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アイーダ

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第二幕その二


第二幕その二

(やはり怪しいわね)
 心の中でそう述べた。
(どうにも)
(あの方のことばかりを思ってしまうのに。どうして言うことができないの)
(だとしたら彼女は私にとって)
(この苦しみから解き放れたい。けれど)
(恋敵。だとすれば)
「アイーダ」
 また彼女に優しい声をかける。
「何でも話しなさい。二人だけの秘密よ」
「王女様と」
「そうよ。私が嘘をついたことがあるかしら」
 にこやかな笑みをアイーダに見せてきた。
「ない筈よ」
「はい」
 アイーダもその言葉に頷く。確かにそれはその通りだった。アムネリスは誰に対しても嘘を言うことはなかった。そうしたことは言わない、それは王女の誇りからだった。
「では言いなさい。祖国が心配なのね」
「そうです」
 こくりと頷く。それは事実だった。
「けれど」
「けれど。何かしら」
「いえ」
 首を横に振る。
「何もありません」
「隠し事をする必要はないのよ」
 アムネリスはここで立ち上がってきた。
「だから。さあ」
「けれど」
「私は今悲しみを知ってしまいました」
(仕方ないわ)
 嘘を言うことにした。今はじめて嘘をつく。そのことに心を痛ませるがそれでも言わずにはいられなかった。そうしてでも探りたかったのだ。
「悲しみとは」
「エジプトにとってかけがえのない勇者を失うという悲しみを」
「それはまさか」
「ええ、そうです」
 その言葉に答える。
「そうなの。ラダメスはエチオピア軍によって」
「そんな・・・・・・」
 その言葉に思わず声を失った。
「あの方が、そんな」
(やはり)
 これで確信した。それにより嫉妬の炎が燃え上がる。最早自分でもどうにもならない。その激情で身を焦がしながらまた言うのであった。
「死にました」
「ああ!何故!」
「悲しいのですね?」 
 アムネリスは嘆きの声をあげるアイーダに対して問うた。
「あの方の死が」
「はい」
 今そのことをはっきりと認めた。
「どうして悲しまずにいられましょう」
「そう。わかったわ」
 アムネリスは嫉妬に身を焦がしながら頷いた。
「わかったわ。そのうえで貴女に謝罪するわ」
「謝罪!?」
「ええ。これは嘘よ」
 アムネリスは言った。
「嘘をついたことを謝罪するわ。王女としてしてはならないことをしたのを」
「どうしてそのようなことを」
「知る為よ」
 きっとして言った。
「貴女のことを」
「私のことを!?」
「ええ」
 きっとして睨み据えてきた。
「わかったのよ、今」
「まさかそれは」
「そうよ。嘘はつけないわよ」
 きっとアイーダを見据えていた。そのうえでの言葉であった。
「もうここまで来たらね」
「うっ・・・・・・」
「私はもう嘘はつきません」
 アイーダに対して宣言してきた。
「私もまたあの方を愛ているのです」
「えっ・・・・・・」
「今言いましたね。私もまたあの方を愛していると」
「そんな・・・・・・それでは」
「私と貴女は敵同士」
 アイーダを睨み据えて言う。
「あの方を巡っての。ファラオの娘が貴女の敵なのです」
「あの方が生きている」
 アイーダはまずはそのことに希望を見た。しかし。
「けれど貴女は」
「さあ、どうするのですか?」
 ずい、と一歩大きく前に出てアイーダに問い詰める。
「私と。闘うのですか?」
「ファラオの娘ですか」
「そうです」
 毅然として言った。
「そうでなくても私はアムネリス」
 ファラオの娘である前に自分自身であると。はっきりと述べてきた。
「この私と闘うつもりですか?」
「私は・・・・・・」
「私は逃げることはしません」
 凄まじいばかりの威圧感と気迫を見せてきた。アムネリスはファラオの娘である前にアムネリスであった。それがはっきりと出ていた。
「このアムネリスの名と誇りにかけて」
「それでも私は」
 アイーダはその気迫に気圧されそうになる。それでも言った。負けてはいなかった。
「あの方を何処までも」
「私と闘うと」
「いえ」
 また気圧される。それでも言った。
「私はあの方を何処までも」
「それは私も同じこと」
 アムネリスは圧していたがそれでもアイーダは踏み止まっていた。アムネリスはさらに押すがアイーダは持ち堪えていた。彼女はそれでも押すのであった。
「だからこそ」
「私にあるのは愛だけ」
 アイーダは言った。
「その愛の為に」
「退かぬというのですか」
「貴女はファラオの娘でなくともと仰いましたね」
「ええ」
 その言葉にこくりと頷く。アイーダを見据えたまま。全身に紅い炎が宿っていた。それはまさに怒りの女神そのものの姿であった。
 
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