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魔法少女リリカルなのはA's The Awakening

作者:迅ーJINー
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第十一話

 
前書き
 またこのパターンだよ。 

 
 竜二たちのステージが終わり、彼らは拍手を受けながらステージを後にする。ここでしばらく休憩のアナウンスが入り、一旦ステージの前から人が散っていく。

「いやー楽しかった!」
「緊張で何かを戻しそうになりましたけどね……」

 竜二を除き、ステージの上とは違ってかなりグロッキー状態。疲れがどっと押し寄せてきたのだろう。大きなステージで演奏する機会があまり与えられないインディーズやアマチュアバンドにいる人間ばかりだから、普段と勝手が違うのもあるだろう。

「まぁ、それもええ経験になるで」
「そうでしょうか……ていうか、八神さんもそんなに大きな箱でやったことないでしょ?」
「まぁな」

 そう。竜二もプロデビュー一歩手前まではいったものの、その時にバンドが解散。当時の彼自身にも色々問題があったことで、スカウトはおろかイベントの誘いも全く来なくなった。だからこれほどの大規模なイベントの参加経験は彼女たちと同じく、このフェスが初めてなのだ。まぁスタミナに関しては、これまで積んできた特訓や戦闘訓練がきいているのだろう。

「ともかくお疲れさん。まぁ、また会おうや」
「……はい。ありがとうございました」

 そして竜二は楽器を持ってセッションメンバーと別れた。ステージからしばらく離れると、矢吹が大きな拍手で彼を出迎える。

「おう、八神!お疲れ!」
「ん?ああ、どやった?ひっさびさに人前で弾いたからガチガチになってんやなかったかなぁと」
「いやーもう最ッ高!最前列でモッシュしたかったくらいだわ!」
「ホンマか!?ありがとさん!」

 矢吹はまさに色々吹っ切れたといわんばかりのハイテンション。もしかしたら酒を入れたのかもしれない。竜二もつられて声が大きくなる。

「いやー、これはますます明日が楽しみになってきたなぁ……」
「俺もやで。ほなみんな連れて先飯いっといて。俺はアスカ探してくるから」
「アスカさんか?なら翠屋のスペースにいるとか言ってたな。そこで飯にするか?」
「マジで?ほな行こか」

 そんな彼らを、雑踏に紛れて追跡する数人の男達がいた。全員がとあるエンプレムの入った緑のパーカーを着ているとことを見ると、何かしらの組織に所属しているのだろう。

「やっと見つけたで……あの坊主」
「あいつだけさっさと逃げよったからぶっ潰されへんかってんよな」
「やけど今回は逃がさん。わざわざこんなとこまで来た以上、確実にブチのめして再起不能にした上で引っ張って帰らな、俺らが頭に何言われるかわかったもんやない」
「この人混みがマシになったら拉致って連行、ええな?」

 全員が静かに頷いた。




 そんな中、先ほどの二人組は一人の男と対峙していた。

「……そこをどけ。こちらは任務の最中、余計な死人は出したくないのでな」
「へぇ、答えられないようなことしてんだな。でもこっちも任務中でよ。お前らの方こそ引いたらどうだ?」

 そういって笑みを浮かべながら腕を組んで立ちふさがるのはフレディだった。おそらく彼らが、グロウルがキャッチした「きな臭い奴ら」なのだろう。

「……貴様、何者だ?」
「いいのか?そいつを聞いたらただじゃすまねぇぞ?」
「この身は既に幾度となく滅んだ。帰る郷もありはしない今、いつ死んだとて後悔はない。今の我が求むるは、血湧き肉踊る輪舞のみ」

 そうは言うが、実際今の彼に殺意はない。緊張感は走っているものの、それは彼らがこの場をどう逃げ切るか、ということだろう。

「ふうん……少しは『こっち』に近い奴なのかね。ならこっちも無理には聞かねぇ。聞いたところで答えるとも思えねぇしな。まぁそれを置いとくとしたら、こっちが聞きたいのは一つだけだ」
「大体予想はつくが、わざわざこちらがそれに答えるとでも?」

 即答で叩き返され、フレディは肩をすくめて苦笑を漏らす。

「……ま、普通はそうだよな」
「なら、無駄な質問はやめることだ」
「それもそうか。ならもう何も聞かねぇ。ただし……」

 最初から言うことを聞かないことなど想定済みだったようで、自らの拳同士を叩きつけ、乾いた音を周囲へと響かせると、そのまま臨戦態勢に入る。

「こっちに来てから全くこんな荒事なかったからなぁ。ちょっとしたスパーリングにでも付き合ってもらおうか」
「すまないが、こちらには時間がないのでな。貴様の遊びには付き合っていられん」
「なら無理やり巻き込むまでよ!」

 フレディはその言葉と同時に拳を握り込んで駆け出す。すると男は謎の呪文を唱えると魔法陣を展開した。

「やむなしか……―――――――――」
「何ッ!?逃がすか!」
「さらばだ、血気盛んな青年よ」

 フレディのダッシュも一歩間に合わず、そのまま二人共光に包まれて消えていった。

「……おいグロウル、どこいったか探せ。」
「わかってるよ旦那。しかしこれまた時間がかかりそうだぜ……」
「このまま逃げられたなんてあっちゃあクライアントに何言われるかわからんし、俺のプライドが許さん」
「旦那にプライドなんてあったのかよ」
「風評通りの結果を持ち帰ってこその今の俺だからな」
「それプライドってよりプロ意識って奴じゃねぇのかい?」
「どっちでもいいよ」

 そしてフレディは嘆息し、元いたところへと戻っていく。

「とりあえず、翠屋まで戻るか。ブツをリンディに預けたままだったし……あ、そういや酒切れてたな。また買ってくか」
「こっち来てからどんだけ飲んでんだよ」
「酒と女を買うために金はあるんだよ」
「相変わらずだな。しかしカッコつけて言ったつもりだろうけど思いっきり滑ってるぞ旦那」
「握るぞ?」
「ちょごめんごめんやめてやめてうぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!」

 最期までシリアスでいられないのはこの男の性分なのだろうか。




 そして翠屋に竜二達が到着すると、先についていたフレディが拍手で迎える。

「おう兄ちゃん、お疲れさん。じっくり聞かせてもらったよ」
「お、マジで?サンキュ」
「ああ。よかったよ。あんなにうまかったんだなお前さん」
「ハハハ!まぁ、あんなもんやで。さ、次の曲聞かせてもらおうやん」
「お疲れさまです、竜二さん」
「お、サンキュクロノ」

 竜二が席につくと、クロノが紙コップに氷を詰めたミネラルウォーターを渡す。それを一気に飲み干して、脚を地面に投げ出して椅子の背もたれに身を預け、体を伸ばしてほぐす。

「うおおおおっ、流石に疲れたで!」
「ハハハ……ん?兄ちゃん、これはなんて曲なんだ?」
「ん?……お、Children of bodomのNeedled 24/7か。また難しいの行ったなぁ……」
「なんつうか、歌がすげぇな。つかこれ歌なのか?」
「一応歌なんやない?」

 仲良さげに言葉を交わす二人に驚くハラオウン親子。

「……一体なんでこの二人が繋がってるの?」
「さぁ……それに、竜二さんってあの男が何者か知っているのでしょうか……」
「そんなにヤバい人なんですか?あの男は」

 その会話に割って入るのは直人。

「ええ。極悪非道、外道、クズ男と、まぁけなす言葉には事欠かないわね」
「そんなに!?」
「でも、任せている仕事が仕事なのと、管理局黎明期から重役に貢献してきたから、誰も強く出れないのよ。正直、まともに昇進してれば今頃こんなところでのんびりしてられるような身分じゃないわ」
「……いろいろな意味ですごい人ってのはわかりました」

 これを聞いた直人は完全に引いている。無理もないが。

「おいおいそこ、俺の紹介をするのはいいけど、もちっと何かねぇのか?」
「自分で弁解してみたら?材料があるならね」
「クククッ、いやあながち間違ってないわ」
「え?そこまでのクソ野郎なんこの兄ちゃんて?」
「おい兄ちゃん今ナチュラルにクソ野郎つったな?」
「知らないでそこまで親しげにできるのはある意味幸せね……」
「え?え?どゆこと?」

 竜二も驚いてはいるが、冗談だと受け止めているらしい。しかしリンディの表情は真剣である。

「信じられないだろうから言っておくけど、これ全部本当の話よ。フレディ・アイン=クロイツといえば、管理局屈指の悪人と言っても過言ではないほど。それで色々助かってる部分もあるんだけどね」
「それどういうことです?」
「管理局の悪評を全部背負ってもらえるってこと。コイツならやりかねない、ってね」
「……」

 リンディの説明に言葉が出ない竜二。フレディをそれを聞いても否定するどころか笑いっぱなしである。

「クククッ……クハハハハハハハッ!いっそここまで言われりゃ清々しいぜ!」
「何突然高笑いなんて。とうとう頭狂った?」
「俺がイカれてんのは昔からだって知ってんだろ?それよりさっきの話、忘れんなよリンディ」
「……わかってるわよ。一晩でいいんでしょうね?」
「ああ。わかってるならいい。クケケケッ……」

 どうにも笑いをこらえきれていない。何がそんなに面白いのか、彼を除いてリンディとクロノ以外完全に置いてけぼりである。すると、竜二が椅子ごと倒れこむ。

「竜二さん!?大丈夫ですか!?」
「う、ううっ……」

 クロノが介抱に向かうが起き上がろうとせず、我が身を包むようにうずくまっている。

「お、思い出した……この男……」
「何を見たんですか!?まさかフレディ一佐……」
「兄ちゃんには一切手出ししてねぇよ。ただ『見せた』だけだ」

 フレディは嗤いながら応える。まるで愉しそうな表情で、愉悦に浸っているかのような声で。

「……クロノ、少し落ち着くまで、八神君をフレディから離しておいて」
「わかった!」
「……俺は……まだ死なれへん……死にたくないッ……!」
「とにかくいったん離れましょう、こっちへ」
「私も手伝おう」

 クロノがシグナムの手を借りて竜二を抱き起こし、海の方へと向かっていった。



 それからしばらくすると今までどこに行っていたのか、アスカがダンボール箱に様々なリキュールを入れてやってきた。

「あ、みなさんここでしたか……」
「お、アスカさん。どこいってた……って何ですその酒の山?」
「いやまぁ、こんな時くらい飲める人みんなで飲み明かしませんか、と思いまして。あ、でもまだ少々時間早そうですね」
「いいんじゃね?お前らイケるか?」

 フレディがニヤニヤしながら誘っている周囲を誘うような目で見渡す。

「いや、俺は子供達連れて先帰りますわ。はやてちゃん一人にはさせれませんし、今夜俺の家連れて行きますね」
「そうかい?なら気を付けて帰りな」
「えー?もうお別れ?」
「もうちょっとしたら最後のプログラムも終わるんや。ただでさえ今結構暗いし、それくらいには寝なあかんで?」
「はーい」
「クククッ、親の言うことより素直に聞いてるんじゃねぇか?」
「それはないでしょ。親の言うことをちゃんと聞くから、俺の言うことも聞くんだと思いますよ」

 なんだかんだで楽しそうであった。そんな中クロノが一人で戻ってくる。

「あらクロノ、八神君は?」
「シグナムさんが面倒見るからって先に戻らせてもらったよ」
「大丈夫かしら……吐きそうになってたわよね?」
「何回か胃液みたいなものは吐いてたよ……よっぽどショックだったんだろうな。正直、僕がいても何もできないし、アスカさんが戻ってき次第連絡して頼もうかなと思ってる」
「それがいいかもね。アスカさんなら戻ってるわよ?」
「そう?じゃあちょっと行ってくる」
「ええ。あのクズは……酒でしばらく縛り付けておくわ」
「それがいいよ」

 リンディの瞳に怒りの炎がチラチラと映っているように見えるのは、おそらく気のせいではない。



 そして最後のプログラムが終了し、翠屋も閉店作業を終了した。暗くなってきて大人たちが肴を用意していると、直人が子供たちをまとめる。

「んじゃ、俺ら先に帰りますわ」
「ああ、お疲れ」
「ヴィータ、クロノ。うちの娘達に何もしないように見張り頼むよ」
「任せて下さい士郎さん。はやてに手ェ出そうもんなら二度と勃たねぇようにしてやりますよ」
「ハッハハハ、そりゃ安心だな」

 首を切る仕草をしてみせたヴィータにグーサインを出した士郎。

「ちょ、どこまで信用されてないんよ俺!?」
「そりゃ当たり前だろ。間違いなんぞ起きないって思っているし信用しているがが、頼むぞその辺」
「大丈夫っすよ。むしろ俺今日はさっさと寝たいくらい」
「じゃあさっさと寝かしつけて寝てくれ。もし俺たちが戻ってきた時に何かあれば……覚悟はいいな?」

 笑いに包まれる翠屋スペースを、そのまま後にする直人達であった。これで残ったのは、フレディ、リンディ、士郎、桃子、シャマル、ザフィーラの6人。アルフはフェイトが心配で直人達と一緒に帰ったし、シグナムは竜二を介抱しにいって戻ってきていないし、アスカも姿を消している。

「さて、ここからは夜空を見上げて飲み明かすとしようか」
「いいねぇ。あれ?そういえば酒を持ってきた張本人はどこに?」
「アスカさんなら、僕が竜二さんの場所を教えたらすっ飛んで行きましたよ」
「ふーん……まぁいいや。じゃあ士郎さん、音頭お願いね」
「わかった。じゃあみなさんグラスを手に……」

 そして全員が好みの酒を入れたグラスを掲げ、一斉に声を上げた。



 子供たちを連れて自宅へ帰る途中、直人が突然二人に聞いた。

「そういやさ、アルフかヴィータってあのフレディって男のこと知ってたりする?」
「ん?何だい突然?」
「いやさ、さっきリンディさんの話聞いて一つ疑問に思ったのがな……」

 子供達をクロノに任せ、少し遅れて歩く三人。

「フレディさんってさ、管理局黎明期からいるって言っててんやけど……」
「嘘だろ?あの見た目で?若すぎるって。それは流石にハッタリだと思うぜ」

 ヴィータが明らかに訝しんだ目で直人を見る。フレディは見た目なら20代半ばから30代前半くらいに見えるのだから、もしそれが本当なら常識だとありえないことだからだ。

「やっぱり?なんかおかしいよなぁ……それにもしそうやったとして、リンディさんが知ってるのもおかしいし」
「管理局って、設立から確か今で65年目なんだよ。もし0歳からいたとしても爺だ。もしそれが本当なら長命種か、化物のどっちかさ」

 アルフがそう言って笑い飛ばす。直人もそういった奴がいるなら汚れ仕事でも仕方ないのかも知れないと思い、子供達を見守る作業に戻った。



 しばらくして彼らのテンションも壊れ始めた頃、フレディはトイレと言って席を立つ。しかし向かったのはトイレではなく、開けた広場のような場所。

「で、いつまで俺らをこそこそつけてんだコラ」
「流石に気づいたか」
「バレバレなんだよ。んで?目的のブツは見つかったのか?」

 宵闇の中から現れたのは、先ほどフレディと別れた二人組だった。

「まるで我々のことを最初から知っていたような物言いだな」
「誰かは知らんよ。ただし目的のブツには想像がつくぜ。今ここにはねぇけどな」
「ふむ。貴様が持っているとはな」
「欲しけりゃ殺して奪い取ってみろよ。無理だろうけどな」
「悪いが、貴様に我は殺せんよ」
「ふうん……」

 そしてフレディは彼らを前にして、言い放った。

「悪いが、俺に殺せない生き物、壊せないモノはねぇよ。生まれてからそれだけを頼りに生きてきたからな」
「そうか。なら名乗り上げといこうか」

 片方の男は着ていたフードのようなものを脱ぎ捨て、その姿を月明かりの下に晒け出した。既にバリアジャケットを着用しているのか、反射して蒼く光り輝く鎧と手にした西洋剣のようなアームドデバイスが彼の装備なのだろう。

「暁の交響曲所属、そして旧王国を背負いし不死なる騎士、ビスカイト。推して参る」

 それを聞いたフレディは、口が裂けるのではないかというくらいに口元を広げ、獰猛な目をして嗤う。

「へぇ……まぁ名乗りもらったからな。礼儀としてこっちも名乗っておくか」

 そしてフレディは前髪を後ろへ流し、バリアジャケットをまとう。

「時空管理局本局、特務捜査隊捜査官、フレディ・アイン=クロイツ一佐だ。楽しませてくれよ?」
「フレディ・アイン=クロイツ……超一級危険人物か。相手にとって不足はないな」
「そうかい?そいつは光栄だな。それはともかく一つ聞きたいんだけどな?」
「……何だ。言ってみろ」

 するとフレディは拳を上げて構えると、まるで今にも暴れだしそうな激情を抑えるかのように言い放った。

「お前、『不死』なんだって?どうやったら死ぬの?」

 それを聞いたビスカイトも、わずかに笑って返す。

「さぁな。我自身、どうやればこの体が死んでくれるのかもはや忘れてしまったよ。お前自身が魅せてくれるか?我の死を」
「く……クッ、クカカカカカカカカカカカカカッ!いいねぇいいねぇ、そういう奴大好きだわ俺!もう最ッ高!」

 その笑顔のまま、互いに動かず、夏の夜なのに冷たい空気が流れる。

「もうそろそろ御託はいいだろお互いに。始めようぜ、最高の時間をよ!」
「死に花を美しく咲かせるのはどちらか、楽しみだ……」

 そのまま先に動いたのはフレディ。昼間に見せたダッシュでビスカイトに詰め寄る。

「見えているぞ!」

 常人には見えないそのダッシュを見切ったかのように身をかわして剣を振り下ろすと、フレディもそれは読んでいたのか、身を翻してその剣を横から左拳で弾き飛ばし、そのままの勢いで右ストレートを頬に叩き込む。

「むしろこれくらい読んでくれなきゃ面白くねぇってよ!」

 しかしビスカイトも、わざと吹き飛ばされることで勢いを減らし、間合いを取る。

「なるほど、懐に入られては危険か。今の一撃であれだけの破壊力となれば……」
「のんびり考えてる暇はねぇぞ!」

 再びダッシュで詰め寄るが、今度は正面から剣を振り下ろす。あまりの勢いからか、それとも彼の魔法か、振り下ろした地点から正面に衝撃波のようなものが走る。触れた草木を切り飛ばし、置いてあったコンクリートの塊すら一撃で切り裂く。

「おうおう、やるじゃないのお宅」
「貴様もな」
「遠慮がいらねぇ相手ってのは久しぶりだねぇ……たまんねぇ!」

 衝撃波が走った地面を見て、それすら笑い飛ばすフレディ。それだけでなく、魔力をこめた拳をその上から叩きつけた。

「そぉらよッ!」

 その一撃は衝撃波で裂いた地面をさらに深く抉る一撃となった。

「ほう……ただの命知らずというわけでもないようだな。これなら我も遠慮なしにぶつけていけそうだ!」
「MOTTO熱くなって行こうじゃないの、お互いさ!」

 二人の輪舞曲は、果てしなく続いていく……



「そういや、フレディさん帰ってこないな?」
「大にしては長いし、まさかの逆流?」
「いや、あの男に限ってそれはありませんよ。大方、女の子と草場の影でズコバコしてるんじゃないですかね」
「初対面相手でも容赦ないんですかあの男は!?」

 驚く士郎に平然と返すリンディ。

「ええ。あの男はクズです。その気になれば、処女だろうが人妻だろうが異人だろうが喰らい尽くす」
「めちゃくちゃ嫌ってるんですね……」
「ええ、大嫌いですよ。正直、あれほど女の尊厳ってものを無視した人間が社会で生きていけるのが不思議で仕方ないほどに」

 リンディも酒が入ってテンションがおかしくなってきたか、フレディの愚痴ばかり垂れ流す。

「でもまぁ、誰もできないような汚れ仕事ばかりしてるから、ある程度は大目に見ないとってことで上層部はノータッチ。アレを止めるのなら、本局のグレアム提督かゲイズ中将しかいないでしょうね」
「……」

 竜二の様子を見た以上、どうにも答えづらい一同であった。



 その竜二は、少し森に入ったところでアスカに膝枕されながら寝転がっていた。シグナムは周囲を警戒している。

「落ち着きましたか?」
「だいぶマシになったわ。サンキュ」
「いえいえ。しかし何があったんです?」
「こればっかりは誰にも言えん。あの男に口止めされてるから、もし漏らそうなら殺されるかも知れんし……」
「お二方、特にアスカ殿、正体不明の集団がこちらに向かっている。ご注意を」

 すると、数人の男達が彼らの元へと現れた。竜二のステージ後、彼をつけていたグループである。

「……なんやあんたら?」
「八神竜二やな」
「え、関西弁?」
「オルァ!」

 すると、その中の一人がいきなり竜二の頬を殴り飛ばす。そのまま竜二を引きずり、縄のようなもので縛ろうとする。一人がスタンガンを振り回しているため近づけない。彼女たちはプログラムであるためスタンガンではびくともしないが、それが竜二に向けられた場合どうなるかわからないからだ。

「囲め囲め!」
「なんなんですか貴方たち!?」
「お前らには関係ない!」
「ちょ、離せコルァ!何晒そうとしてんじゃい!」

 見ると、竜二を縄のようなもので縛ろうとしていた。激しく抵抗するがどうにも動きが鈍い。ダメージがまだ抜けていないのだろうか。

「黙れ裏切り者が!」
「ああ!?何の話じゃ!」
「バックれようったってそうは行くか!殺ぐゥッ!?」
「兄貴!?」

 すると、シグナムがその中のリーダー格を殴り飛ばした。プログラムであるためか、アルコールの影響を受けなかったのだろう。

「それ以上手を出すようなら、私が貴様らを殺すぞ」
「関係ない人間が出しゃばるな!これは俺達のチームの問題や!」
「ならば襲撃する必要はなかろう。時間を変えて改めて話をしたらいいのではないか?」
「それどころやすまんところまで来てるんじゃ!部外者が余計な口出しすんな!」
「一々よそもんに答えたる義理はない!さっさと縛るの手伝ウェッ!?」

 もう一人を殴ったのはアスカだった。

「シグナムさんから聞きましたね?それ以上の勝手は許しませんよ」
「お前ら……ええわこうなったら全員殺してまえ!」
「悪いが、それはできない」

 そして、もう一人を木刀で殴ったのはシグナム。

「貴様の仲間なら全員眠っている。さぁどうする?このまま仲間を連れてここを去り、二度と我々の前に現れないというのなら、貴様だけは無傷で逃がしてやろう」
「クソッタレぇ……」

 残った男はしばし悩んだ素振りを見せるが、覚悟を決めたのか仲間が持っていたスタンガンと鉄パイプを手にした。

「このまま帰ったってどうせ頭に殺されるんや!せやったらここで死んだほうがまだカッコつくってもんやろ!」
「……ならば私がやろう。ヴォルケンリッターを取りまとめる者として、このような失態を演じてしまったままで何もしないなどどなれば、我が主に顔向けができん」

 シグナムが無手で正面に立つと、男は武器を捨てた。

「では、始めようか。戦闘不能となった方の敗北だ」
「女相手に負けて帰ったなんて言ったら即死モンやで……絶対殺す!」
「その意気や良し。かかってくるがいい」
「んだらぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああッ!」



 結果は、カウンターを叩き込んだシグナムが一撃で男を沈めて終わりだった。竜二は既に立ち上がっており、服についた汚れをはたきながらパーカーの背中にあるエンブレムをひたすらにらみ続けていた。

「あいつら……わざわざこっちまできたってのか」
「知り合いなのか?」
「一応。昔の知り合いや。嫌気がさしてチーム抜けたのを今思い出した」
「忘れてたのか……」

 呆れるシグナムだが、苦い顔をした竜二はそのままつぶやくように答える。

「もう思い出したくもないことやからな。あまり語りたくもない」
「そうですか……そろそろ戻ります?」
「ああ。心配かけっぱなしやからな。つかお前いつ戻ってきたん?」
「結構前に。リンディさんに頼まれて、お酒たくさん持ってきてくれって言われまして」

 フレディが現れた時点で用意するように伝えられたのだろう。

「酒?……やめとくわ。逆流したらまた面倒くさい。顔だけ出して帰る」
「そうですか……ま、それがいいですよね。明日もステージがありますし」
「ああ。ただでさえあんなことになったし、これ以上調子崩すわけにはいかん。さっさと寝る」

 そして竜二達が戻ると、大人たちが楽しそうに笑い合っていた。フレディは戻らないままに。竜二はそれをいぶかしみながらも、帰るからと気には止めなかった。 
 

 
後書き
 暑いでござる。 
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