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神々の黄昏

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第一幕その九


第一幕その九

「貴方の名前は聞いている」
「君の耳にも入っていたか」
「そうだ。その貴方に聞きたい」
「うむ」
「剣か、それとも握手か」
 その二つを出してみせたのである。
「どちらなのか」
「私は戦うつもりはない」
 グンターは微笑んで彼に告げた。
「君を喜んで迎えよう」
「そうなのか」
「そうだ。ところで」
「ところで?」
「貴方は私のことを知っているようだが」
 ジークフリートはもうそのことを察していたのである。
「それは何故なのだ?」
「君の名前も聞いているのだ」
「そうだったのか」
「君が私の名前を知っているのと同じだ」
「私の名前もそこまで知られていたのか」
 今そのことを聞いて思う顔になった。グンターはその彼に対してさらに話してきた。
「それでだが」
「それで?」
「君は何を持っているのか」
 このことを問うたのである。
「それで」
「私には剣がある」
 それをだというのだ。
「この剣で貴方の危急に応えよう」
「そうしてくれるのか」
「そうだ。必ずだ」
「そういえば」
 ここでハーゲンが何気なくを装って彼に尋ねてきた。
「貴殿はニーベルングの指輪を持っていたな」
「あれか」
「そう、あの指輪をだ」
「そのことは今まで殆ど忘れていた」 
 目をしばたかせながらの言葉であった。
「それ程値打ちのあるものにも思えなかったからだ」
「それ程だというのか」
「私は宝にはあまり興味がない」
 だからだというのだ。
「今持って来ているのはこれだけだ」
「兜だな」
「ただの兜だが」
「いや、その兜はだ」
 ハーゲンはその兜を見てすぐに彼に話した。
「ニーベルングの隠れ兜だ」
「隠れ兜とは?」
「それを被れば姿を消すことができる。それに」
「それに?」
「どんな姿にもなれる」
 それもできるというのである。
「そして何処にでもすぐに行ける。恐ろしい兜なのだ」
「そうだったのか」
「そうだ。他には何を持っているのか」
「指輪があった」
 ここで、であった。グンターの目が光った。だがハーゲンはそれを隠している。ジークフリート本人はそうしたことに一切気付かないまま話していく。
「だがそれは置いてきたのだ」
「そうなのか」
「そう、そしてその指輪は今は」
 今何処にあるのかも話していく。
「岩屋にいるブリュンヒルテが持っているのだ」
「ブリュンヒルテがか」
 それを聞いたグンターの顔がいよいよ鋭いものになる。
「そうか」
「そうだ、彼女が持っている」
「わかった」
「それを差し上げようか」
「いや」
 ここでハーゲンがジークフリートに告げた。
 
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