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魔王の友を持つ魔王

作者:千夜
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§48 永すぎた乱戦に結末を

 
前書き
一つの場面のキャラが少ないと描写がだいぶラクですね(爆

イキナリのポッと出設定はしていない、つもりなんですが……

超展開の連続だったらすみませぬ
さーて。ようやく大聖編終わりまでもう少し……!


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――空気が、変わった。

「……主、決着をつける気か?」

 死の臭い溢れる冥界の気配を感じ取れはするものの、もはやそれは稀薄。大量の"まつろわぬ神"の存在感は死の臭いをも上書きする。この凄まじい、否おぞましい気配を感じれば普通の生物は失神しかねない。こんな力を解き放てば非戦闘員の避難なぞ不可能だ。

「今回はよほど手強いと見える」

 もちろん、そんな事黎斗は百も承知だろう。彼がそれを知った上でこの権能を行使しているのなら、使わざるを得ない状況ということだ。現地は正に地獄なのだろう。

「これは主の手助けに行くべきか」

 狂気の沙汰とも言える過剰攻撃。普段なら絶対に無い選択肢を採っている黎斗に危機感を覚える。神と神殺しの戦いは何が起こっても不思議ではない。黎斗の敗北が無い、とは断言出来ない。ましてやこの権能使用後は全ての権能を使えなくなる、究極の諸刃の剣なのだから。

「なんですかコレは……!!」

 だが、そこまで思考が及ぶのはジュワユーズだけだ。失神しそうな存在感に耐え、平時の気楽さをかなぐり捨てて、甘粕達は絶叫する。煩いとジュワユーズは眉をしかめるが、それは彼女の高慢だ。こんな中で意識を保っていること自体が賞賛に値するだろう。今居る場所は冥府では無いが限りなく近い場所にいる。居るだけで心身が摩耗していく恐怖の領域。

「主の切札(ジョーカー)魔神来臨(エターナルメモリー)だ」

 冥府の奥底のさらに奥、神話の領域にまで接触し、そこから神々の神格を引きずり出す、という原理まで説明する気は毛頭ない。

「この術が発動した以上、おまえ達の護衛は不要だな。神獣如き、この中で生きられぬ。お前たちは早く逃げろ。この闇に呑み込まれれば、死ぬぞ」

 彼女の言葉を裏付けるように、冥界が更に広がり始める。都心を蝕むこの世界は、直に本州全土を飲み込むことだろう。黎斗が簒奪した神格の数だけ性能が向上するのならば、その位はいくはずだ。

「ウガア゛ァア゛!!」

 更に鬼の軍勢が四方八方へと駆け抜ける。全国に散った猿が駆逐されるのも、もはや時間の問題だろう。羅刹に酒呑童子の眷属たる悪鬼にヤマの使役する羅刹、ともに神獣としては中の下程度だが圧倒的な数はそれを補って余りある。

「我は主の元へと戻る。恵那を任せたぞ」

 瑠璃色の髪をかき揚げて宣言するジュワユーズに否の声を返す者はいない。――異を唱えた瞬間に己の首が飛ぶことを察しているから。そんなことに異を唱える愚か者は--

「恵那も、いくよ……」

 一人、居た。声を出すのもやっとだろうに、満身創痍の身体で立ち上がる。その瞳に陰りは何ら見られない。

「恵那さん!?」

 意識があると思わなかったのか、甘粕は目を見開く。

「ふむ。こう本人は言っていますがジュワユーズ様、如何いたしましょうか?」

 驚いたのは一瞬、馨は即座に状況を整理しつつジュワユーズへ伺いを立てる。

「何を馬鹿な事を。小娘、貴様程度が介入できる戦いではない。今行われている戦闘は次元が違う。お前如き一瞬で散り、足手まといにすらなりはしない」

 容赦なく当たってくるジュワユーズ。言っていることは正論で。呪力を込めた瞳で睨むからか、眼光が物理的な圧力を放っているとすら感じるほどだ。

「でも、それはジュワユーズ(あなた)も一緒だよね。神具の化身程度では生きられないんじゃない?」

 強気な恵那のその言葉に、時が止まる。剣の化身は帯電を始め、馨の顔が強張る。甘粕の顔には大粒の汗がダラダラと流れる。彼女の言わんとすることは一つ。満身創痍な恵那(じぶん)も、聖剣の化身たるジュワユーズも、等しく雑魚にすぎないと。

「貴様、我を愚弄するか」

「事実でしょ」

 ジュワユーズの言葉をアッサリと受け流し、恵那は持論を展開する。

「もちろん、そのくらいあなたもわかってるよね。それでも行くのは、れーとさんがマズいからなんじゃないの?」

「……」

 沈黙する化身。これでは答えを与えているようなものだ。どうやら交渉能力は低いようだな、などと馨は傍観しつつも相手の分析を忘れない。

「れーとさんがマズいなら、戦力は多い方が良いんじゃない? 最悪、恵那でも殿の囮くらいは出来るよ」

「主が、それを許す筈が無い」

 否定する口調だが、ジュワユーズの中では揺れている。そう感じ取った恵那は最後に一言、ダメ押しをする。

「確かに、恵那は弱いよ。今回も足手まといにしかなってないし。でも、足手まといにはならない程度に戦えることを今度は証明させてよ。恵那も役に立ちたいな」

 打算も何もない恵那の言葉、更に迷う化身にかけられた最後の一声は、上空からかけられた。

「良いんじゃないですか? ジュワユーズ、連れて行ってお上げなさい」

「エルちゃん!?」

 音も無く着地すると同時に彼女の手に持つ札が燃え落ちる。落下を操作する札、といったところだろうか。微かに感じるのは須佐之男命と黎斗の呪力の残滓。

「エル!? 貴様、この忙しい時に何処をほっつき歩いていた!? 雑魚は雑魚らしく引き籠ってろ!!」

「恵那さん、ボロんちょですねぇ。えっと……」

 怒声をどこ吹く風で受け流し、エルは袖をごそごそ、と漁る。微妙な空気の中で取り出すのは一枚の呪符。

「……ハイポーション(仮)? 何このふざけた名前」

「マスターのネーミングセンスはこんなもんですよ」

 呆れたように、エルは呪符をもう一度見やるとそれを恵那の額に翳す。

「痛いの痛いのとんでいけー……これで呪文あってますよね?」

「今はそんな事してる場合じゃ……ッ!?」

 自信なさげなエルに詰め寄ろうとした恵那が、絶句した。ふざけている、としか思えないその呪文を引き金に呪符が輝いて。光が収まる頃には自身の治癒が完了していたのだから。

「何が……」

「軽い回復の呪、ですよ」

 少名毘古那神の権能で作成した治癒の湯に浸した呪符だけあって性能は中の上、といったところだな、などと内心で評価するエルだが、ジュワユーズは彼女に怒りをぶつける。これでは本当に恵那が死地へ行きかねない。

「さっきから貴様何のつもりだ!!」

 詰め寄る剣の化身に対し、エルの答えは単純明快。

「武器を、見繕ってきました」

「は?」

 予想外の答えにジュワユーズが一瞬フリーズする。

「今回は規模が規模ですので、私も動かなければならないかと、マスターの小屋で武器の調整を」

 淡々と語る彼女だが、疲れたように周りを見渡す。

「まぁ、この光景を見るにそんな必要は無かったようですね。冥府を顕現させたようですし。油断は禁物ですが」

 やれやれと、そんな表情を残しつつエルは恵那に札を一つ渡す。

「とりあえず、非常事態ですので一番恵那さんと相性のよさそうな子を」

「何、これ……?」

 受け取った恵那はその札から放たれる凄まじい存在感に戦慄する。これの纏う気配は眼前の化身に匹敵するような--

「馬鹿な!! 蛍火(ほたるび)だと!!」

 ジュワユーズが、怒鳴る。それは黎斗の倉庫の中に眠る、強大な力を持つ霊刀。

「そ。これなら大丈夫でしょ」

 そう言って笑うエルは、剣の文句などどこ吹く風。

「何、これ……」

 伸ばす手が、震える。刀が、恵那を試すようにぱちり、と光った。長さは1メートル程だろうか。刀身には、何かの文字が呪力と共に刻まれている。

「時間が無いので簡単に。”雷切”竹俣兼光と蛍丸を熔解して打ち直し、マスターが”嵐”を意味するルーンの”ハガラズ”、といくつかマスターが弄った(・・・)ルーンを刻み呪法をかけました。スサノオ様の系譜に連なる恵那さんなら”嵐”と相性が良い筈ですので、ハガラズを主体に」

 サラッと話すエルだが内容は物騒極まりない。名刀を複数溶かして打ち直しているのだから。そして黎斗が直接刻む数々のルーン。色んな意味で関係者が知ったら卒倒しそうな代物である。

「嵐を引き連れ雷を帯び刀身は自己再生、オマケに矢避けってなかなかイイ性能だと思いますよ。気性も穏やかですから暴走もおそらくはないでしょう」

 蛍の光が集い刀身を修復する様と、帯電した電気が爆ぜる光景から蛍火、などと優雅な名前を付けらた。だが、芸術性目的の剣でないことはエルの解説を聞くまでもなくわかる。

「これを、恵那に……?」

「まだ改良途中なので強度は脆いです。大事に使ってあげてくださいね」

 完成したらどうせ恵那に渡す予定だったのだろう。恵那の力を引き出しやすいように構築されたルーンがそれを物語る。

「恵那さんに渡す役、っていう美味しいところをもってったから怒られるかもしれません。その時は援護、お願いしますね?」

 冗談めかして笑うエルに、恵那も思わず笑みを零す。

「うん。……ありがと、行ってくるね!」

「はい、御武運を」

 敵を黎斗が駆逐するのは大丈夫だろう。しかし、その後の黎斗は疲労困憊で動けない筈だ。そこで寝返り不意打ちがあれば、黎斗も死ぬ。それを防ぐための護衛二人の投入だ。

――万が一は頼みます

――任せて

 アイコンタクトはほんの一瞬。

「いくよジュワちゃん!!」

「あぁもう、貴様待て!!」
 
 それだけ呟き追いかける彼女は、瞬時に音を置き去りにする。ソニックムーブにおける破壊など気にする気配は微塵も無い。もう壊れているのだからこれ以上壊れても変わらないだろう、と考えているから。

「これが、黎斗さんの、切札…」

 呆然とする甘粕の視界に写るのは、高層ビル群を足蹴にする牛に比肩する、巨大な鳥。全天を覆う怪物が遙か高くに飛び上がり、大地に焔と雷、そして流星群をたたき落とすその光景。それは正に、黙示録。

「これが、羅刹の君……」

「とりあえず逃げましょう。流石にこれ以上いると邪気に呑み込まれます」

「そうですね」

 エルの言葉に賛同して、甘粕と馨は走り出す。背後で大地が瞬いた。牛を覆い尽くす光線が、天に向かって放たれる。それは正しく光の柱。絶叫と共に牛の輪郭が崩れ去っていくのは、二人には認識出来なかった。



●●●



「……これはひどい」

 ビルの残骸、その屋上部に座った黒王子は呆れながら缶ジュースを開ける。もう馬鹿馬鹿しくて戦っていられない。貸しを作ってやろうと参戦したがこれでは借りを作ることになりかねない、というか自分が参戦しようが参戦しなかろうがこれは結果は変わらないだろう。本来なら帰って不貞寝したいのだが、あいにくこの薄暗い空間から出る術がわからない。張本人に聞くのは馬鹿げているし、手持ちの呪具で突破が出来ない辺り権能の類だろう。

「まぁ、幸い害は無いようだしここで見物と洒落込むか」

 突如現れた八人目、彼の権能を観察する良い機会と割り切ることにして青年は優雅に眼下をみやる。

「それにしても凄まじいな……」

 カンピオーネの勝敗は読めない、というは定説だ。どのような局面でもただひたすらに勝利を求め成し遂げるのがカンピオーネ(じぶんたち)なのだから。だが、戦いのフィールドが「盗み」ならばおそらく自分の一人勝ちだろう。負ける可能性もあるだろうが、勝てる公算が非常に高い。それと同じように闘いのフィールドが「初見の決闘」ならば。おそらく目の前で暴れる(れいと)の一人勝ちだろう。蘇生にカウンターに初見殺し満載過ぎる。

「情報があったとしても最期がアレではな……」

 最後の能力がまつろわぬ神々の召喚であった時点でこちらにとれる手段は(れいと)への奇襲しかない。だが相手はあの脳筋馬鹿((サルバトーレ・ドニ))とも互角以上にやりあう手練れだ。女王(クイーン)並に動く(キング)、しかも相手は蘇生(まった)が使える。ここまできるとちゃぶ台返しのような荒業を使わないとどうしようもない。それか戦闘というフィールドに立たないように立ち回る必要がある。彼と正面から向かい合うのはどう考えても馬鹿馬鹿しい。

「チェスならルールの不備を指摘するところだな」

 しかし苦々しく言う黒王子は「勝てない」とは言わない。勝算は限りなく低いが零ではないのだから。第一邂逅さえ凌げればどうにか出来る、気がする。

「……まぁ、今は奴が敵でないことを喜ぼう」

 やはり、勝てない訳ではないとわかっていてもあんな出鱈目な奴と戦いたくは無い。自分は戦闘狂などではないのだ。敵対しない限り、無理に闘う必要など無い。そこまで考えた所で、こちらに接近する気配。

「黒王子様とお見受けします。よろしいですか」

 アレクの背後で叩頭するのは古めかしい中華の服を着た男。帯刀している剣も時代を感じさせる。

「む。お前は誰だ?」

 気配が異質で、呪術的な雰囲気を醸し出す男は十中八九、幽霊だろう。おそらくは黎斗が喚びだした有象無象の亡霊のうちの一体。

「申し遅れました。私は破魔の主(ディスペルロード)こと水羽黎斗の臣下の一人、元譲と申します」

 眼帯をした男の瞳から思考を読もうとするも、失敗。そう簡単に意図を知らせるつもりはないらしい。

「ほう、アイツの臣下か。で、何のようだ?」

「僭越ながら、失礼します」

 言うが早いか、男はアレクの周囲に札のついたナイフを投げる。自分とアレクを囲う様に。

「何のつも――」

 詰問しようとした所で、周囲の景色がめまぐるしく動き出す。闇の、死の気配が急速に薄れていく。

「……!!」

 世界が静止する感覚。直後、アレクは冥府の外に立っていた。

「戻った……?」

「不躾ながら。主の命で退去させて頂きました。事後承諾で申し訳ございません」

 あのナイフにかかっていた呪の種類は位置を発信する程度の代物。故に害は無いと見逃したのだが。どうやら黎斗は発信源の空間を冥府から切り取り、ピンポイントで現世に繋ぎ替えたらしい。どれだけ洗練された、熟達した能力なのだろう。権能をここまで自在に扱うその技量には感嘆を通り越してもはや呆れしか出てこない。

「俺を追い出す、とはな。よっぽどこの先の光景を見せたくないと見える」

 皮肉気に笑えば、非常に言いにくそうな顔の男。

「いえ、その。「危ないから避難させろ。借りのある相手をむざむざ殺すのは気が引ける」と」

 盛大に、アレクは顔が引き攣った。

「……な」

「御不興になる話で申し訳ありません」

 平身低頭で土下座する男に当たり散らしてもどうにもならない。非常に腹の立つ話ではあるが、相手は山をも踏みつぶす巨大な白牛を吹き飛ばした男だ。本当に死んでもおかしくない。怒り心頭になるが、剣撃の音が響いてくることから意識をそちらに切り替える。

「他の奴らはどうした」

「羅濠教主は快く戻ってくださいました」

 主の能力を見られなくて残念がっておられましたが「主の願いです」といえば即決でしたよ、などと人の悪そうな顔で笑う男。

「アテナ様はサルバトーレ卿と交戦しておりまして。主にはアテナ様を戻すように言われており、サルバトーレ卿は特に言及が無い様子でした。よってアテナ様だけ戻させて頂こうと思ったのですがお二人を引き剥がすのは我々では不可能ですので、お二方共、こちらに戻させていただきました」

 ならば、剣劇の原因はそれか。

「スミス様もこちらです」

「まったく、最後においしいところをもっていくなんて酷い男だと思わないか? これではまるで私たちは道化じゃないか!」

 男の言葉に続けるように、大仰な、どこか芝居がかった仕草で仮面の男がやってくる。

「はっはっは、申し訳ありません」

 苦笑と共に、男の輪郭が、揺らぐ。

「どうした?」

「主が、動かれるようです。呪力を集める為に四方に飛ばした(われわれ)を回収しているのかと」

 その言葉に、背筋が冷える。あの途方もない呪力ですら、足りない?

「彼は何をしようとしているのだね?」

「さぁ。私にも詳しい原理はわかりません。「惑星を吹き飛ばす技」らしいのですが。申し訳ありませんが詳しいことは主にお聞きになってください」

「!!?」

 最後に不吉な言葉を残し、隻眼の男は消失する。後に残ったのは、彫刻と化した魔王二人。 
 

 
後書き


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8月中には1回くらい更新したいなぁ、などと思いつつ……
諸事情で1ヶ月程留守にするので更新どうなるかわかりません、と(汗




ちなみに。
恵那強化しても
天叢雲>蛍火
なので実はそんなに強くはなっていなかったり……(苦笑 
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