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トーゴの異世界無双

作者:シャン翠
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第九十九話 ミラニとシャオニの連携は大丈夫か?

「ん? ああ、タイセーのこと?」
「いや、この試合のパートナーだ」
「うん、せやからタイセーのことやろ?」
「…………もしかして、クジでも一緒になったのか?」
「そ、残念やけどな」


 呆れるように言う彼女を見てミラニは苦笑する。


「相変わらず君達の繋がりは深いな」
「セイラは不快なんやけどね」
「ふふ、その物言い懐かしいな」


 ミラニは懐かしさに微笑して言葉を出した。


「それでは、そのタイセーはどこだ?」
「さあ? 用を足してくるとか言ってたし、そのうち来るんちゃう?」
「そんな適当な……」
「あ、ほら来たで」


 セイラの言った通り、舞台に向かって来る人物がいる。
 その人物はミラニ達の所まで来ると、何食わぬ顔でこう言う。


「ごめんセイちゃん、途中で小腹すいたから飯食ってた」
「はあ? アンタ、用足しとか言ってへんかったっけ?」


 怒ったように顔を歪め言葉をぶつける。


「いや……まあ、そんなんやけど、その、まあ……」
「謝って」
「え?」
「謝って」
「…………ごめんなさい」


 それからしばらく説教が続いている。
 その二人のやり取りを見ていたミラニは、あまりの懐かしさに自然と笑みを零(こぼ)す。
 この二人はいつもこうだと、呆れながらも何だか変わらない二人を見て嬉しく思う。
 すると今まで蚊帳(かや)の外だったシャオニが、ミラニに近づき声を掛ける。


「ねえ団長ちゃん、あの人達と知り合いみたいだけどぉ、どんな関係?」
「貴様などに教えるものか」


 平然とした態度で物を言う。


「も~何でそゆこと言うの?」


 口を尖らせたシャオニは文句を言う。


「貴様、クィルさまにしたことを忘れたのか?」


 そう、彼女と初めて会った時、彼女は闘悟達に攻撃をしてきた。
 その時は闘悟とミラニがいたので、クィルに被害は及ばなかったが、もし彼女の攻撃を防げていなかったら、クィルにも届いていたのは間違い無かった。


「本来なら首をはねられる行為だ。それをクィル様の寛大(かんだい)な御心(おこころ)で許容されていることを理解するのだな」
「む~だから、あれはキミ達の実力を見たかっただけなんだってぇ!」
「それでも貴様が王族を危険に晒(さら)したのは事実だ」


 ミラニはかたくなにシャオニを否定する。
 しばらくそんなミラニを見つめていた彼女は、何かを思いついたように目を光らせる。


「…………ホントにそれだけ?」
「は?」
「もしかしてぇ…………私がトーゴちゃんにちゅ~しちゃったこと気にしてるとか?」
「な、なななな何を言っている!?」


 ミラニの狼狽(うろた)えぶりを見て、さらにキランと瞳を輝かせる。


「あの時のトーゴちゃん、照れちゃって可愛かったなぁ~ね? 団長ちゃん?」
「し、知らん!」


 ミラニはそっぽを向く。


「フシシシ、そぉんなに気になるならぁ……団長ちゃんもしちゃえばぁ……ちゅ~」
「なっ! そ、そ、そのようなことができるわけないだろっ!」


 顔を真っ赤にして怒鳴る。


「フシシシ、あの人に団長ちゃんが男の子のことに悩んでるって言っちゃおっかなぁ~」


 未だ説教をし続けているセイラの方へ指差す。


「き、き、貴様ぁ……」


 羞恥心と焦りと怒りで体を震わす。


「じゃあさ、言わないであげるから、あの人達のこと教えてよ? それでチャラってことで……いい?」


 どこがチャラなのだと言いたいミラニだが、確かにあることないこと吹き込まれるのは困る。
 タイセーはともかく、セイラはそういう話題が大好きなのだ。
 男っ気の無い自分が、男のことに悩んでいるなんて、たとえ作り話だとしてでも、必ず追及してくる。
 その時の彼女の面倒臭さは、ミラニがよく知っている。
 ミラニは仕方無く涙を飲んでシャオニの要求に従った。


「だ、だが約束しろ! 絶対教えないと!」
「おっけ~! 絶対教えないよ!」
「言質(げんち)を取ったからな!」


 ミラニは少しホッとしていたが、シャオニは心の中でほくそ笑む。


(うん、絶対言わないよ…………彼女には……ね)


 そんなシャオニの心の声には気づかないミラニが説明をし始める。


「とりあえず名前から教えよう。今説教をしている女性がセイラ・オルバーン。そして、正座させられて説教されているのはタイセー・オルバーンだ」


 先程まで立って説教を受けていたはずなのだが、多分口答えか何かしたのだろう、今セイラに向かって正座している所を見ると本当に懐かしさが込み上げる。
 タイセーも二年前とほとんど変わってはいない。
 年齢は二十一歳なので、セイラより若いが、身長は彼女と違い高く、百八十は超えている。
 ヒョロヒョロとした体格で、目も細いが、ああやって焦り笑いをしながら頭を掻(か)く仕草を見ると愛嬌を感じる。


「オルバーン? もしかしてキョウダイ?」
「いや」
「だよねぇ……全然似てないし……それなら……」
「夫婦やで!」


 突然二人の間に入ってきたのは、説教を受けてたはずのタイセーだった。
 自慢するように胸を張って二人の目の前にいた。


「夫婦? ああ、なるほどぉ~」


 シャオニは大きく頷き納得した。


「でも夫婦でパートナーだなんて、クジ運あるんだねぇ」
「クジ運やないで?」


 タイセーが思わせぶりに微笑む。


「え? どゆこと?」


 興味深そうにシャオニが聞き返す。
 だがミラニとセイラは溜め息を吐きながら二人を見つめている。


「ふふふ、それは……」
「それは?」
「……愛や」


 物凄い良い笑顔でそう言葉を放った。
 シャオニも瞬間言葉を失ったように固まる。
 ミラニとセイラは呆れたように肩を落としている。


「ほら見てみ?」
「へ?」


 タイセーが指差した方向にはセイラがいる。


「俺の嫁やで」
「う、うん、知ってるけど?」
「めっちゃ可愛ええやろ?」
「…………」


 もう何て言ったらいいのか分からず、その場にいる者は、愉悦(ゆえつ)に浸(ひた)っているタイセーを可哀相に見つめている。
 そんな視線に気づかずタイセーは次々とセイラの自慢話を続けている。
 さすがに止めなければならないと感じたのか、セイラがタイセーの頬を叩いて大人しくさせる。


「な、何でセイちゃん!?」


 殴られた理由を問い質(ただ)す。


「ええ加減ウザいから」


 その瞳に殺気を込めた真剣さを感じたのか、タイセーは不満を漏らさずそのまま大人しくなった。


「ごめんなミラニちゃん。それにそっちの……」
「シャオニだよ」
「シャオニちゃんやね、ごめんな」
「ううん、いいよいいよ! でもホントに結婚してるの?」
「まあ、不本意ながら」


 セイラはそう言うが、微かに頬を緩ませていることはミラニは気づいている。
 二人と親しいミラニには、こういうやりとりは日常茶飯事だということを知っている。
 それに、二人が強い絆で結ばれていることも知っている。


「ん? そろそろ始まるみたいだな」
「そやね」


 モアの実況が観客の注目を引きつけている。
 そろそろ始まるので、準備をしろとのことだ。


「さてと、それでは試合方式を決めようか?」


 ミラニが代表して言葉を放つ。


「交代ありのタイマン方式は?」


 提案をしてきたのはセイラだ。


「ん? 私は別に構わないが」


 シャオニに視線を送る。
 彼女もその方式に納得したようで頷く。


「だが本当にそれでいいのか?」
「ええで」


 ミラニは少し考えて、一言だけ言う。


「分かった」
「んじゃ舞台行こか?」
「交代はタッチでいいのか?」
「うん、それでええで」
「セイちゃんは俺が守るで!」
「やかましいわ!」


 いきなり叫んだタイセーの頭を叩いてまた黙らせる。


「フシシシ、面白い人達だねぇ」


 シャオニはそう言いながらセイラ達を見つめる。


「だが油断はするなよ」
「へ?」
「ああ見えて彼女達は強いぞ」
「そうなの?」
「二人だけのギルドパーティ『笑う森(ラフィングフォレスト)』。それが彼女達のもう一つの顔だ」
「へぇ、聞いたことあるよ。どちらもギルドランクBランク。だけどパーティランクはAランクらしいね」


 その通りだ。
 セイラ達は、個人ではBランクのギルド登録者だが、パーティでの強さランクではAランクに位置付けられているのだ。
 それだけチームとしての連携力が高評価ということだ。
 先程ミラニはセイラの提案した方式に疑問を感じて聞き返した。
 その理由は、交代制にすれば、その連携力も半減するのではと思ったからだ。
 ミラニは彼女達の闘い方を知っている。
 特に素晴らしいのは二人が連携して同時攻略に挑む時だ。
 だが交代制にすると、それは叶わない。
 どうして、自分達に不利な提案をしたのか気になったが、こちらとしては助かるので追及はしなかった。
 今舞台を挟んで両者が対面する。


「さあ! 両陣営、準備はよろしいですか!」


 モアの声が響き、ミラニはシャオニに視線を向ける。


「最初は私が行ってもいいか?」
「いいよぉ~」


 ミラニは了承を得て舞台に上がる。
 向こうも一人舞台に上がってくる。


「最初はセイラか」
「行くでミラニちゃん」
「ああ、互いに全力でな」


 互いに視線を強くぶつける。


「いいですか! それでは……」


 モアの次の言葉を誰もが待つ。


「始めぇっ!!!」

 
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