コシ=ファン=トゥッテ
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第一幕その四
第一幕その四
「手相を見てあげるわ」
「ええ、御願い」
「それじゃあ」
こうして妹の手相を見る。そのうえで彼女に告げた。
「貴女すぐに結婚するわ」
「あら、それはいいことね」
ドラベッラはそれを聞いてすぐに満面の笑顔になった。
「僥倖ね、本当に」
「ええ、本当にね」
「それにしてもよ」
ドラベッラはその満面の笑顔をすぐに曇らせてしまった。そうしてその不機嫌な顔で姉に話してきた。
「あの人達遅くないかしら。もう六時よ」
「あっ、そうね」
二人でそれぞれ時計を見て話すのだった。
「早いわね。もうそんな時間なんて」
「本当よね。あっ」
しかしここでドラベッラは声をあげた。声は晴れになっていた。
「来たわ」
「やっと来たわね」
「いえ、違ったわ」
ドラベッラの声はすぐに曇りに戻った。
「ドン=アルフォンソさんよ」
「あの人がなの」
「ええ。何か御用かしら」
ドラベッラはその彼が自分達の方に来るのを見ながら述べた。
「私達に」
「用があるから来たのでしょうね。それじゃあ」
「ええ、そうね」
出迎える礼儀として立ち上がった。そうしてそのうえでアルフォンソを出迎える。そうしてそのうえで挨拶を交えさせてそのうえで言葉を交えさせるのだった。
「こんにちは」
「こんにちは。実はです」
アルフォンソはいきなり自分から話を切り出してきた。深刻な顔と声で。
「悲しいお知らせが」
「お知らせとは?」
「悲しい?」
「そうです。お話したくとも心が痛んで口が震えて」
彼はまずこう前置きしてきた。
「言い出せません、酷い運命です」
「酷い運命!?」
「何が一体!?」
「これ以上酷いことはありません。貴女達もあの人達もお気の毒に」
「私達が!?」
「しかもあの人達もって」
二人は彼の言葉を聞いてその顔を同時に曇らせてしまった。
「もしかしてあの人が死んだとか」
「まさか」
「いえ、死んではいません」
二人に一応はこう告げる。
「御健在です」
「そう、それでしたら」
「宜しいですわ」
「しかしです」
二人が胸を撫で下ろしたのを見計らってまた仕掛けるアルフォンソだった。
「死んだようなものです」
「怪我!?」
「それとも病気!?」
「どちらでもありません。それは」
そしてここでそれをやっと話すのだった。
「出陣です」
「出陣!?」
「けれどそんなお話は」
「皇帝陛下よりの勅命です」
この皇帝とは神聖ローマ帝国皇帝のことである。当時ナポリはハプスブルク家の領土であり皇帝家は言うまでもなくそのハプスブルク家だ。時の皇帝は啓蒙君主として名高いヨーゼフ二世である。
「今すぐに」
「そんな。今は戦争も起こっていないのに」
「どうしてですか?」
「私はそこまでは知りません」
このことについては完全にはぐらかしていた。
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