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ソードアート・オンライン 奇妙な壁戦士の物語

作者:康介
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第三話 前・ボス攻略戦

 
前書き
 それでは、まずは五言ほど。

 激励などのコメントを送って下さった二名様とブレイア様、HAL-HAL様、本当にありがとうございます!! これからも、この二次創作者の執筆する二次創作を、どうかよろしくお願いいたします!

 そして新しくお気に入り登録してくださった三名様、お気に入り登録の方をありがとうございます!!

 作品(文章)評価、作品(ストーリー)評価、話別評価、その三つを新たにしてくださった方、もしくは方々、高評価を本当にありがとうございます! そのご期待に沿えるよう、これからも二次創作者は頑張ります!

 また、日間ランキング22位。週間ランキング66位という何とも驚きの順位を、この二次創作がとらせていただいていました!! これは単に、全読者様からの賜物であり、二次創作者であっても執筆している側として大変嬉しい事態です! 本当に、全読者様の皆様、ありがとうございます!!

 またつぶやきにも書いたことなのですが――申し訳ありません。第二話に予告していたオリ主のハンドルネームを出すことが出来なくなりました。それは第四話の方に見送り、ということになりましたので、どうかお許しいただければと思います。

 さて、今回はですが――実は執筆していたら22000文字という膨大な量になってしまい、一度に出すのは流石に読者様の眼がお疲れになってしまったり、集中力が切れてしまったりといった恐れがあると思いまして、二つに分けて投稿させていただきます。

 個人的には、二つ目に投稿するのは自分で執筆した中でも本当に神回(自画自賛かもしれませんが)といえるほどの出来でしたので、どうか投稿される日を楽しみにしていただければと思います。

 さてさて、今回はそれなりに原作ブレイクの点が出てきます!

 それでは、長くなってしまいましたが本編の方をどうぞ!

  

 
「今日もレベ上げ楽しいな~・・・・・・て、んな訳ないやろ」

 現在、SAO正式サービス開始日から一週間が経ったとき、少年は一人ボス部屋で《ルインコボルド・センチネル》のループ狩り(同じモンスターを一定の方法で繰り返し倒す事)を行っていた。

 手順は簡単。まずはボス部屋に入り《ルインコボルド・センチネル》だけを狩り、ボスである《イルファング・ザ・コボルドロード》を暇つぶし程度に攻撃して《ドレインレイピア》の毒付加と攻撃力、自身の筋力値によってHPをごっそりともっていき、HPゲージを一段減らして《センチネル》を再びポップさせる。どうやら、ボスであるコボルト王のHPゲージを一段減らすたびに、センチネルは3体湧いてくれるようだった。

 最初はセンチネルだけを的確に狙って、その後はすぐにボスをスタンさせて逃げていたのだが、今はこちらの方が効率も良いという事もあって、少年はひたすらセンチネル狩りをしている。

 センチネルの経験値は、今の少年にとってはそこらにいる通常のモンスターの9倍以上の美味しさである。ボスを倒される前に、とにかくセンチネルを狩り尽くしてレアアイテム、及び大量の経験値をゲットしようと、少年はそう企んでいた。

 事実、センチネルから手に入るドロップ品は通常のモンスターより何倍も良いレア素材だ。しかも、ボスの取り巻きであるセンチネルはボスとの戦闘がリセットされると同時に再度即座にポップしてくれる。またボス部屋を出て扉を閉め、その後塔から出るだけでボスとの戦闘はリセットされる(ボスとの戦闘をリセットということは、そのボスのHP、及びボス部屋での戦闘履歴が無くなる――つまり入る前の状態に戻る)のだ。

 少年の現在のレベルは19。最初はこの第一層の成長限界は16レベ程度だろうと判断していたのだが、ボス部屋に入ってセンチネルを倒してみると驚くべき程に経験値が多量に手に入り、以降彼は普通の狩を止めてこのループ狩りに没頭していた。

 現在のHPは5489/5489という、壁戦士(タンク)並みのHPかつ現在のSAO内最強の攻撃力を誇っている。これは単に《ドレインレイピア》という序盤にしては有り得ない性能の武器のおかげであった。

 コボルド王とセンチネルの攻撃パターンは至って簡単。それは既に何十週とループした少年にとって、動きは見ずとも避けられる程だった。

「・・・・・・これで十二匹目!」

 センチネルの喉元に存在する唯一の弱点。そこを神速の刺突により正確に貫いてHPを完全に削り切り、そして単発細剣ソードスキルである《アヴォーヴ》をコボルド王に放ち、見事にクリーンヒット。その後に転倒してスタンをする。

 この《アヴォーヴ》には二つの特性がある。一つは、細剣スキルのくせして刺突系ではなく斬撃系であること。もう一つは、スキルの追加効果に低スタンが付与されていること。

 ボスに背を向けて逃げるのは、正直に言って危険な行為だ。敏捷値に1ポイントすら振っていない少年には尚更で、第一に敏捷値よりのステータスであったとしても、ボスモンスターであるコボルド王から逃げられる筈がない。攻撃を躱しつづける事は可能だが、回り込まれでもしたらそれこそ厄介なのだ。

 だからこそ、《アヴォーヴ》によってスタンを与えて相手が動けない内に即座に離脱、という戦闘方法を取っている。

 また、何故それだけ簡単にHPを削れるのにボスを倒さないかと訊かれれば、答えは簡単。――効率の良いかつ楽な狩場が無くなるからである。

 まったくもって自己中心的な考え方だが、生憎彼はこのSAOの監視役なのだ。言ってみれば半GM(ゲームマスターの略)。GMがボスを倒してしまう程つまらないゲームは他にないというものだ。興醒めもいいところである。

 ボス部屋(ボスモンスターの居る部屋の略)から脱出してすぐに扉を閉め、再び塔から降りる。既にこの塔に居たコボルドは狩り尽くしており、再ポップするには数時間掛かるだろう。仮にポップしているのであれば、歌でも歌いながらシャウト判定をもらい、人型モンスター(人型モンスターは例外としてシャウト判定を受けるとそちらに寄ってくる特性がある)であるコボルドを自ら寄せ付けている。先ほどはそれをやりすぎ、ポップが枯れてしまったという訳だが・・・・・・。

「・・・・・・何や、本気で退屈や」

 既にこのループは何十週・・・・・・いや、もしかしたら三桁をいっているかもしれない程に繰り返している。それほど長い間同じ敵を見るのは、本当に退屈なことだった。

 余談だが、マップデータは町で無料配布されていたガイドブックに詳細に描きこまれていた。少年のマップデータは、未だにデリートされたままなのはここだけの話。

「・・・・・・よし、次で今日は最後にしよか」

 次でちょうどレベルも上がる。そう計算して、少年は今日最後のセンチネルループ(命名by少年)をするのだった。










 ――それから二週間と五日が過ぎ、《トールバーナ》では第一層ボス攻略会議が始まっていた。

 男にしては少し長いウェーブの掛かった青髪のイケメン。名前をディアベル、自称ナイトの青年は爽やかすぎるほどの笑顔を浮かべて攻略会議を進めていく。主には士気を上げる事を目的としていたのか、最初は言葉によって集まった四十四人の士気を鼓舞する。

 途中でサボテン頭ことキバオウというプレイヤーがβテスターに対して謝罪と賠償を口汚く求めていたが、それを長身のスキンヘッドのエギルという男に反論され、身長の低いキバオウは気圧されて止む無く引くことになる。

 結局一日目の攻略会議は士気を上げる事だけで終了。

 二日目の攻略会議では、ボスの扉を発見。やけに途中道のポップが枯渇しているという話以外に不審な点は無い。また、ボスもβ時代とは変わらずのものであり、情報屋である《鼠のアルゴ》からのボス攻略ガイドブックが道具屋に並び、ボス攻略の偵察戦は不要となり、明日――ちょうどゲーム正式スタートから四週間の時期に、第一層ボス攻略が開催されることになった。

 噂ではボスモンスターの取り巻きの《ルインコボルド・センチネル》が美味しい(取得経験値が多いという意)からといって、再々ボス部屋に入ってセンチネルを大量に狩りまくっている何とも奇妙なプレイヤーがいるとかいないとか。

 そんなこんなで、ボス攻略戦まで残り一日。

 今日もまた、センチネル狩りのプレイヤーが攻略組(ディアベルたち)と入れ違いでボス部屋に入っていくのだった――










「はぁ~、ほんっと暇やなぁ」

 やる気の無さ気な声で、早朝からボス部屋でセンチネルを狩る少年。既にこの作業は力を抜いていても出来るのか、本当にただ気ダル気に同じ攻撃パターンを繰り返すだけ。

 現在の少年のレベルは27。ここ三週間ほど一日12時間センチネルのみを狩り続けた結果がそのレベルへと到達させた原因だ。今の彼にとっては《イルファング・ザ・コボルド・ロード》もただの雑魚同然。倒すのはもはや簡単にでき、逆に倒さないように加減するほうが難しいくらいである。

「・・・・・・ボス攻略、観察含めて見学したほうがええんかな?」

 誰に問い掛けるでもなく呟きながら、コボルド王の三段目のHPゲージもゼロになり、最後の四段目のHPゲージを残すのみとなり、センチネルが3体同時にポップする。

「うーん・・・・・・ボス部屋前で待っといて、参加したいと言えばええか」

 最終的にそう結論付けながら、センチネルが湧く位置も既に把握済みの為、見ることなくその弱点である喉元を貫く。それも、続けざまに3体である。

 後はいつも通り、コボルド王に《アヴォーヴ》を繰り出してスタンさせ、全力でボス部屋の前まで逃げて扉を閉める。また、ボスとの戦闘をリセットするために塔から一度出て、再び中へと入ってボス部屋の前で待機する。

「はぁ・・・・・・」

 退屈のせいで漏れる溜息。既にこの塔の内部に居る下級コボルドのポップは枯らしてしまったせいで、コボルドを屠って遊ぶ事すら出来ない。

 結果、暇人となってしまった。誰だ、ポップ量を決めた奴は――って、アイツか。今更ながら、もう少し条件を付け加えておけばと後悔している。

 などと考えていると、不意にメッセージアイコンが点滅し始めた。何かと思いながら見てみると――

『カーディナルシステムにより、君のボスモンスターの取り巻きの乱獲が問題視され第一層のボスエリアに異変が発生した。至急、ボス部屋に向かい偵察、及び攻略戦に参加する全プレイヤーにこの情報を流してくれ。以上』

 差出人不明のメッセージに、少年は頭を掻きながら苦笑する。

 カーディナルシステムとは、メンテナンスを不要とするエラーチェック及びゲームバランサー機構で、世界のバランスを自己の判断で制御している――いわばSAO内の全てを支配する独裁者である。

「・・・・・・流石に三週間ずっとセンチネル狩りはあかんようやな」

 レベルを上げる為にボスの取り巻きだけを乱獲してボスとの戦闘をリセットしまくってゲームバランス崩壊一歩寸前までいくと――まぁ、カーディナルシステムによりこのような洗礼を受ける事になるのだ。

「しゃあない。ちょっと見学してきましょか」

 言いながら据えていた腰を上げて、再びボス部屋を開けて中に入ってみる。

 中にはいつも通り、玉座に座った《イルファング・ザ・コボルドロード》が中央まで大ジャンプし、獰猛な雄叫びを上げて戦闘開始を知らせる。この雄叫びと同時に、いつも《ルインコボルド・センチネル》がポップする。

 今回もいつも通り、センチネルがポップするのか青白い炎のようなものが現れて、その中から徐々にその姿を現していくのだが――

「・・・・・・はぁ、そう来ましたか」

 少年の気の抜けた声。しかし、それには訳がある。

 ポップしたのは、センチネルではなく《ザ・ブラッディマーダー・タイラントコボルドJr》だった。HPゲージは二段とセンチネルより多めで、見た目はコボルド王を三分の一サイズにしたようなちびキャラ。しかしきっと、ボスのコボルド王に引けを取らないステータスを持っているのだろう。

「――小手調べ、といこうやないか」

 刹那、壁戦士寄りのステータスとは思えないスピードで少年が駆ける。コボルド王と子ボルド王も少年に合わせるように駆ける。

「まず、取り巻きからや」

 瞬間、ライトエフェクトの軌跡すら残さない速度の《リニア―》が三体の子ボルド王の喉元に直撃する。喉を貫かれた子ボルド王はその二段あるHPゲージの半分――つまりゲージ一つを丸々空にするものの、まだ半分のゲージを残している。筋力値をかなり上げているステータスで更に序盤では有り得ない27レベルを誇って、武器の悪質すぎる性能があるにも関わらず――たったの半分。

「って、ちょっと不味いな、これ」

 焦った風でもなく言いながら、コボルド王と子ボルド王の計四体からの攻撃を紙一重で躱しながら《リニア―》による反撃。それによって子ボルド王は全滅。コボルド王は四段あるHPゲージの一段目の四分の一だけ消失させる。

「・・・・・・僕にとっては平気やけど、他のプレイヤーはなぁ・・・・・・」

 子ボルド王からの経験値を見てみるが――酷いものだ。経験値がご丁寧に、たったの1しか取得出来ていない。

 つまり、この階層でのボスの取り巻きを使った効率の良いレベリングは禁止されたも同然だ。

 ドロップ品を見てみると、《メイルオブブラッディ》という名前の鎧装備をドロップしていたが、今はそんなものの性能を見ている暇はない。

「とにかく、今は早うこの情報を伝えなアカン」

 優先順位を考えて、即座にコボルド王に《アヴォーヴ》を繰り出していつ通りスタンをさせようとしたのだが――

 カキィン! という甲高い金属音が鳴った。見てみると、今まで必ず当たってスタンをさせていた《アヴァーヴ》が、敵の骨斧(こっぷ)によって弾かれたのだ。

「――ッ!」

 弾かれても何とかその勢いを利用して一回転からのもう一度《アヴォーヴ》を繰り出すが、これは左手に構えていた革盾によって防がれる。

「スタン対策は万全――っちゅうことか!」

 これでは、ジリジリと後退しながら逃げるか、大きな隙を作って逃げる他に選択肢はない。

 予備動作をした素振りも見せず、ライトエフェクト(ソードスキル発動の瞬間から終わりまでに攻撃する部位が光る現象のこと)による軌跡すらも描かず、少年の《リニア―》が走る。それはコボルド王の骨斧を弾き、そこに数瞬の隙を生むことに成功。

 少年はその隙を利用してすぐに戦線を撤退。背を向けて一目散に逃走し、ボス部屋の二枚扉をすぐに閉める。

(――あっぶないで。何や、あの防御成功率。《アヴォーヴ》だけの対策やと思いたいけど・・・・・・)

 もしかすれば、予備動作及びライトエフェクトを発する全ソードスキルに対応している可能性だってあり得ないことではない。

 このまま進めば、恐らくボス攻略組は全滅するだろう。いや、確実にする。イレギュラー要素が多すぎ、戦線を保つこと自体が不可能だ。

 そうと決まれば、話は早い。ボス攻略組にこんな序盤から退場してもらうのは、監視役として看過できない事態だ。そんなことになれば、これ以降ボスを攻略しようとする者が居なくなる可能性すらあるのだから。

 元来た道――つまり塔を出て《トールバーナ》まで一度帰り、自身もボス攻略組の仲間に入れてもらい、その後すぐに情報を提供する。そこまですれば、後は全てボス攻略組のリーダーに任せるのみ。

 ポップが復活したのか下級コボルドが湧いているが、全て刺突の一撃で瞬殺しながらダッシュで《トールバーナ》へと戻る。敏捷値に全く振っていないのでお世辞にも速いとは言えないが、それでも十分である。

 そして一分後、ようやく塔の出口が見えてきた。少年は一気にそこから飛び出そうと足に力を入れて跳躍しようとして――寸での所でそれを自制し、塔の出口の前で立ち止まる。

 何故なら――来ていたのだ。塔の入口まで、ボス攻略組の面々が。

「仕組んだとしか思えんタイミングやな」

 言いながら、少年はボス攻略組の前に仁王立ちして立ちはだかる。

「待ちィな。見た所、ボス攻略組のようやけど――リーダーに話がある」

 少年が総勢44人のボス攻略組に言い放つと、先頭に立っていた男にしては少し長いウェーブの掛かった青髪の青年が前に少し出てきた。

「一応、俺がこのレイドのリーダーになっているが・・・・・・何か用かな?」

 レイドとは、数個のパーティー・・・・・・SAOの世界では1チームに六人までが限界なので、基本的には六人のシステム的に構成したチームが複数集まって(チーム人数は五人や四人でも可)、中規模の団体となることを指す。

 青髪の青年は嫌そうな素振りは全く見せることなく、むしろ爽やかな笑顔で少年と話をする。

「この先のボス、ボスの取り巻きが少しだけ変わっとる。名前は《ザ・ブラッディマーダー・タイラントコボルドJr》というて、行動パターンはボスとほぼ一緒。体格はボスである《イルファング・ザ・コボルドロード》の約三分の一。HPゲージは二段で湧く数はセンチネルと同じ三匹。取り巻きのステータスはボスとあまり見劣りせんけど、大体僕の《リニア―》でHPゲージの一段目が丸々消失する程度。そちらの平均レベルは見た所10~15ってところやと思うけど、そのレベルで武器がクエスト品なら、まず間違いなく取り巻き一匹倒すのに二パーティー構成しても10分強は掛かるで」

 早口で説明していく少年。話についていけないのか、青髪の青年は困ったように苦笑しながら口を開く。

「・・・・・・つまり、君の言いたいことは『ボスの取り巻きのパターンが変わったから偵察戦からやり直せ』ってことかな?」

 分かり易く簡潔に短縮された内容。しかし、少年は「いや――」と首を振って言葉を続ける。

「それは無理や。僕でもコボルト王から逃げるのには大分苦労したんやで? スタン攻撃対策されとる上に、ソードスキルを思いっきり弾きよった。しかも取り巻き倒すのにそれなりに時間掛かるし――アンタ等の場合、偵察戦やるならレイドそのものがいかな死人が出るで?」

「――その言葉が確かなら、お前は相当の手練れということになるけど、何か証明する手段はあるのかな?」

 青髪の青年のいう事はもっともだ。初対面の相手の情報を素直に信じろということ自体がこのデスゲーム内において――いや、そもそもオンラインゲームという一つのカテゴリに置いて難しい。

 少年はそれを予想していたのか、すぐにコクリと頷き、深い緑色の細剣を天井に向けて構える。

「――これが何か、アンタ等は分かるか?」

「・・・・・・? 何って、ただの細剣やろ」

 サボテン頭の男が青髪の青年の代わりに答える。少年は一度頷いてから、その細剣をそっと鞘に納める動作を見せ――

「――――――ッ!?」

 刹那、青髪の青年の首筋にその細剣が突き付けられていた。それを認識した者は皆例外なく、誰もが驚愕のあまり口を数秒の間ポカンと開けたまま放心する。

「――今のは僕の《リニア―》やけど、アンタ等は今、この剣が描くライトエフェクトすらも見えんかったやろ?」

 実力は証明した。俺の勝ちだ、と言わんばかりの得意な笑みを浮かべて、少年が言い放つ。

 技の全てがシステムのモーション・アシストの中で動くこのゲームで、何故《リニア―》をやることによって実力を証明できるのか――それは、ソードスキルのある特性があるからだ。

 例えば、少年が放った《リニア―》などは、実は故意的にその剣速を上げる事が出来る技なのだ。より具体的に言えば、システムのモーション・アシスト任せではなく、プレイヤー自身の運動命令によって速度をブーストすることが出来る技、ということだ。

 少年の《リニア―》は・・・・・・既に完成されていた。予備動作も、ライトエフェクトすらも視認することが出来ない《リニア―》など、見たことも聞いたこともない。技後硬直(ポストモーション)(ソードスキルを発動した後に発生する一秒にも満たない硬直)の短さは分からないが、あれほどの技だ。きっとそちらも、完璧なのだろう。

 すぅ、は~。一度深呼吸をする青髪の青年。どう出るのかと全員が気になる中、青年はグッ、と拳を前に出して親指を上に「グッド!」と言わんばかりに爽やかな笑顔を浮かべた。

「オーケー! お前のその言葉、俺は信じる!」

 言って、場がワッと盛り上がりを見せる。普通ならシャウト判定を受けて即人型モンスターである下級コボルドが集ってくるのだが、生憎コボルドたちのポップは既に少年の手によって枯渇させられていた。

「それじゃ、空いとるチームは無いか? 一応形だけでもチームに入って、出来るだけアンタが指揮出来ん時に指揮を執りたいんやけど・・・・・・」

「空いている所なら、最後尾の二人のチームだな。よし、この人をチームに招待してやってくれ!」

 青髪の青年が呼び掛けると、たちまちお誘いのウインドウが目の前に現れる。少年は承諾、拒否の二つの内の承諾をタップし、そのチームへと入る。

「ボス部屋の前でもっと詳しい説明と対処策言いますんで、その時は時間を少々貰いますわ」

「あぁ。それじゃ、進行再開だ!」

 青年の声と共に、44人+1人の集団は再び動き始める。少年は最後尾に移動してチームメンバーである二人――【Krito】と【Asuna】の下へと歩み寄る。

「二人とも、よろしゅう頼んます」

「あぁ、よろしく」

「・・・・・・よろしく」

 三人は軽い挨拶を交えて、すぐに沈黙する。しかし、着く前にとりあえず原因となった行動をチームメンバーの二人だけには話しておこうと――監視という名目の上でも二人の反応を見てみたく、少年は口を開く。

「あ~・・・・・・今回は何や、すんません」

「どうしてお前が謝るんだ?」

 黒髪の整った顔の少年が不思議そうに訊いてくると、少年は歯切れ悪く――

「実は今回のやつ・・・・・・完全に僕が原因なんですわ。・・・・・・センチネルループしとったら、カーディナルシステムに修正されたんですよ」

 あはは、と力無く笑う少年の言葉に、黒髪の少年は目を見開いて、まるで信じられない者を見たかのように驚いていた。

「センチネルループって――もしかして、センチネルだけを倒してボスとの戦闘をリセットしてと、それを繰り返したのか?」

「はい。センチネルがあまりにも美味しゅうて更に枯渇もせんから、これは独占狩場ややっほー! とか思うて調子乗っとりました。反省しとります」

 声のトーンが徐々に下がっていくのを聞くに、どうやら本当に反省はしているようだ。

 しかし、問題はそこではない。

 問題なのは、この少年がボスモンスターである《イルファング・ザ・コボルドロード》をものともせず、《ルインコボルド・センチネル》を狩り続けたという事だ。

 何故ものともせずに、と分かるのか。それは、ボスモンスターは必ずアクティブモンスター(こちらから攻撃せずともこちらを攻撃してくるモンスターのこと)であり、単に《ルインコボルド・センチネル》三体の同時相手をするだけではないからである。

 ボスモンスターであるコボルド王を捌きながらもセンチネルを三体同時に相手にする――つまり計四体を相手にするのだが、普通のプレイヤーであればまず不可能な芸当だ。ボスモンスターはそれ単一だけでも十分強いし、ソードスキルだって放ってくる。ソードスキルを使う分隙は大きくなるだろうが、それは取り巻きのセンチネルがいる。その隙を埋めるには十分すぎる役者だ。

 この少年はきっとそれを意に介さず、センチネルを狩り続けているのだろう。そうでなければ、普通に狩をした方が経験値を稼ぐ効率が良い筈だし、なによりわざわざそんな危険を冒すような真似は、普通であれば絶対にしない。そこに確固たる死なない自信が無い限り、絶対に。

「・・・・・・失礼だが、アンタレベルはいくつだ?」

 だからこそ、黒髪の少年は問わずにはいられなかった。一体どれだけの効率でレベルが上がっているのかを。

「ん? あぁ、答えるのはえぇけど、出来るだけ内密にお願い出来るか?」

「当然」

「・・・・・・」

 黒髪の少年は首を縦に振り、フードつきケープを着た者は無反応。フードつきケープを着た者はもとより、この話に興味が無いのかもしれない。

「まぁ、それなら一回しか言わんからよぉく聞いとき」

 言って、少年は焦らすように一度ゆっくりと深呼吸をする。黒髪の少年は早く聞きたいとばかりに少しそわそわしており、フードつきケープを着た者は相変わらず無反応。

「――27や」

『はっ?』

 と、二人の声がハモった。どうやら、フードつきケープを着た者も一応は話を聞いていた様だが、黒髪の少年は間抜けな表情をして固まっている。フードつきケープを着た者は分からないが――きっと、同じリアクションをしているのだろう。

 27――それは既に、第一層で到達できるようなレベルでは断じてない。いくらボスの取り巻きループをしたからといって、倒す相手は何であろうとボスの取り巻き。ボスの取り巻きとなれば、当然他のモンスターと比べて一段、ステータスが高い。

 センチネルはソロでも倒せない事はない。しかし、それはセンチネル単一だった場合のみである。ボスモンスターあと後二体のセンチネルを加えれば、話はガラリと変わってくる。

 四体同時に相手をすれば、仮にもしその状況で狩を出来たとしても、効率は当然ガクンと落ちる。四体のモンスターを捌きながら戦うとは、それほどに難しい事なのだ。

 SAOというゲームが正式に始まってちょうど一ヶ月。一度でもゲームオーバーになれば即現実と仮想空間から永久退場するこのゲームにおいて、その27という数字は何よりも心強く、そして何よりも得難い。

 当然ながら、このゲームにおいてもレベルは上がれば上がるほど、次のレベルにおける必要経験値数は増えていく。レベルが上がれば、同じモンスターからの取得経験値も少なくなり、効率も悪くなる。

 何が言いたいのかといえば、未だに第一層という制限されたフィールド内にも関わらず、たった一ヶ月でレベルを27にするのは――普通の効率では不可能。

 つまり、この栗色のさんばら髪の少年の装備――あるいは動きは尋常ではないものだと――この有り得ない27という数値によって裏付けられているのだ。

 そう考えれば、レベルだけのプレイヤーというわけでは決してない。実力か装備の伴った――いや、あるいはそのどちらもが揃った、現在のSAO中最強のプレイヤーと、二人が推測するのにそれほどの時間は用いなかった。

 その上、先ほど見せたあの《リニア―》はもはやスキルとして――個人の技術として完成してしまっている。

 これほどの推理、条件や事実があって、この栗色髪の少年が現在のSAO内最強のプレイヤーと思わない者は、一体どれだけいるのだろうか?

 少なくともチームメンバーの二人は、そう思わないことは出来ない。思ってしまうのが必然だとすら考えてしまう。

「――よし、では今からさっきの人が情報を公開してくれるから、皆はよく彼の言葉を聞くんだ!」

 青髪の青年の言葉に、二人の意識が呼び戻される。いつの間にか、どうやらボス部屋の前にまで到着してしまっていたようだ。

 栗色の髪の少年は――隣には居ない。青髪の青年の横、最前列のボス部屋の二枚扉の前で、ただレイドメンバーのことを真剣な眼差しで見ていた。

 ――ゴクリ、と咽が鳴る。それは単に、少年が立ったことにより発生した緊張の為だ。

「――ほんなら、みんな僕のいう事は今から絶対に聞き逃さんように、注意して聞いてぇな。質問は後で受け付けるから、まずは聞いてください」

 関西弁風の喋り方で――しかし、至って真剣な声音で少年は話を続ける。

「まず、先ほども言った通り、ボスモンスターの取り巻きが変わっとることから。名前は《ザ・ブラッディマーダー・タイラントコボルドJr》いうて、見た目はこの階層のボスである《イルファング・ザ・コボルドロード》の大きさ約3分の1バージョン。ステータスは恐らくボスと見劣りせぇへん筈や。せやけど大丈夫。このJrは僕が倒しますわ。他のパーティーは、出来るだけ集中してボスモンスターを攻撃しなはれ。――ちなみに、経験値やアイテムの分配はどうなってんの?」

「金は全員で自動均等割り、経験値はモンスターを倒したパーティーのもの、アイテムはゲットした人の物、っていう感じかな」

 怯まず、慌てず、即座に答える青髪の青年に頷きながら、栗色の髪の少年は自身の話を再開する。

「――と、リーダーも言うた通りや。確かに、取り巻きからのアイテムは惜しいと思う。せやけど、今は安全を第一に、死者を一人も出さずにボスを倒すことを考えなアカン! みんなかて、そう思ってるやろ?」

 少年が問い掛けると、レイドメンバーは頷いたり、「その通りだ」、「分かっているじゃないか」などと呟く声が聞こえてくる。それをすぐに手で制して、少年は口を開く。

「よって、今回は安全策として何回か戦った僕に、取り巻きの相手をさせてほしい! 幸い、前に倒した時は経験値がきっちり1しか入らんかった。こんな不味い役、みんなも嫌やろ? ドロップアイテムは何や得体のしれないもんやけど、流石に命を賭ける程のものでもない。――みんな、取り巻きの相手を僕に一任してくれへんか?」

 しばらくの沈黙。きっと、みなレアアイテムが欲しくて、今自分の命とレアアイテムを天秤にかけているのだろう。

 ――と、不意にその沈黙を破る拍手が二つ鳴り響いた。

 一つは、横にいた青髪の青年から。もう一つは、チームメンバーの黒髪の少年からだった。

 それは次第に伝染するように、他プレイヤーたちは拍手をしていき――遂には、全員が大きな拍手をしている。これはつまり、全員が肯定した証だ。

 その拍手が十分鳴り響いたところで手を前に出して制止させ、話をつづける為に口を開く。

「ありがとう。僕からはこれだけや。後はレイドリーダーに従ってくれれば、それでええ」

 そうして、栗色の髪の少年は最後尾のチームメンバーのところに戻って行く。

「――それじゃあ、もう一度確認するが、作戦は前にも話したとおりだ! みんな――行くぞ!」

 青髪の青年の声を合図に、ボス部屋への二枚扉が開かれるのだった――




 
 

 
後書き
 第三話 前・ボス攻略戦 この長い文章を最後まで読んでいただき、誠にありがとうございます!!

 今回は少し自分がMMOをやっていたときの経験ですが、ボスの取り巻きってやたら良いもの落したり、経験値が多いんですよね・・・・・・。

 そんなことを考えて、あっ! これ使えるじゃん! と思い、今回はセンチネルループを出させていただきました。センチネルさん、ドンマイです。

 また、今回の原作ブレイク部分は言わずとも知れた《ザ・ブラッディマーダー・タイラントコボルドJr》です。あと、子ボルドというのはJr(ジュニア)と「〝コ〟ボルド」をかけていたりします。

 それとアスナさんが空気だったのは――はい、置いておきましょう。また出番も絶対にきますので。

 そして気になる《メイルオブブラッディ》という鎧装備ですが、この性能については次回に公開されますので、どうか次回の話の投稿までお待ちいただければと思います。

 それでは、今回はここまでとさせていただきます。

 感想、誤字脱字などのご指摘、評価、辛口コメント、一言は随時募集しておりますので、どうかこの未熟な二次創作者に皆様のお声をお聞かせください。

 最後まで読んでくださり、誠にありがとうございます!! 
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