでわかったぞ」
 フィガロは怒った顔で頷いた。
「全てがな」
「何がなの?」
「伯爵様が御前にスザンナのところに届けるように言ったこの瓶」
 バルバリーナに対してその瓶を指し示しながら話す。
「それが証拠だ」
「何の証拠なの?」
「手紙の封をする為に使ったものだ」
 これがフィガロの推理だった。
「違うか?」
「そうなの?」
「そうだ」
 彼は断言さえした。
「間違いない。わしには全てがわかった」
「全部わかったのにどうして私に聞くの?」
 バルバリーナは何も知らない。ならこう言う他なかった。
「どうしてなの?それは」
「伯爵様が御前に頼まれる時に何と仰ったか」
「それを聞きたかったのね、私に」
「そう、その通りだ」
 ここでこのことも告げた。
「これでわかったな」
「わかったけれど」
 それでもバルバリーナは言うのだった。
「このことを誰にも言わないでよ」
「誰にもか」
「伯爵様に念押しされたのよ」
 伯爵の名前を出しての念押しだった。
「この瓶をスザンナに届けてくれって」
「やっぱりね」
「これが松の封印だってね」
「松のか」
「それによ」
 バルバリーナはもう開き直ったとばかりにフィガロに言い続ける。
 
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