| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

魔法少女リリカルなのはA's The Awakening

作者:迅ーJINー
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第十話

 
前書き
 やっと最終版です。まぁ誤字脱字なりの修正は見つかり次第しますけども。 

 
 それからしばらくして矢吹達に連れられ、既に集まっていたセッションメンバーのサウンドチェックに入る竜二。彼は今回使う赤いレスポールと格闘している。

「うーん、これじゃちと音が軽いかなぁ……」
「じゃあもう少し下げてみますね」
「……お、ええやん。これでちょっとイントロ弾いてみて」
「はい」

 彼はまだあのショックから立ち直れたわけではないが、とりあえず気を取り直して作業に集中している。少しでも気を逸らすと、あの光景が脳裏に浮かび上がりかねないからだろう。

「しかしまぁ、俺以外全員女性とはね……」
「ハーレムじゃないですか」
「乳尻太股ばっかでニヤニヤするわ」
「はいはい、見てもいいから集中して下さいね」
「触ったらアカンの?」
「私には後でお願いしますね」
「ええんかい!?」
「あら、本気にしました?」
「びっくりしたわぁ……」

 今回竜二とセッションするメンバーは、彼を除いて全員が女性となった。今彼の向かい側でギターのチューニングを行っているのは、艶やかな金髪を巻いて上げている女性で、全身から何かのオーラを漂わせているのは自信から来ているのか。服装こそ規定のイベントTシャツと青いデニム生地のホットパンツにスニーカーとシンプルだが、随分と肉感的なスタイルをしているのがはっきりとわかる。持っているのは青のエクスプローラー。

「八神さん、ベースの音は目立たせた方がいいですか?」
「せやなぁ……やっぱしっかり響かせてほしいから、もうちょい音上げてもらえる?歪みはそんなもんでええから」
「わかりました……これくらいですか?」
「おお、いいねいいね。それくらいで頼むわ」
「はい」

 その隣でベースの調子を確認しているのは、青から赤への見事なグラデーションを施した髪をショートカットにした冷涼な雰囲気を持つ女性。ギターの彼女とは違ってスレンダーだが、引き締められた脚と腕が魅力的に映る。

「おいおい、タムめちゃ多ないか?そのセット……」
「いけませんかね?」
「アカンことはないけどあの曲で叩けんの?」
「数じゃなくて配置の方が重要でして……」
「あっ……お、おう」

 爆発的とも言えるスネアの音を響かせるのは、黒髪をツインテールに結った童顔の女性。標準体系と言わんばかりだが、腕と脚は流石ドラマーと言うべきか、しなやかなラインを描く肌の表面からでも鍛えられた筋肉がわかる。

 しばらくすると室内にベルが響く。呼び出しがかかったサインだ。

「ほな、行きましょうかね」
「「「はい!」」」



 そんな中、目的のジュラルミンケースを持った赤髪の青年は翠屋のスペースにいた。

「よう、久しぶりだな」
「ええ。できればこんなところで会いたくはなかったけれど」
「まぁそう邪険にするなよ。なんでここにいるのか、なんて野暮なことは聞かないからさ」

 ウォッカの瓶を傾けて直接喉に流し込む。本来直接飲むと喉が焼けそうなくらい度数が高い銘柄なのだが、それを気に止めることなどない。

「いい祭りじゃないかこれ。酒を飲みながらこの世界のロックの歴史を直接生で聞けるなんて滅多なことじゃない。しかもなかなかイイ女が集まってるし、これはいいタイミングでここに来れたもんだ」
「あらそう。できればさっさと帰って欲しいのだけど」

 リンディはいきなりストレートに嫌悪感を叩きつけるが、青年はそれを受け流した上で笑ってみせる。

「まぁそう言うなよ。せめてこの祭りの間くらいは楽しませろ」
「……なら、終わったら帰るんでしょうね?」
「こいつを届けるのが今回の俺の仕事だからな。一回報告に行かなきゃならん。面倒くせぇが、受けた以上はきっちりこなさなきゃな」

 そんな彼と一緒にいるのはリンディ。終始眉間にしわを寄せているのは、この青年が彼女にとって厄介極まりない存在だからだろう。

「しかしまぁ何だ、そっちもなかなか大変だな。まさかこんな辺境の世界に追いやられるとはよ」
「大きなお世話よ」
「ちょっとやりすぎたんじゃねぇのか?それでなくてもお前さんのところは上層部からかなり目をつけられてるらしいじゃねぇの。旦那を『アレ』に殺されてから、相当ムチャしてきたろ」
「あら、あなたが他人の心配をしてくれるなんて、明日は雨かしら?でも私としては降って欲しくないわね」
「ま、俺としちゃどっちでもいいや。あ、でもこの素晴らしい祭りが中止になっちまうのは嫌かもな」
「相変わらずね……『殺人警察』フレディ・アイン=クロイツ一佐」
「アンタもな。『鋼の艦長』リンディ・ハラオウン提督」

 そういってカラカラと笑う青年。リンディは表面上は問題なく装っているが、緊張感が周囲に伝わっていく。



 そんな中、直人はなのは達と共に翠屋の営業を手伝っていた。てんてこまいだった時間も一旦すぎ、今は子連れの親だったり老夫婦だったりが終わらないお喋りを続けている状況。

「そういやそろそろ先輩が出てくる時間帯か……」
「あ、そうなの?竜二さんのステージかぁ……生で見たことないから見たいなぁ」

 美由希と直人が作業をしながら言葉を交わす。直人は以前翠屋に入り浸っていた時期に、することがないとぼやいたらあれよあれよという間に翠屋のアルバイトスタッフとなっていたことがあったそうだ。

「まぁ、言うて俺らは動けないんやけどね。ここからでも充分聞こえるとは思うけど」
「うんうん。お仕事の方が大事だよね」
「しかし、俺翠屋で雇われた記憶はないんやけど……まぁええか」
「一時うちでバイトしてくれてたじゃないの。あの時は助かったわ」
「そんなこともあったなぁ……」

 実際直人は翠屋の正式スタッフというわけではないが、縁が深いということとアースラスタッフも数人駆り出されていることから今回も手伝うことになった。

「しかし今日は荒れるで、あの人は。間違いなくおとなしくしてるなんてことが想像できへんし、運営もそんなことは望んでないやろ」
「そこまで言うって、一体何やるんですか?」
「俺も知らん。でも多分有名どころでギターが暴れまわる奴やと思う」

 今回直人は竜二から何も聞かされていない。自分も練習に打ち込んだからで、余裕がなかったからだ。

「さて、楽しませてくれよな。まぁ心配はいらんと思うけど」
「直人くーん、三番テーブルお願いー」
「はいはいー」



 そしてステージでは、前のバンドによるKing Crimsonの21st Century Schizoid Manが終わったところだった。メロイックサインを掲げながらステージを降りていく彼らのすぐ後、超絶な高速ギターフレーズが鳴り響く中竜二達が登場した。

「Hey everybody!Are you heating now!?」

 竜二が英語で煽る。大歓声で返してきたことに満足そうな笑みを浮かべて続けた。

「Hoo,thank you! Next number is special jam session! Introduce us. Drum is YUKI from Orgasms!」

 煽るとドラムロールを炸裂する。

「Next,base!Makoto from Holy Grail!」

 彼女は三本指によるフィンガリング・プレイ。

「Next guiter vocal! Tomo from Hevenly!」

 そして両手タッピングを披露。

「Final,guiter! I'm Ryu from STORM BRINGER!」

 竜二が叫ぶとひときわ響く大歓声の中、全員で合わせて簡単なフレーズをセッションした後、Tomo氏が叫んだ。

「C'mon everybody! Tornade of souls from MEGADETH!」

 その後ドラムスティックによる合図の後イントロの高速リフが刻まれ、いよいよステージとなった。



「おー、これかぁ……またクッソ難しいのを選んできたなあ運営は」
「これなんて曲なんですか?」
「MegadethのTornado of soulsって曲や。めちゃくちゃ難しいねんでこれ」
「へぇ……あんな曲弾けるのね」

 関心するなのは達。ステージからかなり離れたこのエリアでも充分聞き取れるので、動かなくてもいい。むしろうるさいのを好まない人たちはこの辺りが調度いいのだとか。

「ふーん、あの兄ちゃんやるじゃん」
「知ってるの?」
「一応顔見知りってところだ。名前は知らない」

 そのフレデイの一言に内心安心するリンディ。

「しかしまたいい女集めたもんだなぁ……クククッ」
「言っても無駄かもしれないけど、突撃なんてしないでよ。面倒なんだから」
「じゃあお前さんが鎮めるのに付き合ってくれんのか?」
「くっ……」
「まぁ、旦那が亡くなってから何回も味あわせてもらったがな」

 彼はいつの間にどこで手に入れたのか、ウイスキーのボトルを傾けて涼しい顔で直接喉に流し込む。

「ま、貴方のそういうところは昔から知ってたつもりだけど」
「俺の楽しみの三原則って奴だな。で、どうしてくれるんだ?」
「仕方ないわね……一応ここ手伝ってるって形だから、終わったらいいわよ、好きにして」

 いやいやという態度を崩さないままながら、どうしようもないのを悟ったか呆れながらも了承するリンディ。だがこの男はそれでは止まらなかった。

「悪いな、後でじゃ意味ないんだよ。俺が欲しいのは今かそうじゃないか、だ」
「貴方って人はっ……!」
「で?答えは?」
「……来なさい、クズ男」
「お褒めに預かり恐悦至極」

 ニヤついた笑顔を浮かべながらも眼は真剣なフレディに折れたか、あるいはここで暴走されては困るからか、リンディが顔に青筋を浮かべながらもフレディを連れて席を立とうとする。しかしここで立ちふさがる少年がいた。クロノである。

「ちょっと待っていただけますか、フレディ一佐」
「ほう、誰かと思ったら若きエリートであらせられるクロノ執務官殿じゃありませんか。どうした?お前さんの母親が心配か?」

 からかうようなフレディの笑みに秘められた嗜虐の光にも臆することなく立ち向かうクロノ。

「そこまで強引な手を使おうものなら、いい加減僕も黙ってはいられませんので」
「ほう……勇敢だな。で、どうするって言うんだ?止められるのか?俺をお前一人で」
「止めてみせます」
「へぇ、言うねぇ……」

 自らのデバイスを、待機状態のままとはいえ掲げるクロノ。それを見たフレディは感心し、リンディは顔を青ざめた。

「ちょっとクロノ、やめなさい。かなうはずが……」
「わかってるよ母さん。でも無理だ。目の前でいきなりそんなことされたら黙ってられない。父さんが死んだ今、誰が母さんを守れるんだ?」
「落ち着いて。相手が誰かわかってるの?私は平気だから、そこをどきなさい」
「母さんはなぜそんな辛そうな顔で平気だなんて言えるんだ!これは仕事じゃない、個人の問題だろう!?」
「クロノ……」

 そこで盛大に拍手を送るフレディ。ニヤついた笑顔のままだ。しかしその目には嗜虐的な光が宿る。

「ひゅぅっ、かっこいいねぇ執務官殿。でもさ、リンディも言ったとおり、俺とお前さんの戦力差はでかいぞ。経験も、体力も、体格も何もかも違う。お前さんが俺を詳しく知らないように俺もお前さんには詳しくないが、子供相手だからって容赦はしねぇ。ここは大人しく、母親の言うことを聞くのが賢い子供じゃないのか?」
「僕はもう子供でいられる時間は充分過ごしました。父さんが死んだ以上、母さんは僕を必死で守ってくれるけど、母さんを守れるのは誰もいない。なら僕がそうなるしかないんだ!」
「一丁前のこと言ってくれるのは結構だけどさ。それを誰に対して言ってるのかわかってるのか執務官殿?」

 彼が笑顔の裏に隠した欲望。いや、もはや隠してもいない。欲求そのものからくる歪んだ笑みは、見たものを充分以上に震え上がらせる。しかし、それでもクロノは引かない。引くわけにはいかない。限定的な時間とはいえ、ようやく掴んだつかの間の休息を壊されるのは許せない。

「武器をとれ、フレディ・アイン・クロイツ!僕が勝ったら、二度と母さんに手は出させないぞ!」
「いいんだなガキ?そうなるとお前、賭けるものが自分しかねぇぞ?」
「構わない!ここで死ぬなら、どうせこの先激化する戦いも生き残れやしない!」
「いい根性だ。鍛えてやるよ!かかって来い!」

 するとそこに、木刀を持った士郎がこっそりと現れて、フレディを後ろから襲撃した。しかしそれをわずかな時間で感じ取った彼は、咄嗟にしゃがんで攻撃をかわすとそのまま距離をとり、拳を挙げて構える。

「お客様、ここは喫茶店でございまして、決して道場ではないのですが」
「おっと、そいつは失礼した……しかしアンタ何者だ?襲撃の瞬間まで殺気を全く見せないとか、堅気じゃないだろ?」
「私の話は結構。これ以上騒ぎを起こすようでしたら、ご退店いただきますが」

 ものすごくいい笑顔。しかし見るものに恐怖を与える歴戦の勇者の風格十分と言える。しばらく睨み合っていたものの、さすがのフレディも興が削がれたか、肩をすくめて席につく。

「わかったわかった。この話はまた後でな。とりあえず頭冷やしたいんで、アイスコーヒーをブラックで一つお願いしようかな」
「かしこまりました。アイスのブラックで」
「よろしく」

 そして他の席も見回っていく士郎を尻目に、席に着き直したフレディ。

「ふぅ……久々に楽しそうな相手見つけたぜ。でもまぁ、今は仕事中だからな……是非とも暇そうな奴に相手してもらいたいものだ」
「で、どうするの?」

 目を向けられたリンディが呆れながら応えると、フレディが獰猛な笑顔をむきだしたまま叩きつけるように告げる。

「アースラの中のどっか一室空けとけ。どうせ乗り付けて来てんだろどっかに」
「まぁね……今は待機中よ」
「結構。お前さんが来なかったら執務官殿殺すからな」
「……わかったわよ」
「ちょっと母さん……!」
「クロノ。こうなったこの人には何を言っても無駄よ」
「おいおいひでぇなあ。まるで交渉する気がねぇみたいな言い方じゃないの」
「事実ないんでしょう。交換条件に息子の命出す時点で」
「クククッ、わかってらっしゃる」

 声を出すのではなく、呼吸を鳴らして嗤いながら平然と言い放つフレディに薄ら寒いものを感じるクロノであった。

「まぁ、今はこの祭りを楽しもうじゃないの」

 傍らにあるシルバーのジュラルミンケースが鈍い光を周囲へと散らしていた。



 そしてステージでは、やりきったと言わんばかりのガッツポーズを魅せるメンバー。特に竜二はギターを提げたまま膝立ちになると、両手にメロイックサインを掲げていた。

「ふぅぅぅぉぉっぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおああああああああああああッ!」

 まさに絶叫。しかし、アンコールが鳴り響く。このままでは終わらない。すると竜二も立ち上がってマイクスタンドの前に立つと、笑いながらも叫ぶ。

「お前らまだ聴きたいかッ!?」

 大観衆も歓声で応える。

「ええやろ、もう一発行けるかお前らッ!?」
「もちろんですよRyuさん!」
「やりましょう!」

 実はこのジャムセッションのみ、アンコールが一回だけ認められている。

「よっしゃ、くっそ長い曲でお前ら地獄に落としたろやないか!行くで最期まで拳上げてけよお前らァァァァァアアアッ!」

 何度でも湧き上がる大歓声。

「All nightmare long from Metallica! Let's rock baby!」

 イントロのために少し静かになってから弾き始めた。そしてイントロが終わると、ドラムとベース、もう一人のギターが同時に入って爆音が響く。

「ハッハー!」

 高笑いをあげるTomo嬢も楽しそうである。



「うっそ、Metallicaまですんの!?」
「うわー、さっきより速いですね……」
「ああ。めちゃめちゃ速いしリフがザクザク刻んでくるからな。しかもあの声をあの女が出せてるのがすげぇわ……」

 驚愕するなのはと直人。特に直人は、さっきの曲の難しさを体で知っているからこそ、無茶苦茶振りが余計にわかる。だがそれ以上に、竜二ならやりかねないというのも多分に思っていた。

「まぁなんにせよ、腕が死ぬなんてことはないやろ。あの人のことやし」
「ですよね。鈍っていたとしても、ここ数日は練習してたんでしょ?」
「ああ。それこそ、一日数時間は弾いてたはずや。ステージには慣れてるし、テンション吹っ切れた今ならやりきるで」
「あれほどすごいパフォーマンス……もう言葉が出ません」

 なのはと直人が改めて衝撃を受けつつも、その爆音に身をゆだねかねないほどにのめりこんでしまいそうになっていた。しかし、そんな時間も長くは続かず、美由希に叩かれて仕事をしている。

「ふーん、またえらく腕死にそうな曲やるんだな」
「ええ。この世界でもなかなか難易度の高い曲らしいわよ」
「ふーん、そう……ん?」

 フレディがリンディと雑談を楽しんでいると、グロウルが震える。

「どうかしたの?」
「いや、大したことじゃねぇ。虫でも飛んでたんだろ」

 すぐさま念話を飛ばしてグロウルに確認をとる。

『おいどうしたクソデバイス。まさか連中の追っ手でも来たのか』
『それとはちょっと違うようだが、どうにもきな臭い反応をキャッチしたぜ』
『へぇ……どんな?』
『少なくとも、「表」の局員が関わる人間じゃねぇのは確かだ。下手に近づくと殺されちまう』
『面白そうじゃないの。この兄ちゃんのショーが終わり次第探り入れるから、その反応逃がすなよ』
『わかってるよ』

 仕事中でも自分の都合を優先するフレディであった。

『それとお前、死体はちゃんと保管してあるだろうな?』
『それ残すなんてヘマはしねぇぜ旦那。まぁもしかしたら魔力痕が残っちまったかも知れねぇが』
『結構。どうせそれ見たって俺のところまではたどり着けねぇだろうがな』

 周囲からの視線もなんのその、一人不敵な笑みを浮かべるフレディであった。



 それとほぼ同時間、青い軍服を着た二名の魔導士が転移魔法陣で現れた。その周囲にはフェスの爆音が響いてはいても、人がいなかったために気づいたものはいない。

「この座標軸で間違いないんですね?中将」
「ああ。情報通りならここに『根源の種』が転移されてきたに違いない。既に先についた者がいるはずだ」

 二人が早速掌サイズの液晶機械を手に周囲の探索に入ると、中将と呼ばれた壮年の男が何かを発見したようだった。

「……ん?ロドスシルト!来い!」
「どうしました中将……これは!?」
「あの男の結界の欠片だ……まさか、何者かにやられたのか?」
「そんな馬鹿な、この世界にはそのレベルの魔導士はいないはずでは?」
「そのはずだが……調査を続けよう」

 あの男とはおそらく、フレディに殺害された者だろう。本来彼は特殊な部署にいるため、殺した相手の死体はおろか血痕すら残さずに持ち帰るか、不可能な場合は何らかの方法で即始末するのだが、どうやら彼らの組織にしかわからない魔力痕があったようだ。いや、あるいはフレディが彼らを捕まえるためにわざと残したのかも知れない。
 そして今は、太陽がギラギラと照りつける暑い夏の昼下がり。全身を覆う分厚い軍服を来ていればそれこそ地獄の業火に炙られるがごとく暑いはずなのだが、彼らは汗一つかいていない。

「我らが不死者の楽園を壊滅させられた。我らが先達達、同胞達、後継者達の恨みは、生き残った我らが必ず晴らさん」
「その誓い達せし時、新たな王国を作らんことを誓う……でしたね」
「ああ。なんにせよ、決着をつけねばならん。もはや我らが背負うのは我らの恨みだけではない。これは我が一族全ての悲願でもあるのだからな」
「はい。『根源の種』は、代々我々一族が管理すべきもの。そのためだけに我々は『暁の交響曲』に入ったのですからね」
「わかっているならそれでいい。行くぞ」

 そして二人は、ステージのあるエリアから離れていく。まるでそれは、死神からのカウントダウンから逃げるように素早かった。



 その頃はやて達は、その他一般客に紛れて屋台巡りをしながらステージの音を楽しんでいた。今回は竜二とアスカを除く全員が揃っており、車椅子を押すシグナムと狼の姿をしているザフィーラ
以外は各々好きなものを片手にフェスを楽しんでいるようだった。シャマルはクレープ、ヴィータはアイス、はやてはかき氷である。時々はやてが買ったものをシグナムに「あーん」するシーンもあったとかなかったとか。

「ふえー、すんごいことになってるんやね」
「ええ。なんといっても、この街を上げた一大イベントだそうですから」

 はやては普段通りの白い半袖Tシャツに明るいブラウンの短パン、白のスニーカー。シグナムは薄いパープルのタンクトップに紺色のデニム、黒のスニーカー。スタイルのよさがうかがえるコーデで、かつ剣術を修めているからか背筋もまっすぐ伸びている。本人は全く気づいていないが、美人なのも相まって周囲の注目を浴びるのもいささか無理はない。

「せやんなー。けどあんな大きいステージで兄ちゃん頑張ってるんか……」
「あ、あはは……めちゃくちゃ楽しんでるように見えるんだけど……」
「そうなんシャマル?この距離やとあんましよう見えへんねんよなー……」
「なんかめちゃくちゃはっちゃけてるぞ。心配いらなさそうだ」
「ヴィータも見えるんか。羨ましいなぁ……」

 シャマルはライトグリーンのタンクトップに白の半袖ジレ、空色のロングスカートに白いパンプス。彼女もシグナムには体の起伏ではかなわないものの十分男好きする体ではある美人なので注目されている。ヴィータは赤いTシャツに黒のミニスカート、黒のスニーカー。家族連れっぽく見えるからか、隣のシグナムの威圧感からか、彼女たちに声をかけるナンパ師という名前の勇者は今のところいない。

「ん?あの子らひょっとして……フェイトちゃーん?」
「あ、はやて!」

 しばらくのんびり移動していると、反対側から歩いてくるフェイト達の姿が見えたため声をかける。すると彼女たちもはやてに気づいたらしく、手を振って答えてきた。

「やっぱりフェイトちゃん達か!みんなも屋台巡り?」
「うん。はやて達も?」
「まぁなー。家におっても体がうずうずして仕方ないねん」

 合流したのはフェイト・アリサ・すずかと、彼女たちがあまり見慣れない女性の四人。お互い「あるだろうなー」とは思っていたのだが、全く意図はしていない出会いであった。

「せっかくやし、一緒に回ろう?」
「うん。あ、あっちの冷やし中華美味しかったよ」
「冷やし中華の屋台とかあんの!?行きたい!」
「こっち!あ、シグナムさん、はやてをしばらく……」

 シグナムはこの時、その女性の目から訴えてくる何かを感じていた。念話ではない。それは今彼女達に気付かれてしまう。それがなんなのか彼女にはわからないが、おそらく子供たちに聞かせたくないことなのだろう。それを察して他のヴォルケンズに目配せをすると、ザフィーラが答えた。

「わかった。シャマル、少し頼む」
「はーい。じゃあはやてちゃん、行きましょうか」
「うん、お願いなー」
「ええ」
「あ、アタシも行くぞ!」

 ザフィーラが車椅子を押していき、ヴィータがそこに加わって、楽しそうで何よりといった子供達を見守る大人組であった。しかしシグナムは表情を引き締めると、その女性を誰何する。

「それで、テスタロッサ達と一緒にいるあなたは一体?」
「あー、この姿で会うのって初めてだっけ、そういえば」
「その声……アルフか?」
「ご明察。まぁさすがにこれだけのでかい祭りだろ?フェイトがそこまで心配ってほどじゃないけど、引率の大人がいないと先生とかに出くわすと、な」
「なるほど」

 この女性の名はアルフといい、フェイトの使い魔である。家では子犬状態でのんびしていたり、散歩の時に大型犬の姿でいるといったことが多く、シグナム達もその姿の彼女には何度も顔を合わせているのだが、今回の彼女は一応引率という形のためか、人間状態になっている。見慣れない姿であったために警戒してしまったのだろう。

「最近そっちはどうだい?」
「大して何も変わってないな。そっちは?」
「こっちもさ。平穏無事。まぁフェイトとなのはは直人に勝とうと躍起になってるけどな」

 彼女もシグナムに負けず劣らず豊満な体つきで、ショートカットにしたオレンジの髪と野生的な顔つきというのもあってワイルドな美女という印象。服装も様々な文字が銀と黒でプリントされた赤いタンクトップにスカイブルーのホットパンツ、ひざまで届かんというレザーブーツというなかなか挑発的な服装だ。

「いいことじゃないか。切磋琢磨するのは必要だ」
「そうだな……これからもっととんでもない奴らが出てくるかも知れない。そうなった時には……」

 しかし、新たな戦いの足音は、すぐそこまで迫っている。これはそれまでの、つかの間の休息に過ぎないのだ…… 
 

 
後書き
 指が痛いでゴンスー! 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧