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FAIRY TAIL 星と影と……(凍結)

作者:天根
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悪魔の島編
  EP.14 グレイの選択

 
前書き
 約半年ぶりの投稿になります。遅れて本当にごめんなさい。
 見てくれる人(いるのか?)にも本当に申しわけないです。
 不定期になりますが、今後もよろしくお願いします。

 それでは第14話です。
 よろしくお願いします。 

 
「……?」

 無断でS級クエストに行ってしまったナツ達を追うべく、エルザと共にハルジオン港からガルナ島へ向かう海賊船の中で、目的地を視界にとらえたワタルはふと眉根を寄せた。
 ワタルの様子の変化は僅かであったにもかかわらず、エルザがそれに気付けたのは、それだけ彼らのコンビ歴が長く、互いの事をよく知っていたからだ。

「どうした、ワタル?」
「いや、なんか違和感が……」
「違和感?」
「ああ……。少し待て……」

 僅かに感じた違和感。それを明らかにするために、ワタルは瞑目して臍の前あたりで手を組んで神経を集中させた。


 ワタルの特技、“魂威”は自分の体内の魔力を感知、放出、操作する技術である。その応用として、彼は他の魔導士より精密な魔力探知、及び目標の魔力の解析を可能とするのだ。
 因みに、彼がギルドの面々に『人間レーダー』と揶揄される所以だったりする。
閑話休題。

「――島の周り……いや、上空か? とにかく、膜のようなものが張っているな……」
「膜? 魔力か?」
「ああ。薄い膜だから、戦闘用の局所的な感知なら問題ない。だが、広範囲の感知は少し難しいな」
「そうか……なら、どうやってアイツらを見つけ出すか……」
「ま、面倒だが地道にやるしかないだろ」

 片手を頬に当てて少し考え込む様子を見せたエルザに、ワタルは船の手すりに寄りかかって軽い調子で答えた。
 そして、そのままなんとなく上を見たのだが……

「――ん? あれは……」
「どうした? 何か分かったのか?」

 何かが飛んでいるのが見えた。
 ワタルはエルザの問いに答えながら、小型の望遠鏡を出して、見てみると……

「いや、多分関係ないだろうが…………あれは……ネズミ、か?」

 まだ遠いせいか、大雑把にしか分からなかったが、おそらくネズミであろう物体が空を飛んでいたのだ。

「ネズミ? ネズミが飛ぶわけないだろ」
「いや、それは分かってるけど……でも実際に飛んでるし……ほら、見てみろ」
「ああ。まったく、ネズミが飛ぶわけ…………飛んでる……」
「だろ?」

 ワタルに借りた望遠鏡を覗いたエルザが絶句したのも無理はないだろう。尻尾を器用に回して飛ぶネズミなど、想像する方が無理というものだ。

「しかし、結構なでかさだぞ、あのネズミ……あ、落ちた」

 未だ島との距離が遠いのにも拘らず、そのネズミの大きさに驚愕していたワタルだったが、ふと声を漏らした。
 米粒位の大きさのそれが急に島へ落下したのだ。

「ちょうどいい、アイツらを探す手がかりも無かったしな。あのネズミから調べるか……虱潰しよりはマシだろ」
「ああ、分かった。そうしよう」

 望遠鏡を上着のポケットにしまったワタルの提案にエルザも同意し、ナツ達の捜索の方針が決まったのだった。


 実は、そのネズミの手には、彼らの目標の一人、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の女魔導士・ルーシィがしがみついていたのだが……それはワタルたちの知るところではなかった。


    =  =  =


 そして、海岸で……。

「ヤバ、足が……!」

 苦戦の末、何とか元蛇姫の鱗(ラミアスケイル)所属の魔導士・シェリーを倒したルーシィだったが、ピンチを抜け出した、とは言い難かった。
 彼女のパートナーである、大ネズミのアンジェリカが主人の仇をとるかのように上空へ飛びあがり、ルーシィを押し潰そうとしていたのだ。
 しかも悪い事に、彼女は戦闘の疲労からまともに動けそうにない。

「きゃああああああああああ!! …………あれ?」

 せめてもの抵抗として、ルーシィは悲鳴を上げたのだが……いつまでたっても自分の身に何も起こらない事を訝しんだ。
 そして、強く閉じていた眼を恐る恐る開けると……


「――よっ、と……無事か、ルーシィ?」


 びっくりするぐらい軽い掛け声と共に、片手をポケットに入れたまま、アンジェリカの巨体を支えて立つワタルの姿があった。少し離れているところにはエルザの姿もある。


 島に着いた二人は、船上で見た巨大なネズミを探して浜辺を歩いていた。
 その途中で気配に敏感なワタルが戦闘の気配を察知し、それを辿っていたところ、ルーシィを発見した、というわけだ。

「ワタル!」
「色々と聞きたい事はあるが……とりあえず、離れてろ」
「いや、それが……体が……」
「……しかたない、エルザ!」
「わかった」

 ルーシィは直前の戦闘で負ったダメージと疲労で身体が動かない事を伝え、巨体を支えたまま首を動かす事でそれを確認したワタルはエルザに声を掛けた。それだけで彼の意図を察したエルザはルーシィを掴むと、不機嫌そうな様子を隠しもせずに、彼女を安全な砂浜に運んだ。
 それを少し苦笑しながら確認したワタルは……身に纏う雰囲気を鋭く一変させた。

「ハハ、相変わらずご機嫌斜めだな。さて……お前程度じゃあ、俺を潰せねェよ」

 それが伝わったのか、アンジェリカはその巨体を震わせたが……もう遅い。
 ワタルが口にしたのは意気込みでも何でもない、純然たる事実。後はそれを実行されるのを待つのみだったのだから。

「よっ、と……」

 ワタルはアンジェリカの腹を支えていた手を放すと、その首から背に駆け上り、片手を槍のように構え……魔力を集中、掛け声と共にその巨体へ突き刺した。

「フン!」
「ガッ……!」

 たったそれだけでアンジェリカは悶絶。だがそれだけでは終わるはずもない。

「“魂威”!」

 手に貯めた魔力を開放。申し訳程度に浮いていたその巨体は、炸裂音の後に轟音を響かせて砂浜に落下、盛大に砂を巻き上げた。


 最初の一撃で意識が飛びかけていたその体に、意識など残っているはずもない。


 砂埃が晴れた後、ルーシィが見たのは……砂浜に倒れた巨体の上で、服に着いたほこりを払う執行者(ワタル)の姿だった。




「さてと、なぜ私たちが此処にいるか……分かっているな、ルーシィ?」
「あ、いや、その……連れ戻しに、ですよね?」

 ルーシィはエルザの剣呑な雰囲気に圧され、砂の上で正座しながら彼女の問いに答えた。


 ちなみに、ワタルが巨大ネズミ・アンジェリカを倒したすぐ後、青い猫・ハッピーが(エーラ)を使ってルーシィを探しに来たが……ワタルたちが来ているのを見て逃走を図るも、ワタルに見つかって鎖鎌の鎖であっさり拘束。今はエルザの後ろに立つワタルに尻尾を掴まれて宙吊りにされている。

「ナツとグレイは一緒じゃないのか?」
「そのことなんだけど……ちょっと聞いて欲しいの。勝手にS級に来ちゃったのは謝る。でも、今この島は大変なことになってるの!」

 エルザよりかは声音の穏やかなワタルの問いに意を決したのか、ルーシィは話を切り出し、説明し始めた。


 地下にいる氷漬けの悪魔・デリオラ。
 それを復活させようとしている零帝・リオン率いる怪しい集団。
 そして、そのせいで体の一部が異形の怪物と化してしまったこの島の住人たち……。

「あたしたち……なんとか、この島の人たちを助けてあげたいの……」
「……」

 ルーシィの説得に、ワタルは黙って何かを考えていたが……彼の相棒は違った。

「興味無いな」
「ッ……じゃあ、せめて最後まで仕事を……」

 冷徹ともとれる態度と言葉でルーシィの説得を切り捨てたエルザに、ルーシィは食い下がったが……その言葉は途中で止められた。


  シャキン……!


 金属音と共に、エルザがルーシィの喉元に剣を突き付けたのだ。
 彼女はそのまま怒りの言葉を放つ。

「仕事? 違うぞ、ルーシィ。貴様は……いや、貴様等はマスターを、ギルドを裏切ったのだ。……ただで済むと思うな……!」
「ぅ……!」

 多くを知っている訳でないにせよ、見知った仲間からの強い敵意と迫力に、ルーシィは恐怖の涙を浮かべる。


 その時、彼女に意外な助け舟が出された。

「……まあ待て、エルザ」
「ワタル!?」
「……!」

 エルザと共にルーシィ達を連れ戻しに来たワタルだ。
 彼の言葉に、エルザとルーシィは揃って驚きの表情を浮かべる。といっても、エルザは困惑から、ルーシィは思わぬ希望的観測を抱いたためであるが。

「とりあえず、剣を下げろ。本気ではないにしろ、その剣は仲間に対して向けていいものじゃない」
「だが……!」
「いいから、ここは任せろ。そのままじゃ、ルーシィも話せないだろう」
「……分かった」

 不満そうな様子を見せるエルザだったが、ワタルの説得に渋々折れると、剣を魔法空間に収める。ワタルは内心でホッと息をつくと、エルザに礼を言った。

「すまん。一つ借りだな」
「……別にいいさ。お前にはいつも助けられてるからな」
「そうか……じゃ、ハッピー頼む」
「ああ」

 思ったよりも早く機嫌を直したエルザにホッとしたワタルは、気絶しているハッピーをエルザに渡すと、ルーシィに向き直り、口を開いた。

「とりあえず、ナツとグレイもいないと話にならん。ルーシィ、案内してくれ」
「え、でも……いいの?」

 ワタルはあっさりそう言うと、ルーシィに背を向けて歩き始めた。
 ついさっきまで、エルザに『ギルドへ連れ帰る』と剣を向けられていたため、彼女と真反対の態度をとるワタルに戸惑ったのだろう、ルーシィがエルザの方をチラっと見て聞くと、エルザはワタルに聞こえないように口を開く。

「ルーシィ、ワタルが『任せろ』って言ってるんだ。何か考えがあるんだろう。判断に従えばいい」
「……信じてるんだね、ワタルの事」
「当たり前だ」

 先程とは手のひらを返したような態度のエルザに戸惑いを感じない訳ではないが、エルザのその言葉は、ルーシィを納得させる何かがあった。
 エルザは即答して、先を歩くワタルの背を優しげな眼差しで見つめながら続ける。

「アイツは……私の大切なパートナーで、半身みたいなものだからな」
「そう……」

 自信を持ってそう言い切るエルザに、ルーシィは少し羨ましがるように言う。


 躊躇いなく信じる事が出来る、というのは言葉にするよりも難しい。まだ妖精の尻尾に入って日の浅いルーシィは、自信を持ってそう言い切れる男がいるエルザを羨ましがり……なによりも憧れた。


 一人の仲間としても……女としても。

「――まあ、それとこれとは別だ。きっちり罰は受けてもらうからな」
「……ですよねー」


    =  =  =


 翌朝……妖精の尻尾の魔導士、グレイ・フルバスターは、村の資材置き場の仮設テントで目を覚ました。


 デリオラ復活の儀式を行っている遺跡の頂上で兄弟子・リオンに敗れた彼は、ナツに運ばれる途中で気絶。その後村が魔導士達の攻撃によって壊滅してしまったため、ここで目を覚ました、という訳だ。


 村人に昨夜起こった事を説明されたグレイは、指定されたテントに傷の痛みに顔を顰めながら到着し、入り口をくぐった。

「よう、グレイ」
「……」
「ワタル!? それにエルザまで……」

 そこに居たのはワタルにエルザ、ルーシィにハッピー。ルーシィの案内を頼りにグレイとナツを探していたのだが、ナツは村に不在。ワタルの感知もこの島ではうまく使えず、とりあえずグレイの目覚めを待っていたのだ。
 S級に黙って行ってしまった形になっているグレイは、当然ながらこの2人の登場に冷や汗を流した。

「マスターから聞いてな、連れ戻しに来たんだが……ナツはどうした?」
「え?」

 自分を村に運んだナツがこの場に居ない事に疑問を覚えたグレイはルーシィの方を見る。彼女なら何か知っているかもしれない、と考えたのだ。
 だが、エルザの言葉で、グレイはますます困惑した。

「ルーシィの話では、ナツは村で零帝の手下たちと戦ってたはず。だが、私たちが着いた時にはその手下たちの姿だけで、奴の姿は無かった。グレイ……ナツがどこにいるか、知らないか?」

 幾ら頭が切れるといっても、気絶していた時の事まで知っている通りは無い。グレイが首を横に振る事で答えると、エルザは少し考えた後、口を開いた。

「む……となると、ナツは此処が分からなくてフラフラしてる、という事になるか……」
「いや、案外遺跡の方にいるかもな……アイツ、野性的な勘は動物じみて鋭いし」

 理論じみたのはからっきしだけど……と、ワタルがエルザと話し合っていると、グレイが意を決したかのように二人に話し掛ける。

「なあ……ルーシィから聞いたって事は、この島の事情も分かってるんだろ? 村の人の姿も見たはずだ。それなのに俺たちを連れ戻す、って……放っておくつもりなのか!?」
「初めはそのつもりだったが……まあ聞け、グレイ」

 憤って訴えるグレイに、ワタルは諭すように話す。

「結論から言うと…………デリオラと村人の姿は関係ない」
「は……?」
「え!?」

 ワタルの言葉に衝撃を受けるグレイとルーシィ。すぐに我に返ったグレイは、ワタルを問い詰めた。

「どういう事だ!? 村人が悪魔の姿になっちまうのは、デリオラを復活させようとする月の雫(ムーンドリップ)のせいじゃないのか……!?」
「そうだ。彼らが悪魔の姿になるのは、月の雫によって紫色になった月が出てから……彼らの話では3年ほど前からだそうだが……この島が『悪魔の島』と呼ばれているのはもっと前、それこそ古代からの事だ。ちなみに、村の外に悪魔が住んでいる、という事も無い」
「ッ!? それじゃあ……」

 辻褄が合わない。そう言いかけたグレイを、ワタルは首肯する事で肯定した。
 ワタルの話は続く。

「ここに来る途中で、零帝の手下の魔導士を見たが……彼らは村人よりも近くで月の雫を浴びていたのに、『呪い』の影響は見られなかった」
「確かに、リオンの姿も人間のままだったが……」
「村人の事も気になるだろうが……本題はそこじゃない」
「? じゃあ、いったい……」

 要領を得ないワタルの説明に焦れたのか、グレイが尋ねると、ワタルはもったいぶった口調で言う。

「分からないか? 俺たちは『ギルドの掟を破ってS級に行った馬鹿を連れ戻して来い』とは言われたが、『兄弟子のやってる事を止めようとしている馬鹿を連れ戻して来い』とは言われてないんだよ」
「……屁理屈だな」
「屁理屈だって理屈の内だ。依頼を受ける前なら、強引にでも連れ戻したが、受けた後だしな……一度受けた依頼を反故にするのは妖精の尻尾の名折れだろ? それに……『兄弟子』に思うところが無いわけじゃないしな……」

 呆れたように呟くグレイに、ワタルは言い返し、最後に誰にも――エルザにさえも――聞かれないように呟いた。
 そして、その呟きにまとわりつく哀愁を振り払うように改めてグレイに問う。

「さあ、どうする? 逃げるも戦うも、お前の自由だ……選べ、グレイ・フルバスター!」

 両手を広げ、大袈裟な動作をとるワタルに、グレイはもう一度呆れたように……だが、喜びの色を込めた笑みを僅かに浮かべながら答えた。

「……ホント、屁理屈もいいとこだよ……恩に着る、ワタル」

 最後に礼を言うと、グレイは鋭い顔でワタルたちに背を向け、テントを出た。
 その顔に満足したように頷いたワタルは、エルザ達に向き直り、準備するように伝える。

「……どうやら、グレイは戦う方を選んだようだな……エルザ、ルーシィ、ハッピー、俺たちも後を追うぞ」
「うん!」
「あい!」

 ワタルの言葉に安心したのか、ルーシィとハッピーはホッとしたように顔を輝かせてグレイの後を追ってテントの外に出た。なんだかんだで、彼らもワタルの決断とグレイの答えを心配していたのだろう。
 だが、エルザは何かを心配するような顔で残り、歯切れ悪くワタルに尋ねた。

「ワタル……その、いいのか、連れ戻さなくても……?」
「……ああ。兄弟子の不始末は、弟弟子がつけるべきだ、って思っただけさ」
「そう、か……」
「話は終わりか? じゃ、俺達も行くぞ」
「……ぁ」

 まるで自分に言い聞かせるかのように、ワタルはエルザに答え、先にテントから出る。そんな彼の後姿に説明できない何かを感じたエルザは、無意識に手を伸ばした。
 だが、既にテントから出たワタルに対して伸ばしたその手は空を切って行き場を無くし、エルザはその手をもう片方の手で包んで胸の前で組んだ。

――何だ、この胸騒ぎは? 私はいったい……何をワタルに聞こうとしたんだ……?

 考えても答えは出ない。胸騒ぎの正体を突き止めようと、エルザは思考に入ろうとしたが……

「エルザ? どうした、行くぞ」
「ぁ、ああ……」

 テントの入り口から顔を出したワタルに応え、エルザは思考を止めて顔を上げた。
 『これ以上は触れてはいけない』直感でそう感じたのだ。


 もしかしたら、これ以上干渉すればワタルがどこか遠いところへ、自分ですら立ち入れない程遠くへ行ってしまうんじゃないか。


 そんな臆病な思考をしたエルザは、今度は半分無意識に、半分意識的にワタルへ手を伸ばす。
 ワタルはそんな彼女に何かを感じたのか、彼女が伸ばした手を取り、彼女はハッとした。

「……ッ」
「どうしたんだ、エルザ?」
「い、いや……なんでもない。なんでもないんだ……」
「? そうか……なら行くぞ。ルーシィ達も待ってる」
「ああ、すまない」

 エルザはワタルの手を取ったままテントから出た。テントの外で待っていたルーシィとハッピーは、出てくるのが遅いエルザを心配していたが……手を繋いで出てきた二人に悪戯心から顔をにやけさせてからかう。

「あっれー? 手繋いじゃって……お熱いわね、二人とも♪」
「でぇきてる゛」
「あ、いや……違うんだ、これは……!」
「違うって言ったって、手は離さないんだね~。ねぇ、ハッピー?」
「あい! これは完全に――」
「ルーシィ、ハッピー……貴様等、依頼が終わってギルドに帰ったら……覚えてろよ?」
「「ヒ、ヒィッ!!」
「ハ、ハハハ……おい、いいから行くぞ、お前ら」

 隣で引きつった笑いを上げるワタルを、エルザは怯えるルーシィ達を睨みながら横目で盗み見る。
 自分の隣に居てくれる……自分が想っている彼と、彼と繋いでいる手の温かな温もりの存在は、不思議と彼女を安心させた。


 今彼は此処にいる。だからいいじゃないか、と……。



 なぜ、もっと聞こうとしなかったのか。何故、この違和感の正体を解き明かそうとしなかったのか。


 エルザは後にこの事を後悔する事になる。隣に立つ温もりを失う恐怖から目を背け、問題を先送りにしてしまった事を……。
 それはまだ先の……でもそう遠くない話。


 彼らの出す答えもまた……いや、これはここで話すべき事ではないだろう。

 
 

 
後書き
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