| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

トーゴの異世界無双

作者:シャン翠
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第百二十二話 メイム……何でだ……?

「それではよろしいでしょうか皆さん!」


 突然モアの声が闘武場に響く。
 今まで二人で喋っていた闘悟達も彼女の声に注目する。
 どうやら闘悟の骨折の件は、フレンシアが上手く誤魔化してくれたようで、モアも追及してはこない。
 フレンシアには感謝するが、後でどんな要求されるか分からないので、結局はプラマイゼロのような感じがするのも否(いな)めない。


「これから準決勝のクジをしたいと思います!」


 何ぃぃぃぃぃっ!!!
 闘悟は心の中で小躍(こおど)りしていた。
 まさかまたクジをさせてもらえるとは思っていなかったのだ。
 このまま順当に、試合順として、一回戦の勝利者と二回戦の勝利者、三回戦の勝利者と四回戦の勝利者が闘うと思っていたのだ。
 だがどうやら残った四人で再びクジをするみたいだ。


 よし! 残り物には福がある!
 最後に咲く花もある!
 つまり次の大会最後のクジではドベじゃない可能性が!
 闘悟は一縷(いちる)の望みを掛けて、クジを引く右手に力を込める。


「あ、クジはもうこちらで引きましたので、今から対戦表を発表しますね!」


 何ですとぉぉぉぉっ!!!
 オレの元気を込めた右手はどうしてくれんだよぉっ!!!
 もちろん闘悟のそんな叫びは誰も気づいてはくれない。
 行き場の失った右拳の力は、そのまま虚しくフェードアウトしていく。


 くそ……いいんだいいんだ、どうせオレなんかクジを引いたところでドベって決まってんだ……いいんだよ、別に悔しくは…………ないこともないんだけど…………はぁ、引きたかった……


 闘悟が心の中で涙を流していると、ゴゴゴと音が耳に入ってきた。
 音の正体を確かめようと、周囲を見てみると、またも地面から石版が競り上がって来た。
 そこにはこう書かれてあった。


 準決勝第一回戦、ヤーヴァス対ガシュー。


 準決勝第二回戦、レリーズ対トーゴ。


 はい、終わりましたぁ…………。
 闘悟の思いは砂となり、風にさらされて吹かれていきました。
 ドベという名のそよ風に乗って。
 ミラニはようやく事態を飲み込めたのか、闘悟に対して憐(あわれ)みの視線を向ける。
 止めて! そんな目で見ないでぇ!


 とにもかくにも、これで準決勝の相手が判明した。
 闘悟の相手は、あのシャオニですらあっさりと破ったレリーズ。
 見たところ、その強さは別格のような気がした。
 シャオニを手玉に取った氷の属性魔法。
 発動スピードも、魔法の清廉(せいれん)さも、ミラニと良い勝負かもしれないと感じた。
 ただ、勝負は相性の問題もあるので、どちらが強いかなどは判断できない。
 闘悟自身、氷使いと闘うのは初めてなので、楽しみでもあるのだ。
 時間が経てば、明日否応なく舞台に立つのだから、今から気にしていても仕方無い。


 それよりも気になるのが、やはりガシューのことだ。
 今日の不戦勝の件もあり、ヤーヴァスのことが心配になった。
 もしかしたら、今回のようにヤーヴァスが何かされる恐れがある。
 ミラニもそのことに気づいているのか、険しい表情で考え込んでいた。
 闘悟は、この闘武場のどこかでほくそ笑んでいるガシューを思い苦々しい表情をする。


「それでは皆さん! 明日の準決勝楽しみにしていて下さい!」


 モアの締めくくりの声が闘武場に響く。


「とりあえずクィル達のところへ戻るか」


 ミラニと一緒にその場を後にした。
 闘武場を出る時に、モアに舞台粉砕の件で怒られたのは言うまでもないことだった。
 ホントに二度も破壊してごめんなさい。
 これからまた舞台を直す人達に謝罪した。





 試合が終わったその日の夜。
 ヤーヴァスは酒場で食事をし、宿屋へと帰路の途中だった。
 もう夜更けなので、周りには人気(ひとけ)が無い。
 しばらく歩いていると、何か嫌な予感が走った。
 ピリッとした感覚。
 これは確かに経験のある感覚だった。
 自分を意識して視線を送られている感じだが、その上、その視線にはただならない感情が込められている。
 こういった視線は、よく魔物や、盗賊などとの戦いで感じることが多い。


 だが今、見えるところには誰の姿も見えない。
 どこにいるかは、その視線を辿ると大体把握できる。
 だが彼は立ち止まり、目を閉じながら言葉を放つ。


「出てこい」


 その一言を受け、何者かが足音を立てて現れる。
 目を開けると、そこには一人の人物が立っていた。
 ちょうど左前に立っている木の後ろに隠れていたらしい。


「間違いない……やっと見つけた」


 そう小声で言って月影にさらされながら姿を露(あら)わにした。
 ヤーヴァスは目の前の人物を見据えて問う。


「何者だ?」


 すると相手はギリッと聞こえるような歯噛(はが)みをして答える。


「私はメイム・ウォーレス。アンタが滅ぼした村の生き残りよ」


 ヤーヴァスを睨みつけながらそう呟いたのは、間違いなく闘悟と同じくヴェルーナ魔法学園に通う、あのメイムだった。





「滅ぼした?」


 表情を変えずに、ヤーヴァスは聞き返す。


「惚(とぼ)けても無駄よ。その魔剣が動かない証拠よ!」


 メイムはヤーヴァスが腰に携えている『魔剣ドール』を指差す。


「何のことだ?」


 微かに首を傾げながら問う。


「惚けても無駄って言わなかった?」


 ヤーヴァスは目の前の少女を観察する。
 どうやらこちらの言うことに耳を傾ける冷静さを感じない。
 先程から激しい殺気が漂ってきている。
 今にも襲い掛かって来るかもしれないと警戒させられた。


「……村とは?」


 それでも何とか事情を聞き出そうとする。
 話して落ち着かせることができるかもしれないとも思った。
 するとメイムはフッと鼻で笑うような仕草を見せる。


「そうよね。私の村なんか、アンタが滅ぼした幾つもの村の、ほんの一つしか過ぎないもんね?」
「……」


 しばらく沈黙が流れる。
 そして、その沈黙が苦痛かのように顔を歪めて、メイムは呟く。


「……リコール村」
「……ん? ……リコール?」


 聞き返した瞬間、メイムが何かを投げつけてきた。
 ヤーヴァスは咄嗟(とっさ)に横に跳び避ける。
 投げたのはナイフのようだ。
 ナイフはそのまま地面に突き刺さる。
 攻撃をされたことで、ヤーヴァスの警戒心は最大になる。
 即座に剣に手を掛けるが、メイムの様子を見て目を細めてしまう。


「名前すら聞き返すほど覚えてないってわけなんだ……」
「……」
「こんな奴に……こんな奴に……」


 彼女の体が小刻みに震えていく。
 その震えには、間違いなく憤怒(ふんぬ)が込められている。
 そしてキッと顔を上げて睨みつける。


「アンタが!」
「……」
「アンタが私の村をっ! 母さんをっ! 父さんをっ! ネムを殺したぁっ!」


 メイムはそのまま突撃するようにヤーヴァスに向かう。
 剣を抜いて斬りつける。
 ヤーヴァスも同じように対応する。


 カキンッ!


 両者の剣が合わさり火花が散る。





「おやおや、これは面白いことになっているようですね」


 メイムとヤーヴァスの小競(こぜ)り合いを見ていた者がいた。
 その者は、二人に気づかれないように、物陰に身を隠している。


「奴を仕留めるには骨が折れるかと思いましたが……ふむ、この状況、上手く利用させて頂きましょうか」


 闇の中に微かに笑い声が響く。


 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧