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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──

作者:なべさん
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ALO
~妖精郷と魔法の歌劇~
  一抹の激突

先に動いたのは、サラマンダーの方だった。

予備動作なく、空中に残像を残すほどの勢いでユージーンはチャージを掛けた。びぃん!と空気を鳴らし、超高速の突進を仕掛ける。

右に大きく振りかぶった大剣が、宙に紅い弧を描いて小柄なケットシーに襲いかかる。

それに対して、レンは動かなかった。

迫り来る脅威など、見えていないかのように全く動かない。

五メートル、四メートルと見る間に距離が詰められていく。そこまで来た時、初めてレンは動きを見せた。

だらりと垂れた両腕が煙るように掻き消える。袖口から何物をも引き裂き、切り裂く凶刃が宙に展開された。それを交差するように振り抜く。

しかし、思っていたような感触が腕に伝わってこない。

眉をひそめるとほぼ同時に、一歩だけずれた所から猛然と飛び出す影があった。

髪の色と同じような炎色の瞳を光らせるサラマンダーは、欠片もスピードを落とさずに大剣を突き出してくる。

───へぇ、僕のワイヤーを見切って、更には怯まずに向かってくる、か。少しはやるじゃん。

眼前に迫ってくる大剣を前に、レンは冷静にそんなことを思った。同時に、無防備な剣の腹を思いっきり裏拳で殴る。

弾かれたように向くべき方向を変える《魔剣グラム》が、肩の辺りを浅く削り取るのを感じながら、眼前までに迫った無防備な鎧の継ぎ目に手刀を突き込む。

ビクン!と痙攣したように揺れる大柄な身体を尻目に、セオリー的に一番硬く頑丈になっている胴部分のアーマーにドロップキックを叩き込む。

翅を使った三次元戦闘ができるALOだからこそできる芸当だ。SAOでは空中戦など、どちらが先手を取るかで勝敗が分かれるというシビアなものだったのに。

しかし同時に、空中戦闘(エアレイド)はある危険というかデメリットも含んでいる。

それが、小柄なレンが放ったドロップキックをまともに受けた大柄な身体が地面に激突するまでの威力を生んだことだろう。いや、レンの蹴りが威力を増したわけではない。

正確に言えば、制動が利かないのである。

足で地面を捉えられない空中では、小回りは上がるが、全くと言って言いほどブレーキが利かない。

しかし、ブレーキそのものをかけられないと言うわけではない。インパクトそのものを受ける寸前に翅を目一杯に広げていれば、多少制動はかけられるだろう。

だが、それには攻撃の加わる方向とそれによって加えられる力のベクトルを詳しく把握しておかなくてはならない。それは《随意飛行》をマスターしているほどの上級者でもかなり難しいものだ。

よって、単純で解かり易いほどのフェイント一発で軽々と吹っ飛んでしまうことがある。

地面にできた真新しいクレーターの中で、ユージーンは呻きながら勢いよく上体を起こした。同時に、まずい、と苦々しく思う。

距離を取られた。それはつまり、ワイヤーという中、遠距離用の武器を持つ者に対して、近距離専用武器しか持たない者には死刑宣告に等しい。

そうサラマンダーが思考している間にも、ヒン!という小さな小さな風斬り音。

「くそっ!」

悪態を吐いてごろごろと真横に転がる。ピシリ、と耳朶を打つ音。恐らく、先刻まで自分がいた地面が一閃された音だろう。

バケモノめ、と思う。

いや、バケモノでなければケットシーの最終兵器とまでは言われないだろう。

終焉存在(マルディアグラ)

自分に終わりを来させるのではなく、自分の前に立ちはだかる全てを終焉させるという意を込めて献上された二つ名。

およそ二ヶ月ほど前。突如流星のようにケットシー領に現れた希代の実力者と歌われる一人のプレイヤー。当初、ケットシーがそのあまりの力に恐れをなして、がんじがらめに閉じ込めようとしたほどだと聞いていた。

やがて、自分と同じような実力者を集め、ドラグーン隊と並び立つほどの軍隊、フェンリル隊を自らの手で立ち上げた。

しかし、せっかく立ち上げたフェンリル隊の指揮権を副隊長に譲り、当人はいつもふらりと各地を放浪していると言う噂を聞いたことがある。

聞いた時、どうしようもなく怒りが湧き上がった。立ち上げた隊を放って置く無責任、己の種族に貢献しない非従属心。

何より、力を無駄遣いにしていることに対して。

「負け……られん。…………貴様に、だけは……………」

みしみし、と軋む身体を起こしながら、地の底よりもっと深い場所から響いてくるような声で、《猛将》と呼ばれるサラマンダーは呟いた。

同時に、視界が仄かに紅く染まってくる。気のせいでない証拠に、空の青色と合わさって空一面が紫色に変色してしまっている。

しかし、そのことをサラマンダーはほとんど意識していなかった。

心に浮かぶのは、かつて経験したこともないほどの高揚感。真の強敵と会ったときのみに訪れる感覚。

自然と口角が持ち上がる。口元に磨り潰したような笑みが浮かぶ。

キイイィィィィーン、と脳裏で金属を引っかいたような音が鳴り響く。しかし、不思議とその音は不快ではない。

視界の中の全てのオブジェクトがほんの少し引き伸ばされ、放射状に後ろへ流される。さらに続く現象として、周囲のそよ風になびく背の低い草の動きが少しだけその動きを緩ませた。

ゆらり、と大柄な身体から緋色の煙のようなものがゆっくりと立ち昇る。

それを見た途端、上空に浮かぶ少年の顔色が変わった。

その眼に浮かぶのは、驚愕だろうか。

ヒヒュン、と勢いよくワイヤーを回収するために腕を振りつつ、レンは内心が零れ落ちたというようにぽつりと言う。

「バカな………。この世界の緩みきったヒトが心意に目覚めるなんて……………」

ユージーンには、その言葉の意味は欠片もわからない。しかし、唯一解かることがあるとすれば、それは自分の身体のことだ。

身体の奥底から、力が湧き上がってくるような、一種異様な感覚。

恐ろしいほどの力の余波か、強く踏みしめた足の裏の地面がビシ、と悲鳴に似た(ヒビ)を上げる。

我知らず、口元から雄叫びが上がる。めしっ!と足が足首まで埋没される。

それに呼応するように握った《魔剣》が血のような紅い輝きを放つ。それに耐えかねたように、爆発的な推進力が足に宿る。

「いくぞぉおああぁぁぁぁぁぁぁぁーっっっっ!!」

絶叫。

直後に轟音。

漆黒の閃光と、紅い閃光が空中で激しく激突した。

衝撃波が撒き散らされ、地上にいた全員が足を踏ん張って何とか堪える。中には無様に転がっていく者もいた。

べぎごぎぼぎィ!と、何かが折れるような、何かが壊れるような音が連続して響く。二人が重なるようにして沈黙する地点を中心に、赤黒いオーロラがカーテンのように空に架かる。

空が侵食されていくような動き、いや実際に侵食しているのだ。ゲームバランスやその他を超越した存在として、正常なものを侵食していく。

至近距離で鍔迫り合いをするレンとユージーン。

眼と鼻の先にある互いの顔を睨み合いながら、レンは言う。

「まさか……、一気にここまで覚醒するなんて、ね。びっくりしたよ」

ぎしぎし、と壮絶なまでの力の拮抗をするのに、紅衣の少年は笑っていた。心の底から楽しそうに、笑っていた。

しかしそれは一瞬のこと。

近距離にある闇色の眼が、スッと唐突に細められた。

「だけど、遊びは終わり。覚醒したばっかりの、その玩具の剣で本物の刃は斬れはしないよ」

その言葉が放たれると同時、レンの身体から立ち昇っていた瘴気のような過剰光が風に乗ったかのように、真正面に集まり始めた。

ずずず、と音もなく煙は集まり、徐々に小さな小さな球体のような物体として構築されていく。

やがて、小指の爪の先程までに圧縮された漆黒の球体は、何の前触れもなく万有引力に引かれて落下し始めた。

しかし、その球体が消えたのは、地面ではない。

二人が上空に浮かび、本来ならば地面があった場所。球体はそこに、まるで水面に落ちた水滴のように────

()()()()()()

そこには何もない。

ただ仮想の空気が存在しているだけなのに、波紋は消えない。しつこいほどに空中に残っている。そして、異常な現象はそれで終わりではなかった。

球体が落下し、消えた地点から漆黒の(サークル)が凄まじいスピードで広がったのだ。墨汁を垂らしたように、綺麗な真円。

リーファ達地上のプレイヤー達から見れば、レン達を中心に空の一角に真っ黒なお盆が出現したようなシュールな光景だ。

「なん……だ。これは…………?」

呆然と呟くユージーンに、レンの答えはなかった。

ただ、無言でふぅっと呼気を吐く。汗の玉が額を伝っているのが、近距離なのでよく見える。

それを見ながら、サラマンダーはやはり、と思った。先程から自身の体から纏わりついて離れない倦怠感。初めは気のせいと思っていたが、どうやら違うらしい。この力の正体はいまだに判らないが、一つだけ解かった。

この訳の解からない力は、途轍もない集中力を要するという事だ。

集中力というものは、当然ながら無限ではなく有限だ。回転速度を上げたエンジンは、通常よりもガソリンの使用量は多い。そして、そのガソリンは簡単に給油できないのだ。これほど厄介なことはない。

ユージーンの思考は、唐突に塞き止められた。

漆黒のサークルの、滑らかな表面から音もなく幾多の()が現れた。それは、ずずずとサラマンダーの身体に纏わりついて下に引っ張る。

すなわち、サークルの中に引き込もうとするのだ。

「ぐ……ぬぅ…………ッ!」

翅を目一杯震わせるが、捕らえられた身体はピクリとも動かない。動いてくれない。

次第に絶望感が頭の中に寒々と広がってくる。

じりじり、と非常に緩慢な動作で、ユージーンは闇の中へと引きずり込まれていく。

とうとう、足の先がどぷん!と粘着質な音とともに円の中に触れる。同時に感じるのは、冷気。

ひやりと言うような生易しいものではない。身体を芯から凍らせるような、そんな寒さ。

恐怖が口の中から漏れ出て、ヒッ!という小さな音となって発声させられる。

身体はもはや胸部分まで浸かっており、もうどう足掻いても抜け出せない。

引き込もうとしていた無数の手は、もはや引き込むではなく、押し込もうとするようにサラマンダーの頭を力任せにぐいぐいと押す。

首、そして顎。

どんどん水面は上がってくる。そして────

「た、助け────────ッ!!!」

全てが、闇に沈んだ。

薄れゆく意識の中、《猛将》ユージーンは壊れたラジオのような、《終焉存在》と呼ばれる少年の声を聞いた。その声は確かに、こう言っていた。


───魔女狩(ソルシエール)峻厳(ゲブラー)》──── 
 

 
後書き
レン「はい、始まりました!そーどあーとがき☆おんらいん!!」
なべさん「寒くなってきたねぇ、急に」
レン「確かにねぇ、気づけばハロウィンも過ぎてたし」
なべさん「ああ、ポッキーの日も過ぎてたしな。不覚だ……」
レン「いや、ポッキーの日はそんなに重要なイベントではない」
なべさん「でもびっくりだよ。あといくつ寝たらハロウィンだよ?」
レン「正月な。もしくはクリスマス。お前は一年間寝るつもりか」
なべさん「はい、自作キャラ、感想を送ってきてください♪」
──To be continued── 
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