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IS クロス Zero ~赤き英雄の英雄伝~

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Mission 7  新たな男性適合者

Side --- <ゼロ>

「ねぇねぇ聞いた!?」

「聞いた聞いた!『アレ』でしょ?」

「そうそう!!」

騒がしいな。ガヤガヤし過ぎだ。ちょっとした物音などが分からなくなっているというのにいいのか?
あんなことがあった後なのに誰も気にかけないものなのか?
理解できないな。

「今日は! なんと転校生が来ています!!」

クラスが騒がしいと思ったらそれが原因か。
ホーキとホンネは気にしていない様子だが。
しかし、あんなことがあってからの転校生か。危機感は無いのだろうか。
結局無人機だったし、一体何が目的だったのかすら分かっていないらしい。
目的が分からないというのはありえないそうだ。普通はメモリに何かしらの指令があるはずだからそれを探れば見つかるらしい。だが、そのメモリは粉々だったらしい。
そのメモリを壊した張本人は後ろで自慢らしい巻き髪をくるくると弄っているが。呑気だな。らしいと言えばらしいのか?

「それでは、入ってきてください」

ん、転校生が入ってくるらしい。よそ見をしていては失礼だからな。
なるべく友好関係は多くの人と良好に築いていきたい。

「フランスから来ました、シャルル・デュノアです」

後ろ髪を一つに束ね、柔らかい物腰と声音で綺麗にお辞儀をする転入生。
顔を上げると優しそうな碧眼をもち、端正に整ったルックスがあらわになる。
だが…………男子生徒用の制服?


「……男子?」

全員が一言も言葉を発さず静まり返っていた教室に一人の女子生徒の声が響く。

「はい。ここIS学園に僕と同じ境遇の方がいらっしゃるという事で本日付けで本国より転入してきました」

一拍置いてから教室のあらゆる個所から黄色い声援が飛ぶ。

「男子!! 新しい男子!!」
「アンリエット君とはまた違ったタイプ、可愛い系の!! いや、アンリエット君も可愛いけどっ!」
「それも、ウチのクラス!!」

耳が……痛い。キーンと耳鳴りのような音が頭の中をこだまする。
しかし……デュノアか、ISメーカーデュノア社のデュノアか?
たしかデュノア社と言えば第二世代機の名機と名高い『ラファール・リヴァイヴ』を生産している一流メーカーの一つだろう。
そんなメーカーに男のIS操縦者、それも息子がいると言うのに今まで明るみに出なかったというのか?

「騒ぐな、静かにしていろ」

チフユの一喝で教室がまた静まり返る。
声に怒気は含まれてはいないのだが、チフユは不思議な威圧感を放っているからな。怖い。

「…………今日は二組と合同でIS実習を行う。各人はすぐに着替えて、第二グラウンドに集合。それから、アンリエット」

チフユに名前を呼ばれたので視線をシャルルの横のチフユにスライドさせる。
なんだ?なにかしてしまったのだろうか、怒られるのだけはイヤだな……。

「はぁ…そう怯えるな、怒ったりはしない。デュノアの面倒を見てやれ、同じ男同士だろう?……それでは、解散!」

それだけ言い、チフユが教室から出ていくと他の生徒がトレーニングウェアを取りに向かう。
半数以上はまだ席についたまま喋っているが。

「君がアンリエット君?初めまして、僕はシャルル・デュノア。よろしくね」

「あぁ、よろしく。あと俺の事はゼロでいい」

「じゃあ、僕の事もシャルルでいいよ」

「ん、わかった」

あいさつを交わしながら教室を出る。なにも言わなくてもシャルルはついてくる。
物分かりがいいのか、ただ俺の行動のまねをしているのか。まぁどちらでも説明の手間が省けるからな。いや、だが説明はしなくてはいけないか。

「こうやって、実習の度に俺たちは移動する。アリーナの更衣室で着替えなくてはいけないからな。そしてアリーナまでは結構な距離がある。素早く動かないとチフユに怒られてしまう」

「うん。わかったよ」

ニコリと笑うシャルル。
似ているな……シエルと。やはり男子には見えないんだが。
いや、こんな事を考えている暇はなかったな。
早くしないとまた、絡まれてしまう。





Side --- シャルル

なんか、難しそうな顔してるな。
でも、ばれてないよね?こんなに近いけど不自然だったりしないよね?
ん?なんか足音がさわがしくなってない?

「あ、噂の転入生発見!」
「それも、アンリエット君も一緒だ!」
「なん……だと……?」
「聞いた? こっちこっち!!」
「先輩方もこっちこっち!!」
「二人で並んで仲よさそ~!!」
「ちょっと待って! 私今日アメないよ!」


「アメって何のことかな?」

「ん?」

気になって横を見てみると背の高めな女生徒にぬいぐるみのように抱きかかえられているゼロの姿があった。
口がもごもごしてる。あぁ、お菓子詰められたのか。
一瞬のうちに何があったんだろう……。

「はなしてくれ、授業に遅れてしまう」

「大丈夫、時間はまだまだあるから。ほら、プレッツェルだよ~」

「着替えとかにも時間がかかるんだが」

「は~い。クッキーもあるよ?」

「あ、ありがたいが、時間が」

「ほらもう交代しなさいよ」
「しょうがないなぁ。もう」

「ゼロ?」

「シャルル……助けてくれ」

縋るような目で見てくる。こんなの……助けないわけにはいかないじゃないか。
ここで自分だけ逃げたらあとで後悔にさいなまれそうだし。

「行くよっ!」

ゼロの手を引き一気に走りだす。
ちょっとゼロに負担掛けちゃったかな?


---更衣室

「大変だったね」

「あぁ」

あの後も同級生、上級生が入り乱れて僕たちに襲いかかった。
疲れたなぁ。何であんなに騒ぐんだろう?

「ねぇ? なんであんなに騒ぐのかな?」

「IS操縦者で男は俺たちだけだろう?基本ISの訓練なんて男が居ないのだから物珍しいのだろう」

「僕たちだけ……うん、そうだよね」

そう『僕たちだけ』。よかった。ばれてないみたいだ。

「早く着替えろ、遅れるぞ」

「もう着替えたの!?」

「シャルルが遅いだけだ」

「あ、うん」

「ほら、はやく」

「あ、あの、そんなに見ないでくれるかな?恥ずかしくて」

「ん?あぁ、すまない。さすがに同性とはいえ初対面では恥ずかしいか。分かった。俺に男色の気は無いからな」

くるりと背を向け、「早くしろ」と付け足すゼロ。
よ、よかった。言い訳が苦しかったけど違和感を持たないでくれて。
『男色の気』か、今の僕は完璧に男の子に見えてるのかな?喜ぶ所なんだろうけど、ちょっと悔しいかな。

「終わったか?」

「う、うん!じゃ、行こうか」

「分かった」



Side --- ≪ゼロ≫
 
「本日から演習を開始する」

一組と二組を見渡せる立ち位置でチフユが言い放つ。
演習……か。そういえば基礎的な訓練はしていないな。これからの役に立つといいが。

「……鳳、オルコット。戦闘の実演をしてもらおう」

二人ともしぶしぶといった様子で前へ出る。

「専用機持ちだからってこういう事に引っ張り出されるのはねぇ……今怪我だってしてるのに」
「こういうのは……なんだか……見世物みたいであまりいい気はしませんわね」

「お前ら、もう少しやる気を出せ」

絶対に怒られると思ったのだが、チフユは落胆しただけで咎める気配は微塵も感じられなかった。
なんでだろうか?

「で、対戦相手だが……」

「うひゃぁぁぁぁあぁぁぁ!!!! どいてっ!! どいてくださいぃ!!!」」

喋り始めたチフユの言葉を遮るように大音量で、叫びながら落ちてきた対戦相手と思しき人物。
緑色のISに乗ったパイロットは……マヤ!?
落下地点はこのままだと俺たちの真上。周りの生徒たちはすでに察したのか退避している。
リンに教えてもらった局部展開をすれば間に合うか!?

「アームパーツ、レッグパーツ展開!!」

落下地点が少しずれているな。ダッシュで十分か。
そう判断し、ダッシュを使用し落下予想地点へ移動し、上を見上げる。
もうすでにかなり迫っているマヤが確認できた。
口を閉じ、目をきつく瞑り衝撃に備えている。

「ぐっ!?」

いざ、キャッチしてみると想像以上の重量に驚く。
ISを展開してあるのに腕が折れそうだ。
だが、ここで諦めてマヤに怪我を負わせるわけにはいかない!

「あぁぁぁぁあぁあ!!!!」」

叫び、体勢を保つ。
安定した所でマヤを地面に降ろす。

「ハァ、ハァァ……だい…じょうぶか?マヤ」

「あ、は、はい!大丈夫です」

「ならよかった」

腕が、腕がしびれた……
ビリビリする。ショートに似た感覚だな。
マヤはひとしきり俺に礼を言うとISを装着しなおし、チフユの隣へと移動する。

「まさか、対戦相手って?」

リンがまさか、という疑いを持ったような顔呟くと、
チフユはその答えを予測していたように喋り出す。

「ハプニングはあったが、山田先生は元代表候補生だ。じゃ、始めるぞ小娘共」

「え?二、二対一で?」
「そ、それはさすがに無理なのでは……?」

リンやセシリアがそういうのも理解できる。
よほどの熟練者で、さらに相手と自分とにかなりの力量差が無ければ数の不利は覆しがたいのだ。
いくら生徒と教員とはいえさすがに無理なんじゃ?

「大丈夫だ。今のお前たちならすぐ負ける」

「…………」
「…………」

 自信満々に返答されてリンとセシリア引けなくなったようだ。
だが、教員といえど二対一、大丈夫なのか? 
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