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アイーダ

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第二幕その三


第二幕その三

「その通りです。私はファラオの娘である前にアムネリスであります。そのアムネリスが全てをあの方に捧げようというのです。わかりますね」
「はい」
 その言葉にこくりと頷く。
「わかります。ですが」
「ですが?」
「私もアイーダです。ですから」
「闘うと」
「若し御嫌でしたら今この場で死を」
 こうまで言ってきた。
「悔やまれることのないよう」
「私は貴女を殺すことはありません」
 それは断言してきた。
「誇り高き女には誇り高き闘いを」
 アムネリスは告げる。
「ただそれだけのことです」
「それだけのこと・・・・・・」
「貴女が奴隷であろうとなかろうと」
 身体をアイーダからナイルの河畔に向ける。だが顔はそのままであった。
「私は貴女と向かい合う。そして勝つ!」
「それは私が」
「ではその言葉受け取りましょう。貴女と私の闘いの言葉だと」
「うっ・・・・・・」
 アイーダは胸に左手をやり言葉を詰まらせた。遂にアムネリスと戦いになる。そのことに今気付いた。風が起こり二人の後ろの木がざわめきナイルの水が波になる。まるで二人のそれぞれの心が外に出たかのように。
「それでよいのですね」
「退かれることはないのですね」
「ありません」
 またはっきりと告げてきた。
「何があろうとも」
「わかりました」
 そこまで言われて遂に覚悟を決めた。
「それでは」
「はい。私は何があっても勝ちます」
 アムネリスは再び身体もアイーダに向けて告げた。右手を前に素早く突き出してだ。
「貴女に対して」
 そう告げた瞬間であった。勝利が告げられる声がした。
「むっ」
「これは」
「勝った、勝ったぞ!」
 伝令の声であった。そう叫びながら街を走っていた。
「エジプトの勝利だ!遂に勝ったぞ!」
「そうですか、勝ちましたか」
 アムネリスはその声の方を向いて満足そうに笑うのであった。それからまたアイーダの方に顔を戻してきた。そのうえで言った。
「では私も勝つとしましょう」
 今度は笑ってはいなかった。燃え上がる目でアイーダを見ていた。
「そして英雄として凱旋してくるあの方と共に」
「運命は何処までも私を苦しめる」
 アイーダは顔と身体をナイルの河畔に向けて呟いた。アムネリスはまだ彼女に顔と身体を向けていた。
「このナイルはエチオピアにも流れているというのに」
 所謂青ナイルである。エジプトを創ったナイルは遠くで青ナイルと白ナイルに別れている。青ナイルはエチオピアにも流れているのである。
「それでも今はエジプトにありエジプトの者を潤す。私を潤しはせずに」
 そのことを泣くばかりであった。悲しみが心を覆う。それを拭い去ることは彼女にはできなかった。
 勝利の凱旋の日となった。エジプトの創造神であるアトゥムの神殿の大きな階段の頂上に黄金色の玉座がありファラオはそこで着飾っていた。その上には緋色の天幕があり階段は天幕と同じ色の絨毯で覆われファラオの後ろにはみらびやかに着飾った将校達が並んでいる。それぞれの手には旗がある。階段には将軍達や大臣、神官達が並び王の前に横に並んで立っている。そして階段の下には民衆が並んでいた。皆軍の帰還を今か今かと待ちあぐねていた。
 
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