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SAO-銀ノ月-

作者:蓮夜
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第五十六話

 エギルの店から家へと帰って来た俺は、とりあえず自分が部屋として使っている分家のドアに、鍵を取り付けるところから始めた。
ようやくSAOから帰ってこれたというのに、もう一度フルダイブをするところなどを見られれば、両親が発狂しかねない。

「……こんなもんか」

 帰る途中にある100円ショップで買った鍵で即席で作ったため、もの凄く大したことのない鍵ではあるが、とりあえず鍵としての体を成していればそれで良い。

 一度開けようとしても開かなかったので、鍵はこれで良いとして布団を敷き、エギルから貰った《アミュスフィア》を取りだした。
我慢出来ずに破壊した、あの悪魔の機械《ナーヴギア》と同じ外見・機能を持ったモノということで、どうしても持つ手に力が入ってしまうが、この《アミュスフィア》に罪はないと思い直す。

「……ん?」

 一旦落ち着こうと深呼吸を繰り返していると、視界の端に何やら見覚えの無い機械を見つけて、手にとってまじまじと見ることにする。
その機械は片手で充分持てるほど小型で、元々あった塗装が剥げたような様相を呈している。

 この機械自体には全く見覚えが無かったものの、その塗装の剥げたような機械には見覚えがある……つい先日までここにあった、悪魔の機械《ナーヴギア》と同じような塗装の剥げ方をしているのだから。

 床に叩きつけた時に破片が転がったか、とでも自己解釈してゴミ箱に投げ入れようと思ったものの、その機械に記されている文字を見ると俺の動きが止まった。

「……メモリーカード……」

 機械やゲームには疎い自分でさえも、メモリーカードが何なのかぐらいは解っているつもりだ。
ゲームデータの記録や保存を司り、これが無ければデータのセーブすら出来ないという最重要機能。

 そして、俺が《ナーヴギア》を使用して行ったゲームは一つだけなのだから……必然的に、このメモリーカードに入っているゲームのデータは一つしかない。

 茅場晶彦が仕組んだデスゲーム《ソード・アート・オンライン》――あの浮遊城での、二年間に渡る死と隣り合わせの生活が、このメモリーカードの中にデータとなって凝縮されているのだ。
《ナーヴギア》は破壊した筈なのに、こんなものがまだ部屋に残っているとは思わなかったが、今度こそ完膚無きまでに破壊を――

「…………」

 ――することは俺には出来なかった。

 確かにこのメモリーカードは憎むべき二年間の結晶だが、それと同時に日本刀《銀ノ月》を始めとする、最期の瞬間まで一緒だった大事なものもあるのだ。

 そんなものを、どうして壊せようか。

「……また、頼むか」

 それはないと思うが同じゲームのジャンルだ、もしかしたらSAOのゲームデータも役に立つかも知れないと思い、《アミュスフィア》のメモリーカードと入れ替えた。
《ナーヴギア》と同型というのは決して間違えでは無いようで、メモリーカードの規格は問題なく、塗装が剥げたメモリーカードを中に入れる。

 そして次に《アミュスフィア》に入れるのは、これまたエギルから貰った《アルヴヘイム・オンライン》――通称《ALO》のROMカードであり、後は被って『あの言葉』を言うだけでバーチャル空間に突入するだろう。

「…………!」

 この機械と同型の機械を被って、デスゲームへと誘われたのは身体が覚えているとても言えば良いのか、かなり被るのに抵抗したが《アミュスフィア》を装着することに成功した。
《ナーヴギア》と感触まで同じという、製作者に文句の一つでも言ってやりたくなる仕様があったが、もういい加減『覚悟』を決めよう。

「……リンク・スタート!」

 その力ある言葉を俺が唱えた瞬間に、俺の意識は眠るように闇の中へと引きずり込まれていくのだった。



 闇の中を飛ぶように浮かんでいる感覚がしばし続くと、突如として何もないが立てる場所が出現し、そこに立っていると女性のような声が響いた。

『所属する国を選択してください』


 女性の機械化音声とともに、俺の前へと九つの妖精の姿が映し出されたディスプレイが浮かび上がり、それぞれの妖精の特色が表示されている。
正直に言ってしまえば、ゲームのクリアなどには興味のない自分にとって、この種族選択もどうでも良いことだが……何があるか解らない以上、備えはしておくべきだろう。

 《火妖精〈サラマンダー〉》・《風妖精〈シルフ〉》・《猫妖精〈ケットシー〉》・《水妖精〈ウンディーネ〉》・《闇妖精〈インプ〉》・《土妖精〈ノーム〉》・《影妖精〈スプリガン〉》・《鍛冶妖精〈レプラコーン〉》・《音楽妖精〈プーカ〉》――紹介されている順番は、ALO内の世界でどれが攻略に近づいているか、ということらしい……どう考えても戦闘には向いてなさそうな《鍛冶妖精〈レプラコーン〉》と、《音楽妖精〈プーカ〉》には分が悪い順番だが。

 やはり一際目を引くのが、剣の攻撃による一撃の重さと火力の高い魔法がある《火妖精〈サラマンダー〉》と、剣の鋭さと素早さに風の魔法がある《風妖精〈シルフ〉》、そして次に攻略に近い《猫妖精〈ケットシー〉》だろうか。
この二種類の種族と《猫妖精〈ケットシー〉》がゲーム攻略に近いなら、これらの種族に入れば、アスナがいるだろう世界樹についての情報も集めやすいだろう。

「……よし」

 俺はしばしウィンドウの前で考えた後、上から二番目にあったウィンドウを選択した……風妖精〈シルフ〉》のウィンドウである。
金と緑色という種族の色はあまり気に入らないが、剣戟の速度を増す風を操る風妖精〈シルフ〉》の方が、火妖精〈サラマンダー〉》の炎よりは俺の剣の性にあっている。

 ……猫妖精〈ケットシー〉? 素早さは高いが色々と論外である、主に外見の問題から。

 他には幻覚を使うという《影妖精〈スプリガン〉》も気になったが、幻覚とはますます正当な剣技から離れてしまうのと、世界樹攻略から遠いことから候補から外した。

 種族選択も終わり遂にゲームが始まるのか、床が消えて落下していくと、美しい街並みが地下に見えてくる。

 二年ぶりになるフルダイブの開始の感覚に、なんとも俺は嫌な感覚に陥りながらも、街の中央にそびえ立っている塔へと降りていった。



「つうっ……」

 フルダイブに入ることに慣れていない俺にとって、開始の証とも言える目眩を乗り越えると、目の前には巨大な塔が立っていた。
辺りを見回してみると、夜の闇の中に浮かぶ深緑の建物が並んでおり、現実ではそうそう見えない幻想的な光景が広がっていた。

 流石はALO一美しいと評判の種族であるシルフの首都《スイルベーン》であり、俺の趣味には合わないとはいえ行き交うシルフの人々と併せ、金色と深緑と夜の光は美しいの一言だった。

 しかし、その光景はSAOの名物スポットで見たことがあり、どこか既視感を感じさせざるを得ない……そう思ったところで、急いで右手を振ってメニューを表示させた。

 俺の心配とは裏腹に、メニューの一番最後にはきちんと《ログアウト》ボタンは存在し、ここはSAOではないのだと安心させた。

「……とことんビビりだな、俺は……」

 そんな事態になっていたら、今ごろSAOの再来だの何だの騒がれているだろうに、俺はSAOやフルダイブに対して身構え過ぎなのだ。

 そうして目の前にあった鏡に、ため息を吐く趣味の悪い格好をする妖精がいるな、と発見する……言った側から現実逃避をしてしまったが、どう考えてもその妖精は自分であろう。
SAOとは違ってランダムに割り振られたその外見は、一言で簡単に言うと『家柄の力を自分の力だと勘違いしている長髪』といった感じだろうか。

 その髪の毛が金髪であることもそのイメージを加速させ、やはり金色は見るだけに留めるべきだと再実感する。

 しかし俺は、どうにもこういう『自分以外の肉体』を動かすのは抵抗がある方だが、今回は身長がほぼ同じなので良しとしよう。

 まずは俺の置かれている状況の確認だろうと、とりあえずは先程出したメニューを探ってみることにすると、まずは《アイテム》のボタンをタッチした。

 当然始めたばかりなのだから、初期装備ぐらいしかないだろうと思っていたのだが、俺のその予想に反してアイテムは大量に埋まっていた。
最初の方は、いかにも初期装備といった感じな簡素なアイテムが並んでいたが、それら以外のアイテムは全て文字化けしている……?

「バグか……?」

 一番最初に思いついた可能性はそれであり、とりあえず何が出るか気になった為に、文字化けしたアイテムを出現させるべくボタンを押した。
一度メニューからスパークが走り、何か糸のような物が一瞬出現したものの、それから直ぐに無くなってしまった。

「今のは……」

 やはりただのバグか……と普通は思うだろうが、俺の眼はもう一つの可能性を提示していた。

「……アリシャの糸?」

 ギルド《COLORS》のリーダー、アリシャのメイン武器――武器と言って良いものか微妙だが――彼女があらゆる環境で使っていた《糸》そのものだった。
彼女が《PoH》に殺された際に、ギルド《COLORS》の共有ストレージにその遺品を遺したため、俺のアイテムストレージにある物だった。

 その遺品である《アリシャの糸》が何故ここにあるかは解らないが、この文字化けのアイテム達は全て、SAOで俺が手に入れたアイテムだということだろう。
……これも《ナーヴギア》と同じように、捨てることなんて出来やしない。

「おいニュービー! そっから離れた方が良いぞ!」

 アイテムストレージを閉じると、周りからそんな声が響き渡り、ニュービーとやらにそこを離れるように言っているようだ。
しかしSAOでいうところの《圏内》で、そんな急いで離れなくてはならない状況になるとは、そのニュービーとは――

「ぐあっ!?」

 ――そんなことを考えている内に、気配もなく頭上から蹴りを喰らい、そのまま床に倒れ込んだ。

「あれ、悪い悪い。でも、ニュービーがそこにいるのが悪いんだぜ?」

 頭上から見事な一撃を放ったのは重装備のシルフで、そのまま一度謝った後にどこかへ歩いていくと、代わりに他のシルフが一人歩み寄って来た。

「だぁから離れろって言ったのによ、ニュービー」

 どうやらその少し老けた顔のシルフは俺に話しかけているようで、クラクラした頭を直しながら立ち上がると、そのシルフへと話しかけた。

「ニュービー……?」

「おいおいそっからか? 『初心者』って意味だよ、初心者〈ニュービー〉」

 『ニュー』というのはその意味から解るのだが、『ビー』とは何だろうか……などとくだらないことを疑問に思ったが、そんなことは本当にどうでも良い。
……しかし、フルダイブ環境下で二年間ずっと暮らしてても初心者とは、彼はどれだけフルダイブ環境下にいるのだろうか……なんてな。

「すまないな、わざわざありがとう」

「良いってことよ。じゃあついでよ、他になんか聞きたいことはあるかい?」

 お節介というか最初の村のおじさんポジションというか、このシルフはそんな性格のようなので、せっかくだから聞かせてもらうとするか。

「どうやって空を飛ぶんだ?」

 《世界樹》のことを聞こうかとも思ったが、まずはこの世界での常識であるらしい《飛翔》のことを教えて貰うとしよう……《世界樹》のことは現実でも調べられるが、《飛翔》はそうもいかない。

「おお、やっぱそれからだよな。まずはコントローラーを出しな。左手をコントローラーっぽく握り込むんだ」

 言われた通りに左手を操作すると、SAOと同じように左手に補助コントローラーが現れ、少し前に倒してみると羽根がピクリと動いた。

「動かし方は普通のコントローラーと似たような感じさ。後は怖がらずに飛んでけ!」

 随分と感覚派のシルフに腰を叩かれ、コントローラーを押しだして飛翔する……確か流し読みした説明書によれば、そんなに難しい操縦では無かった筈だ。

「……っと!」

 風切り音と飛翔する感覚が身体を包み込み、飛翔するというのは中々に爽快な感覚で、これなら流行するのも頷ける。
おっさんシルフは『怖がらずに』と言っていたが、《縮地》より遅い今では、スピードに関しては特に恐れることなど何もない。

 空中でクルリと旋回してみせると、おっさんシルフから拍手が捧がれて何か言っているようで、おっさんシルフの言葉を聞くために空中でしばし滞空する。

「ニュービーにしては筋が良いな。……そうだな、こっから東の森に飛翔の練習場みたいな場所があるんだ、せっかくだから行ってみろよ」

「飛翔の練習場、ねぇ……」

 もうそろそろ《飛翔》にも慣れてきそうだし、正直この補助コントローラーはお世辞にもかっこいいとは言い難いし、飛行速度自体が上がるらしいので、翼だけで自由自在に飛び回りたいところだ。

「色々ありがとう、行ってみることにする」

 色々教えてくれたおっさんシルフに礼を言うと、東の方角へと初期装備のちゃっちい片手剣を装備しながら、今の自分に出来る限りの速度で飛翔していった。

「おっさん、東の森ってサラマンダーの狩り場じゃね?」

「飛行の練習にはなるだろ? すぐここに戻ってくるだろうがな」

「なるほどな……」

 ……そんな話が、俺が飛び去った場所でやりとりされているとは、全く知らないままに。
 
 

 
後書き
ALO突入になり、ショウキは《シルフ》となりました。

ちなみに第二案は本文にある通り《スプリガン》でしたが、キリトと被るので却下……まあそんなこと言ったら、プーカ以外は主役陣に被るのですが。

感想・アドバイス待ってます。 
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