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魔笛

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第一幕その八


第一幕その八

「それなら」
「では今から御願いします」
「いざザラストロの寺院へ」
「向かって下さい」
「貴方もですよ」
 パパゲーノに釘を刺すことを忘れない。
「宜しいですね」
「では今から」
「向かいなさい」
「わかりましたよ」
 パパゲーノはかなり渋々ではある。
「じゃあそういうことで」
「では頼みましたよ」
「これで」
 こうしてだった。彼等は少年達に導かれザラストロの寺院に向かう。今その寺院では黒髪に青い服の美少女が黒い肌に白い上着と褐色の男に追われていた。
「まだなのかよ」
「まだも何もないわ」
 黒髪を清らかに長く伸ばし白く綺麗な肌をしている。紅の見事な唇に灰色の目である。その彼女が必死に黒人から逃げているのである。
「私は貴方とは」
「俺は嫌なのかよ」
「そうよ、嫌よ」
 こう言ってであった。
「私は貴方は」
「なあパミーナちゃんよ」
 この美少女こそがパミーナだというのだ。
「逃げても無駄なんだぜ」
「無駄?」
「そうだぜ」
 黒人は少し下卑た笑いを浮かべながらまた言い寄る。
「ここはザラストロ様の領土なんだぜ」
「それがどうかしたというの?」
「それがしたんだよ」
 こう言うのだ。
「あんたは何があってもここから逃げられないんだよ」
「いえ、私はそれでも」
「強情な娘だな」
「私は一人の方しか愛しません」
 あくまでこう言うのだった。
「何があっても」
「やれやれ。じゃあ捕まえて」
 黒人が言うとだった。不意に周りから彼と同じ格好の者達が出て来た。肌の色は様々である。
「どうしたんだモノスタトス」
「パミーナさんを追っかけてるのか」
「またか」
「無駄だよ、もう」
「無駄なんじゃないんだよ」
 黒人は名前を呼ばれた。そうして口を尖らせて彼等に反論するのだった。
「それがな」
「やれやれ、諦めの悪い奴だ」
「全くだ」
「どうしたものだか」
「俺だってな。恋人が欲しいだよ」
 彼は今度は眉を顰めさせている。
「だからだよ。何があってもな」
「それで俺達をか」
「呼んだのか」
「そうだよ。頼めるか?」
「だから無駄だよ」
「諦めろ」
 友人達の言葉はきついものだった。
「いい加減な」
「もうな」
「諦めるものか」
 しかし彼も強情である。
「俺も恋人が」
「何だここは」
 そこにパパゲーノがふらりと来たのだった。辺りをきょろきょろと見回している。だがそこは彼の全く知らない場所だった。遠くにピラミッドやスフィンクスが見える。それも彼がはじめて見るものだった。
「おかしな場所だな。それに誰かいるし。おおい」
「んっ、何だあいつは」
「化け物か!?」
「な、何だあいつは!」
 モノスタトス達もパパゲーノもだった。お互いを見て心臓を口から出さんばかりに驚いた。
 
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