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コシ=ファン=トゥッテ

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第二幕その十一


第二幕その十一

「有り難う。もう僕は満足だ」
「で、ドラベッラは?」
 フェランドは自分の恋人に対して尋ねたのだった。
「どうなんだい?勿論大丈夫なんだろうね」
「大丈夫かって?」
「疑ってはいないけれど」
 言いながらも少し引き攣った顔になっていた。
「全然ね。けれどどうなんだい?」
「疑いを持っていればね」
 しかしここでグリエルモは言うのだった。
「よかったんだけれど」
「えっ!?どういうこと?」
「どういうことって言われても」
「ああ、言っただけだから」
(尾ひれを付けて言ってやろうかな)
 少し意地悪な気持ちにもなるグリエルモだった。
「気にしないでくれ」
「まさかとは思うけれど」
「世の中疑ってみることも必要だよな」
「じゃあ早く言ってくれ」
 いい加減我慢できなくなっていたフェランドだった。
「ゆっくりと絞め殺されるのは勘弁だ」
「ではブラド四世のように串刺しは?」
「あれも御免だよ」
 あのルーマニアの専制君主である。あまりにも酷薄な統治と処刑を好んだのでこの時代においてもよく覚えられている人物なのである。
「絶対にね」
「そうか」
「からかってるんだろう?」
 次はこう言うフェランドだった。
「僕を。そうだろう?」
「自信はあるのかい?」
「彼女は僕しか愛してはいないんだ」
 無理矢理断言する感じだった。
「そう、絶対に」
「じゃあこれを見せるけれど」
 グリエルモは自分の首にあるそのペンダントを見せるのだった。
「これは何かわかるかい?」
「それはドラベッラの」
 ぎょっとした顔になって出た言葉だ。
「じゃあ本当に」
「そういうことさ。これでわかったね」
「よくわかったよ」
 彼は忌々しい顔でグリエルモに答えた。
「嫌になったよ」
「そうだろうな。まあ落ち着け」
「これを落ち着いていられるものか」
 フェランドは歯噛みして言うのだった。
「ドラベッラは僕を裏切ったんだ。それでどうして」
「だから落ち着くんだ」
 グリエルモはまた彼を制止した。
「怒っても何にもならないぞ」
「じゃあどうすれば」
「どうすればと言われると」
 グリエルモも困った顔になってしまった。
「ちょっとな。答えがない」
「それじゃあどうしようもないのか」
「まああれだ」
 しかしグリエルモはここで言いはじめた。
「女性諸君、君達はよく浮気をする。だから本当のところ恋人諸君の嘆きを聞いて僕は同情しているよ」
「同情で救えるのかい!?」
「救えないね。僕は君達女性諸君が大好きだ」
「それは僕だってだ」
「そう、これは誰も知ってるし毎日それを見せているし友情の印で捧げている」
 こう言っていく。しかしだった。
「だが」
「だが!?」
「そうやって沢山浮気されると本当にがっかりする。僕は何度も剣を抜いて君達の名誉を守ったのに」
「僕だってそうだ」
 グリエルモだけでなくフェランドも言う。
「それなのに」
「何度も何度も僕の心と弁舌で救ったのか。けれどそうやってすぐに浮気するのは厄介な悪い癖だよ」
「厄介どころじゃないよ」
 フェランドの言葉も必死なものになっていた。
 
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