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コシ=ファン=トゥッテ

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第二幕その十七


第二幕その十七

「この髭も変装も取って彼女の前に出てそれでもう」
「ううむ、これはいかん」
 アルフォンソも彼が激怒しているのを見てとりあえず離れた。
「暫く言わせたいだけ言わせておくか」
「やあ、只今」
 ここでフェランドが戻ってきた。やはり彼もその上着の前をはだけさせている。
「僕の方も終わったよ」
「それは何よりだね」
 にこにこと爽やかな顔をしているフェランドに対してグリエルモは今にも爆発しそうだ。二人の立場が完全に逆になってしまっていた。
「それで彼女は?」
「フィオルディリージのことかい?」
「そうだよ。何でこうなるんだ」
 彼女が自分を裏切ったと激怒し続けていた。
「全く。世の中はどうなっているんだ」
「僕だって同じ気持ちだよ」
 そしてそれはフェランドも同じであった。
「さっきは僕で今は君じゃないか」
「それはわかったが僕の気は収まらないんだ」
 実際今にも剣を抜きそうである。
「この気持ちをどうすればいいんだ」
「いい案があるのだが?」 
 ここでアルフォンソが言ってきた。
「いいかね」
「えっ、それは一体」
「何ですか?」
「結婚するんだよ」
 彼はここでこう言うのだった。
「結婚だ。どうかね?」
「冗談じゃありませんよ」
 グリエルモがすぐに顔を顰めさせてそれに反論した。
「そんなことするのなら地獄行きの舟に乗りますよ」
「僕は火山に飛び込みます」
 フェランドも顔を顰めさせて言う。
「そんなことをする位なら」
「全くです」
「では一生結婚できないのだが」
 アルフォンソはあくまで拒もうとする二人にここでこう言うのだった。
「それでもいいのかね?」
「えっ、一生って!?」
「まさか」
「いや、実際のところあの姉妹はかなりいい娘達だ」
 ここではじめて姉妹を褒めるアルフォンソだった。
「滅多にいないいい娘達だよ」
「まさか」
「それは」
「世の中もっともっと酷い女は幾らでもいる」
 真顔になってこのことを話すのだった。
「幾らでもな」
「まあ話には聞きますけれどね」
「悪い女のことは」
「だったら彼女達にしておくのだ」
 彼はまた二人に告げた。
「それに君達はあの娘達が好きなんだろう?」
「ええ、極めて残念ですが」
「その通りですよ、全く以って」
 そしてフェランドもグリエルモもこれはその通りだった。
「どうしても離れられません」
「忌々しいことですけれど」
「ではそれを受け入れることだ」
 アルフォンソは達観したような声でその二人に告げた。
「あの姉妹だって人間さ。特別な存在じゃない」
「人間なのですか」
「天使でも女神でもなく」
「そう、人間なのだよ」
 二人への言葉はさらに理知的になっていく。
「君達と同じな。全く同じなのだよ」
「僕達と同じ」
「人間なんですか」
「そう。では話を元に戻す方法を考えよう」
 さながら魔術師のような言葉になってきていた。
「実は今晩もう考えていたんだよ」
「今晩ですか?」
「じゃあ明日の朝までというのは」
「そうだよ。一度に二組の結婚式を挙げたいと考えていたんだよ」
 ここではじめてわかる種であった。
「それをしようとな」
「そうだったんですか」
「そんなことを」
「その前にだよ」
 アルフォンソの言葉は続く。
 
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