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ストライクウィッチーズ1995~時を越えた出会い~

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第六話 未来のユニット

 
前書き
恐るべき夏風邪の脅威・・・
未だ熱は下がらず下痢が止まらない日々。滅多に風なんてひかないのですがねぇ・・・ 

 
 ――ロマーニャ基地 格納庫


「まったく、あれしきの事で情けない。もっと精進するんだぞ、沖田」
「は、はい。肝に銘じておきます……うぅ」

 宮藤が腕によりをかけて作ってくれた夕飯に舌鼓を打った後、すっかり全身が筋肉痛になってしまった和音は、坂本と一緒に基地の格納庫までやってきていた。目的は勿論、和音のユニットについて、である。

「まあいい。それよりも、整備班たちが待っている。急ぐとしよう」
「わかりました」

 格納庫は食堂を出た廊下をまっすぐ行った突き当りだった。今は閉まっている正面の巨大な扉は、開けるとそのまま滑走路に通じていて、有事にはここから素早く発進することになるのだという。

「あまり人目に触れてしまうのもどうかと思ってな。普段は使わない格納庫の奥に安置してある。ああ、ここの人間は口も堅いし信用できる。安心してくれて構わないぞ」
「はい、ありがとうございます、坂本少佐」

 硬質な足音を響かせて格納庫を進んでいく。夕食後と言う事もあって、格納庫の中は人も少なく暗かった。ここ501部隊では、基本的な整備などは昼間のうちに終わらせて、あとはスクランブルに備えて当直の人間が待機しているのである。

「着いたぞ。ここだ」
「わぁ、広い……」

 だいぶ奥まった所まで来ただろうか、坂本が指さす先、機械油の独特な匂いが漂うそこに、和音の愛機――F-15Jが安置されていた。みたところ、傷や汚れはないようだ。丁寧に扱ってもらえたことに和音は安堵した。

「坂本少佐、お疲れ様です。例のユニットの件ですか?」
「うむ。沖田、彼らが501部隊で使用されるユニットの整備を一手に引き受ける技術部の人間だ」
「はじめまして。沖田和音少尉であります」

 ぺこり、と頭を下げる和音。事情は既にわかっているのか、特段驚いたり疑問に思ったりする様子もなかった。

「さっそくですまんが、沖田。このユニットについての説明を頼めるか?」
「あ、はい。わかりました」

 おそらくレシプロユニット用の固定ボルトなのだろう。規格があっていないために半分宙吊り状態になっている愛機の傍に立つと、和音は坂本と整備兵を交互に見ながら口を開いた。

「機体の名称は『F-15J』といいます。現在……あ、あくまで私の時代で、という意味ですが、扶桑空軍の主力ストライカーとなっている機体です。見ていただいたのでわかるとは思いますが、レシプロではなくジェットストライカーです。もっとも、これに限らず既に私の時代では主力がジェットストライカーなのですが……それと、本機を開発したのは扶桑ではなくリベリオンです。それを扶桑の運用方針に合わせて細部を改修したのがこの機体ですね」

 スラスラと淀みなく解説をしてみせる和音。時折頷きつつ坂本が先を促し、隣に立つ整備兵がなにやら素早くメモを取りながら手に持っていた書類と照らし合わせていく。彼らからすれば全く未知の産物だ。この反応も当然だろう。

「リベリオン製? カールスラントではなくてか?」
「はい。ジェットストライカーの製造と運用に関しては、リベリオンとカールスラントが他国と比較して一歩も二歩も先を行っています。扶桑では友好国であるリベリオンの機体を参考にし、欧州ではカールスラントの機体が主力ですね。もちろん、独自開発された機体もありますが」

 扶桑においても、国産ジェットストライカーの研究は進んでいる。
 たとえば、『F-2』がそれにあたるのだが、本格的な運用と量産は和音がこの時代に飛ばされるより以後の事となるため、まだ和音に詳しい知識はなかった。

「なるほど、そういうモノなのか……して、採用年はいつ頃の物なんだ?」

 これは最も気になる部分だろう。和音は冷静に記憶を辿りつつ答えを返す。

「たしか……本格的な運用が始まったのは1976年だったかと。それが扶桑において改修され、私のF-15J型となったのが1980年前後だった筈です」

 原型機となったF-15の完成から、改修型の本格運用まで約5年。ジェットストライカーという高い技術レベルを要求されるユニットでこの年数は驚異的だ。

「ふむ――整備班ではどのような見解が出ている?」
「はっ! やはり、現行の技術水準をはるかに上回る物であることに間違いはありません。採用年を聞く限りではおおよそ30年~40年後の機体ということになりますが、我々では想像できませんね……」
「そうか、わかった」

 至って冷静な風を装う坂本だが、内心は非常に驚いている。技術の進歩は時として凄まじい速さで進むことがあるが、その実例をこのような形で見ることになるとは思わなかったのだ。

(いや、案外これが普通なのかもしれんな)

 しかし、坂本はふと思い出す。
 思えばまだ自分が新米だった頃。宮藤理論が確立される以前は、背中に発動機を背負うユニットが主流だったのだ。それがあっという間に宮藤理論によって開発された新型機に交換され、いまや研究段階であるとはいえジェットストライカーの開発も始まっている。それも、わずかに10年程度の範囲でのことだ。
 だとすれば、30年も経つ頃にはきっとこれが主流なのだろう。そう考えれば、何もおかしいことはないのではないだろうか?

「武装はどうなっている? そこにあるのは……盾と一体化したガトリング銃のようにも見えるが……?」
「ああ、これのことですね」

 武装についての話になって、坂本は不思議そうな表情でユニットの横に安置された長大な重火器に目を向けた。パッと見の話で言うのなら、それは小型の盾にガトリングをぶら下げたような珍妙かつ無骨な代物であった。

「これは、『JM61A1-バルカン』です。口径は20mm。見ての通りガトリング砲です」
「ガトリングだと? そんなものを扱えるのか?」
「はい。弾倉への被弾と誘爆を防止するため、小型の盾が標準で装備されていて、現場では〝防盾砲〟なんて呼ばれてましたね。リベリオンでは〝シールド・ガトリング〟と呼ばれているそうです」

 不思議な話ではあるが、この時代――つまりは1945年時点においては、ガトリング砲など時代遅れもいいところな産廃兵器でしかなかった。それというのも、工業技術の発達が大きく関係している。
 もっとも初期のガトリング砲の作動方式は、射手が一定の速度でクランクを回すことによって砲身の回転と給弾を行うもので、非常に手間がかかるものだった。のちに電動のモーターに切り替わるものの、当時はまだバッテリーの小型化や出力の向上が進んでおらず、結果的に重く嵩張るだけになってしまったのだ。

「ウィッチの主兵装は機関銃の類だと思っていたが、随分様変わりしたのだな」
「いえ、機関銃もまだまだ主力です。時と場合によりますが、使われなくなったわけではありません」

 結果、重いし、嵩張るし、無駄に構造は複雑だし、という諸々の理由からガトリング銃は廃れ、ウィッチの主力は機関銃になっていったのだ。これが劇的に変わるのは、ひとえに工業技術の発達のおかげである。
バッテリーやモーターの改良も進み、問題点は改善された。これをうけて兵装の一大転換が起きたのである。外部動力による発射のため、不発が発生しても強制排莢して射撃が持続でき、砲身1本当たりの発射頻度は低くて済む。

「技術の進歩とはすさまじいものだな……そう言えば、〝アレ〟はないのか?」
「……? 〝アレ〟というのは何でしょうか、少佐」

 感心したようにうなずいていた坂本が、何やら思い出したように言う。
 が、名前を知らないのでアレとしか言いようがない。

「ほら、以前ネウロイを撃墜した蛇のように飛ぶロケット砲の事だ」
「ああ、あれはロケットではなく『ミサイル』です。正確には、空対空ミサイルですが」
「みさいる? なんだそれは?」
(そうか、ミサイルそれ自体がまだ実用化されてないんだ……)

 う~ん、と頭を捻る和音。ミサイルと一口に言っても、種別や形式を問うとキリがない。基本的にウィッチが、ひいてはストライカーユニットが装備・運用するのは〝空対空ミサイル〟と呼ばれるものだ。

「ええっと、簡単なイメージで言えば坂本少佐の言う通り『蛇のように飛ぶロケット砲』で間違いはないです。目標の熱などを探知して、自動で誘導する兵器です」
「自動で誘導だと!? そんな凄まじいモノがあるというのか!?」

 たしかに、機銃一丁でネウロイと戦ってきた身からすればとんでもない兵器だろう。
 が、うまい話はないもので、ミサイルにはミサイルの弱点、ないしは運用上の弱点や欠点が当然ある。
 まず第一に、重い。そして嵩張る。結果的にあまり数を携行できない。加えて言うと構造が複雑なので製造や整備に手間がかかる。おまけに誘導するとは言っても100%命中するわけではないのだ。開発初期こそ『ミサイル万能論』がまことしやかに囁かれたが、実戦の結果机上の空論に過ぎないことが証明されている。

「……そうか。夜遅くにすまなかったな、沖田。おかげでだいぶユニットについても理解できた」
「いえ、こちらこそ申し訳ありません。私なんて只の余所者なのに……」
「はっはっはっは!! 何を言っているんだ、沖田。扶桑のウィッチは皆仲間だ。余所者扱いなどするわけがないだろう?」

 持ち前の豪快さで笑い飛ばす坂本。
 さっそくメモをまとめたらしい整備兵を先に帰すと、坂本と和音も格納庫を後にする。

「そうだ、沖田」
「なんでしょうか?」
「明日から訓練に参加する気はないか? なに、どのみち今のままでは暇なだけだ。おいそれとジェットストライカーを飛ばすわけにはいかんが、レシプロのユニットを扱ってみるのも悪くはないだろう?」
「よろしいのですか!?」

 それは和音にとって願ってもない相談だった。故意ではない、それも運命に流されるままここへたどり着いてしまった和音ではあるが、このまま何もせずにいていいわけがないし、和音自身もそれは嫌だった。しかし、まだ実用段階にない筈のジェットストライカーをおいそれと飛ばすわけにもいかない。

「あのストライカーの処遇はミーナとこれから考えるとして、お前自身もどうするかを決めねばな」

 それはつまり、ウィッチとして戦うかどうか、ということと同義だ。
 力を持ち、守るべきものがあるならば、和音の答えは最初から一つだ。

「ぜひお願いします、坂本少佐」
「うむ。いい心がけだ、沖田。はっはっは!!」




 ――ロマーニャ基地 司令室


「はい……ええ、どうやら事実のようです……はい……本人の証言もはっきりしています……はい、ええ……ですが、よろしいのですか? ……はい、了解しました。では、そのように」

 ガチャン、と電話の受話器を置いたのは、赤い髪を揺らしたミーナであった。
 坂本と和音がユニットを相手にしている頃、彼女はカールスラント本国に対し電話を掛けていたのだ。無論、内密の話であるからして、電話の相手が誰なのかは内緒である。

「はぁ……沖田少尉の処遇をどうにかしないといけないわね……」

 隊長として、一人のウィッチとして、彼女をこのまま放っておくことはできない。
 が、だからといって自分の思うままにできるほど世の中が単純ではないことも重々承知している。くわえて、彼女は現段階で試作にすら漕ぎ着けていない最新鋭兵器――ジェットストライカーの保有者なのだ。万が一軍の上層部にでも知られれば、ただ事ではなくなってしまう。

「なんとかした護ってあげたいのだけれど……うまくいくかしら?」

 司令官として時に非情な判断を迫られることもあるミーナだが、心根は優しく、思いやりに溢れた人間である。部隊にとって有益か否かという即物的な事情を除いてでも、ミーナは和音の事を護ってやりたいと考えていた。ついさっきの電話はそのための布石である。

「――らしくないぞ、ミーナ。少し疲れているんじゃないのか?」

 はぁ、とため息をついたミーナの背後から、良く通る声がした。
 振り返るまでもない。声の主が誰であるか、ミーナは見るまでもなく判断できる。

「あら、トゥルーデ。何時から居たの?」
「珍しくドアが開けっぱなしだったからな。何かあったのかと心配で見に来たんだ」

 やって来たのは、マグカップを二つ持ったバルクホルンだった。
 もう自室でベッドに入っていてもいい時間である。いかにも偶然通りかかった、という風を装っているが、大方わざわざ心配で見に来ていたのだろう。口にこそ出さないが、こういう細かい気配りのできる人間なのだ。

「まあ、これでも飲んで一息つけ。温まるぞ」
「ふふ、ありがとうトゥルーデ」

 マグカップに満たされていたのは温かいコーヒーだった。司令室の中に香ばしいコーヒーの香りが漂う。

「……ちゃんとお砂糖入れてくれたかしら?」
「もちろんだ。砂糖とミルク、どっちもたっぷりなのがいいんだろう?」

 実はコーヒーをブラックで飲めないミーナなのだが、そこは付き合いの長い戦友である。ちゃんと砂糖とミルクを入れてきてくれていた。ちなみにこの事を知っているのはバルクホルンとエーリカだけである。以前、抹茶を点ててくれたことがあったのだが、ミーナは結局、砂糖とミルクを入れて飲んでいた。坂本は露骨に渋い顔をしたのだが、それはまた別のお話。

「それで、悩んでいたのは沖田少尉の事か?」
「ええ……このまま隠し通すことはできないでしょうし、上層部に弄ばれるようなことにはなってほしくないわ」

 マグカップで掌を温めつつ、本音を吐露するミーナ。
 もちろん、バルクホルンとて思いは同じだ。

「そうだな……できれば共に戦えればいいんだが、難しいだろうな」
「空戦の技術はあるでしょうけど、問題は上をどう納得させるか、ね」

 正直な話をすると、軍に限らず組織というのは上に行けばいくほど腐ってゆく。
 これが権力だのなんだのと関わり合うとロクなことにならない。軍という組織などその典型といってもいいだろう。ジェットストライカー開発に躍起になっていることを鑑みれば、どうあっても本国に事実を暴露するわけにはいかないのだ。

「ところで、さっきは誰に電話をしていたんだ?」
「あぁ、私の頼れる上司よ。多分、今の私たちが一番信用出来て、一番頼れる人ね」
「……? どういう意味だ、ミーナ」

 怪訝そうな表情をするバルクホルンに、ミーナはそっと微笑んで言った。

「そのうち分かる時が来るわ。だから今はまだ内緒。ね?」
「……まあ、ミーナがそう言うなら問題はないのだろうな」

 そう言ってバルクホルンも引き下がる。

「さぁ、今日はもう寝ましょう。体を休めることもウィッチの仕事よ」
「そうしよう。――おやすみ、ミーナ」
「おやすみなさい、トゥルーデ」

 そう言ってバルクホルンは司令室を出ていき、ミーナもまた自室に戻ってベッドに潜り込む。
 緩やかに夢の世界へと落ちてゆく彼女たちを、月だけがそっと見守っていた――
 
 

 
後書き
ところで、最近、某格ゲーのラジオで「夢盛り」なる迷言が生まれました。
う~ん、これは大いに使っていきたい・・・ 
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