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ジークフリート

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第一幕その十四


第一幕その十四

「こいつに恐れを教えればだ」
「何をぶつぶつ言っているんだ」
「そうすればいいのじゃ」
 彼はこのことに気付いた。
「そうすればわしの首は安泰じゃ。愛することを教えなくてもよかったのじゃ」
「それでミーメ、一体何を言っているんだ」
「御前のことじゃよ」
 ジークフリートも顔を向けて答えた。
「御前のことを考えておったのじゃよ」
「僕のことだって?」
「そうじゃ」
 こう答えてみせるのだった。
「御前のことをじゃ」
「僕の何について考えていたんだ」
「わしは恐れを知っている」
 まずはこのことを告げた。
「しかし御前はそれを知らん」
「それがどうしたんだ」
「どうかしたのじゃ。それを教えてやろう」
「恐れって何なんだ」
 やはり彼はそれを全く知らなかった。
「それは一体」
「それを知らないで森の外に出ようというのか」
 ミーメは呆れた声を出してみせた。
「全く。困った奴じゃ」
「困ったら何かあるのか」
「あるのじゃよ。いいか?」
「ああ、何だ?」
「これは御前のお母さんが言ったことじゃ」
 話巧みにこう言ってみせた。
「そしてわしは約束したのじゃよ」
「母さんにか」
「そうじゃ。御前が恐れを知るまでは森から出してはならんとな」
「そんな約束をしていたのか」
「そうじゃ。真っ暗な森の中や黄昏の暗い中で遠くで何かがざわめき妙な音や呻き声がして」
 その森の中のことである。
「何かがちらちらと光り自分の周りを飛んでそうしたことが次第に近付いて来ると」
「全部何かわかっているさ」
 ジークフリートは既にそれはミーメから教えられていたし知っていたのである。
「そしてどうにでもできるから怖くはない」
「ぞっとしたり身の毛のよだつものはなかったのか」
「そうしたことはないな」
 それがジークフリートだった。
「全くね」
「では激しい旋律や心が乱れたり気が重くなったりはじゃ」
「ないね」
 それもないと答えるのだった。
「全く」
「胸の中が震えたり心臓が激しく鼓動することもか」
「随分変わったものなのは間違いないんだな」
 ジークフリートにわかるのはこのことだけだった。
「そういったものか」
「では全く知らないのか」
「全くね」
 知らないとはっきり答えるのであった。
「しかしそれをどうやって僕に教えてくれるんだ?」
「それはじゃな」
「御前みたいなのが僕にそれを教えられるのか?」
「それはじゃな」
「教えられるんだな」
 ミーメを睨み据えての言葉だった。
「僕にその恐れを」
「そうじゃ。教えられる」
 彼は言い切った。
「間違いなくじゃ」
「ではどうやってなんだ」
「ついて来るのじゃ」
 こう告げるのだった。
「わしにな」
「ついて来るだと?」
「そうじゃ」
 ジークフリートを見ながらの言葉だった。
「その通りじゃ。ついて来るのじゃ」
「何処にだい、それで」
「この森の奥に一匹の竜がいる」
「そういえば御前は前にちらりと言っていたな」
「かなり奥じゃ」
 こう断ってさらに言うのであった。
 
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