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SAO-銀ノ月-

作者:蓮夜
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第五十七話

 シルフの首都《スイルベーン》から飛びだしたが、特に何があるわけでもなく――強いて言えば森しかなく――一度飛行限界時間が訪れてしまい、数十分間木の幹で空に浮かんでいる月を眺めるだけという無駄な時間を過ごした。

 ここらへんにはモンスターが出ないのか、ゆっくりと景色を楽しむことが出来たのだが、そもそも俺の目的はここで景色を楽しむ為などではない。

 飛翔の練習とともに情報収集をする為だったのだが、その目的地であった『飛翔の練習場』とやらは見当たらず、俺は幹の上で人知れずため息を吐いた。

「……騙されたか」

 SAO内では日常茶飯事だったものだが、環境が新しくなってもネットプレイヤーの性根は変わらないということだろうか……いや、むしろデスゲームではないだからか。

 スイルベーンからここまで来れたのだから、ここからスイルベーンまで帰れる筈だとして、背中の羽根と左手のコントローラーを起動する。

 ――すると木の幹から飛び立つ前に、俺が飛翔する時と同じ弦楽器のような音と、そしてそれよりも力強い竜の羽ばたきのような音がする。
ついつい気になって音がする方向を見てみると、軽装甲のシルフの二人と五人のサラマンダーのエアライドが勃発しており、その空中戦はどちらもハイレベルであることを示していた。

 ……触らぬ神に祟り無し、人数上不利なシルフ二人には悪いけれど、初心者の俺では助けることなど出来やしない。
出来るだけ物音をたてないように立ち去ろうとした瞬間、エアライドで一番良い動きをしていたシルフの少女が突如としてこちらを向くと、そそくさと移動しようとしている俺に気づいたようだ。

「そこのニュービー、早く逃げて!」

「なっ……!?」

 驚きの声はその少女以外から発せられた声で、サラマンダーからしてみれば気づかなかった伏兵であり、俺からしてみればどうして、少女はわざわざ全員に気づかせるように叫んだのか解らなかったからだ。

 ……今から逃げるところだっただろうに、お前のせいでサラマンダーに気づかれたじゃないか……!

 そう内心で毒づきながら、サラマンダーが発射した魔法が俺のいた木に当たって燃え上がり、俺は急いで補助コントローラーで空中へと飛び上がった。

 戦いに参加することになったら、まず俺がやるべきことは戦況の把握からだ。

 こちらに親切心で――結果的に迷惑だったが――逃げろと警告してくれた、動きの良い長刀を使う少女シルフに、ダガーを持った小柄なシルフでシルフ側は二人。
対するサラマンダーは全員重装甲で固め、五人がそれぞれ巨大な槍を持って攻撃する、というフォーメーションを取っている。

「何してるの、早く逃げなさいってば!」

 サラマンダーのリーダー格と戦っている少女シルフが一旦距離を取り、わざわざ俺の横に飛行してくると、もう一度警告してくれた。

「いや、補助コントローラーの速度じゃ終われたら逃げられそうにない。お前みたいに《随意飛行》なら、また話は違うんだろうが」

 重装備でありながらこれほどのエアライドをする連中相手に、補助コントローラーを使っている俺では、出せる速度の関係上逃げることは出来ないようだ。

 ……ならば、俺がやるべきことは一つ。

「……ナイスな展開じゃないか」

 初期装備である安っぽい片手剣を右手で抜き、近くで槍を構えるサラマンダーに対し、自分から向かっていく。

 この世界どころかネットゲームでも俺は初心者だが、エアライドには未だ慣れていないとはいえ、今ここで目の前のサラマンダーと戦ってみせる自信ならばある。

 なぜなら現実とSAOで鍛え上げた技術もあるが、このALOという世界はSAOと変わっていない、俺はそう実感していたからだ。

 エギルにこの世界がどんなシステムか聞いた時、俺が一番最初に思ったことは……俺がSAOで過ごしたシステムと、ALOのシステムは『似ている』ということだった。
魔法と飛翔という存在はともかくとして、レベルアップはなく接近戦の実力はプレイヤーの技術により決定し、プレイヤーをサポートする《ソードスキル》はない……

 ……二年間生き残ったSAOと同じシステムならば、この世界でも戦えない道理はない……!

「ちょっとキミ!?」

 少女シルフの驚愕の声をバックにしながら、俺はサラマンダーが突き刺してきた槍を横に移動して避けながら、お返しとばかりに片手剣をサラマンダーに向かって突き立てた。

「はっ!」

「バカ野郎、そんな片手剣がこの重装備に……ッ!」

 その自慢の重装甲には初期装備の片手剣など通用しない、などとタカをくくっていたサラマンダーは、自分の身体に突き刺さった片手剣を信じられない面持ちで見ていた。

「アーマーとアーマーの継ぎ目を狙う……重装甲相手でもこういう戦い方はある。そして、ちょっとでも突破された装甲なら……!」

 片手剣が入っているアーマーとアーマーの継ぎ目に片手をねじ込むと、無理やり力付くでその部分のアーマーを外してやると、剥き出しになった身体に片手剣を叩き込んだ。

 サラマンダーが持つ突撃槍はこの近距離戦に使うのは向いておらず、補助コントローラーと突撃槍で両手が塞がっている為、手で俺を払いのけることも出来ない。

「でぇぇぇぇい!」

 ――結果としてそのサラマンダーの戦士は、《リメインライト》と呼ばれるようになるまで、俺の片手剣による連撃を叩き込まれることとなった。

「ふう……もう剣がすり減ってやがる……」

 初期装備の片手剣を無理やり使っている自分も悪いのだけれど、やはりこうなると日本刀が恋しい……などと思っていると、側面から他のサラマンダーから突撃槍が突きだされ、なんとか下降して避けることに成功する。

 すぐさま上昇してサラマンダーと同じ高度に位置すると、他の二人のシルフも同じく距離をとっていて、偶然にも三人のシルフが集合することとなった。

「その妙な戦い方……あなた、他のゲームの有段者?」

「……まあ、そうか」

 元々教え込まれていた技術を更に発展させ、アインクラッドで生き残れるような技術にしたのだから、確かに有段者と言えるのかも知れないが……有段者とは、なんだかゲーマーらしくない言い方だ。

「ま、良いわ。あたしはリーファ、こっちはレコン。あなたの名前は?」

 小柄なシルフの頭を掴んで自己紹介するリーファに、今まさに襲われているのに対した余裕だとは思ったが、サラマンダーも三人揃ってるところへ攻撃してくるのは難しいようで、周囲を旋回しつつこちらを警戒していた。

「俺の名前は……ショウキだ」

 ALOにログインする際に名前を変更する機会はあったものの、特に必要を感じなかったためにそのままにした名前だが、リーファは俺の名前を聞くとしばし硬直した。

「リーファちゃん、どうしたの?」

 レコンがリーファの顔を覗き込むと、リーファはハッとして元気に首を振った。

「……ううん、何でもない。それより、相手のサラマンダーは残り四人で、そのうち一人……多分リーダー格は地上に落ちた。だから、1対1×3で戦って、隙をついて逃げる。それで大丈夫?」

「大丈夫だ」

「……た、多分」

 リーファの状況確認と作戦会議を兼ねたセリフは即座に終わり、平常通りの俺の言葉と自信なさげなレコンの言葉を受け、リーファはレコンの腰を一発叩いた後に号令をかけた。

「だから気合い入れなさいって、レコン。……行くわよ!」

 リーファの号令の下俺たちは散開し、それぞれ一人ずつ突撃槍を持っているサラマンダーの前につくと、別々に戦いだした。
このサラマンダーたちの戦い方はフォーメーションを重視しており、チーム戦ではなく個人戦に持ち込めるのであれば、大した脅威とは成り得なかった。

 レコンはそのダガーで突撃槍の射程ではない近距離で攻撃をしていたが、サラマンダーの重装甲相手では分が悪く、ダガーの攻撃はダメージをあまり与えられていない。
だが、その相手の射程の内側に潜り込んだ戦い方のせいで、サラマンダーは思うように戦うことが出来ず、足止めとしては充分だ。

 リーファは《随意飛行》による高機動戦を行っており、敵の背後に張り付いては確実なダメージを稼いで移動し、ヒット&アウェイが上手くいっている。
補助コントローラーを使っている相手はその動きについていけておらず、重装備相手に時間はかかるかも知れないが、あの戦いはリーファの勝ちになることが明白だった。

 そういう俺はと言うと、敵のサラマンダーが突撃を繰り返している為に近づけず、敵もこちらを近づけまいと警戒している為、思うように戦えていなかった。防戦一方どころか着実に追いつめられており、空中戦のキャリアが俺とサラマンダーの歴然たる差を開いていた。

「……だからって、やられっぱなしとはいかない」

 敵のサラマンダーの戦い方はシンプルで、重装備で突撃槍を構えながら圧倒的な威力と質量で相手を攻撃する、という単純だからこそ強い戦術。
対するこちらは、敵を攪乱しながら動きを読み、相手の不意をついて一撃を入れる……と言いたいところだが、エアライドに慣れてない今はそれが難しい。

 ……それでも、そうするしかないのが悲しいところだが。

 もはや何度目になったか解らないサラマンダーの突撃を、俺はギリギリまで引きつけてから更に上方に上昇し、急激なGに耐えながら足をサラマンダーの前に『置いて』おく。
サラマンダーは突撃をそう簡単に止めることは出来ず、そのままその勢いで俺の足に頭から突撃し、自分が出していたスピード分の威力の蹴りを喰らったような状態となる。

「……そこだ!」

 金属のヘルメットに蹴りを入れたこっちも痛かったが、 相手は頭にその衝撃が響き渡っているだろうところに、俺はその場で一回転した後にかかと落としを叩き込んだ。
サラマンダーからしてみれば、頭を二回ハンマーで殴られたような衝撃が襲ったような状態で、たまらず突撃槍を取り落として自身も墜ちていく。

「次は……ッ!?」

 サラマンダーを追撃する余裕も意味もないと判断した俺は、即座にレコンの支援に行こうと翼を展開し直したのだが、斜め下から突如として炎の渦が巻き起こって向かって来ていた。
そう、ここはいくら似ていようとSAOではなく、妖精と魔法の世界――ALOだということを再実感した。

 炎の渦から何とか逃れようと急速に左旋回をすると、今すぐ移動しようとしていたのが功を労し、何とか炎の渦に直撃することは免れた。
だが完全に避けることは出来ず、その炎の渦は俺の左手を掠っただけで焼き、左手の補助コントローラーを焼き尽くした。

 空中で飛行機がコントローラーを失ったら……答えは明白であり、先程のサラマンダーのように、ただ地上へと墜ちていくのみだ。

「うわああああっ……!」

 この空中から地上へと重力に従って墜ちる際の浮遊感を感じながら、我ながら情けない悲鳴をあげていると、遠くからリーファの声が聞こえてきた。
聞こえにくいので悲鳴をストップすると、風切り音があるためにどうにも聞こえにくかったが、リーファの言っていることは何となく把握出来た。

 ――彼女は、飛翔しろと言っている。

「仮想の骨と筋肉が伸びてると仮定して、肩や背中と翼を連動させて!」

 普段ならば何を言っているのか解らない、と呆れるところであるが、彼女が今言っていることは確実に《随意飛行》のコツだ。
補助コントローラーが焼き尽くされた今では、随意飛行を身につけなければ墜落することは確実だ……!

 リーファに言われた通り翼に力を込めると、先程まで補助コントローラーで動いていた翼がピクピクと動き出し、徐々にではあるが翼のように始動すると、弦楽器のように翼が音を慣らし始めた……飛翔する準備が整った証拠の音だ。

 しかし着実に大地は迫って来ており、俺の頭上には思ったより速く復活した、先程頭を二回蹴りつけたサラマンダーが突撃槍を構えていた。

「後は思いっきり、飛んで!」

「……筋肉を自在に動かすなんて……簡単な技術だろうっ!」

 自身を鼓舞する意味を持った叫び声を上げると、地面スレスレでホバリングするように翼が動き出し、その後にコントロールをする暇もなく飛び上がった。

 頭上で突撃槍を構えていたサラマンダーと視線が交錯し、突きだされた槍を片手剣で斬り払うと、攻撃する暇もなくサラマンダーを通り過ぎた。

 確かに速度は跳ね上がったもののコントロールは難しく、飛翔しているというよりは翼に振り回されている、といった方が今の俺の状態は正しいか。

「だけどな……」

 もはや刃がすり減って限界を迎えている片手剣を投擲し、サラマンダーの左手に握られていた補助コントローラーを弾き飛ばし、サラマンダーも空中でのコントロールを取れなくなっていた。

「……お前に向かって落下することぐらいは出来るさ!」

 細かいコントロールは効かないものの方向を指定することはでき、今まさに飛び上がった地上へと進路を向け、サラマンダーへとのしかかった。
飛べなくなったサラマンダーは重力に従って墜ちていき、そのまま俺が上から押しているため、サラマンダーはそのまま地面に押しつけられた。

 サラマンダーの重装備がエアバック代わりになって俺にダメージはないが、上下に押しつけられたサラマンダーはたまらずHPを全損させ、《エンドフレイム》が地面と共に俺を迎えた。

 死んだ証とはとても思えない赤色の光に包まれながら、俺は再び飛翔する為に翼を展開し、大空を仰ぎ見た。

 
 

 
後書き
ALO、初戦闘は前後編でお送りします。

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