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ソードアート・オンライン 奇妙な壁戦士の物語

作者:康介
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第二話 開始早々に迷子です

 
前書き
 まず、最初に三言ほど。

 お気に入り登録してくださった四名様、本当にありがとうございます! これからも執筆頑張りますので、どうかご愛読の方をよろしくお願いいたします!

 そして激励のコメントをくれたAska様、この度は大変その言葉が励みになりました! こちらも本当に、ありがとうございます!!

 また、話別評価をしてくださった一名様、高評価を本当にありがとうございます!!

 それでは、今回は主人公の序盤の話。

 また、前にも申しました通り、先がどうなるか分かってしまえばつまらないと二次創作者が思うが故に、いきなり未来の話――たとえばこの話から75層の話にワープしてしまうということはまず有り得ないとお考えください。

 それでは、本編の方をどうぞ。
 

 
「何処やねん。ここは」

 フィールドに出て無我夢中に駆け抜けていたら、いつの間にやら辺りはまったく見知らぬ地形になっていた。

 光が届かない為か周りは暗く、それでも見えるものといえば木、木、木、草、虫、花、そして得体の知れない植物型モンスターが見える。植物型モンスターの名前は《マンイーターJr》。Lv2の見た目は小型(人の3分の1くらいの丈)のハエトリグサなのだが、通常のハエトリグサと違って根っこを足代わりに一人で歩いている所がまず気持ち悪い。その上普通のそれと大きさを比較するとかなり大きいのだから――これはある意味で精神的に追い込まれている気分になる。それをもう既に何百体と倒しているのだから、気分は最悪である。

 この地形を一言で表せば――そう、森である。人食い植物が普通の植物に紛れて闊歩している森に放り込まれるなど、本当に今日は厄日である。誰だ、思い立ったが吉日などと言った奴は。責任者は早く出てきてこの人食い植物の餌食にでもなっとけ。

 などと、くだらない事を考えながら少年は今装備している武具の耐久度と、自身のレベル、そしてHPの状況を確認する。

 背中に差しているレイピアの耐久値は既に三分の一を切っている。その分、この森に入ってからはレベルが7も上がり、既にLv8にまで到達したのだが、武器の耐久力がこれほど減るとは思いにもよらなかったのか、少し苦い表情を浮かべている。HPは、未だにノーダメージ。回復薬は一回も使っていない。

 レベルアップしたときのステータス――この世界での自分の命であるHP(ヒットポイント)、筋力値のSTR(Strength)、敏捷力のAGI(agility)――のレベルアップ時にもらえるステータスポイントの振り分けだが、これは1レベル上がるごとに3ポイント貰う事が出来る。しかし、振り直しをすることは出来ない。だからこそ、このデスゲームにおいて、ステータスポイントの不利間違いは命取りになるといっても過言ではないだろう。

 《スキルスロット》とは、料理、鍛冶、索敵、~系武器スキル、武器防御スキル、などといったもので、言ってみれば専用のソードスキルを使う為、また便利な効果を得る為に必要な、それらを習得(記録)するためのメモリースティック(またはUSBメモリ)のようなものである。まとめれば、習得可能スキル限度数だ。

 レベルが7も上がったことにより、少年のステータスポイントは計21あったわけだが、少年は敏捷力を完全に無視して、STRに15、HPに6のポイントを振り分けていた。スキルスロットは、最初に何を取るかと迷った挙句、結局は細剣スキルを取る事に決めた。

 そして何故、少年が敏捷力ではなくHPにポイントを振ったのか――それは、今まで敵を一度も近づけず、細剣一本で倒したからである。

 いや、これでは説明になっていない。確固たる理由は、彼がヒット&アウェイという戦闘方法ではなく、肉を切って骨を断つという戦いのほうが性に合っているからである。

 更に言えば、これからどのような攻撃をしてくるモンスターが出てくるのか分からないのだ。そして、どれだけ短時間で包囲され、集団で敵がソードスキルを放ってくるかも分からない。そのような場合、一体敏捷がどれだけの役に立つのだろうか。

 試行錯誤して最終的に生存率が一番高いのが、この肉を切って骨を断つという戦闘タイプだと、少年は考え抜いた。だからこそ、敏捷ではなくHPにポイントを振ったのだ。

 現在のHPは、2121/2121という、序盤から既に四桁までいっている。どうやら、このSAOというゲームは通常のゲームとは違いHPが上り易い設定のようだ。

 HPは一応レベルアップ時に上限値はアップするのだが、それでもHPが高い方が安全だと少年はそう思った。

 そして、少年の読みはある意味で当たっていたかもしれない。何故なら今、寄ってきた《マンイーターJr》四体をほぼ同時に、基本細剣ソードスキルの《リニア―》(剣を体の中心に構え、そこから捻りを入れつつ真っ直ぐ突く技)により瞬殺したのだから。それは文字通り他人から見たとすれば、勝手に《マンイーターJr》がポリゴン片と化して砕け散ったように見える事だろう。それもこれも、身体能力全引継ぎのおかげである。

 そして読みが当たっていたというのは、今しがた《マンイーターJr》を四体ほぼ同時に倒したせいで、レイピアの耐久値が四分の一を切ったのだ。これでは、気を付けて武器を使ったとしても精々後50匹倒せるかどうか、といったところだろう。研磨アイテム(武具の耐久値を回復するもの)は、既に5個あったうちのすべてを使っている。

 このレイピアが砕け散るのも、もはや時間の問題だろう。まさか初日にここまでのレベル上げをするとは思わなかった上に、迷子になるとも思わなかった。

 詰まる所、武器が無くなったが最後、頼れるのは己のHPと身体能力だけなのだ。確かに敏捷を上げれば攻撃を回避できるが、動き回れるのには限界がある。そして動き回れば、必ずといっていいほどにモンスターを連れる事になる。

 だからこそ、ここはジッとして動かず、出来るだけモンスターを惹きつけないように一体ずつ倒して、のんびりとこの辺り一帯を歩けるようになるまでレベリング(レベルを上げる行為)をするしかない。

 今のような集団で来られた時にはレイピアを、単体の時には現実世界で習っていた体術を使って迎撃をしようと、少年はそう決めて、ジッと静かに辺りを観察し始める。

(てか、災難にもほどがあるっちゅうに。マップデータが何やバグか知らんけど記録というか表示されへん上に、森の中やなんて――完全に、遭難コースまっしぐらやないか)

 などと考えている内に、再び《マンイーターJr》が正面から一匹現れる。今回は集団ではない為、近づいてきた瞬間に回し蹴り、上から下へと殴りつける。こちらに口を開いて飛び掛かってきたのが、それは口の上と下を手で無理矢理閉じさせて握力で潰したことにより、結果的に《マンイーターJr》は少年の手の中でポリゴン片と化して無残にも砕け散っていく。

 と、そこで今までに見なかったあるものがHPゲージの近くに映っていた。

《マンイーターJrを250匹討伐したことにより、これより『マンイーター討伐戦』を開始します》

 と、見てみるとそう書かれたメッセージ文章だった。どうやらクエストのフラグはさっきの《マンイーターJr》を250匹倒すことらしい。何度も受ける事が可能かどうかは不明だが、正直に言えばもう二度とこんな手間を掛けたくなどない。

 そのメッセージは時間を経ると共に消え、そして目の前にモンスターがポップする。

 丈は恐らく、人の二倍はあるだろう。これも先ほどと同じ《マンイーターJr》と同じ形状の自走型ハエトリグサだ。違う部分といえば、手の無いモンスターだった《マンイーターJr》に、手の代わりをしている鞭のような茨(およそ3mほど)が付いている程度。

 しかし、そのリーチこそが広すぎる。今の武器状態で、果たしてあの鞭の攻撃を何回防げるのやら・・・・・・。

 HPゲージを見てみると、そのHPゲージは二段に分かれている。恐らくイベント専用の中ボスモンスター、もしくはボスモンスターなのだろう。だからHPゲージが通常より多いのだ。

 そうなれば、自然と攻撃力と防御力、さらに敏捷も《マンイーターJr》とは比べ物にならないはず。このボロボロのレイピア一本で、果たして勝てる相手かどうか。

 普段なら相手が近づいてくるのを待つのだが――リーチの差で負けている以上、こちらから突撃しなくてはいけないのは明らかである。そうでなければ、あの3mもある鞭の洗礼をくらうことになるのだから。

 それをくらわない為にも、少年は現実で習った剣術の一つを今此処で使う。

 レイピアを刀に見立てて水平にし、突撃してもその体制が安定するように持っている手とは逆の右手でその側面を支える。

「・・・・・・いくで!」

 掛け声。それは自分に対しての合図だ。声と同時に剣を水平に保ちながら《マンイーター》に向けて突撃する。

 勿論の事ながら、相手は接近をすんなり許してくれるほど易しくはない。すぐに無駄に長い茨の鞭をこちらに振るってき――少年はそれを甘んじて受けつつも突撃し、《マンイーター》との距離をゼロにして――

「これで死ねや!」

 それは、鬼神の如き猛攻といっても良かっただろう。他人が見たら間違いなく、そう形容されるに違いない。

 彼は今、間隔無くレイピアの耐久値をゼロにして壊すのが目的かの如く、そのボロボロになった細剣で敵に刺突を目にも止まらぬ速さで繰り出しまくっているのだ。

 稀に鉄色の軌跡が描かれるが、それが描かれた時には既にまた目にも止まらぬ猛攻になり、再びその鉄色の軌跡が描かれる。

 刺突、刺突、刺突、刺突刺突刺突刺突刺突刺突刺突刺突刺突刺突刺突! 秒間10回以上繰り出されているのではないだろうか、その刺突はすぐに《マンイーター》の体を穴だらけにしていく。最初に根っこの足の中心を、次に胴体を、その口を、鞭を、と次々に穴が開いてき、同時に《マンイーター》のHPは一段目をとうの昔に削り切り、現在は二段目の黄色(緑、黄色、赤の順にHPが少ない事を表す)の所まで削れる。

 《マンイーター》は反撃しようにも、近距離に近づかれすぎ鞭で攻撃は出来ず、噛みつきをしようとすれば口に穴を開けられ、離れようと思っても少年の攻撃が速すぎ移動中にすぐに怯み、元より反撃や逃走という選択肢が存在しなかった。

 そして、遂にはそのHPゲージが赤色に入った時――パキィン! という金属の甲高い音と共に、レイピアは半分に折れてしまった。

 それを見て、《マンイーター》はニヤリ、と笑ったように見えた。再び噛みつこうと少年に襲い掛かると、少年はまた佇んだままだ。

 《マンイーター》の噛みつきが少年の左肩に届く――と同時に、少年は《マンイーター》の顔に右の拳を思いっきり叩き込む。そうして怯んだ隙を突いて、少年は《マンイーターJr》にやったとき同様に口の上下を掴み無理矢理閉じさせ、下の口に膝を打ち込み、更に上の口には頭突きをくらわせる。

 そんな力技にまだ僅かに《マンイーター》はHPを残している。ほんのドット単位のHPだ。

「これで終わりだぁ!!」

 少年は最後の最後、素の口調に戻ってマンイーターの胴体に右拳を精一杯の力で叩きこむ。

 ――ドゴォン! そんな音と共に、《マンイーター》は動かなくなる。何があるのか分からない為、少年は未だに警戒を解いていない。

 しかし、それも杞憂だったのか。《マンイーター》は通常のモンスターと同じ様にポリゴン片と化し、そのまま見事に爆散していった。

 【You got the Last Attack!!】という紫色のシステムメッセージが視界の中央に現れる。

 次に出てきたのは【BONUS ITEM】と書かれたシステムメッセージである。その下には細剣のマークが前に付いており、名称は《ドレインレイピア》と書かれている。

 筋力要求値は20で、補正は攻撃力が初期装備のレイピアの7倍の420-430、耐久値は320、更にHP上限値+1000の追加補正が付いており、HP吸収付加、毒属性付加、などという特別な能力までもが付加された代物だった。

 しかし、残念ながら筋力要求値は20だ。今の少年の筋力値は16で、後たったの4だけ足りない。これを装備するのは不可能と思われたその時――

 ステータスを見てみると、いつの間にかステータスポイントが9も溜まっていた。まさかと思いレベルを見てみると――どうやら先ほどの《マンイーター》の経験値が相当高かったのか、レベルが11にまで達している。

 一日でこれなど、何処の廃人ゲーマーだと思いつつ苦笑し、少年はステータスポイントを筋力値に6、HPに3振り分けた。これで現在の筋力値は22である。序盤にしては、きっとかなりのパワータイプに思われる事だろう。

 左端のHPの状態を見てみると――2791/2791と表示されている。レベルが上がったことによりHPは全回復されたのか、先ほどの戦闘の傷は全くといっていいほどに残っていない。

 試しに先ほどドロップした《ドレインレイピア》を装備して観察してみると――その刀身は樹海の木葉のように深い緑で、丸い鍔にはまるで茨の棘のような装飾品が付いている。

 HPを再度確認してみると、2791/3791と表示されている。どうやら、本当にHP上限値が増えている様だ。序盤で1000も上限値が増えるなど、もはやチートと言われても反論出来ないような代物である。

 情報公開は――しないほうが、吉だろう。これを狙う為にあの気持ち悪いモンスターを250匹も倒し、更にあの中ボスモンスターとも戦わなければならないのだ。例えチームプレイだったとしても、狙ってやるのは精神が先に折れるのが常というものだ。

 第一、この情報のせいで何人の死者が出るのか分かったものではない。だからこそ、情報公開は絶対にしない。するとしても、それは当分先の話である。

「さて・・・・・・どないして帰りましょか」

 そして、少年の今の状況は全くといって良い程に打破されていない。何故なら、ボスモンスターと戦って多すぎるほどの経験値と、性能が良すぎるほどの武器を手に入れただけで、この森から脱出できたわけではないのだ。

「・・・・・・あ、これさっきのボスからやっけ」

 見てみると、アイテム欄の最新でドロップしたアイテムの中には回復結晶、転移結晶という二つのものが入っていた。先ほどの《ドレインレイピア》のようなボーナスアイテムとは違った、通常ドロップ品なのだろう。

 転移結晶という文字を見た瞬間、少年の頭にピカッと豆電球が光ったような気がした。彼は転移結晶というものをオブジェクト化して取出し、そして――

「転移 はじまりの街!」

 そう唱えた瞬間、彼の目の前が一瞬だけホワイトアウトし、すぐに見慣れた光景へと変化していく。

 目の前に広がるは、今日の夕暮れ時に大騒ぎになった始まりの町の中央広場である。流石にゲームマスターに抗議しても何も変わらないと分かったのか、冷え切った夜の広場にはショックから立ち直れない者、野宿をする者を除いて他には誰も居なかった。

「・・・・・・とりあえず、今日はここで寝ればええんかな」

 正直に言うと、宿に行って寝るだけのコルがもったいない。圏内(街の中)では《犯罪禁止コード》も働いている為、HPは1ドットたりとも減りはしない。故に、最低限の安全は確保されている筈だ。

 よって、少年の野宿は決定した。

 近くにある噴水に背中を預け、そのまま目を瞑る。今日はいろいろあって疲れてしまった。そして、明日はしっかりと誰かに道案内を頼まなければならない。道に迷って半日遭難など、もう二度とゴメンである。

 そうして、彼は眠りについた。波瀾万丈の一日目は、こうして幕を閉じたのだった。










「誰か、次の町までの案内頼めませんか~? 報酬は千コル、命の保証はします! 戦闘は全部引き受けますんで、誰かお願いします!」

 と、朝6時から目を覚ました少年はすぐに中央広場で呼びかけを始めた。昨日の二の舞はゴメンなので、最低限次の村などに移動する時だけは案内役を立てようと思ったのだ。余談だが、マップデータは未だに表示できない――というかデリートされたままである。

 道行く人々――というか座っている者達は、少年の声が聞こえないかのように静まり込んでいる。きっと、これがデスゲームだと知ってしまった為に与えられたショックの大きさなのだろう。一日経ったというのに、まだ回復しきれていないようだ。

 ここで募集しても無駄か――そう思い、少年はまた別の所で募集しようと中央広場を出て街を散策する。

 しかし、このSAOの《はじまりの街》の広さは浮遊城アインクラッド基部フロアの約2割(東京都の小さな区1つほどの大きさ)という、とてつもなく広い街なのだ。

 そんな広大な土地の中で案内人を探すのだから、これはもう苦労どころの問題ではない。

 そもそも、案内人となる人物は恐らく既にパーティーを組んで出発してしまっている筈だ。初めから前提条件そのものが間違っていたのかもしれない。

「・・・・・・なんや、時間が勿体ないな」

 現在時刻は朝の9時。既に起きてから3時間も経っているのに、一向に案内人を名乗り出てくる者は居ない。試しにβテスターっぽい者に話し掛けるも、あっさりと断られてしまう。

(・・・・・・しゃあなし、か。何か団体でも作成して、信頼までとはいかなくとも、信用を得られるくらいにしとこか)

 考えて路地裏に一度入り、右手を下にスライドしてメニュー画面を開き、コミュニティをタップしてギルド作成を選択。ギルド名決定に十分近く迷うが、《円卓の重騎士(The Heavy Knights of the Round Table)》と名付ける事にした。由来は、ただ単に自分の戦闘スタイルと照らし合わせて自分の好きな伝説に則っただけである。

「あ~、ギルド《円卓の重騎士》はただいまギルドメンバー募集中や! メンバー定員残り二人で、別に戦闘スタイルは問わへん。入ってくれれば、根性さえあれば命の保証は僕が全身全霊でしたる! 一緒に僕と行動と共にしたい人、死なずにかつ確実にレベルを上げて強くなりたい人は、遠慮なく声かけてぇな!」

 と、表に出て再び三十分くらい街を回りながら呼び掛けてみるのだが――結果、収穫はゼロ。これでもまだ、メンバーは一人も集まらなかった。

「――おっかしいなぁ。誰も集まらへん」

 頭を掻きながら独り苦笑する少年。話し掛けづらいのか、はたまた自分から動こうとはしていないのか、それは彼の知る範疇ではない。

 しかし、このままでは不味いのだ。このままでは次の村へ行くことが出来ず、引き籠り組の仲間入りになってしまう。SAOのプレイヤーの観察、及びSAO自体の監視が任務な以上、それだけは何としても防がなくてはならない!

 グッ、と握り拳を固めて最後の方法を試みる事を決意する。あまり使いたくはなかったが、後でフォローすればきっと大丈夫だ。

(きっと好転する・・・・・・かなぁ?)

 心の底では疑問に思いながらも、既に選択肢はそれしか残っていない。

 道行く人を見ながら、標的を見定める。――といっても、一人しか歩いていなかったのだが・・・・・・初期装備の革の鎧を纏い、赤を中心とした黄色のラインが入った服を着た茶色いセミロングの髪を赤い髪飾りでツインテールにしている小柄な少女――その少女に向かって、少年は走り込み――

「――お願いします! 報酬払うしレベ上げでも何でも手伝いますんで、道案内をお願いします!!」

 ――と、少女の前に回り込んでダイビング土下座を決めて見せた。

 ――決まった、などと内心でドヤ顔をしつつ少女の反応を待つが、一分、二分経っても一向に反応は帰ってこない。

 恐る恐る、といった感じで少年は顔を上げてみるが・・・・・・既にそこに少女の姿は無く、どうやら逃げられたみたいである。

「・・・・・・何でやねん」

 目の前には救いようがないほどに誰も居ない。プレイヤーはおろか、NPCの一人すらいないのだから、もはや何処かの無人空間に隔離された気分である。

「・・・・・・また、あの森に迷い込むのはゴメンやで」

 などと冷や汗をかいていると、不意に名案が頭の中を電流が走るかの如く過った。

「・・・・・・そうや。これや、この方法があったやんか!」

 ――道具屋で地図を買えばいいんだ! などというシンプルかつ的確な解答。考えてみれば、最初からマップデータが登録されているなどというゲーム上の甘い考えは捨てた方が良かったのかもしれない。地図が登録されてなければ、道具屋で買えばいいのだ。

 と、早速少年は道具屋に移動して店頭を見てみると、地図は無かったが無料配布のガイドブックが置いてあり、ついでに研磨アイテムと回復ポーションを買って道具屋を出る。

「よし! きっとこれにはマップデータが描かれている筈や!」

 そう思い、ガイドブックを開いて地図の頁を探すと――あった。このはじまりの街から少し遠いが、《トールバーナ》という町があるらしい。地図も詳細に描かれており、これならば迷う心配もないだろう。

「気を取り直して出撃や!」

 そうして、少年は気を取り直して自分の身体能力の許す限り走り続けた。

 ポップするモンスターは《ドレインスピア》による刺突によって即死させ、まずは草原を駆け抜ける。

 猪、狼、狼、猪、猪、猪、自走捕食植物《リトルネペント》、弱点かと思いその丸い実を同時に三個破壊して、代わりに《リトルネペント》が三十体という馬鹿らしい量がポップするというとんでもない事態が発生した。

 先ほどのガイドブックでこの胸糞悪い植物の情報を少年は見ていたが、どうやら特殊攻撃に腐食液噴射という武具耐久値を極端に落とすものがあるらしく、武具が壊れる前に決着をつけなければならなかった。また、これは後で知ることになるのだが、実を傷つけると即座に破裂して臭い煙を撒き散らす。煙は新たなネペントを引き寄せる効果があり、破壊してもネペントが寄り付かなくなるのは、ネペントをアホらしい数――ポップが枯れるまで狩り尽くすしか方法はない、とガイドブックには記載されていた。後でそれを見逃した自分に恨みを持つのは、また別の話だ。

 現在は三十体の胸糞悪い自走植物に包囲されている状態。身の丈は1m半で、先日に戦った《マンイーターJr》の3倍は丈が大きい。

(とにかく先手必勝や。特殊攻撃をやられる前に勝つ!)

 そう考えて、少年は踏み出して一瞬で7体の《リトルネペント》を屠る。その際にまた実を破壊してしまい10体くらいポップするが、構わず攻撃を――今度は《リニア―》を混ぜながら12体のネペントを同時に討伐するが、また実を破壊してしまい再び10体のネペントがポップする。

 特殊攻撃をしようと溜めているネペントを逸早く見つけて神速の《リニア―》によって即死させ、その後すぐに他のネペントを通常攻撃で屠り続ける。

 ネペントからの攻撃はあったが、それはすぐに刺突によって迎撃という名のオーバーキル(モンスターの残りHPに対して与えるダメージが過激の意)を与え、再び《リニア―》、刺突、現実で使っていた平突きと3種類に分けてネペントを屠り続ける。

 結果、ネペントからの攻撃は全て即死級の迎撃で返り討ちにし、腐食液噴射の予備動作が見られたらすぐにそちらも倒した為、戦闘時間は約3分強に及んだにも関わらず、少年のHPゲージは依然として1ドットも減ってはいなかった。

 精神的な疲弊はあるが、それでも肉体的なものではない。自分にそう言い聞かせながら、少年は自分の心を鬼にして今居る森も颯爽と駆け抜ける。

 以降、その森ではモンスターに遭遇しなかった。既にポップを枯らしてしまったのだろう。そうでなければ説明がつかない。

 ガイドブックを見ながら道を進む。既に獣道に入っている様な気もするが――それもまだマップ内。しかもショートカットルートである。いくら獣道とて時間を無駄には出来ず、結局《トールバーナ》に到着したのはおよそ3日半。その上にモンスターが居るところでおちおち睡眠や休憩をすることが出来ず――不眠不休というよりハードな条件で到達するはめになった。

「・・・・・・やばい。何やもう頭が痛いで・・・・・・」

 熱中症にも似た症状にふらつきながら、少年は宿を借りて硬いベッドに横たわる。この3日半の間、不眠不休で別の街まで辿り着いたのはとんでもない収穫だ。

 しかし、こんな疲労感はもう2度とゴメンである。3日間ずっと目の前に現れるモブを瞬殺したことによりレベルは13にまで上がったが、これ以上は精神的におかしくなりそうだ。

 少年は硬いベッドの上で静かに目を閉じ、睡眠をとるのであった。









「・・・・・・やけにモンスターのポップが枯れてるな」

 黒髪の皮装備にレザーコートの盾無しの片手剣使いがそう呟いたのは、いつの事だったか。

 ソードアート・オンライン正式サービス2日目。ありとあらゆる場所でモンスターのポップが枯れるという前代未聞の事件が起きた。

 βテスターもそうでない者も、これには頭を悩ませたが、いずれにせよ犯人は不明。

 一時期、フィールドを爆走する細剣使いが見られた時間帯からモンスターのポップが枯れたという噂もあるが、流石に現実的な問題として不可能と考えたのか、その噂は尾ひれがついていると誰もがそう認識していた。

 同時期、一人の少女に飛び込み土下座をする謎の男を目撃したという事件も発生したが、先にあった事件によりこちらはあまり公にはならなかった。

 先の噂が真実だと知る者は――ある一人の人物を除いて、誰も居なかったのだった。







 
 

 
後書き
 第二話 開始早々に迷子です を最後まで読んでいただき、誠にありがとうございます!!

 そして、最後の最後にまさかのあの人が登場!

 主人公の少年はヤンチャ全開モード。手に入れた《ドレインレイピア》は序盤にしては笑えない補正。当分主人公の武器が変わる事はなさそうです。

※余談ですが、今回の回の原作ブレイク点は本来第一層で手に入らない筈の回復結晶、転移結晶が手に入ったことです。また、自分で説明できない部分は原作から少しコピペしている部分が存在します(多量には使っておりません)。

 また、次の話はいよいよボス戦です! 流石に三週間飛ばすのはありかと二次創作者的には考えております。何故なら――《トールバーナ》に人が来ない=執筆する内容が狩風景しかない=単調つまらない という方程式が完成するからです。

 空白時期に違う話を挿入することはありますが、それもこの第一層では現実的に面白みに欠ける為、次回は少しだけ時間が飛ぶ事になりました。

 また、オリ主の少年のハンドルネームが次回にて明らかになります! どうぞ、次回の話にご期待くださいませ(次回は原作ブレイクしすぎなくらいしています)!!

 あと、主人公が土下座をした相手は――皆さん、もうお分かりですよね? もしそうでなければ、自分の文章力に問題ありなので文句言っていただければと思います。

 それでは、長くなりましたが今回はこれまでにしておきます。

 感想、誤字脱字などのご指摘、評価、辛口コメント、一言、は変わらず随時募集中ですので、どうかお時間の許す時にでもお願いいたします。

 それでは二度目ですが、最後まで読んでいただき誠にありがとうございます!

 
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