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蒼天に掲げて

作者:ダウアー
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九話

 ジジイが村長になり、食糧に余裕がついて来た頃、まあ大体一週間くらいなわけだが。
 ジジイは、村人達を集め集会を開いた。

「もう皆分かっておると思うが、儂がこの村の村長をやることになった羽須じゃ、よろしく頼む」

 ジジイが名乗り頭を下げると、村人達が拍手をし、ジジイを喜んで迎えた。

「儂ももう年寄(としより)でな、どこか落ち着く場所を探しておったのじゃが、いやあ、ありがたいのう」

 俺的には年寄とか嘘つくんじゃねえといいたくなるが、実年齢的には一応年寄らしい。一応な。

「それでまずお主達の体調が治るのを待っておったのじゃが、皆大丈夫かの?」

 ジジイのその言葉に皆一斉に頷く。全員概ね良好な体調に戻ったようだ。

「うむ、それではお主達に協力してもらいたいことがあるのじゃ」

 そういってジジイが俺を指差し、皆に聞こえるような大声を出す。

「まず男性諸君。お主等にはこやつに従ってもらい、村に柵を作ってほしい」

 ジジイの発言に、ちらほらと不満の声が上がる。

 まあいきなりこんな小僧に従わなくちゃいけないのは嫌だろうよ。俺も自分より年下に従うのは抵抗あるからな。

「村長のことは皆も了承したが、俺達はこんな小僧までいいとはいってないぜ」

「そうだそうだ、それにこいつなんかになにができるっていうんだよ?」

 そういって何人かの男達が立ち上がり、俺を非難してくる。

 まあ従わないならそれでもいいんじゃね? と思ったが、ジジイの手前そんなこともできるわけがないので、仕方なく黙ったまま話を聞くことにした。

「まあ年下に従うのは嫌じゃろうが、お主等少し落ち着け」

 ジジイの声に男達は不承不承ながらも静まり、俺を睨みつけてくる。

 ……睨みつけてきた奴、顔は覚えたぞ。

「こやつは柏也という。儂と五年もの間旅をした、いわば孫みたいなもんじゃ。そしてこやつは贔屓目なしで強い。そこでお主達を引っ張ってもらおうとしたのじゃが」

「こいつが強い? 馬鹿いっちゃいけねえよ。明らかに弱そうだぜ?」

 そこで前に出てきたゴリラのような男がニヤリと笑いながら俺の方に来る。

「なんなら戦ってみようぜ? 俺達を纏めることができるんだろ?」

 俺の前で挑発をする様はまさしくゴリラ。胸をドンと叩き自分の肉体の強さを表してくる。

「いいぞ、やってやるよゴリラ」

「ハッハッハ、おうおうやるのか小僧。いいぜそんならいくぞ――!? うぐッ」

 俺はゴリ男がいい終わる前に鳩尾へストレートを入れる。するとゴリ男はそのまま気絶し地面に崩れていった。

 悪いなゴリ、俺も少しイラついてたから本気でいったよ。顔は守ってやったから許してくれ。まあ最初からゴリラみたいな顔だったけどさ。

「よし、次だ。さっきまで非難してた奴、顔は覚えてるんだから出てこいよ」

 俺は先程までの苛立ちを発散するため、残り十人ほどの男を立ち上がらせ、そして問答無用で叩き伏せたのであった。





 その後、女性達は村の清掃とジジイが指令し、俺達が材料確保のついでに食料も取りにいくこととなった。

「よし、切るぞお前ら」

「「「「「うっすアニキ!!!」」」」」

 何故か、道中俺のことをアニキと呼ぶようになり(気絶させた奴等も)、皆俺のいうことを素直に従うようになっていた。

 ザンッ

 一斬りで一本の木を切り、男共が倒れた木を運び村の手前に置いておく。
 この作業を夕方になるまで続けた。

「アニキ、皆で猪を三匹捕まえましたぜ」

「おー、それじゃ今日は作業もこのくらいでいいか」

 俺がそう指示して男共と村に帰ると、女性達が綺麗にした村の広場で宴会をすることとなった。






「ようし、おめえら、酒用意しろおおおお!!」

「「「「「うおおおおおおおおおおお!!!」」」」」

 広場の真ん中に火を焚き、猪をそこで焼いて食えるようになると、先程まで柵作りをしていた男共が戻り、宴会が始まった。

「ふう、中々疲れたな」

「仕方ないわい、人を指揮するのは大変じゃよ」

「ああ、命令したことを全員ちゃんとしていたのは良かったが」

「はっはっは、お主も面白いことをしたのう。まあおかげであやつらもいうことを聞いておるじゃろ」

「それはそうだけどな」

「まあ、これで当分は従ってくれるじゃろ。今はお主も宴会を楽しんでこい」

 ジジイがニヤリと笑いながらそういったので、少しイラッとしながらも立ち上がり移動する。
 すると、皆が酒やら肉やらを持ってきて、

「歓迎するぜ、柏也」

「遠慮せずにお食べよ」

 と、男性は背中をバンバン叩きながら、女性はニッコリとした笑顔で、俺に勧めてくれた。

「ありがとう、それじゃもらうよ」

 俺はそういって肉にかぶりつく。
 ジジイと旅してた時もよく肉は食べていたが、やはり味付けされているのとそうでないのは、大分味が違うんだな。
 俺が食いながら(行儀悪いので真似はするなよ)村の人々にあいさつをしていると、

 ズドン!

 という衝撃音が後ろから聞こえ、俺は前のめりに吹っ飛ばされた。

「ててて、なにしやがるんだてめ……ん、なにもない?」

 俺が立ち上がり、俺の背中を強打した者を探したが、どこにも見当たらなかったので再び移動しようとしたら。

 ドン。

「おいどこにいるかしらんがいい加減にしろ」

「ここ、ここにいるよ!!」

「あン?」

 もう一度探したが見つからず苛立ちを押えながら怒鳴ると、下から声が聞こえた。

「こーこ! ここだって」

 ここここうるさいので下を見やると、ちょうど俺の鳩尾ほどの身長の女の子がこちらを見ていた。

「誰だよお前?」

「私は王朗、字を景興、真名は文っていうんだよ!」

 おーおー元気なあいさつだな。

 感心しながら少女の頭を撫で、先程の少女の言葉に疑問を持つ。

「ん? 文っていったな、真名ってなんだ?」

 俺の疑問に、少女は嬉しそうに目を細めながら説明する。

「真名っていうのはねー、本人が心を許した人にしか教えない名前で、本人の真名を呼ぶとね、問答無用で斬られちゃうんだって!」

「なに!?」

 そんな設定が三国志にあったのか。

「てことは、俺がお前の真名を呼ぶと問答無用で斬り殺されるのか」

 なんて怖い世界だ、と頭を抱えると、少女は不思議そうに首を傾げながらこちらを見る。

「なんで? 私はちゃんと真名名乗ったでしょー?」

「ん? ああ、確かに名乗ったな」

「その人から真名を名乗ってもらうとね、真名で呼んでいいんだよ?」

 少女の発言に俺はほっとする。まあ真名を呼べば斬り殺されるなんて、そんな必要性のない名なんてないよな。

「てことはお前は俺に真名で名乗っていいっていってるのか?」

「そうだよ!」

 なるほどな、信頼できる相手ならいいわけだ。なんでこの少女、文に許されたのかは分からんが。

「ふむ、なら文、真名しかないときはどうすればいいんだ?」

 俺には柏也って名しかないから、俺が許してないのに真名を呼ばれるってことは、そいつら全員斬り殺してもいいってことだよな。……中々怖いことができそうだな。

「え? 柏也真名しかないの? なら私が名を考えてあげる!」

 ん? なにか勘違いしてないこの子?

 俺がつけてほしいのは名ではなくて真名だけの場合どうすればいいかであってだな。

「えーと、「すいーと」、「ふれっしゅ」、「すまいる」とかがいいかな?」

「まてまてまて、そんな名はよせ!」

 なんかどこかで聞いたことあるタイトルみたいな名前はやめろ!

「じゃあ、んーと、「どきどき」?」

「じゃあ、じゃねえよ。もっと無難なやつにしろ、とりあえず今までのはダメだ」

「んー、じゃあ「とうかい」はどう?」

「とうかい……稲威ね、よしその名にしよう」

 ようやく無難な名が出たので即刻決定し、漢字を自分で考えて当て、少しカッコいい名前にする。
 ん? カッコいいよな? 俺のセンス間違ってないよな?

「わーい、じゃあとうかいね! とうかいの真名はなに?」

「ん? ああ、もうジジイがいっちゃったけど俺の真名は柏也だ。よろしくな」

「うん、よろしくー!」

「さて、それじゃ肉でも食べにいくか」

「うん!」

 こうして、俺にも名ができたのだった。
 後日、文が俺と同じ年齢だということを知り、目を丸くして驚いたのは別の話である。

 
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