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コシ=ファン=トゥッテ

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第二幕その十八


第二幕その十八

「覚えてもらいたい詩がある」
「詩!?」
「ここで詩ですか」
「そう、それさえ覚えてもらえば君達は幸せになる」 
 二人を交互に見ながらの言葉だ。
「男は女を悪く言うが私は許す。例え一日に千回浮気をしたとしても人はそれを悪徳と呼び悪習と言うが」
「何かこれは」
「あの二人の」
「しまいに振られる男達は女のせいにせず自分のせいにするべきだ。何故なら老若美醜を問わず。さあ」
 ここで二人に強く言ってきた。
「この言葉を一緒に」
「この言葉!?」
「それは一体」
「コシ=ファン=トゥッテ」
 この言葉を出すのだった。
「女は皆そうする、だ」
「女は皆そうする」
「この言葉をですね」
「いいかい。では一緒に」
「はい」
「それじゃあ」
 呼吸を合わせる。そうして。
「女は皆そうする」
「女は皆そうする!」
「女は皆そうする!」
 二人は叫んでいた。爆発するように。こう叫び合ったその直後に。これまた絶好のタイミングでデスピーナが彼等のところに戻ってきたのだった。
「それでどうされたのですか?」
「今から私が言うようにしてくれないか」
「何でしょうか?」
「まずはだね」
 あれこれとデスピーナに話すアルフォンソだった。一日は終わりに近付こうとしていた。
 夜の庭。そこに演奏の楽士達が集められそれぞれ席が置かれている。そうして鯨油の匂いがたちこめそこに灯りが灯されている。四人分のテーブルも用意されている。デスピーナはその中でこれまた実に陽気な調子で言っていた。
「さあ皆さんまずは火を点けて下さい」
「はい、それじゃあ」
「この鯨油に」
「鯨油って本当に有り難いわ」
 デスピーナはその鯨油を入れたランタンを見ながら微笑んでいた。
「安いしすぐに使えるし。まるでこれからの時代を見せてくれてるみたいね」
「そうですね。確かに」
「おかげで灯りを随分多く使えるようになりましたよ」
 これまた呼ばれた手伝いの者達も彼女の言葉に頷く。
「松明とか蝋燭よりも明るいし」
「おまけに安い」
「さてさて、それでは」
 彼女は自分もテーブルを飾りつけながら言う。
「あとは主役の登場だけれど」
「おやおや、早いね」
 ここでアルフォンソが場に来てその準備が順調なのを見て微笑んだ。
「これはいいよ。何事も早いのはいいことだよ」
「お仕事は早く的確に」
 デスピーナは自信に満ちた笑みを口元と目元に浮かべて述べた。
「遊びはじっくりと時間をかけて」
「そういうことだね」
「そういうことよ。それでチップは弾んでもらってね」
「そっちも期待していいと思うよ」
「むしろそうさせるのよ」
 やはりお金のことも忘れないのだった。
「明るい歌に陽気な音楽も用意してね」
「さて、フィオルディリージさんとドラベッラさんも幸せだよな」
「全くだよ」
 手伝いの者達は事情を知らず口々に言うのだった。
「こうして晴れて結ばれるんだからな」
「幸せ者だよな」
「全くだよ」
 こんなことを話しながら準備を終えた。手伝いの者達はお金やお土産を気前よく貰ってそのうえで去り歌手や楽士達が演奏をはじめる。その中で遂に主役の四人がやって来た。
「いい音楽ね」
「ええ、そうね」
 白い花嫁の衣装を着飾った姉妹がそれぞれ言い合う。
「この曲を聞いて余計に」
「幸せを感じるわ」
「私もです」
「無論私もです」
 二人もここで言う。
 
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