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IS<インフィニット・ストラトス> ‐Blessed Wings‐ 

作者:やつき
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序章 『交差』 ‐暴風の竜騎兵と紅の姫君‐
  第12話 『意思』

――『運命』に抗う力とは何だろうか? 金だろうか、権力だろうか? 『運命』とはそんな人が生み出した『力』では変えられない、変わらない。

――『運命』に抗う力とは『意思』である。押し付けられた現実、理不尽、それに抗い未来を掴もうとする『意思』である。


『そして、そんな『意思』に対して運命は微笑む。気まぐれな運命は強き意思に『未来』を与える』


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

薄暗い部屋の中、機械だらけのその部屋に『彼女』は存在した。
その部屋の中で常人では再現する事ができないような速度で端末を操作し、そして処理されている内容を理解している姿はまさに『異端』だろう。

『彼女』が存在している機械だらけの部屋の主、まるで『不思議の国のアリス』の登場人物『アリス』の服装に酷似した服を着た『彼女』は何かを考えるように、だがどこか楽しそうに"うーん"と呟いた

「うんうん、『殆ど』はこの天才科学者束さんの思ったように進んでるね~流石束さんだね、いえいっ でもちょーっと予想外の事もあったかなあ―― 一体どういう事だろうねこれは? 天才の束さんにもわからない事があるなんて、凄く不愉快だよねーもー そう思うでしょ、くーちゃんも」

『彼女』――この部屋の主にしてISの生みの親、篠ノ之 束は部屋の入り口から湯飲みを載せたお盆を持って入ってきた『少女』にそう言った

「束様、随分機嫌が良さそうですが……何か良い事でもあったのですか?」

己の持つお盆を部屋に設置してあったテーブルに置き、湯飲みをテーブルに移すとその『少女』、クロエ・クロニクルは自身の主である篠ノ之 束に対して問いかける

「うーん――そうだね、確かにくーちゃんの言うように"良い事"かもしれないねこれは だってこの束さんが『面白い』って思うような事なんだから。でもねくーちゃん、束さんはこれがどうしてなのか『理解できない』から不愉快だし、だけど『凄く興味深い』んだ これを見て、くーちゃん」

彼女はそうクロエに言うと、端末を操作してとあるウインドウを拡大するそこには――『織斑 一夏』の名前と共に『月代 悠』の個人情報と名前があった。

「……?束様、この『月代 悠』というのは誰なのでしょうか?」

「よくぞ聞いてくれたねくーちゃんっ!『彼』はね、束さんが今ちーちゃんといっくん、それからほーきちゃん――あ、勿論くーちゃんもだよ?それ以外の有象無象で唯一『興味』を持った存在なんだっ 言わばまいふぇいばりっとっだね! ――本当に興味深いよ彼は」

まるで無邪気な子供のように純粋な笑顔をクロエに向けながら、彼女はそう言った。
口では『不愉快』だと言いつつも、篠ノ之 束は心底嬉しそうにしていた。
それは何故か?いい意味でも悪い意味でも『自分が計画していた通りにならなかった』からだ。

「束さんにも全く理解できないしわかんないんだけど、彼――そうだね、『ゆーくん』とでも呼ぼうか?彼はね、いっくんと同じでISを動かしちゃったんだよ、それも――いっくんより前にね。 おかしいよね、不思議だよね?だって『いっくんについては束さんが仕向けた』けど、ゆーくんについては束さんはなーんにもしてないんだから」

「束様が何もしていないのにISを起動……ですか?」

「うんうん、本当に興味深いよっ 確かにゆーくんっていう『存在』も興味深いけど、束さんはもうひとつすーっごくわかんない事があるんだ」

それまで『ただ無邪気』だった笑顔をやめると、今度は『何か興味深そうな、意味ありげな笑顔』をクロエに向けると、その言葉を言い放った

「ゆーくんは確かにISを起動させた、それは確実なんだよ、でもね――『コア・ネットワーク』を束さんが確認する限りじゃ彼のISはね『存在していない』んだ」

「それは――つまり、どういった…… 仮にそうだとしての話ですが、コア・ネットワークで確認できない以上束様はどうして『月代 悠』がISを起動したとお分かりになられたのですか?」

「再びよくぞ聞いてくれたねくーちゃんっ! それはね――ゆーくんの近くにいる『この子』が教えてくれたんだよっ」

篠ノ之 束はそう言うと端末を操作し、今度は別のウインドウを引っ張り出してきてクロエに『これだよこれ』と言うと指差す。
そこには――『アリア・ローレンス』のIS<ブラッディア>のコアについてのデータと、彼女と『月代 悠』の戦闘機録映像が示されていた。

「ほら、前にフランスで束さんの技術を不細工にして使ってた奴等が居たでしょ?――あの時流石に束さん堪忍袋の尾が切れちゃったのくーちゃん覚えてる?」

「はい、覚えています――あの時の束様は珍しく完全にご立腹でしたので、よく覚えています」

「くーちゃん記憶力いいねー、それでね、『束さんの技術を出来損ないの人体実験に使用した不届き者』を始末するために匿名でエージェントに研究所の破壊と研究員全員の抹殺を依頼したでしょ?それをやってくれたエージェントに報酬としてあげたIS、あのコアが変な反応するものだから束さんの権限で強制介入して調べたら――これが出てきたんだよ 本当に凄いよね、ゆーくんも『彼女』も、束さんこれを最初に見たときは思わず叫び声上げちゃったよ よいしょっ」

篠ノ之 束は椅子から立ち上がると、先程クロエが持ってきた湯飲みを手に取るとを一口啜る。その後また言葉を続けた

「うんうん、くーちゃんが作ってくれたものは何でも美味しいねぇ、でも本当何なんだろうね?――ISのコアは束さんが『直接』作った467個と『彼女』にあげた特別なコアが1つ、それしか存在しない筈なんだけど、ゆーくんのISはその『どれでもない』んだよねぇ――ふふっ……本当に束さん興味深いなあ、もっと知りたいなあ――ゆーくんのこと」

楽しそうに、嬉しそうにただ『笑い』続ける篠ノ之 束を見て、クロエはただ黙っている事しかできなかった。
その時の彼女――篠ノ之 束はクロエから見ると、今まで無いほど上機嫌だったのだ。そしてそんな自分の主に対して、それ以上何も言えなかった。

「うーん…そろそろお腹も空いたし、ご飯にでも食べようかなー?くーちゃん、ご飯のほうよろしくねっ」

「束様、しかし私が作ると――」

クロエ・クロニクルという少女はお世辞にもあまり料理が上手ではない、彼女としては主である篠ノ之 束に喜んでもらいたいという気持ちはあったが、自分の料理スキルが壊滅的だということを理解していたためためあまり料理はしたくなかった。

篠ノ之 束はそんなクロエに対して笑いながら

「いーからいーからっ、束さんはくーちゃんの作ったものならなんでも喜んで食べるよー?それに何事も練習だと束さん思うなあ。 という事で、くーちゃんよろしくっ」

「は、はい――それでは……」

心のどこかで、自分に対して気を使ってくれて、そして優しくしてくれる主に対して『ありがとうございます』と、そう言うとクロエはその部屋を後にした。


そして、その部屋の中に居るのが自分自身だけだと篠ノ之 束は確認するとまるで隠すように置いてあったフォトフレームを手に取る

その時の篠ノ之 束という存在は、普段のどこかふざけたような、回りを気にせず自分勝手に振舞っているような彼女の姿は――無かった。

「本当に、興味深いよねえゆーくんは――だって本当に束さんでも『あのISが何なのか』ううん、『そもそもあれがISなのか』すら分からないんだから――本当に興味深いと思うし、いつか会ってみたいなあとか思っちゃうね だって――」

篠ノ之 束はそのフォトフレームを手にしながら、悲しそうに、どこか辛そうな笑顔でその写真を見る

「『博士』、貴女の息子でもあるんだからね――束さんだって超天才だけど人間だよ、だから……『罪悪感』や『辛いって感じる気持ち』くらいあるんだから」

その写真には、幼い頃の篠ノ之 束と一人の女性、そして…彼女に抱きかかえられた、写真に写る自身よりも幼い2人の子供――4人一緒に、笑顔で写っていた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


信じられない、俺が『ネクスト・インダスリー本社』へと到着して思ったのはただそれだけだった。

集合墓地でエディさんより『緊急事態』との連絡があり、俺は何事かと尋ねた――すると返されたのは『男性操縦者』が見つかったという事だった。

電話でその話を聞いた時は真っ先に自分の耳を疑った。『聞き間違い』ではないのかと。しかし現実とはとても非情で、今そこにあるのが『現実』だと理解するのにそこまで時間は要さなかった。

エディさんから連絡を受けて、電話を終えた後に唖然としている俺に対してアリアとシャルロットが心配そうに声をかけてくれて、その言葉で現実に戻ると『何があったの?』と聞かれた。
ひとまず、電話の内容について二人にも話すとやはり驚いていた。

アリアは俺のIS起動を一度見ているので、そこまで焦ってはいなかったようだが、やはり少し信じられないと言っていた『そんな異例が二度も起こるのか』と、アリアは言った。

墓地で『現実』を目の当たりにし、その場でただ佇んでいても始まらない――とにかく俺達3人は大至急『ネクスト・インダストリー本社』へと向かった。

そして現在、俺達は『ネクスト・インダストリー本社』の社長室に居た。そこには既にエディさんにレオンさん、主任にデュノアさんの姿があった。

「――三人とも、電話で話したとおりだ。 私も最初日本で男性IS操縦者が発見されたと聞き、何かの嘘かデマかと思ったよ……だが、確認する限り本当のようだ」

そうデュノアさんが言った、デュノアさんを含めた4人は今まで無いほど険しい表情をしており、そして俺自身が『男性操縦者』である事から事の重大さが理解できた。
そして、『彼』と自分の違い――それは、世界に対して男性操縦者として公表しているかしていないか、という事だろう。

俺の場合、事情が事情だったたというのもある。とにかくアリアと初めて戦った直後は自身の存在を世界に対して『隠蔽』しておくことが俺は可能だった。

エディさんの力、そしてレオンさんの力と『ネクスト・インダストリー社』の存在、更にそこに『デュノア社』の力も加わり俺という存在は世界に対して伏せられていた。

無論、準備ができるまでだった。いきなり何の準備もなしに『男性操縦者』だと公表したらどうなるか、何もせずに無防備な状態ならきっと世界に捕獲へと動かれ最悪モルモットかホルマリン漬けだろう。

だからこそ、俺という存在と当事者であり『色々な意味で規格外』であるアリアの存在を隠蔽した。準備は後一歩で整うところだったのだ。自分という存在――それを世界に対して示すための準備が。だが、今の現実はその準備を全て台無しにした。

まるで自分たちを嘲笑っているみたいに、『させてなるものか』と言っているみたいに。

それまで険しい顔をして何かを考えていたエディさんが、そこで口を開いた。

「現状について説明しておこう――日本にあるIS学園は分かるな?」

IS学園――IS操縦者育成特殊国立高等学校の事だろう。
ISの操縦者育成を目的とした教育機関であり、主運営は『日本』。
今の『女尊男卑社会』の象徴ともいえる存在の1つであり、『競技名目』でのISやISの整備・知識について学ぶいわば『IS専門の高等専門学校』だ。

無論、『ISの操縦者や技術者』の育成を目的としているため学校関係者の一部などを除いて生徒全員が『女性』だ。

ここで俺は真っ先に思ったことがある『何故男性がIS学園の受験会場に居たのか』と。

「はい、知っています――ISについての高等教育機関で主運営は開発者である篠ノ之 束の出身国であり、ISの開発国でもある日本。世界的にも有名な学校ですから男の自分でもよく知っています」

「うむ、その通りだ――何がどうしてそうなったのかは全くもって不明だが、彼……『織斑 一夏』がIS学園の受験会場で会場置いてあった受験者用の『打鉄』に触れて起動させた、そして政府がそれを聞きつけて彼を『保護』した事。そこまでがわかっている事だ」

「……しかし、何故女性しか居ない筈のIS学園の受験会場に?俺としてはそこが疑問ではありますが……あれ、ちょっと待ってください――」

そこで俺はその『織斑 一夏』という名前を聞いて何かが引っかかる。オリムラ?おりむら―― ッ……ちょっと待て、まさか!?

「ひとまずどうしてIS学園の受験会場にその『織斑 一夏』が居た事は置いておきましょう。ですが……まさか『織斑 一夏』とは、苗字から考えるに『世界最強』"ブリュンヒルデ"――『織斑 千冬』の関係者ですか?」

「察しがいいな、その通りだ――調べて分かったのは、彼が世界最強の『ブリュンヒルデ』の弟であり"唯一の家族であり肉親"だ」

――出来すぎではないか?ISを起動させた俺が言えたことじゃないかもしれない、だけど――男がISを起動させて、しかも場所はご丁寧に『IS学園』の受験会場。そして彼、『織斑 一夏』は世界最強の弟だ。

出来すぎている、どう考えても出来すぎているのだ。まるで――『誰かが意図的にそうした』みたいに。
だが俺は 考えすぎだ と自分に言い聞かせる。そうだ、きっと考えすぎで――『彼』も偶然ISを起動させた、ただそれだけなのだと。

現状を整理する、織斑 一夏がISを起動させた事によりこちらに発生する事態は何か――まずデメリットだ。

今まで自分たちが準備してきた事が全て台無しになった事。まずはこれだろう――そして、『もし自分も男性操縦者として発表した場合、予想していた以上にアクションがあるだろう』ということ。
だがしかし、デメリットだけではない――むしろ、メリットのほうが大きいかもしれないのだ。

それは何故か、まず織斑 一夏が先に『男性操縦者』として世間の脚光を浴びる事で、俺自身の存在を明かしやすくなったという事。
『一度ある事は二度ある』とも言う。なので『二人目が居てもおかしくは無い』という事で、予想していたり問題が発生する事無く自身の存在を明らかにできる。

俺は考える――こうして考えると、当初の計画よりやり易くなったんじゃないかと。しかし考える事もある……俺はその考えを口にする事にした。

「――レオンさん、ひとまず織斑 一夏がISを起動させたということは理解しました。しかし……状況が状況で出来すぎているとも思います」

「ユウ君、つまりどういう事かね?」

「単刀直入に言います。彼は、『織斑 一夏』は――現在は保護名目で保護されているかもしれません、ですが『世界で初めてISを起動させた男性』なのですから、当然何かしらの対応はあるでしょう――彼は、『IS学園』に入学する事になるのではないのですか?」

「……私達もそれを予測していた。恐らく織斑 一夏はIS学園に入学する事になる。彼は『世界で初めてISを動かした男性』となってしまったのだからな――何を考えているんだい?ユウ君」

「当初の予定では、俺――自分とアリアの存在を『ネクスト・インダストリー社』と『デュノア社』で結成された『仏蘭西国企業連』を後ろ盾に公表をする予定でした。ですが……その予定は全て台無しになりました。『織斑 一夏』という存在がISを起動させてし

まった故にです。ですから――自分とアリアは、これからどうしたらいいですか?」

俺はレオンさんの目を見ると、そう言った。するとそれまで話を聞いていたアリアも

「……私もユウも、とっくに覚悟はできてます。ですから――レオンさん、エディさん、デュノアさん、主任――私達に言ってください。 皆さんが考えている事を」

真剣な目で彼女はそう言った。
4人は顔を見合わせて、どこか辛そうな表情を作る。暫くの沈黙をした後に――口を開いたのはレオンさんだった。

「……私達大人の都合を押し付ける事になるぞ。それでもいいのかね」

「――俺とアリアは、覚悟はしているつもりです。前にも言いましたよね?自分たちの『意思』を絶対に枉げずに『それでも』と言い続けると。足掻いて足掻き続けて、歩んでいくと」


意を決したのか、レオンさんは複雑な表情をしながら――その言葉を紡いだ

「……私達4人の総意だが、君達二人には――『仏蘭西国企業連』所属として『IS学園』に行って貰おうと思う。年齢的にユウ君は18、アリアさんは16だ――もし高等学校に通っているなら『学生』という立場だろう。それから以前話をした『亡国機業』の事もある。大人の汚い事情だ、そして自分勝手な押し付けだとも思う……だが、二人に頼みたい。当初より予定を変更して『IS学園』へと入学して、そこで見極めて欲しい。世界の未来を、可能性という――人だけが持つ神が本当に存在するのかと 託させてくれ、私達老いぼれの希望を」

『亡国機業』、その存在について俺が知ったのは――デュノア社と提携した後の話だ。
亡国機業"ファントム・タスク"についてわかっている事は少ない。
第2次世界大戦中に生まれた組織らしく、またその目的は一切不明。

存在理由も不確かであり、その規模も不明のままのかなり謎が多い組織である。わかっているのは、組織は大きく分けて運営方針を決める幹部会と、スペシャリスト揃いの実働部隊の2つが存在すること。
近年、その主な標的はISであり――そして、『亡国機業』は自分とアリアが殺し合いをやったあの一件にも大きく関わっていた。

あの時、本来ならば凍結処置を行うはずだった『ハリソン・ラーロング』という女性は、後で分かった事だが――『存在自体が消えていた』。
どうしてそうなっているのかは不明だが、デュノアさんが掴んだ情報から何らかの方法で『テンペスト』の護送についての情報の一部を『亡国機業』が入手した事、そしてあの場に現れた黒服達と、アリアを殺そうとした黒服達は間違いなく『亡国機業』の人間だ

ということが判明した。

そして、今の現状から察するに今後『亡国機業』が俺達をまた狙ってきてもおかしくない、という事だ。

IS学園への入学、それは――『亡国機業』から自分達の存在を守るために、そしてIS学園という環境で自分達の力について知り、全ての真実を探す。 
そして、真実を得た上で『可能性』を追い求めていくと。

きっと俺もアリアも、どこかでそうなる事を期待していたのかもしれない――『織斑 一夏』という存在が居る場所で、そしてISという存在が最も集まる場所に。全ての答えがきっと、集う場所に。
見極めたい、見てみたいと思った。ISという存在の可能性を――その可能性はきっとどこまでも行けると、そう信じているからこそ、見てみたいと思った。

「…残酷だぞ。きっとこの先君達が進む道はきっととてつもなく過酷で残酷だ。 絶望なんてものが温く感じるほどのものかもしれん――私達は君達二人が望んでくれれば、無理にでも君達のISを処分し、普通の生活をさせてやる事も不可能ではない。今なら、今ならまだなんとか引き返せるぞ?ユウ君はまだ男性操縦者だと割れていない、アリアさんだって普通の生活に戻る事ができる――『暖かい陽だまり』を捨ててまで、君達は進むのか?」

「――愚問ですよ、自分もアリアも…『今』ではなく『未来』という『可能性』を求めます 例え真実がどんな形でも、どんな現実が待っていようと『それでも』と言い続けます――自分達の『意思』だけは枉げません」

「ユウの言う通りです――私も真実が知りたい。そして、ISの可能性っていうのを私も見たくなったから、だから――恐れません、『今』ではなく『未来』を望みます」

そう俺とアリアが言うと、4人はどこか諦めたように――それでも嬉しそうに苦笑すると、レオンさんが口を開いた

「負けたよ、揺さぶった程度じゃ絶対に揺れない『意思』、か――やはり君達は『可能性の申し子』だよ。 ならば『仏蘭西国企業連』として君達二人に言おう、IS学園に入学し、心のままに従いなさい」

こうして、俺とアリアは真実と未来、そしてISの可能性を求めて全ての始まりとなる『IS学園』に行く事になる。
そこに全てがあると信じているから、自分たちが探したい答えがあると信じているから――絶対に自分達の『意思』だけは枉げないと誓った


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

『ネクスト・インダストリー本社』の社長室で自分達が『IS学園』に行く事に決まった後、俺とアリアは少し困った事になっていた。

今、俺とアリア――そしてシャルロットは本社にある一室に居る。そしてソファに座っている俺とアリアの正面に座る彼女の表情は真剣だった。

「本当に、二人は行っちゃうの…?」

「……ああ、そう決めたんだ。絶対に枉げたくない『意思』があるからさ」

「――ごめんなさい、シャルロット」

自分たちがIS学園に行く、つまりそれは――シャルロットと離れ離れになる事を意味していた。
それはきっと、シャルロットが最も恐れていて、怖がっていてる事だと俺もアリアも、心のどこかで思っていた。
いつか自分達の選択は彼女を傷つける事になる――そんな予感はしていたが、こんなに早く訪れるとは思っていなかった。
あの時、シャルロットが言っていた『どこにも行かないよね?』という言葉は今この瞬間をわかっていたかのようだと――そう思った。

「……僕は、嫌だよ――二人と離れるのは絶対に嫌ッ!」

まるで子供のわがままみたいに、自分の言う事を聞いて欲しい子供のように――涙を流しながら必死に、彼女は叫んだ。
その叫びはきっと彼女の心の内で、本心で――そうあって欲しいと心から願う『願望』なのだろう。

「やっと、僕の心が開ける二人に会えて、二人と居ると楽しくて、あったかくて――二人をまるでお兄さんとかお姉さんみたいとか思って、ずっとこの時間が続けばいいって思って――でも、今二人は自分達の未来に進もうとしてる。わかってる、僕もそれはわかってるけど――それでも、嫌なんだッ! 二人と別れるのは嫌、もう一人になるのは嫌ッ!」

彼女自身はIS学園に今は行けないのだが――それにはちゃんとした理由がある、まずシャルロットの現在開発が進められている『専用機』が未だに未完成だという事だ。
彼女の専用機の開発は既に佳境に入っており、彼女自身との調節でスケジュールがほぼ埋まっているというのが1つの理由としてある。

専用機が完成した後もスペック通りに動くか、安全性に問題がないか、シャルロット自身との同調率はいいのか等のテスト運転、データ収集に調整――そして会社が必要とするデータを集めて再調整を行うなど、やらなければならない事は多くあった。

そして他にも、彼女自身の想いがある。
シャルロットは両親と和解しており、その関係は非常に良好――そして彼女自身が自身の『両親』の力になりたいという想いもあった。
彼女の現在開発が進められている専用機は『ラファール・リヴァイヴ』の後継機開発の為のテストモデルなのだ。そして、今までずっとデュノア社のテストパイロットとしてISを動かしてきた彼女のデータは必須とも言え、また彼女の技能や特性上、『ラファール・リヴァイヴ』との同調率は非常に高かったため、今のデュノア社にはシャルロットの存在は不可欠だった。

彼女自身も両親の力になりたいという想いと、両親の力になれるのなら自分が頑張りたいと望む彼女の想いもある。
だがしかし、現状を見てのシャルロット本心は『ずっと二人と居たい、離れたくない』という気持ちが特に強かった。
きっと今の彼女は、そんな両親と自分達への気持ちがごっちゃになって、きっと――どうしたらいいのかわからなくなっているのだろう。

「僕ね、わからないんだ――二人と一緒に居たいって思う自分と、お父さんやお義母さん――それから僕に良くしてくれる会社のみんなの為に僕も頑張りたいって思う自分、今の状況で、自分がわからないんだッ……」

涙を流しながら、悲痛な声でシャルロットは言った。そんな彼女を見て、アリアは立ち上がると彼女の横に座りそっと抱きしめた。

「ぁ……アリア、さん?」

「辛くて、苦しいよね。今の私は、シャルロットの気持ちが少しはわかる。でもね、シャルロット。絆が切れるわけじゃないの。私達は、会おうと思えば必ず会えるんだから」

そう言って、アリアは優しい微笑みを見せた。本当に、出会った時からは想像もつかないほど、彼女の表情は穏やかだった。
彼女は、俺に出会ったからだと言っているが……俺はそこまでの人間じゃないと思う。きっとそれは、彼女自身が勝ち取り、もぎ取った強さだと俺は思う。

「今のシャルロットは、私たちが初めて出逢ったシャルロットとは違う。何が貴女を変えたのかは、私には想像しかできないけど――今の貴女なら、大丈夫」

そう言って、アリアはシャルロット強く抱きしめる。

――何が大丈夫なのか、俺にはわからないし、きっと、アリアにもわからないのかもしれない。

シャルロットの気持ち、葛藤、これから彼女が抱えなければならない困難、それを考えたところで、結局それは俺達の想像でしかなくて、だからこそ、簡単には『大丈夫』と言う事は出来ないし、俺には言えなかった。

それはある種の厳しさで。きっと、強い人間にしか言えない言葉。
彼女は、それが言えるのだろう。 言えるようになったのだろう。

出逢ってから随分と変わった彼女だからこそ、シャルロットの変化を、俺よりもずっと感じ取っているのか。
それにもしかすると、シャルロットが折れそうになった時は、絶対に支えるという決意があるのか。

アリアが大丈夫と言った意味は、俺にはわからない。それは彼女の気持ちだから、彼女にしかわからない。
それでも、その言葉には力強いものがあったのは確かだった。安心できて、心の奥底から勇気が沸いてくるような、そんな力強さが。

俺は、そこまで強くない――強がって『それでも』って言い続ける事しかできない。そう内心苦笑しつつ、シャルロットに話しかける。

「シャルロット。アリアの言う通りだ。会えないわけじゃない。それに、お前が頑張ってお父さんの仕事を手伝えば、学園に来る事もできる筈だ。俺は、そう信じてるし、信じたい。お前が来るのを、俺は待ってる」

「私達、ね。シャルロット、貴女が来るのを待ってる。必ず来るって、信じてる」

俺がふとアリアに対して思った感情がそれだ。俺が男だというのもあるが、アリアはシャルロットの気持ちをわかってやって、その上で自分の気持ちをああやって伝えている――本当に強いと思った。
暫くアリアに抱きしめられながら、ひとしきり泣くと、シャルロットが口を開いた

「お願いが、あるんだ」

「……何だ?」

「さっきね――ユウさんやアリアさんの事、まるでお兄さんやお姉さんみたいって言ったよね?僕はずっと、二人をそう思ってきたんだ――だからね、これからはさん付けの他人行儀じゃなくて、『ユウ兄』と『アリア姉さん』って呼ばせて欲しいんだ」

「――俺もアリアも、シャルロットの事を妹みたいだって思ってたところがあったからさ、そう呼んでくれてもいいぞ といっても――大事な妹泣かせるようなろくでなしの兄と姉だけどさ」

「本当、その通りだね――ユウ」

それまでアリアに抱きしめられていたが、アリアに『ありがとう』とだけ一言言うとシャルロットはソファに座りなおして、再び言葉を紡ぎ始めた。

「じゃあ――僕は、こっちで頑張るよ。 ユウ兄やアリア姉さんがIS学園に行ってもこっちで頑張る、そしてちゃんと準備ができたら――僕の心の準備と二人みたいな覚悟が出来たら、僕もIS学園に行くよ、今度は――僕の力で二人に会いに行くから」

「あぁ――頑張れ、シャルロット それから……待ってるからな」

「向こうに行ってもいつでも連絡とかしてきていいからね? 大事な妹だし――私もユウもきっと心配するから」

「うん、連絡とかするね――だから二人も、頑張ってきて 僕も、ユウ兄とアリア姉さんの事、応援してるから」


そう言った彼女は、どこか覚悟を決めたみたいで、とても気高くて――向けてくれた笑顔はまるで、太陽みたいに暖かくて、眩しかった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

――『運命』に勝てるのは『意思』しか存在しない。 だが、『意思』というものは誰もが持てるものではない。 生半可な覚悟や誓いと言い切ったそれを『意思』とは呼ばないからだ。
必要なのは、『意思』をやり遂げる事。やり遂げる事ではじめてそれは本当の意味で『意思』となり、『運命』を魅了し打ち勝つ力となる。

――物語の舞台は整った。さあ始めよう……その先にある真実は何か?その先にある想いとは何か? 全ての先に、一体何を見る?
全て物語が今、交差し新たな物語が――『本来ならば有り得なかった物語』が始まる。


 
 

 
後書き
作者のYatukiです。
そんなこんなで、第12話 『意思』をお送りしました。いかがでしたでしょうか。
今回で序章は完結となります。

再編成・再構成ということで、ひとまず序章まではある程度の再構成を行いました。
いやはや、ここまでなんとかできて作者自身ホッとしております。

恐らく私の中では序章で一番やらかした回。独自解釈に独自設定、オリジナル展開満載のお話しとなってしまいました。束博士といいクロエさんの事といい、シャルロットの事といい色々とやらかしたせいで意見が分かれそうでやっぱり怖いですが、作者自身今後の展開と序章のラストと言う事で一番力を入れた回でもあります。

今回のお話で描きたかった言葉はタイトル通り『意思』です。
そんな感じの事を映写してみたお話しです。

次からは本格的に本編介入開始という事で、色々用意しています。と、言っても途中までは再構成ですが……

浮かぶネタや展開も中々尽きないのでどう書こうか、どう映写しようかと非常に迷ってしまいます。しかし、それが作者自身楽しくもあります。今後どんな展開になるのかは…予想していただくなりして、楽しみにして頂ければ作者としては非常に嬉しい限りではあります。

今回執筆に当たり聴いていた執筆BGMは

機神大戦ギガンティック・フォーミュラより 『United Force』

でした。
曲を聴きながら思ったのは、3人は『運命』に対して『意思』を貫き答えを見つけられるのか、見つけた先で何を想い、そしてどう変わっていくのかなあと作者自身考えながら。

文章が荒かったり変な部分がやはりあるかもしれませんが…そこは確認次第、修正と変更を行います。

感想・評価・ご意見下さると作者のやる気がみなぎります。

さて、それでは今回はここまでに。
次回 第1章 第13話 『IS学園』 でお会いしましょう。

 
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