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蒼天に掲げて

作者:ダウアー
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一話

 
前書き
 誤字脱字があればご指摘よろしくお願いします。


   

 
 「よっ、ほっ、はっ、と」

 とある神社の階段で、一人の男が走り込みをしていた。
 彼の名は藤本柏也(ふじもとはくや)といい、私は一年前にこの神社に来たが、彼は毎日かかさずここで鍛錬をしている。
 来る時間は決まっておらず、朝早い時や真昼間、夜遅くに来ることなんかもたまにある。

「自分のやりたいことが見つかりますように」

 彼は今日もこの言葉を告げて帰っていく。私はどうにか彼の力になれないか画策し、彼の“届かなかった”願いを成就させるべく明日行動を起こすことにした。

『それにしても、なんでそんな善良な死に方ができるのかしらね』

 ◆ ◆ ◆


 ちゃりんと、神社の賽銭箱に小銭が落ちる音がする。

「自分のやりたいことが見つかりますように」

 俺は日課になった行為を終わらせて、いつものように階段を降りていく。やはり平日の昼間だと人は少ないようで、静かな道を一人歩いていく。

 え、お前学校サボってなにしてんだよ。ってか?

 それはまあ単純な理由なんだが、片親で育ててくれた父が死に、高校に通う金もなく、一人で生活しないといけないからだ。
 俺の親はどちらも正義感が強く、母親は俺が三歳の時に子供を守って死亡。今まで育ててくれた父も、俺が十七歳になってすぐに、火事で家に閉じ込められている家族を助けにいき、家族を無傷で助け死亡。
 この調子だと俺も誰かを守って死ぬんだろうなと考えている。
 まあ、今考えたところでどうしようもないけどな。
 俺は考えを切り替えて、アルバイトのためにコンビニに向かった。
 だがその途中で、小さな女の子が一人ぽつんと突っ立っているのを目撃した。親とはぐれたんだろうと思い、女の子のところまで歩いていく。

「よっ、こんなところで迷子か?」

 俺の問いにもチビッ子は俯いたままで、涙を堪えながらその場に立ち尽くしている。

「あーあーほら泣き止めって、俺が一緒に親捜してやるからさ」

 俺がそういってもチビッ子は動こうとせず、俯いたまま動かない。
 悪い奴に連れ去られないように教育が行き届いてるのは良いことだが、これじゃ親切でもどうにもならないじゃねえか。

「……あ、そうだチビッ子。お前親から困った時に警察の人に渡すようなものもらってないか?」

 俺の視線をチビッ子と同じまで下げて聞くと、チビッ子は小さく頷き、一枚の紙切れを俺に渡してくる。

「お、これだな。ちょっと待ってろよ」

 俺は紙に書いてある連絡先を打ち、数コール後に電話がつながったのを確認して、少し安堵しつつ電話の先の人に声をかけた。

「えっと、さっき町の神社付近でこの子を見つけたんですが、今どこにおられますか? …………はい、はい、分かりました。そっちに向かいますんで待っていて下さい。あ、ちょっと待ってください」

「ほら、母さんから電話が来たぞ」

 その言葉にチビッ子はすぐに笑顔になり、電話で親と話を始める。そしてチビッ子が何度か頷いた後、俺に携帯を渡し、ニッコリ笑って俺の手を握った。

『すいません、よく迷子になる子でして。本当にありがとうございます』

「いえいえ、大事なくてよかったです。それじゃ今から向かいますんで」

 再度チビッ子の親からお礼を聞き、少女と一緒に親のいるデパートまで歩き出す。
 絶対アルバイトには遅刻するだろうが、俺の中じゃどっちが優先かなんて考えるまでもないからな。





「もうそろそろ着くぞ」

「ホント!?」

 あれから数十分経ち、すっかり話せるようになったチビッ子とほのぼのトークを繰り広げながら、親が待っているデパート近くまで歩いて来た。
 それにしてもチビッ子と話したりするのがこんなに面白いとは思わなかった。

「この辺って聞いたんだけどな。見える?」

「人がいっぱいでわかんない」

「よし、それじゃこれでどうだ!」

「うわー、たかーい!!」

 肩車をすると、チビッ子は目をキラキラさせながら上ではしゃぎ始める。
 これが父性というやつか、可愛すぎるぜマジで。

「あ、お母さんだ!」

 そういって頭をぽんぽん叩いてくるので降ろしてやると、チビッ子は全力で親に向かって走っていく。





 信号が赤になっているのに気づかずに。

「ちょっと待て!!!」

 俺の制止も聞こえないようで、チビッ子は横断歩道を渡っていく。だがこの時代、昼間の大通りで車が全然通らないなんてことはなく、チビッ子に向かって一台の大型トラックが中々のスピードで突っ込んできた。
 それでもチビッ子は気づかない。
 チビッ子の母親が大きな悲鳴をあげ、周囲の人間を巻き込んで大騒ぎになった。
 そんな中で、俺はチビッ子に向かって大きく足を踏み込んだ。

 考えなしに走り出したけど、これってやっぱりあの親二人の血のせいだよな。

 チビッ子がようやくトラックに気づき、泣き叫ぶように悲鳴をあげる。

 俺にはそれが助けてといっているように聞こえた。

 トラックに乗っていた人が今更になって気づいたのか、急ブレーキがかかったが、どう考えても間に合わない。だが俺にだって意地がある。毎日神社に通って体を鍛え、両親の死に様を見て育った俺には、もうチビッ子を助けることしか頭になかった。

(あの子助けて死ねるんならそれでもいいって思ってしまうくらい、俺にもあの親二人と同じ想いがあるってことだよな)

 自分も一緒に助かる気なんて毛頭ない。だってそうだろ? このタイミングで少女を助けることだけでも奇跡なのに、俺すら助かるなんていう奇跡、神がそんなの二つもくれることは思えないんだよ。
 それに少し無理矢理だけどさ、俺が生きてるより、よっぽどあの子が生きてくれたほうが世の中のためにもなるだろうし。

 ああ、あと自分がしたことに、自信を持って、皆に胸張って死ねるじゃないか。





『俺は一人の女の子の命を救って死んだ』ってな。かっこいいだろ? 
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