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コシ=ファン=トゥッテ

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第一幕その十二


第一幕その十二

「そんなことは」
「恋という全能の神に導かれてここに」
「貴女の輝く瞳を一目見て」
 フェランドとグリエルモが言う。
「その眩い光に」
「恋にやつれた蝶は」
「ですからここに」
「そして憐れみを」
「それはできません」
 フィオルディリージの拒む言葉は変わらない。
「私は決して」
「私もです」
 ドラベッラの言葉も同じだった。
「何があろうとも」
「この様な不名誉な言葉を口にして私達の心や耳、そして愛を汚さないで下さい」
 フィオルディリージは二人に告げる。
「どなたでも私達の心を誘惑できません。私達がそれぞれの恋人に誓った貞節は例え世や運命が変わっても死ぬまで守っていきます」
「あら、強気ね」
 デスピーナは彼女の言葉を聞いてもただ目を二度三度としばたかせるだけだ。
「けれど最後まで続くのかしら」
「風にも嵐にも岩が動かないように私は操も愛も守ります」 
 フィオルディリージの言葉は変わらない。
「私達の中には私達を慰め喜ばせる灯りがついていて死以外に私達の心の愛を変えることはありません」
 ここまで言って去ろうとする。しかしであった。
「お待ち下さい」
「どうかここで」
 二人はその彼女を呼び止める。立ち上がったところでアルフォンソにそっと囁く。
「ほら、こうなってるじゃない」
「千ツェッキーノ楽しみにしてるよ」
「いやいや、まだまだこれからだよ」
 だがアルフォンソはまだ笑っている。そのうえでまた姉妹に話すのだった。
「まあお待ち下さい」
「待つことはありません」
「そうです」
 姉妹はきっとして彼にも言い返す。
「私が申し上げることはありません」
「もう何もありません」
「この方々は私の親友ですし」
 まずはこのことを話すのだった。
「それに紳士ですよ」
「紳士!?嘘ではないのですか?」
「私達の苦しみに憐れみを」
 フィオルディリージが言ったところでまた言うグリエルモだった。
「お嬢様」
 彼はドラベッラを見ていた。何故かフィオルディリージより自然にだ。
「貴女の目のその美しさが私を傷つけそれは愛によってしか癒されません」
「まだそのようなことを」
「例え一瞬でも御心を開かれて優しい御言葉を」
 彼は言うのだった。
「さもなければ私は」
「私は?」
「もうこれで終わってしまいます」
 そしてさらに言った。
「恥らわずにその美しい瞳で二つの愛の光を私の心に当てて幸福を下さい」
「幸福を?」
「そう、幸福をです」
 一途な言葉で語る。
「是非。そして愛し合い貴女も幸せに。さあ御覧になって下さい」
 言葉は次第に熱くなってきていた。
「この二人の立派な男達を。強く格好がよく整っています。それにこの髭も」
「髭?」
 当然欧州では髭は生やされていないのでそれもいぶかしげであるが見るドラベッラだった。
「足も目も鼻もですが髭も」
 また髭のことを言う。
「男の勝利とも恋の羽飾りとも何とでお御呼び下さい」
「いえ、私はもう」
 しかしドラベッラは相変わらず拒む。だが。
「これで」
「そうよ。ドラベッラ」
 何故か言葉が柔らかくなっていた。フィオルディリージもだ。
「御暇させてもらいます」
「早くお帰りになって下さい」
 こう言って屋敷の奥に消えた。気付けばデスピーナも何時の間にかいなかった。男三人だけが残ってしまっていた。二人はここでふと言うのだった。
 
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