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ファイアーエムブレム~ユグドラル動乱時代に転生~

作者:脳貧
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エンディング3・彼女の手記

 グラン歴757年に起きた紛争は歴史上ではほんの小さな事件に過ぎないのだろうけれど、あたしにとっては大きく重すぎる経験をもたらした。
 彼が居なくなってしまったことなど関係なく、イザークの王様達、それに援軍としてやってきた彼のお兄さんとによって紛争の後始末はどんどん進んで行った。
 グランベルのクルト王子もそれからほどなくしてやってきて、仲介とか主導のような役割を果たされました。
 どこの国に非があるとかそんなことはなんにも追求されず、ドズル公国とヴェルトマー公国は莫大な『見舞金』をダーナとレンスターに支払うことになったようです。
 そして、その一部がイザークに支払われると………。
 彼はそんなことの為に戦ったみたいに国同士の関係では評価されたみたいであたしは悲しかった。
 




 レイミアはみんなの前ではいつも通り気丈に振る舞っているけど、夜はいつも泣いている。
 どうしてそんなことがわかるのって? あたしも一緒だからだもの。
 彼と最後まで一緒に戦っていたイザークの王子様………もうじき譲位を受けて王様になるそうだけど

「古今東西、彼に及ぶ者は二度と現れないほどの見事な戦いぶりでした。 そして、イザークでは彼のような勇猛で知略に優れ、士卒に慕われる見事な方を友と出来たことに国を挙げて感謝申し上げます」

 そんなふうに大絶賛してくれたけれど………。 
 卑怯者でずる賢く吝嗇で臆病で……なんて悪口しか言われなくてもいいから彼に帰ってきて欲しかった。
 ううん、帰ってきてほしい。
 マリクル王子には何の恨みも何も無い、生きて戻られたのは本当に良かったと思う。
 でも、彼が居なくなってマリクル王子が元気なのを見てしまうとあたしは心が醜くなってしまう。




 
 最初はバルキリーの杖で彼に帰ってきてもらおうとお願いしてもお兄様は聞き届けてくださらなかった。
 戦で亡くなる者が出るのはあやまちでは無いからだと。
 そういう当然のことを捻じ曲げて安易に人を甦らせることのほうがあやまちなのだと。 
 理屈ではその通りなのはあたしでもわかる。
 それにお兄様がそうおっしゃるのだし……あたしは耐えた。
 でも、そんなある日あたしの様子がおかしいと……その時のあたしはそんなことは無いと思っていた。
 もう食べたいと思っても食べられない彼を差し置いて食事なんてしてはいけないって思うし、たくさんの怪我人、家を焼け出された人達、そんな人たちが助けを求めているのに眠っている時間なんかあったら一人でも多く助けなければならないと。
 その時のあたしはそんな精神状態になっていて体はボロボロだったみたい。
 そんなあたしを見かねてお兄様は禁忌……だったと思うのに……彼の為に杖を使ってくださった。
 教条主義に陥り、杖を使うべき時に使わないのもあやまちなのだと……。






 ───────とても美しい真っ白い騎士が現れて、復活の儀式に立ち会ったみんなに告げたの。
 彼には真の名があるので彼の名で復活を求めてもそれは応じられない。
 真の名を知っている者は居るのか? と。
 お兄様、あたし、レイミアにエーディンさんは彼が別世界から遣わされたって事は確かに知っていた。
 でも、そこで名乗っていた名前までは知らなかったし……それに………知ろうともしなかった。
 思い切りハンマーで頭を叩かれたような……そんな衝撃を受けた。
 彼のことを愛する気持ちは誰よりも一番だと思っていたのに全然そんなことは無いのだと……





 白い騎士……ヘルと名乗られたその女性はあたしたちを哀れに思って慈悲をかけてくれた。 

「この場での復活はまかりならんが、別の世界、別の時であるならばそれを神に諮ってみよう」

 みんな黙って考え込んでしまったけど、話し合って彼の奥さんであるレイミアに全てを任せたの。
 だって、それが当たり前だよね……
 しばらく彼女(レイミア)は考え込んでいたけど、こう言ったわ。

「……生きていてくれさえすれば……それでいいよ。 ミュアハがどこかで生きていてくれたらそれでいい……」
「……ならば、この件引き受けた。 彼の地でまた相まみえようぞ、人の子らよ」

 その言葉を残して白い騎士は彼の亡骸と共に跡かたもなく消えてしまった。
 これはあやまちではなかったようでバルキリーの杖は壊れることなく輝きを放ったままだった。
 もう会うことは出来ないのだろうけど……彼がどこかで生きているなら………そう思えるようになるまで時間はかかったけれど、あたしは立ち直ることが出来た。
 




 あたしは死ぬまでレイミアの身の回りのお世話をさせてもらうつもりだった。
 でも、彼が居なくなったあの日、運ばれて来た彼の体を見てレイミアは両手で抱き着いて泣き続けたの……。
 お医者様の見立てでは左腕はまだ可能性があったけど、右腕は、指先以外動かせないって話だったのだけど……。
 その日以来、レイミアの腕は日増しに良くなっていって、すぐに身の回りのことは何もかも出来るようになってしまった。
 あたしが彼女に果たせる責任が無くなってしまうのかと思っていたら……彼はレイミアに贈り物をしていったみたいで……そう、おめでたです。
 今と後の世に生きる彼と彼女を貶めたい人達に宣言します。
 レイミアがあの時助け出されてからこの慶事が判明したのは五か月近く過ぎてからだし、無事に生まれてきたフゥノスには生まれつきノヴァの聖痕がありました。
 間違いなく彼とレイミアの子です。





 彼のお兄さんとイザーク王達の強い勧めで、あたしたちレイミア隊はレンスター王国へ渡った。
 ……彼のお兄さんは彼のお父さん、つまりレンスターの前王カルフ陛下ね、から勘当と王位継承権の停止を宣告されてまで助けに来てくれたのだと後から知ったの。
 跡継ぎの子が居たからだろう? なんて言い方をする人もいるだろうけど、あたしは違うと思う。
 もし、彼のお兄さん、今のキュアン王が独身だったとしても助けにきてくれていたと思う。
 だって、レンスターに渡ってからの孤立無援なあたしたちを一身に庇ってくれたもの。
 あたし達に敵対的あるいは冷淡だったレンスターの貴族社会も、レイミアが出産してからは掌を返すようにへりくだってきたけれど、聖痕は捏造によるものでは無いかと主張する人達はもちろん居た。
 そんな時、お産に立ち会ってくれたセルフィナっていう有力貴族の娘さんがやりこめてくれた。
 彼女も彼の事を想っていた、そう知って初めはわだかまりがあったわ。
 だけど、何かの機会でお互いに知らない彼の事を話して、語りあって、今ではいい友達同士になれたと思う。
 今、あたしがしていることも彼女とのこの出来事が切っ掛けであったのかもしれない。




 彼の遺領はフゥノスが受け継ぐことになって、コノート王国との国境に近いそこへ皆で越した。
 その当時は大変で、もう毎日が嫌なくらいだったけど、今になるとかけがえの無いいい思い出になってしまうのはあたしも歳をとったからなんだよね。
 赤ちゃんが居る生活ってほんと、そうなんだ。
 当事者にとっては毎日が修羅場で戦場だったけど、世の動きとしては穏やかな毎日。
 レイミアは面識あったみたいだけど、彼の領地をずっと切り盛りしていたレンナートって片足の騎士は彼の話をよくしてくれた……この人にとっても彼は特別な人だったんだね……。

 そうそう、その暮らしに至る前、当時のクルト王太子がフリージ家からお嫁さんを貰って、アズムール王はこの慶事を祝い、ユグドラル大陸の真の平和のためだとかいろいろもったいをつけてだけど、ロプト教徒であっても法に叛かなければ処罰をしないと布告したの。
 反発する国もあったけど、それを理由に戦が起こったりはしなかった。
 ロプト教徒の中ではこれを受け入れる勢力と初志を貫き世界に仇して行くを良しとする者達に大きく分かれたって生き残りから教えてもらった。
 ロプト教徒の中でも武力によって世界を滅ぼすって人たちは、あたし達の知らない間にコノート王国、当時のレイドリック公爵の元に集まっていた。




 領地の見回りをしていたベオは……ベオウルフはコノート王国の王妃さまを保護してきた。
 その前の月、コノートの王様が病気……ということになっていた……で、亡くなってからというもの国王夫妻の間に生まれ……唯一生き残っていた姫様を娶りたいと強要してきたレイドリック公爵だったけど、王妃さまが色々と理由を付けて認めないものだから実力行使に及んだので逃がれて来たと仰いました。
 姫さまは逃亡中に亡くなってしまわれ、コノート王国は正統な継承者が居ないことになり、トラキア半島は一気に戦争と政争のただなかに進んでいったのを今でも覚えてる。
 北トラキア諸国の会議は何回も開かれ、コノートの代表としてレイドリックと……おなかが大きくなってきた王妃さまとの間で議論の応酬が何度と無く行われたと耳にしてる。
 ……王妃さまを保護してきたのはベオだし、のちに太后となられた王妃さまの愛人にしてコノート国軍の総司令にベオがなったものだから、コノートのフェルグス王のことをベオウルフと王妃さまの子であると主張する人たちがいるのは理解できます。
 でも、王妃様はカール王との間の子だと仰るのであたしはそれを否定する気はありません。



 そんな中、ミーズ城を巡る小競り合いが起き、それに端を発して戦争が起きてしまった。
 コノート王国継承戦争って呼ばれるこの戦で、レイドリックは敗れ、コノートは王妃様が国を離れてからお産みになった、今のフェルグス王が継承されている。
そしてトラキア王国が北トラキア連合に加わることになり、トラキア半島全体がゆるやかな共同体を形成した。
 歴史の年表ではこれだけで終わってしまうことだけれど、その当事者となっていたあたし達にとってはそんな物では済まされない日々でした………。
 先述の通り、ベオはコノート王家に仕えることになり……そして、あたしたちレイミア隊はカパドキア城とルテキア城を奪い取った。
 戦後の諸国会議の結果、ルテキア城は返還したけどレイミアは前トラキア王の娘であることを主張してカパドキア城とその周辺領を勝ち取った。
 単一政体でのトラキア半島の統一こそ実現しなかったものの、彼やトラバント王が目指した"豊かな北の食糧生産によって養われた労働力で南の鉱山資源の開発推進"は順調に進んでいる。
 トラバント王は"不撓不屈"と言われ、支配下の地域ではとても人気が高い。
 ……でも、この人の治めるトラキアの人達からいろいろと話を聞くまでは彼を奪った諸悪の根源とさえ思い、憎み、恨んでさえいた。
 ううん、今でもそうだと思うけど、時間の経過がまた違う思いを抱かせた。
 この人から見た彼の話を聞いてみたいって……。
 ほろ苦い表情を浮かべて語るこの人は、レイミアが言うような偏狭な人物では無かった。
 先入観が逆のバイアスになって、この人を必要以上に評価してしまったかも知れないけど……。
 それか、彼を手にかけた者なら極悪人、あるいは状況が許さずやむなくそういう道を選んだ人であるって思いたかったからなのかも知れない……。




 彼の足跡を訪ねてヴェルダン王国にも渡った。
 とても美しい国で、彼が側にいてくれたらもっと……なんて思ってしまう。
 ガンドルフ王は彼の訃報を自分の身内のことであるかのように悲しんだと王弟のキンボイスは言ってくれた。
 彼が遺して行ってくれた警告のおかげでサンディマというロプト魔道士に国政を壟断されずに済んだとも……。
 このヴェルダン行きにはお忍びでグランベルのディアドラ王女も同道しています。
 クルト王はご成婚後、なかなか子宝に恵まれず……生まれても幼いうちに亡くなるなど……。
 第二とか第三夫人まで迎え、跡継ぎの確保に懸命だったのだけれどどうしても上手くいかず……憶測や推測で書いてはいけない様々な事があったとしかあたしからは言えません。
 それはともかく、彼女とあたしはお互いグランベルの貴族社会とかけ離れた環境で生まれ育ったという妙な親近感を感じたのもあるし……彼女も彼に淡い想いを抱いていたみたいで、ほんと、彼は行く先々で………ううん、そういう惹きつける人だからあたしも……なのかな。
 



 もうずいぶん前になるけどシグルド様とエーディン様が一緒になったお祝いのあとのヤケ酒に付き合わされてから、アゼルとはちょっとした関係になってしまった。
 お酒の勢いだったし気にしなくていいって言ったけどアゼルったら"そんな無責任なコトは出来ない"って。
 彼みたいなコト言うんだもん……。
 あたしの心にはずっと彼が居るから駄目だよって言っても、彼をずっと想っていてももいいってあんな柔弱そうな見た目とは思えないくらい情熱的に迫ってきてあたしもぐらっと来るものはあったからね。
 そうして、これだけの時間が過ぎても変わらないアゼルの気持ちに応えるためにも、自分の気持ちの整理のためにも、彼の行跡を辿り、綴っている。
 彼とアゼルの共通の友人であるレックス公子はどうしているかと言うと、今、あたしの護衛という名目でこの旅に加わっているの。
 もちろん他にもヴォルツ、マディノはその後アグスティの直轄地になって自治権が奪われ、傭兵隊が解散させられてしまい、ジャコバンは甥のジャバローとその家族を連れてきて……その二人も今一緒です。




 ブリギッドさんはレイミアとウマが合うみたいで、今は彼女の領国でとある開拓村の村長をやっている。
 でも、さすがに公女ブリギッドではまずいってことでエーヴェルと名前を変えて身分も隠してなのだけどね。
 その開拓村を開設するとき、レイミアが育った村から応援に来てくれた人たちが沢山いたのだけど、あたしや彼と同年代くらいで働き盛りなのに自分たちの村はいいの?って思った。
 疑問に思うだけじゃなくて聞いてみたらそのことよりも彼のことに興味を示していろいろと聞かれたの。
 彼には文字や計算、他にも色々と役立つ知識を教えてもらったって懐かしそうに言われたわ……。
 ……いろんな所に彼は置き土産をしていったんだね。
 あたしだって、あの時、彼に習っていなかったら未だに読み書きも出来なかったろうしね……。
 


 この手記を書くための旅の出発地で終着地、ダーナに戻って来た。 
 三年とか五年周期であの紛争の慰霊やダーナにとっては勝利を祝う式典が行われるのだけどその席で二人は出会った。
 初めはフゥノスのほうが一目ぼれだったみたいだけど、今ではクルト王のほうがぞっこんで、居を変えるのを嫌がる彼女のわがままにも不満が無いみたい。
 四十近く違うものだしレイミアはもちろん、あたしだって反対した。
 

「母さまだって十五も年下の父様と一緒になったのに、私は認めないなんて身勝手過ぎます!」
「それにしたって離れすぎだよ! だいいちミュアハとアタシの歳の差は十四なんだし! それに正確に言うなら十三年と十一ヶ月だからね!」
「それなら私だって………三十八年と九ヶ月しか違わないもの!」 
「アー、もう。 シルヴィアからも言っとくれよ!」
「そうよ、フゥノス。 陛下はたしかにお歳に比べ若々しいけど……人の身である以上、あなたを残して先に逝かれるのはわかりきっているのだから……」

 
 あたしがこう言った時の彼女の表情は今でも忘れられない。
 だって、彼に言い負かされる時と同じなんだもん………。

「母様、それにママ姉、父様は母様よりもずっと年下だったのに先に天国に行かれたでしょう? だからその理屈は通用しません!」
「……っとにこの子は! 誰に似た! じゃ無いよ……あいつそっくりで……」

 レイミアはそう言うと泣き出してしまい、あたしも貰い泣きしてしまった。
 泣き出したあたしたちにフゥノスはごめんなさいって謝って、三人で泣き続けた。
 ……小さい頃レイミアのことは母様、あたしのことはママって呼ばせていたせいでママ(ねぇ)なんて変な呼ばれ方であたしは彼女に呼ばれている。
 結局、彼女にはあたしもレイミアも弱いものだから黙認することにしたんだ………。
 

 彼の遺したものを求める旅にはこれで一区切り。
 でも、また行くつもりです。
 時が経てば、また違った物の見え方だってするのだし!




 


 この旅で集めた沢山の人達からいただいた証言や資料をもとにして、彼、『ミュアハ』の出来るだけ正確な記録を記し、後世に伝えたいと思います。
 この手記はあたしの、その決意表明文です。
 

                  グラン歴773年 記 シルヴィア・ブラギ・エッダ

 --Fin--

 
 

 
後書き
ここまでご覧いただきありがとうございました。 
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