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DQ1長編小説―ハルカ・クロニクル

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Chapter-0 序章

 
前書き
短いですが、最初のお話。主人公・ハルカの生い立ち。 

 
Dragon Quest 1 ハルカ・クロニクル

Chapter-0
序章

アレフガルド暦384年10月(オパールの月)、ドムドーラに一人の男の子がいた。生後2ヶ月。名前はハルカと名づけられた。
「…変わった名前だね。この世界の名前じゃないみたい。まあ、ゆきのふって言う事例もあるし、別におかしくはないけど」
ハルカの父親はそうからかわれて、笑いながらもきっぱりと「最初からそう決めていた」と答えた。
この時(ハルカが生まれてそれほど経っていない)、竜王軍の襲撃に対しての怯えなど、町の人は全くなかった。つまり、危機感が無い。人々は貧しいながらも能天気に過ごしていたのだ。
「おお。ハルカ。元気に泣いて。可愛い息子だな。将来は立派な…いや、何でも無い」
「?立派な兵士でしょう?どうしたの、あなた」
若い男女――ハルカの両親は、可愛い息子、ハルカを可愛がっていた。…父親は何か隠していたようだが、母親はあまり言及しなかった。元々不思議な人だと思っていたからだ。この世界の人じゃないかも、と冗談交じりに考えていたのだ。
「あなた、幸せね。あなたがいて、可愛いハルカがいて」
「ああ。僕にそっくりだ。もちろん、君にも似ている」
「まあ。うふふ」
この幸せはずっと続く。そう思っていた矢先――。

カンカンカン!
高い音を鳴らして男が叫ぶ。「魔物が出たぞ!しかも大群!逃げろ!隠れろ!」
この時、竜王軍は既に幾つかの名も無い町を滅ぼしていた。その魔の手がドムドーラにもやってきたのだ。
「…!!」
ハルカの両親も赤ん坊のハルカを抱え右往左往していた。
と、
「…君はハルカ宛に手紙を書いてくれ」
「え?…分かった。そうね。せめてハルカだけでも助かって欲しいし」
ハルカの母親はあわてて紙と羽ペンを用意し、スラスラと数分で手紙を書き上げた。
父親はその手紙を見て肯いた。「いいだろう。君が持っていなさい」
「はい…あなた!?」
父親は家の玄関にいた。手には銅の剣。
「僕は魔物をおびき寄せる!お前はハルカを抱えて早く逃げろ!…これも持って」
母親に麻の小さな袋を渡す。
「…キメラの翼?」
「ああ、僕がラダトームに行くよう魔法をかけておいたものだ。これで逃げるといい。ただし、使うタイミングを考えろ。間違えるとハルカにも影響がある」
「わかったわ」
「じゃあ、僕は行く。お前は裏口から……」
「!!」

一瞬の出来事だった。
彼女の目の前にはピクリとも動かない男。そして全身鎧の姿をした魔物。
男は既に事切れていた。
「い、嫌ああああああ!!」
女は逃げた。必死に。とにかく必死に。
しかし、魔物は追ってくる。近づいてくる。
「あ…嫌……来ないで!」
「そうはさせん、赤ん坊もろとも、地獄に送ってやる!」
斧が振り下ろされる。それは女の足をかすめた。女は転倒した。
(ああ、このままじゃ私…!そうよ、あなたが言っていた通り…!)
女はハルカをくるんでいた毛布に手紙をしのばせた。
(お願い!)
女はキメラの翼を握り締める。その時、女は魔物から一撃を喰らう。
(お願い、ラダトームへ!)
女がキメラの翼を頬利投げた直後、意識を失った。

ラダトーム町。
こちらは魔物の襲来は全く無く、とりあえずは平穏に暮らしていた。恐怖には怯えてはいたが。
「あれ?」
男は町の入り口で血を流して倒れている女性を見た。
「おい!大丈夫か!」
「……私は……いいから、この子を、お願い、助けて……」
女性は意識を一瞬だけ取り戻し、こう呟いた後、再び倒れこんだ。
もう、女性に息は無かった。
町の人は顔を見合わせた。そして竜王軍の恐ろしさを知る。
「せめてこの赤ん坊、ハルカという男の子は元気でいないと。…誰か、この赤ん坊を育ててくれる人は居らぬか!」
「…私が!」すぐさま一人の女性が手を上げた。若い女性。「私が責任を持って育てますわ!」
町の人は肯いた。断る要素は特に無かった。若い女性は子供好き。少しの間だけだが、家庭教師もやっていた。信頼度は決して低くは無い。
「じゃあ、頼んだぞ」「はい」
「この女性は手厚く葬ってやれ!」「はっ!」
こうしてハルカは一人の女性によって、おおよそ14年間、育てられたのである。

アレフガルド暦398年7月、ルビーの月。
ハルカが14歳のときだった。
「母さん!…しっかりして!…もうすぐ医者が来るから!」
「ハルカ…私は…もう長くないわ…。ねえ、これを持ってて…」
ハルカの養母はハルカに一冊の本を手渡す。ベッドの下に隠し持っていたものだった。
「何?この本…表紙に“ダイアリー”って書いてあるけど」
養母の容態が急変する。苦しそうにこう呟いた。
「…あなたの運命を握るものよ。いつか、解る時がくるから」
「母さん!母さん!?」
養母は苦しみが消えた後、眠るようにして目を閉じた。
「母さん!!…そんな……」
ハルカは生みの親も、育ても親も失ったことを悟った。

その直後、ハルカはラダトーム戦士団に入団し、ラダトーム城に住み込みで働くことになった。
生みの親が遺してくれた手紙と、育ての親が遺してくれた一冊の本を持って。
その暮らしは決して楽ではなかったが、必死で働いた。
(いつか僕は……旅立つことになるんだろうか?)
ハルカは常にそう考えていた。
そして、その予感は、2年後のハルカの誕生日、ペリドットの月の最初の日、8月1日に当たる事になる…。

―――
*解説
暦は1年365日(閏年は366日)と、こちらでもお馴染み。
ただし、この世界には別名がある。
1月…ガーネットの月
2月…アメジストの月
3月…アクアマリンの月
4月…ダイヤモンドの月
5月…エメラルドの月
6月…ムーンストーンの月
7月…ルビーの月
8月…ペリドットの月
9月…サファイアの月
10月…オパールの月
11月…トパーズの月
12月…トルコ石の月
そのまま誕生石を当てはめている。 
 

 
後書き
簡単に書いたプロローグ。
そして第1話へと続きます。 
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