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FAIRY TAIL 星と影と……(凍結)

作者:天根
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悪魔の島編
  EP.13 悪魔の島へ

 
前書き
更新遅れてすみません。少し手直しなどをしていて……・どうでもいいですね。
それでは第13話です。
よろしくお願いします。 

 
 
「はあああぁっ!!」
「シッ!」
 
 エルザの気合の声と、ワタルの呼気と共に剣と鎌の外側がぶつかり合い、甲高い剣戟の音と火花が散った。
 
「……一撃で分かる……随分腕を上げたな、エルザ!」
「まだまだこれからだ!」
 
 エルザは左手にも魔法剣を出し、ワタルに切り掛かった。
 それに対してワタルは鎌に添わせるようにして右の剣をいなし……
 
「フッ!」
「何!?」
 
 鎌を手放し、上に跳んで振り下ろされた左の剣を躱し、エルザの両肩に手を置いて側転、その後方に回った。
 いきなりの事でエルザはバランスを崩したが、ワタルの手の力に逆らわずに前へ転がって即座に距離を取った。このの距離なら“魂威”でそのままアウトもあり得るからだ。
 
「様子見は終わりだな……換装、“天輪の鎧”!!」
「そうだな……」
 
 エルザは羽の生えた銀色の鎧に換装、ワタルも先ほど手放した鎖鎌を回収して構えた。
 
「舞え、剣たちよ!!」
 
 宙に飛んだエルザは剣を大量に召喚し、ワタル目掛けて降らせたが……
 
「そんなものに当たるか!」
 
 ワタルはエルザの魔力を事前に察知し、体を最小限に動かして全ての剣を躱した。
 
――ああ、そうだ。ワタルには当たらない……でもこれならどうだ!!
 
「“天輪・円環の輪舞曲(サークル・ロンド)”!!」
 
 ワタルの周りを円で囲むように剣が現れ、エルザはそれらを一斉に襲い掛からせた。
 
――上……は読まれてるな。なら……!
 
 ワタルは両手の鎌に魔力を集中させ回転し……
 
「“鎌威断ち”!!」
「な……!?」
 
 “魂威”の要領で全方位に一気に放出させ、地面に刺さった剣も含めた全ての剣を吹き飛ばした。
 
――普通にやれば範囲は……半径2,3mってところだな……。
 
 エルザは初めて見る技に驚いて一瞬硬直し、ワタルは回転の終了と同時に右の鎌を投げ、エルザの左足に鎖を巻きつかせ、地面に叩きつけた。
 
「油断大敵だぞ、エルザ」
「しまっ……ウワッ!」
 
 ワタルは即座に忍者刀に換装、エルザの着地点に追撃に向かったが……
 
「ッ!? クッ……!」
「チッ、外したか……」
 
 それは誘い、突っ込んだワタルを待っていたのは、またもや大量の剣と共に待ち受けていたエルザだった。
 ワタルの追撃に合わせて剣を飛ばしたエルザだったが、直前で気付いたワタルは、横に跳んで躱したり、忍者刀で弾いたりして、全てを捌いたのだ。
 
「今のは結構危なかったな……」
「余裕で躱しておいてよく言う……」
 
――駆け引きも随分上手くなったな……。少し見くびっていたか?
――やはり忍者刀のスピードには追いつけないか……それなら!
 
 軽口を叩いていたが、ワタルはエルザの成長ぶりに少し驚くと同時に、少し警戒度を高めた。
 対してエルザは鎧の選別を瞬時に終え、換装に入った。
 
「換装、“飛翔の鎧”!!」
「……スピード勝負か、面白れぇ!」
 
 エルザが換装したのは“飛翔の鎧”自分の速度を上げる鎧だ。対してワタルの得物は身体能力を上げる忍者刀、ワタルは好戦的な笑みを浮かべると、高速戦闘に入った。
 
「はああっ!!」
「フッ!」
 
 周りの群集には、二人の姿は殆ど見えていなかったが、ワタルとエルザは互いをしっかりと捉えていた。
 だが、高速戦闘における経験値はワタルの方が圧倒的に上。
 直線的なエルザの軌道や癖を見切り、時にフェイントを交えながら次第に追い詰めていき……
 
「“魂威”!」
「クッ……!」
 
 遂にワタルの十八番、“魂威”がエルザの右腕を掠らせ、その痛みに、エルザは右の剣を落としてしまった。
 たまらずエルザは距離を取り、ワタルはそれを追ったが……
 
「“金剛の鎧”、換装!!」
「もう一発だ! “魂威”!!」
 
 超防御力を誇る鎧、“金剛の鎧”の巨大な盾に、ワタルの“魂威”は……
 
「……流石に固いな……」
「いや、ギリギリだ……」
 
 強固な盾に罅が入ったものの、通らなかった。
 
――やっぱり強いな……ワタル。だが……いや、だからこそ、越える価値がある……!!
 
 エルザは、盾で互いの視界を塞がれている今をチャンスと捉え、手札を切る事にした。
 
 
 だが……それはワタルも同じだった。
 
 
 ザ……。
 
――ここだ!!
 
 盾越しだから正確な事は分からないが、エルザは後ずさりと思われる僅かな音に、勝負を仕掛ける事にした。
 
「換装……“明星・光粒子の剣(フォトンスライサー)”!!」
 
 エルザが換装したのは“明星の鎧”。剣と一対で、光を飛ばして攻撃する鎧だ。
 “金剛の鎧”の盾が完全に消えるのも待たずに、エルザは最大出力でそれを撃った。
 余りの範囲に、観客が何人か巻き込まれたかもしれないが……エルザにはそれを気にするだけの余裕が無かった。
 
「ハァ、ハァ……どうだ?」
 
 一度に大量の魔力を使ったせいか、肩で息をしながら、エルザは土煙の中を目を凝らして見てみたが……そこに居るべきワタルの姿は無かった。
 
「何……!? どこに……ッ!!」
「チェックメイト、だ」
 
 振り返ったエルザが見たのは……エルザの顔の前に、バチバチ、と魔力の弾ける音を鳴らしている掌を翳して勝利宣言をしているワタルの姿だった。
 そのまま放出させれば、間違いなくエルザを戦闘不能にさせるだけの魔力を蓄えたワタルの掌に、エルザは素直に両手を上げて降参した。
 
「……ああ、私の負けだな。一体どうやって……ッ! 変わり身か……」
「ご名答」
 
 ワタルは、エルザが金剛の盾の向こうに隠れている時に、変わり身を起動させ、わざと音を立てさせたのだ。
 エルザが見た時、何もいなかったのは……あまりの威力に変わり身が消し飛んでしまったからであった。
 
 この変わり身はワタルの魔力のみをコピーしたもののため、実体は無い。視覚と魔力感知しか騙せないので、殆ど一瞬しか気を逸らせないのだが……ワタルにはそれで十分だ。
 勝負を仕掛けてくる事は殆ど予測できていたため、その影に乗じて奇襲を仕掛けて一気に決める……ワタルの常套手段だった。
 
「読みが甘かった、という事か……まだまだだな、私も」
「……ま、いい線は行ってたが……精進する事だな」
「わ、分かってるから叩くな、恥ずかしいだろうが……!」
 
 ギルドのテーブルに着いて、笑いながらポンポンと軽くエルザの頭を叩いたワタルだが、その内心では、彼女の成長ぶりに舌を巻いていた。
 
――あの迎撃といい、最後の一撃といい……ホントに本気で相手する日は近いかもな……。
 
 そんなワタルの内心をよそに、同じテーブルに着いたグレイも口を開いた。
 
「にしても、エルザもワタルも……正直何してるのかよく分からなかったぜ」
「ハッ、グレイも大した事ねぇな……俺は半分は分かったぜ?」
「なんだとクソ炎!? ケンカ売ってるなら言い値で買ってやるぞ、この野郎!!」
「おお、やんのか変態パンツ!!」
「また始まったよ。ナツってば懲りないなあ……」
「ああ、(おとこ)だ!!」
「お、(おとこ)って……。それにしても、ワタルの感知ってホントに凄いのね……」
 
 ルーシィの言葉に、ワタルは苦笑して言った。当然後ろの方(エルザの死角)でいつものように喧嘩しているナツとグレイは無視して、である。
 
「ま、不便な時もあるけどな……」
「え、どんな? 魔力に対して敏感だって聞いたけど……」
「そうだな……」
 
 ルーシィと話し出したワタルに対し、エルザが遮るようにして話し掛けた。
 
「弱点なんて進んで話すものじゃないだろう、ワタル。……そうだ、試合はお前の勝ちだが……どうするんだ?」
「? ……ああ、お前が勝ったらケーキバイキング、ってやつか。うーん……ぶっちゃけ、決めてねぇしな……」
「な、なら……これから一緒に仕事行かないか? その……ふ、二人で」
 
 少し考えたが、特に思いつかなかったワタルがそう言うと、エルザは少し顔を赤く染めながらワタルを誘った。
 
「……そうだな……行くか。特にやる事も無いし……俺が選んでいいか?」
「! ああ、頼む!」
 
 ワタルの返事にエルザは顔をパァッと輝かせ、ワタルも自然に頬が緩んだ。
 周りもニヤニヤとしている中で、ワタルは席を立って依頼板(リクエストボード)の方に歩き出した瞬間……
 
「ウクッ……」
「ワタル……? 大丈夫か?」
 
 ワタルは急に額を抑えて立ち止まり、エルザは心配そうに彼の近くに寄った。
 
「ああ大丈夫だ……この感じはアイツ(・・・)だな」
「ああ、眠い……奴じゃな」
 
 そうワタルとマカロフが言った直後……ギルドの殆どの人間は、強烈な睡魔に襲われ、床、テーブル問わずに眠ってしまった。
 起きているのは、魔力で体をコーティングして眠りの魔法をシャットダウンしたワタルと、マカロフぐらいだった。
 ワタルの弱点とは……魔力に敏感、つまり魔力に対する感受性が高いため、影響の良し悪しを問わずに、ミストガンの催眠魔法のような、広域の魔法に対して、他人よりも多くの影響を受けてしまうのだ。その対策が、魔力によるコーティング、だ。
 因みに、エルザはワタルが横抱きにして、近くの椅子に座らせ、ワタルもその隣に座った。
 
 
 そして……目元以外の全身の殆どをマントや黒装束で固め、杖を持った魔導士が現れた。
 
 
「ミストガン……」
 
 マカロフがその魔導士の名を呼び、ワタルは彼と話し始めた。
 
「相変わらずキツイ魔法を使うな……」
「……すまんな、性分だ」
「別に責めてる訳じゃないさ、事情があるんだろ? ……お前のその顔も……」
「……知っているのか?」
 
 疑うような声音になったミストガンに対し、ワタルは不干渉を約束した。
 
「顔だけね……別にあの男の関係者って訳でもなさそうだし、詮索するつもりはないよ」
「……すまない」
「だから責めてる訳じゃないって。こういう時は礼を言った方が喜ばれるぞ」
「……感謝する」
 
 ミストガンはワタルにそう言うと、依頼板の方へ行き、一枚の依頼書をマカロフに渡した。
 
「行ってくる」
「これ、眠りの魔法を解かんか!」
 
 それには答えずに、ミストガンはギルドの出口に向かい、呟き始めた。
 
「伍、四、参、弐、壱……」
 
 そして、彼がギルドの外に出て、姿も消えた瞬間……ギルドのメンバーの意識が覚醒した。
 
「この感じは……ミストガンか!?」「あの野郎……!」「相変わらず強力な催眠魔法だな……」……
 
「ム……」
「よ、起きたか?」
「あ、ああ……ミストガンか?」
「ああ」
 
 ギルドのメンバーと同じようにエルザも目が覚め、ワタルに事情を聞くと、溜息を吐き、何もいう事は無かった。
 
「あの、ミストガン、って……?」
「妖精の尻尾の最強候補の一人だよ」
 
 ルーシィの問いに答えなのは……何故か星霊魔導士が苦手なロキだった。ロキも、偶然聞こえた質問に答えただけだったみたいで、質問したのがルーシィだと知ると身を引いた。
 ロキの代わりに説明を引き継いだのはグレイだった。
 
「何故か顔を見られたくないらしくてな……仕事をする時はこうやってギルドの奴を眠らせちまうんだ。だからマスター以外はその顔を知らないんだと……」
「なにそれ……怪しくない?」
 
 だが、グレイの言葉に異を唱える者がいた。
 
「いや、俺は知ってるぞ……ワタルもな。ミストガンはシャイなんだ、あまり詮索してやるな」
「……珍しいな、お前がギルドにいるとは……ラクサス」
「まるで俺がいちゃ悪いみたいな言い方だな」
「そんな事言ってねえだろうが……」
 
 ギルドの二階にいた金髪、右目に傷、ヘッドホン……ラクサスだった。ワタルと会った時と違うのは葉巻ぐらいなものだろう。……顔つきはいささか狂暴になっているが。
 ラクサスの声を聞いた瞬間、未だに寝ていたナツが目を覚ました。
 
「誰……?」
「……もう一人の最強候補さ」
 
 グレイの言葉に、ルーシィは驚いた。
 因みに、ラクサスとワタルの言い合いはまだ続いていた。
 
「なんかエルザに手こずってたみたいだな……弱くなったんじゃねぇのか?」
「……試してみるか? この静電気さんよ」
「おお、いいぜ、久しぶりに捻ってやるよ……この小細工野郎が」
 
 さっきもエルザと戦ったにも拘らず、闘気を滲ませるワタルと凶暴な笑みを浮かべたラクサス……一触即発となった空気だったが……
 
「ラクサース! 俺と勝負しろーーっ!!」
 
 ナツのラクサスに対する宣戦布告に、ワタルの方が闘気を霧散させた。
 
――普通こういう時にそういう横槍入れるか……? 入れるか、コイツなら……。
 
「何だ、やんねぇのかよ、ワタル?」
「ああ……何かアホらしくなっちまった。それに、これから仕事だしな」
「ふーん、そりゃ残念」
「ラクサース! 無視すんなーー!!」
 
 あっさり引き下がったワタルに、ラクサスも牙を収め、ナツの相手をした。
 
「で……エルザにも勝てないような奴が、俺に何の用だって?」
「……それはどういう意味だ、ラクサス」
「どういう意味かって? ……俺が最強だって事さ!」
 
 剣呑な雰囲気を帯びたエルザに臆することなく、手を広げて大袈裟に言うラクサスに、ナツはまたも噛みついた。
 
「降りて来い、ラクサス!!」
「お前が上がって来い」
「上等だ!!」
 
 ナツは怒りのままに二階に上がる階段に向かおうとしたが……。
 
「……待てや、バカ」
「ワタル! は・な・せーーーー!!」
「放せって言われて放す奴がいるか……それに、お前にはまだ二階は早い」
 
 ワタルの鎖に拘束され、身動きが取れなかった。
 
「ヘッ、捕まってやんの」
「ラクサス、俺が言えた義理じゃないが……お前も煽るな」
「ああ、はいはい……だが、これだけは言っておくぞ。妖精の尻尾最強はこの俺だ! この座は誰にも渡さねえよ……エルザにも、ミストガンにも、あのオヤジにも……それからお前にもだ、ワタル!」
 
 そう言うと、ラクサスはギルドの奥に姿を消した。
 ワタルは溜息を吐くと、鎖鎌を消してナツを解放し、依頼板に向かった。
 
「イテテ……何すんだよ、ワタル!!」
「お前はまだ二階には上がれないだろうが……っと、これにするか。マスター、これ行きます」
「ウム……これならすぐ終わるじゃろ……エルザと行くのじゃろ?」
 
 マカロフの確認を肯定すると、ワタルはエルザに声を掛けた。
 
「はい……よし。エルザ、行くぞ」
「ああ、先に駅に行っててくれ」
「……いつも思うが、お前荷物多すぎじゃないのか?」
「なっ!? いや、あれはだな――――」
 
 ワタルとエルザが、いつものように明るく言い合いながらギルドを出ると、ギルドの雰囲気も尖ったものから、次第にいつものものへと戻って行った。
 
「あー、吃驚した……ねぇ、ミラさん、ワタルが言ってた『二階に上がっちゃいけない』って、どういう事ですか?」
「うーん、まだルーシィには早い話なんだけどね――――」
 
 そう前置きをすると、ミラジェーンはルーシィに妖精の尻尾の仕事の仕組みについて説明した。
 二階にはS級と呼ばれるような、一階と比べて難易度の高い依頼がある事、そのS級の仕事は、マスターであるマカロフに認められた魔導士にしか受注できない事、そのS級の仕事を受けられる魔導士は五人しかいない事などなど……。
 
「まあ、普通に仕事をやる分にはS級なんて目指すものじゃないわね。本当に危険なのばかりだから……」
「みたいですね……」
 
 ルーシィは何故か陰りを持つミラジェーンに同意したのだが……その夜、ナツやハッピーに誘われ、報酬が世界に12個しかない黄道十二門の鍵――星霊魔導士であるルーシィには唾涎ものである事――に惹かれて……S級の仕事にギルドに無断で行ってしまうのだった。
 
 
 
 
 翌朝……
 
「マスター! 大変です、二階の依頼書が一枚紛失しています!!」
「ブフウウゥゥ!!」
 
 ミラジェーンの報せに、マカロフは口にしていた飲み物を盛大に吹き出し、ギルド中が騒然となった。
 
「ああ、それなら昨日羽の生えた猫がちぎって行ったぞ」
 
 ラクサスの言葉に、ギルドはさらに騒がしくなった。
 
「羽の生えた猫、って……ハッピー!?」「つー事はナツとルーシィも一緒か!?」「何考えてんだ……S級に勝手に行くなんて!!」……
 
 その中で、ミラジェーンはラクサスに詰め寄った。
 
「ラクサス! 何で見てたのに止めなかったの!?」
「……まあ、現実を知るいい機会だと思っただけさ、俺は。それに……S級に行きたい、って逸る気持ちは分からんでもないしな。しかし、ホントにやるとは……ナツの奴、俺よりぶっ飛んでやがるな……まあ、それはともかく、アンタにもあったんじゃないのか? “魔人”ミラジェーンさんよ?」
「昔の話よ……でも、S級が危険だって事はあなたも知ってるでしょう!?」
「そりゃ、アンタの感情論だろ……っと、失言だったな」
 
 ラクサスが口走った事が耳に入ったのか、ミラジェーンの顔は表情を失い、今にもラクサスに掴みかかりそうになった。
 だが、ラクサスの最後の一言でその場は事なきを得た。
 マカロフは孫の成長を嬉しく思いながらも、マスターとして指示を出した。
 
――まったく、ラクサスも丸くなったもんじゃのぉ……ワタルの影響か?
 
「……言い合いをしている場合ではなかろう。ミラジェーン、消えた依頼書は?」
「……ガルナです」
「……よりによって悪魔の島か! ……ラクサス、連れ戻して来い!!」
 
 ミラジェーンの言葉に慌てたマカロフはラクサスに指示したのだが……
 
「冗談、俺はこれから仕事なんだよ……それに、俺より適任が居るだろこういうのには」
「今ここにいる中で他に誰がナツを連れ戻せるというんじゃ!?」
「だーから……」
 
 ラクサスの言葉を遮って、ガタン、と音を立てて立った者がいた。
 
「それは聞き捨てならねーな、じーさん」
 
 それは……グレイだった。
 
「連れ戻せばいいんだろ? なら俺が行くさ。ガルナ島なら……今から行けばハルジオンで追いつけるだろうし」
「そうか……じゃあ、頼む、グレイ」
「任せとけよ」
 
 グレイはそう言うと、ギルドを出て、駅に向かった。
 
「……それで、ラクサス。お主より適任とは、誰の事じゃ?」
「本気で言ってるのか、ジジィ……いるだろ? こういう時のための“ストッパー”がよ」
 
    =  =  =
 
「ヘックション!!」
「……大丈夫か、ワタル……風邪か?」
「ズズ……いや、誰か噂してんだろ」
 
 こちらはワタルとエルザ。仕事の盗賊退治を早々に終え、帰りの馬車の中だ。
 
 ピー―! ピー―! ピー―!
 
「なんだ……!?」
「俺の通信用魔水晶(ラクリマ)だ……はい、ワタル……」
【あ、繋がりましたよ、マスター】
【そうか……あー、聞こえるか?】
「聞こえますよ、マスター……何かあったんですか?」
【いや、それがの――――】
 
 ナツ達が無断でS級の仕事に行った事を簡単に説明され、ワタルは呆れ、エルザは怒った。
 
「何をやっているんだ、アイツらは! ……それで、一応グレイも行かせたんですね?」
【ああ、そうじゃ……もう仕事は終わっているのじゃろ? だから、念のためにお前たちにもガルナ島へ向かってもらいたいんじゃよ】
「なるほど……分かりました。これからハルジオンに向かいます」
 
 そう言うと、ワタルは通信を切り、御者に目的地変更を伝え、エルザの元に戻った。
 
「ハルジオンには日没ぐらいに着くそうだ。行ってみなきゃ分からんが……どうやってガルナに行く? 悪魔の島だ、漁師に頼むだけじゃ多分無理だぞ……」
「……もう答えは出てるんじゃないのか?」
「……ハァ。やっぱり実力行使、か……うまい事見つかればいいけどな、海賊」
 
 漁師、というのは、縁担ぎを重視するのは、ワタルも知っていた。そのため、交渉は殆ど無理だろう、というのは容易に推測できた。目的地が悪魔の島なのだから。
 だから、武力行使に訴えるしかない。それをやっても誰も困らない、というのが、海のならず者、海賊たちだ。
 
「頼りにしてるぞ、ワタル」
「……俺人間レーダーじゃないんだけどなぁ……ま、やるだけやるさ」
 
 
 
 
 そして夕方、港町ハルジオン……海賊を探そうとして、港に出ると……
 
「……こんなにあっさり見つかるとは……なんか拍子抜けだな。普通は隠すだろ、海賊船は」
 
 ワタルが呆れたように言うように、皆との殆ど正面に堂々と海賊船が停泊しており、探すまでも無かったのだ。
 
「探す手間が省けてよかったじゃないか……じゃ、奪うぞ」
「へいへい……」
 
 魔法を使えるものなどいなかったため、船内の制圧は迅速に行われ、出港した。
 目的地は悪魔の島、ガルナ島。目的は……
 
「あんな呪いの島、勘弁してくれよ……噂じゃあ人が悪魔になっちまうって……」
「興味無いな」
「ああ……」
 
「「あの馬鹿共を連れ戻しに行く、ただそれだけだ」」
 
 
 

 
後書き
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