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インフィニット・ストラトス ~天才は天災を呼ぶ~

作者:nyonnyon
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第12話

「専用機もちの三人。 オルコット、織斑、友永、前に出てこい。 それと、文部(もんぶ)、友永にISを一騎借りて前に出てこい」

 ISを使った実践授業で急に呼ばれて、私『文部(もんぶ) 紀亜良(きあら)』は心底驚いた。

 先日のとてつもないクラス代表決定戦後初めての実践授業である。 一発目の今日は、専用機もちの動きをみることに終始すると思われたのに、急に前に呼び出されたからだ。
 一瞬何を言われたのか分からなかったが、後ろにいた友人の『巴田(ともだ) 千代(ちよ)』に呼ばれたことを指摘され、おっかなびっくり前に出ていく。
 そこにはすでに専用機もち三人が集まっていた。

 その別世界の雰囲気に思わず後ずさりしてしまう。

 セシリア・オルコットさん。 イギリスの代表候補生で英国淑女のお嬢様。 毛先が少しカールした長い金髪と輝く美貌の持ち主。
 織斑 一夏君。 ISを操縦できる世界初の男の子。 長身で黒い短髪のイケメン。

 そして、

 友永 風音さん。 正体不明の超美人。 とりあえず専用機もちということと、悪巧みしているときの顔は魔王並みに怖いといったことしかわからない。 ただとても大きい。 何がとは言わない。 私は完敗だといっておく。

 普通の容姿の私からは考えられないほどの世界で戦っているであろう三人が目の前にいる。 それだけで逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。

「文部さん。 ISどれがいい? といっても、【神代】か【くまたん一号】しかないけど」

 逃げ出してもいいよねなんてことを考えながら三人に近づいていたら、友永さんから声がかけられた。

 きりっとしていると、整いすぎていて人形を相手にしているようで怖くなる友永さんだが、今はほにゃっと笑顔を浮かべてくれていてとても可愛い。
 同性でも見惚れてしまいそうなその笑顔を向けられて、思わず赤面してしまうのが自分でもわかった。

「ひゃ、ひゃい!!! ど、どど、ど、どっちでもいいでしゅ!!!」

 噛んだ。 恥ずかしい。

「ん~じゃあ【神代】にする? 【くまたん】は意外に操縦が難しいんだ」

そういってISの待機状態であるクリスタルを渡してくる友永さん。

 わゎ、待機状態のISだよ!! IS適正【C】でギリギリ入学できた私なんかが一生触ることがないであろう専用機だよ!! どうしよう、ドキドキしてきた!!

「わ、わ、ありがと。 友永さん」
「うんうん。 気にしなくていいよ。 あ、あと、私のことは風音でいいよ。 ふーちゃんでも可。 まぁ、気軽に呼んでよ」

 にこにこと笑いながら話しかけてくれる、いつでも気さくな友永さん。 か、風音なんて呼び捨てで呼べるわけないよ。

「よし、お前たち、ISを展開しろ。 他のものもよく見ておけよ」

 織斑先生の号令により一斉にISを展開する専用機もちの三人。 私は呆けることしかできなかった。

 織斑君展開がすごく速い!! まだ専用機をもらって間もないよね!? なんであんなに早く展開できるの!?

「おい、文部。 お前も早く展開しろ」
「え、え?」
「何のために友永からわざわざISを貸し与えたと思っているんだ? この時間だけだが、今のお前は専用機もちと同じ扱いだからな。 皆もいいな! これからこの時間は、無作為に選んだ一人が友永からISを借りて専用機もちと同じように訓練してもらう。 今回は文部だったが、次はお前たちかもしれん。 訓練を怠るなよ?」

 織斑先生の言葉でクラスに少なくない歓声が上がる。

「静かにしろ。 さて、文部。 時間がないぞさっさと展開しろ」

 ぴしゃりと言い放たれた織斑先生の一言で静けさを取り戻すクラスメイトたち。 私にうらやましそうな視線を向けてくるが、今の私にそれに返事をする余裕はない。
 呆然としていた状態から何とか我に返り、一生懸命展開を試みる。 が、もともと大した実力もない私では展開に時間がかかってしまう。

「ふむ、展開にかかった時間、2.5秒と言ったところか。 まぁ、専用機をもらってすぐでこれならましなほうだな。 これからも励め。 もしかしたら未来には日本代表になるかもしれんのだからな」

 ほめられはしなかったけど、一定の評価はもらえたみたい。 すごくホッとした。

「織斑は1.5秒ほどか……。 遅いな。 もっと早く展開できるようにしろ」
「オルコットはさすがと言ったところだな。 しかし、そのドヤ顔はやめておけ。 候補生としては当たり前すぎることだ。 何も誇れるようなことじゃないぞ」

 ビシビシ指摘していく織斑先生。 やっぱり凛々しくてカッコいいなぁ。

「友永は……カワイイな」ボソッ
「え?」
「んんッ! 何でもない。 展開スピードはいいが、なぜ【くまたん】なんだ? 【ブリギット】はどうした?」

 そうなのである。 友永さんはなぜかあの超破壊兵器を積んだIS【ブリギット】ではなく、愛らしい【くまたん一号】をまとっている。 布仏さんの顔がこれでもかってぐらい緩んで、今にも抱きつきたいかのように両手が持ち上がってきているけど気にしないことにしよう。

「先生、【ブリギット】だと展開に時間がかかるんですよ。 試合で見てましたよね?」
「あぁ、しかしあれは、展開用のフォームだからだろう? 最初っから戦闘用のフォームで展開すればいいだろう?」
「先生、わかってないですな。 展開用のフォームがあるのならそれで展開するのが礼儀ってもんですよ」
「そんなものはどうでもいい。 ……【くまたん】だと可愛すぎて叩けないではないか」ボソッ
「……それも狙いですけどね」ボソボソ
「……くッ、卑怯な」ボソボソボソ

 なんだか織斑先生が顔をゆがめ出しました。 あのやり取りに何があったのでしょうか?

「それと織斑先生。 展開の時間は、きあっちゃんが2.48秒。 一夏が1.55秒です。 訂正をお願いします」
「はぁ……、そんな細かいことは気にするな。 大体あってればいいんだ」
「きあっちゃんはいいですが、一夏の方は見過ごせません。 四捨五入すれば1.6秒になるんですよ!!」
「だから細かいといってるだろう!! もういい、お前たち、武装を展開しろ!!」

 なんだか言いあいが起きてるけど大丈夫かな? それより、『きあっちゃん』って私のこと!? 初めて言われたあだ名だよ!! まぁ、友永さんに言われたと思うとちょっとうれしい気も……。

 その後、何とか武装を展開し、評価を受けた私。 その評価も「まぁ、こんなもんだろう」って、どっちつかずだった。

「オルコットは射撃武器の展開速度はまずまずといったところだな。 構えも修正してきているようだな。 前の戦闘の時に思い知ったか?」
「はい、今までの横に展開しているやり方では戦場では間に合いませんわ……」
「ふむ、なら近接戦闘武器をだせ」

 セシリアさんも厳しい評価を受けているみたい。 代表候補生と言っても私と同い年だし、織斑先生みたいな本物の代表の人から見たら同じぐらいなんだね。

「ふむ、近接戦闘武器の展開には少し手間取るようだな。 まぁ、名前を呼んで武装展開なんて初歩的なことをやらなくてよくなっただけ、前の試合は有意義なものだっただろう?」
「ええ、そうですわね。 その点は風音さんに感謝いたしませんと」

 あ、近接戦闘武器もちゃんと展開できるように訓練していたみたい。 前の試合の時は武装名を呼んで展開していたから、直したみたい。 武装名を呼んでの展開は初歩の初歩だからね。 代表候補生としては恥ずかしいと思うよ。 それにしてもすごいね。 しっかり自分の弱点を修正していくって。

 そのあとも、一通りの訓練を行っていく。 私も【神代】の扱いにだんだん慣れてきていた。 そんな時、

「よし、お前たち。 ちょっと飛んでみろ」

 織斑先生からその言葉が投げかけられた。

「……え!?」

 その瞬間、友永さんが驚いたような声をだした。 何かおかしいところがあっただろうか?

「……なんだ? 友永」
「いや、織斑先生がカツアゲとか……」
「……何の話をしている?」
「え? だって飛んでみろって……」

 漫画などで不良がカツアゲするときの常套句のことだろう。 あれってお札しか持ってないとならないよね、どうするんだろう? それと、鍵とかでも音とかなると思うんだけど……。

 なんてどうでもいいことを考えている間に、織斑先生と友永さんの会話は続いていた。
 
「ISで飛行しろと言っているんだ、馬鹿者。 上空200メートルまで飛行しばらく待機しておけ。 ほら、お前たちもさっさと行け!!」
「ひゃ、ひゃい!!!」

 織斑先生の一喝であわてて飛行を開始する私たち。 友永さんがすごい速さで急上昇したと思ったら、それを追うようにセシリアさんが駆け上っていく。 少し遅れて私と織斑君がついていく感じだ。

 上空200メートル地点で止まった私たちは織斑先生からの評価を聞いていた。 やはり織斑先生の評価は厳しく、織斑君は「性能ならオルコットに勝っているはずだ」と辛辣な言葉を投げかけられていた。
 その後も上空で待機だったのでいろいろと雑談に興じる。 どうやら地上では織斑先生によるちょっとした講義が行われているようだ。 ちょっと聞きたかった気もするが、今はこの豪華メンバーの中で一緒に訓練できている喜びをかみしめていようと思う。

「どう? 【神代】は気に入った?」

 喜びをかみしめていると、友永さんが聞いてきた。 正直、私のことなんてちょっとISを貸したやつだぐらいにしか思われていないと思っていたので驚いた。 【くまたん】に包まれているので顔は見えないが、こちらのことを気にかけてくれているのがよくわかり嬉しくなってしまう。

「あ、はい。 すごくいい感じです。 でも、結構長時間身に着けているのに、最適化とかされないんですね?」

 ISにはその性能を最大限発揮するために操縦者の特性に合わせ、ISが自己進化するようプログラムされている。 それが最適化や一次移行(ファースト・シフト)などの名称で呼ばれていることである。 織斑君も試合の時に一次移行もせずに戦い、負ける寸前で一次移行を終えたことにより、セシリアさんを窮地に追い込んだりしていた。
 だが、【神代】にはその兆候が一切現れない。 それなのにまるでもとから私に最適化されているかのようにフィットするのだ。
 一度だけ訓練用の打鉄に乗ったときは違和感がかなりあった。 なんていうのか、中指と人差し指をクロスさせた状態で人差し指を動かそうとすると、間違えて中指が動いてしまいましたって感じの違和感があったのだ。
 しかし、【神代】にはそれがない。 人差し指も中指も一切たがえることなく動かすことができる。 何とも不思議な感覚だった。




 もしかして、本当に【神代】は私のために作られたISなのでは? と割と本気で考えだしていた時、友永さんから答えと共に驚愕の事実が語られた。

「ん? 最適化はちゃんと行われているはずだよ? 【神代】は誰が使っても一定以上の効果が見込めるように作られているから。 誰でも一定以上の効果が得られるようにするために、最も邪魔なのが初期化なんだよね。 だから、【神代】はコアの初期化なんか一切していないんだ。 普通のISは、別の人が使うときにコアを初期化して、次の人物に最適化するよね? だから、本当に完全に真っ新な状態のISに乗っているわけ。 コアがため込んだ経験とかすべて無視して、初期化するんだよ? ひどいよね。 人間で言ったら60年生きてきた人格や経験を全否定されるようなものだから」

「そして、そんな真っ新なコアに最適化の時間や、一次移行の時間なんかが加わると、次の人に馴染むまでに時間がかかるでしょ? 赤ん坊に最低限の言葉を教えていくようなものだからね。 でも【神代】は違うんだ。 どちらかといえば、様々な人の癖なんかを無制限にため込んでいくって感じかな? よく似た癖なんかを記憶しておいて、それを次の操縦者にあてがって補完していく感じだよ。 データが多くなればなるほど次の人への馴染みが早くなって、より同じ成果を早い段階で実現できるようになっているって寸法さ。 目に見えて最適化とかはしないから感じないだけかもね」

「ただし、弱点もあって、完全にその人に合わせるわけじゃないから、細やかな調整はできないし、自己進化もしないから、二次移行(セカンド・シフト)もないよ。 一流にはなれても超一流にはたどり着けないって感じだね。 具体的に言うと、代表候補にはなれるけど代表にはなれないって感じ?」

 一気に説明してくれる友永さん。 一流にはなれても超一流にはなれない? それでも驚異的だった。 それが本当ならこれほど強力な武器もないであろう。 誰が乗っても代表候補生と同レベルの操縦ができるISなんて驚異以外の何物でもない。 量産がもしされれば世界の情勢が変わってしまうほどのものである。

「よし、お前たち次は急降下で降りてこい。 そして、地面から10センチのところで停止して見せろ。 言っておくが国家代表ともなれば簡単に行えるようなことだ。 代表候補生であっても誤差5センチ以内にはおさめられるぐらいに簡単なことだからな」

 【神代】について真剣に悩んでいる間に、織斑先生から次の指示があった。 慌てて下を向くと、織斑先生が腕を組んでこちらを見上げているのが見えた。 軽く腕を組んでいるだけなのにすごく様になっていてカッコいい。
 その横ではなぜかクラスメイトの隠れた有名人、篠ノ之 箒さんがインカムを握りしめてこっちをにらんでいるし、山田先生がわたわたしている。 山田先生からはきっと癒し成分が出ているんだと思う。 なんだかあのあたりのクラスメイト達だけ顔がゆるんでいるように見える。 ……あ、篠ノ之さんが出席簿でたたかれた。 あれはいつみても痛そうだなぁ。

「それではみなさん、お先に行かせていただきますわ」

 その言葉と共にセシリアさんが急降下を始める。 ハイパーセンサーから送られてくる情報で、猛烈な勢いで地面に近づくセシリアさんの様子がうかがえる。 上空200メートルを示す表示がガンガンゼロに近づいていく。
 このままではぶつかる!! と思った時には、セシリアさんが停止しており、高度を示す表示は114.115[mm]を示していた。 さすがは代表候補生。 きっちり誤差5センチ以内におさめてきたようだ。

 次に私が降下を行う。 ISの扱いに慣れていない私はどんな失敗を犯すかわからないので、無理を言って先に降下させてもらった形だ。

 ぐんぐん近づく地面に恐怖を覚えてしまう。 いくらISを着ているといっても怖いものは怖いのである。 地面が近づくにつれてブレーキをかける気持ちが強くなってしまい地上10センチには程遠い地上70センチの位置で止まってしまった。

「ふむ、初めての急降下と完全停止で1メートルをきってきたか。 度胸だけはあるみたいだな」

 小さくて聞こえづらかったが、確かに織斑先生がほめてくれていた。 まだまだ精進が必要だけど、嬉しかった。 次はもっといい操縦ができそうだと思う。




 私が嬉しさをかみしめていると、

「キャァァァァッ!! 危なぁぁぁぁい!!!!」

 明らかにオーバースピードで地面に向かって落ちてくる織斑君とそれを見て悲鳴を上げているクラスメイト達がいた。

「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」

 叫びながら地面に一直線に落ちていく織斑君は、飛行の感覚がまだつかめていないのか、咄嗟に機体を立て直すことができないみたいだ。 この位置からでは私もセシリアさんも助けることが叶わないため、クラスメイト達と共に、地面に激突する織斑君を眺めるしかできそうになかった。

「ぉぉぉぉぉぉぉぉ…………お!?」

 さすがに激突する瞬間を凝視できるわけもなく、目をそらしていた私の耳に届いたのはそんな織斑君の困惑の声だった。

 慌てて織斑君のほうを見ると、織斑君を足をつかみ上げ、地面との激突を回避させている【くまたん】の姿があった。




 みんなの驚きや歓声を聞きながら私は見ていた。

 織斑 一夏 10.002[mm]
 友永 風音 100.000[mm] の表示を……。



「よし、全員降りてきたな。 友永も合格だな。 しかし、友永……。 別に織斑のことを助ける必要はなかったぞ。 こういったバカは一回地面に激突させてやるほうがそいつ自身のためになる。 地面にクレーターぐらいはできるだろうが、そんなものは作った張本人に埋めさせればいいだけだからな」

 相変わらず辛辣な一言と共に今回の授業は終わりを迎えた。 
 

 
後書き
ネタ解説

今回は漫画などのネタを放り込んでいないので人物ネタですが、

文部 紀亜良:早口言葉のように読んでみればおのずと答えが……。

巴田 千代:そのまま読んでいただければ……。

この二人ですが、なんか動かしやすそうなキャラなんで、ちょくちょく登場するかも……。
車車さんと同レベルの登場回数を誇ることになりそうです。

あと、ネタ解説ですが、『これネタじゃない?』っていうのや、作者がわかっていないネタとかありましたらこっそり教えてください。 手段は問いません。




あ、伝書鳩だけはやめてください。 どこに飛ぶかわからないので……。 
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