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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──

作者:なべさん
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ALO
~妖精郷と魔法の歌劇~
  災厄の厄災

ずぶずぶと沈んでいくサラマンダーの将軍の姿を見ながら、レンは荒い呼吸を繰り返していた。

ぜひゅっ、ぜひゅーっ、と今にも途切れそうな呼気が宙に吐き出される。

───やば………、これ…キツ……………

生み出した漆黒の(サークル)が、音もなく空中に溶けるように掻き消える。途端、今まで無理やりに封じ込めていた、頭の芯に巣食うような鈍痛がぶり返す。

魔女狩(ソルシエール)峻厳(ゲブラー)

その属性は《空間侵食》

空間そのものを侵食し、触れた物の一切を喰らい尽くす心意。

これを投影する時にまずイメージしたのは、あの圧倒的なブレインバーストシステムのことだ。空間を操り、神に等しい権利を無理やり獲得する、あの神の御技とでも言うべきシステム。

あそこまでとは言わないが、やはりこの技も精神力を激しく削ることは間違いない。もし今心意の力を使えと言われたとしても、とてもじゃないが過剰光(オーバーレイ)すらも浮かべさせることもできないだろう。

しかも、レン────現実の小日向蓮の身体は、どうやらテオドラの話によれば残り数週間の命らしい。そんな衰弱した身体で、ここまでの集中深度の深い技をそうそう放てる訳がない。

したがって、レンの意識は今、軽い酩酊状態と言っていい状態となっていた。低度の目眩が連続し、次第にどっちが上か下か解からなくなってきた。

唐突にぐらり、と視界が横になった。

───ま………ず

世界が逆さまになり、体から力が急に抜けた。

同時に翅からも力が抜け、重力に逆らっていた飛翔力が無に帰る。

にわかに暗くなっていく視界の端で、誰かが叫ぶ声が聞こえたような気がした。










妙に柔らかい物に包み込まれているような感覚とともに、レンは目を覚ました。

目に飛び込んでくる陽の光。それに目を細めながら、ピントを合わせると驚くほど近くで見つめ返してくる二つの瞳があった。僅かに緋色が入った漆黒の瞳。

「………ぁ…………………」

小さく声を出そうとすると、頬に暖かいものがぽつぽつと落ちた。

いまだに握力が戻らない手を上げ、拭うとそれは透明な雫だった。

「カグラ………ねーちゃん」

「……よかった………あなたまで、いなくなってしまうのかと思って。………よがった」

ぽたぽたと、とめどなく落ちてくる涙に、しかしレンは何も言わなかった。

後頭部に当たる柔らかな感触に、遅まきながらようやく自分がカグラに膝枕をされていることに気が付く。

ゆっくりと頭を巡らすと、周りはプレイヤー達の人垣ができていた。その最前列には、キリトやリーファ、アリシャの姿が見え、レンはようやく詰めていた息を吐き出した。

次いで、号泣するカグラの背を優しく撫でる。

「ごめん……、ごめんね。カグラねーちゃん」

嗚咽を洩らすカグラをちっこい身体で抱きながら、レンは次いでギャラリーのほうに視線を向ける。

「そっちは大丈夫だった?ルーねーちゃん」

完璧に油断していたらしいケットシーの領主は、突然のフリに困惑しながらも答える。

「あっ、うん。助けてくれてありがと、ホウ君」

大丈夫そうな返事に、レンはひとまず一安心する。これで領主に何かあっては、ここまでやった努力が水の泡だ。そんな不幸、是が非でも辞退したい。

微笑んでくる領主に、精一杯の笑みで応える。

まだ脳の芯には軽い鈍痛が残っているが、それでどうということが起こるほどではない。

ふぅ、と息をゆるゆると吐き出すと、キリトとリーファが集団から抜け出して脇に来るのが気配でわかった。キリトの肩には、こちらを心配そうに見つめる小妖精の姿も確認できる。

「やぁ、キリトにーちゃん、リーファねーちゃん。巻き込んじゃってごめんね」

自分でも力がない言葉と自覚しつつも、レンは力なく言った。

それにリーファは首を振りながら、ついでに嗚咽を洩らすカグラから貰った涙も添えながら言う。

「ううん。レン君がいなかったら、シルフもケットシーも救えなかったと思う。ありがとう………レン君」

そんな礼の言葉を聞きながら、レンはようやく力の戻ってきた足でよっこらせと立ち上がった。ぎしり、と全身が強張るが、何とか直立できた。軽い目眩が襲うが、踏ん張る。

途端、わっという歓声とともにレンはもみくちゃにされた。

押し寄せたギャラリーがレンの小柄な身体をあっという間に覆い隠して、その健闘を口々に称える。

呆然としているカグラとキリト、リーファに領主二人の目の前に、群衆の中からにょっきりとレンの手が突き出された。

その手は絶対にこう物語っている。

へるぷみー、と。

しかし、一同は心の中で思った。

いやそりゃ無理だ、と。










歓声が打ち寄せた波のようにフェードアウトして完全に消えたのは、なんとそれから十分も経った頃のことだった。

まぁなにしろ、あれほど絶望的な状況だったのだ。誰もが終わったと思ったに違いない。

しかしそこから一瞬にして、状況が覆ったのだ。その感動と喜びは、なかなか収まるわけがない。

しかし、だからといって────

「これはあんまりじゃないかなぁっ!!?」

レンは叫んだ。そりゃもう全力で。

レンの体はあちこち汚れていて、地べたに寝っ転がっていた。いや、押し倒されたと言うほうが正しいかもしれない。

なにせ寝転がっているのは、レン本人の意思ではないのだから。

鮮やかな緋色だったコートは、損耗値注意域を示すほつれがあちこちにあり、艶やかな漆黒だったマフラーは薄汚れてねずみ色になってしまっている。おまけにレンの顔には、特大の足跡がくっきりと残っていた。

要するにボロ雑巾みたいな姿になったレンが、そこにいた。

領主二人はそれぞれのメンバーにお説教中。キリトとリーファは────

「「あーっはっははっはっはっはっは!くっくっく、ぶわーっはっはっはっはははははっははっ!!!」」

大が付くほどに爆笑中だった。

なんたることか、カグラまでもがくすくす笑っている。

「うぅ、ひどい………。ぼく……みんなすくったのに…………」

「くっく、まぁ…………ドンマイ」

まだ笑っているキリトに肩を叩かれた。

はぁあ~、と心の底からのため息をつく。

やっとお説教を終えた二領主は、こちらもどことなく笑いを堪えた表情をすっと改めた。サクヤは右手を胸に当てて優美に上体を傾け、アリシャは深々と頭を下げて耳をぺたんと倒す動作でそれぞれレンに一礼する。

顔を上げたサクヤが言った。

「────今回は本当にありがとう。レン君、リーファ、キリト君。私たちが討たれていたら、サラマンダーとの格差はいよいよ決定的なものになっていただろう。何か礼がしたいが…………」

「いや、そんな………」

「じゃあ、シルフ領の名物料理フルコースで!!」

こんなときでもブレないレンの頭に、ツッコミと書いて鉄拳と読むカグラのこぶしがめり込む。ミシリ、という音が聞こえたような気がした。

そんな姿を見て、リーファはハッと思いつくことがあった。一歩進み出て、言う。

「ねぇ、サクヤ───アリシャさん。今度の同盟って、世界樹攻略のためなんでしょ?」

「ああ、まあ───究極的にはな。二種族共同で世界樹に挑み、双方ともにアルフとなれればそれで良し、片方だけなら次のグランド・クエストも協力してクリアする…………というのが条約の骨子だが」

「その攻略に、あたし達も同行させて欲しいの。それも、可能な限り早く」

サクヤとアリシャ・ルーは顔を見合わせる。

「同行は構わない。と言うよりこちらから頼みたいほどだよ。レン君の方はもうかなり前から同行が決まっていたしな。しかし、時期的なことは何も言えないな…………しかし、なぜ?」

「…………………………………」

ちらり、とキリトを見る。謎の多いスプリガンの少年は、一瞬瞳を伏せると言った。

「俺がこの世界に来たのは、世界樹の上に行きたいからなんだ。そこにいるかもしれない、ある人に会うために…………」

「人?妖精王オベイロンのことか?」

「いや、違う───と思う。リアルで連絡が取れないんだけど………どうしても会わなきゃいけないんだ」

「へえェ、世界樹の上ってことは運営サイドの人?何だかミステリアスな話だネ?」

興味を引かれたらしく、アリシャ・ルーが大きな眼をキラキラさせながら言う。だがすぐに耳と尻尾を力なく伏せ、申し訳なさそうに

「でも………攻略メンバー全員の装備を整えるのに、しばらくかかると思うんだヨ…………。とてもじゃないけど、一日や二日じゃあ………」

「そうか………そうだよな。いや、俺もとりあえず樹の根元まで行くのが目的だから…………あとは何とかするよ」

キリトは小さく笑うと「あ、そうだ」と何かを思いついたかのように左手を振った。出現したウインドウを手早く操り、かなり大きな皮袋をオブジェクト化させる。

「これ、資金の足しにしてくれ」

そう言って差し出した袋は、じゃらりと重そうな音からしてユルドが詰まっているようだった。

受け取ったアリシャは一瞬ふらついた後、慌てて両手で袋を抱えなおし、ちらりと中を覗き込んで────眼を丸くした。

「さ、サクヤちゃん。これ………」

「ん…………?」

サクヤは首を傾げ、右手の指先を袋に差し込む。つまみ出してきたのは、青白く輝く大きなコインだった。

「うぁっ………」

それを見た途端、リーファは思わず声を洩らした。

二領主は口を開けて凍りつき、背後で事の成り行きを見守っていた十二人の側近達からも大きなざわめきが上がる。

「十万ユルドミスリル貨?これ全部……!?」

さすがのサクヤも、掠れた声で言いながらコインを凝視していたが、やがて呆れたように首を振ってそれを袋に戻した。

「これだけの金額を稼ぐのは、ヨツンヘイムで邪神クラスをキャンプ狩りでもしない限り不可能だと思うがな………。いいのか?一等地にちょっとした城が建つぞ」

「構わない。俺にはもう必要ない」

キリトは、本当に何の執着もなさそうに頷く。その横で、レンも「そうそう」と言いながらウインドウを開いた。

途端に、ぐわらんごわらんと重そうな音を立てながらレンの目の前に、ギラギラとした強烈な光を放つヘビーアーマーや剣やらが幾多も出現した。

太陽の光を反射するその重厚な表面から、かなりのレアリティを持っているのが窺える。

「こ、これは…………」

「さっきのサラマンダー達のだね。なんかさっきから体が重いと思ってたら、アイテム許容量ぎりぎりだったんだ。僕にはどう考えてもいらないし似合わないから、おねーさん達にあげるよ。売るなり装備するなり、好きにしてくれて構わないからさ」

絶句する領主と側近達に向かって、レンはあっけらかんと言った。

手元の袋と超高級武具類の山に視線を言ったり来たりさせていたサクヤとアリシャは、ほぅーっと深く嘆息してから顔を上げた。

「………これだけあれば、かなり目標金額に近付けると思うヨー」

「と言うか、もう越えたかもしれないな。大至急準備をそろえて、でき次第連絡させてもらう」

「よろしく頼む」

サクヤの広げたウインドウにアリシャが皮袋を格納し、武具類は側近達のストレージに小分けして突っ込まれた。

「この金額を抱えてフィールドを歩くのはぞっとしないな。急いでケットシー領に引っ込むことにしよう」

「あー。それなら大丈夫だよー」

二の腕をさすりながら言ったサクヤに、相変わらず間延びした声でレンが言った。

はい?と首を傾げる一同に、自信たっぷりにケットシーの少年は

「ちょうど来たみたいだから」

言った。 
 

 
後書き
なべさん「はい、始まりました!そーどあーとがき☆おんらいん!!」
レン「ナニが?的な感じでのENDだったね」
なべさん「おぅ、いえす」
レン「なんで英語?」
なべさん「さぁ、ここで何が来たのかは、勘と察しのいい読者様なら分かるんじゃないでしょうか?」
レン「それは次回のお楽しみ」
なべさん「はい、自作キャラ、感想を送ってきてくださいねー♪」
──To be continued── 
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