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ドン=ジョヴァンニ

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第一幕その十四


第一幕その十四

「こうしてな」
「そんなことは構いません」
 しかしエルヴィーラはそれに構わなかった。
「今の私には慎みなぞ気にしません」
「何という女だ」
「貴方の罪も私のことも皆さんにお話しましょう」
「見て、オッターヴィオ」
「うん」
 アンナはジョヴァンニの曇った顔を見てオッターヴィオに指し示した。
「あの人の顔」
「かなり怒ったものになっているね」
「しかも蒼白よ」
 このことまで見極めてきた二人だった。
「疑いを持つには充分だと思うけれど」
「そうだね。けれど」
 ここでオッターヴィオは言うのだった。
「君が相手の顔を覚えていないのはまずかったね」
「暗がりだったから見えなかったのよ」
 バツの悪い顔になるエルヴィーラだった。
「だからね。それは」
「まあそれは仕方ないね」
「気の毒な女だ」
 進退極まったジョヴァンニはたまりかねたように半ば叫んだ。
「この女と一緒にいてやろう」
「一緒に?」
「そう、一緒にだ」
 エルヴィーラを見ての言葉だった。
「それでいいな。二人で話をしよう」
「え、ええ」
 そして何故かこの申し出に頷くエルヴィーラだった。
「二人でなら」
「よし、これで決まりだ」
 ジョヴァンニは強引に話をまとめてしまった。
「それでは御二人共」
「ええ」
「それでは」
「また御会いしましょう」
 ここでまた二人に恭しく一礼してみせたのだった。
「私にできることなら何でもしますので。それでは」
「それでは」
 二人はこうしてアンナ達と別れた。だがここでアンナは彼の顔を見てはっとした顔になったのだった。そうしてオッターヴィオと二人だけになってから。蒼白になって彼に告げるのだった。
「ねえオッターヴィオ」
「どうしたの、アンナ」
「あの男だけれど」
「怪しかったね」
 いぶかしむ顔でジョヴァンニが消えた方を見ての言葉だった。
「どうにも態度が」
「それだけじゃないわ」
 だがアンナはその蒼白になった顔のまま彼に再び告げた。
「あの男は」
「どうしたの?」
「あの男なのよ」
 震える声で自分をそっと抱き締めるオッターヴィオに告げ続ける。
「あの男が御父様を」
「何だって!?」
「あの男の最後の顔を見て思い出したの」
「あの顔を見て」
「ええ。私が闇夜の中で見た顔を同じだわ」
 こう話すのであった。
「まさしく。今思い出したわ」
「ではあの真摯な態度も」
「偽りだったのよ」
 このことも悟るアンナだった。
「御父様を殺したことをあえて隠してそのうえで私達と」
「何という男だ」
「私が一人で部屋に寝ていた時にマントにその身を包んだあの男が忍び込んできて」
「そして貴女が声をあげたら」
「そう。失敗したと見て逃げて」
 ジョヴァンニの失態であった。
「そして私が追って声に気付いた家の者達と御父様が出て」
「それで義父様はあの男に殺されたのか」
「私は操は守ったけれど御父様を殺されてしまった」
 ここで涙がその両目からぽろぽろと溢れ出る。
 
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