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ちょっと違うZEROの使い魔の世界で貴族?生活します

作者:うにうに
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本編
  第21話 そうだ、王都へ行こう

 こんにちは。ギルバートです。調子に乗り過ぎました。あの後何故か、私だけが怒られました。現場責任者って辛いです。

 鍛冶場が始動して、少しの時間が流れました。やはり鍛冶職人の不在は大きく、鍛剣の製造(実戦で使えるレベル)は不可能でした。しかし、驚いた事に大きな黒字が出たのです。

 先ずは支出ですが、炭用の安価な木材と二束三文で買叩ける砂鉄のみだったので、元々大きな赤字が出るリスクは無かったのです。(炭素の粉は私の《錬金》による自作なので只です)

 剣に関しては、《錬金》で作った物を順次守備隊に支給しています。作り自体は鋳造品の安物と変わりませんが、使っている鋼が最上品と言っても良い出来なので、流通品から見ると上の下から上の中の品質を誇っています。守備隊の評判も非常に好評です。ガストンさん個人としては、目標達成と言って良いでしょう。まあ、作れば作るほど赤字なのですが……。(ドリュアス家からはお金が取れない)

 大きな利益を出したのは、炭の方でした。父上と作った試作品は、薪より少し上の値段で買叩かれたらしいのですが、その後やたらと炭を要求してくる商人がいたので調査したそうです。すると貴族相手に、信じられないほど高い値段で売れていました。

 今の家庭用燃料は薪が主体ですが、貴族階級に限り炭が待ったをかけた形になります。

 貴族達は暖かな光と持続力の有る熱に加え、煙が出ない事が受けた様です。赤外線効果で、料理も美味しく焼けますし。ある意味で炭は、薪とコークスの良い所を併せ持った燃料と言えなくも無いですから。……私の売り文句が、そのまま受け入れられた事になります。

 ためしに王家に献上した所、定期的に納める様にお達しがありました。お陰さまで物凄い高い値段で、飛ぶように売れる様になりました。他の商会が対応するまで、マギ商会が炭の販売を独占する形になったので、ドリュアス家の後ろ盾もあり一気に一流商会の仲間入りを果たしました。

 日頃のお礼を兼ねて、ヴァリエール公爵とモンモランシ伯爵に炭を送りました。公爵からは、お礼の手紙と購入依頼が来ました。伯爵からは、お礼の手紙だけでした。(借金きついのかな?)

 こうなると真似される前に、どれだけ儲けられるかが勝負になります。大型の炭焼き釜を三つ作り、大量の木材を購入。人材は一時的に、ドリュアス家の使用人から出しました。大量の炭を作り、マギ商会から市場に全部流しました。(ついでなので、七輪や木炭コンロも《錬金》で作り同時に売りました)

 やがて炭人気も落ち着き、真似する者も増え価格がガクンと落ちると、無茶な儲けは出せなくなりました。(最終的には薪の十倍程度の価格に落ち着きました)それでもマギ商会の炭は、効率良い生産力と王家御用達のブランド力を武器に、殆どのシェアを獲得する事が出来ました。

 ブランドとしての力を確固たる物にする為、ポールさんには白炭(備長炭)の開発を依頼しました。作り方の概要だけ説明しましたが、ポールさんは絶対安定生産すると燃えていました。

 お陰さまでドリュアス家はかなり潤いました。今後も定期的な収入を、見込む事が出来ます。ありがたい話です。白炭(備長炭)が安定生産出来れば、更に儲かります。(マギ知識に感謝です)



 この1年で収入も増え、確実に黒字が出せる様になりましたが、高等法院と渡り合うには全然足りません。炭を作るのに大量の木材も必要になり、ますます魔の森を如何にかしたくなりました。領地の方も落ち着いたので、本格的に活動を開始したいと思います。

 しかしドリュアス家にある新しい資料には、解決に結びつく様な情報は見つけられませんでした。現場に入れない以上、更なる資料が欲しいです。特に私が欲したのは、魔の森最古の地図です。これを見れば、発生源がある程度絞れると考えたからです。(発生源がホイホイ移動できるとは思えない)そして発生源が分かれば、原因が特定できる可能性が高いと思ったからです。早速父上を探して、古い資料が収められた場所を聞く事にしました。

 父上は執務室に居ました。早速突入して陳情します。

「父上。お願いが有ります。魔の森の古い資料を観覧したいのです」

 私の突然の願いに、父上は訳が分からないと言う顔をしました。私はかまわず続けます。

「知りたいのは二点です。第一に魔の森最古の地図です」

 この一言で父上も、私の言いたい事を理解したようです。父上は大きく頷きました。

「第二に魔の森拡大前後に、ハルケギニアで何かしらの事件が無かったか知りたいです」

 父上は、ここで“何故?”と言う顔になりました。

「例えば、何らかのマジックアイテムが盗まれた。精霊を怒らせた。珍しい幻獣の目撃報告。等です」

 私の言葉に合点が行ったのか、父上は大きく頷くと口を開きました。

「あるとすれば、……王軍資料庫か王宮資料庫だな。だが望みは薄いかもしれん。千年以上も前の資料になる筈だからな」

「いえ、魔の森は現在進行形の案件です。資料を処分する可能性は、低いのではないでしょうか?」

 父上は頷くと、私を連れて王都へ行く事を約束してくれました。



 王都に出発する前日に、マギ商会から鍛冶職人発見の連絡と、職人の資料が届きました。私は小躍りしたくなるほど嬉しかったです。実はハルケギニアで鍛冶職人は、非常に希少な存在だったのです。ハルケギニアの剣製は殆どが鋳造で、鍛造は一部の超高級品以外に無かったのです。

 ここで、ふと疑問が浮かびました。普通に考えて、腕の良い鍛冶職人は金の卵です。領主や組合が、簡単に手放すとは思えません。

(訳有りでしょうか?)

 そう思って資料をめくると、それはすぐに分かりました。

 鍛冶職人サムソンは、娘のアニーと弟子であり甥のパスカルと貴族から逃げていたのです。理由は娘のアニーでした。まだ13歳のアニーを、貴族が差し出せと脅して来たのです。それが如何いう意味か、分からないサムソンではありませんでした。妻を早くに亡くしたサムソンには、とても承服できない事でした。パスカルは早くに両親を亡くし、サムソンを父の様にアニーを妹の様に思って、大切にしていたそうです。当然の様に、パスカルは逃げる事を強く主張。サムソンが同意し、アニーが押し切られる形で夜逃げを敢行。しかし逃亡中に手配がかかり、追い詰められた所でマギ商会の人間が助けたそうです。

 資料の最後には「ドリュアス家が拒否した場合、この家族は逃がします」と、書かれていました。しかし資料の日程を逆算すると、既にこちらに向かって護送中です。(絶対に断らないって確信してるな。……そうだけど)

 私は父上と母上に資料を見せ、一応の了承を得ると、速く連れて来るように指示しました。



 鍛冶職人を出迎えられないのは残念ですが、いよいよ王都に向けて出発です。原作知識では、狭くてあまり良い所では無いと言う印象がありますが、初めての王都なのでやはり楽しみです。

 王都と言えば、『魅惑の妖精』亭ですね。タルブ村関係者の店でもありますし、原作キャラのジェシカにも会ってみたいです。後怖いもの見たさで、スカロン店長にも……。王都の情報を集める為にも、木炭コンロと炭でもプレゼントするのも良いかもしれません。(何か利用するみたいで、ちょっと気がひけますね)

 取りあえず、父上に王都の印象を聞いてみました。

「父上。王都は如何いう所なのですか?」

「そんなに良い所では無い。ごみごみしているし、表通りにはいないが浮浪者も多い。ハッキリ言って、ドリュアス領の方が何倍も豊かだ」

 父上は誇らさと憂いが混在した、微妙な表情をしていました。

(今が4月(フェオの月)末だから……調べる物を調べて、来月(ウルの月)中か再来月(ニューイの月)頭には帰還したいですね)

 私はそんな事を考えながら、父上のグリフォンに跨り父上の背中にしがみつきました。帰りに資料を詰め込む大型ボックスには、結局木炭コンロと炭がぎゅうぎゅうに詰まっています。



 朝早くにドリュアス領に出発して、到着したのは夕刻でかなり暗くなっていました。(グリフォンに乗り1日か、馬だと2日と行った所でしょうか?)そんな事を考えていると、父上の足が突然止まりました。

「ギルバート。今夜からどこに泊まろう? 良く考えたら、公爵の別邸は現状では色々と不味い。金もあまり持って来ていないし。……まあ今夜だけ宿を取って、後は資料室に泊まりこめば良いか」

(……父上。無計画すぎです)

 私は思わず心の中で、突っ込みを入れてしまいした。しかしこれならこれで、私に都合が良いです。私は住所を書いたメモ書きを、父上に渡しました。

「魅惑の妖精亭と言う酒場です。宿屋もやっていますので、利用出来るでしょう。タルブ村の関係者がやっている所なので、信用も出来ると思います」

 私の言に父上が頷きました。

「ではそこにしよう」

 父上は場所が分かるのか、サクサクと歩いて行きます。私はレビテーションで浮かせた荷物を、引っ張りながらついて行きました。ほどなくして魅惑の妖精亭に到着しました。

(あれ? 中から人に気配がしないな。……この時間は、混雑している時間帯だと思うのですが)

 私は不審に思い足を止めてしまいました。しかし父上は気にした風でも無く、魅惑の妖精亭の入口をくぐろうとして、……何故かUターンして戻って来ました。

「父上? ……速く宿を取りましょう」

「イヤダ。もう領に帰る。領に帰ってシルフィア抱く!! フフフフッ……シルフィア今夜は寝かせないぞ~」

(あれ ?父上が壊れた? うわぁ、何か目が虚ろです。一体何が……)

 その時父上の口から、何か言葉が漏れ始めました。聞きとろうとした所で、女の子の叫び声で中断させられます。女の子の叫び声は、どうやら魅惑の妖精亭の中からの様です。

「お父さん!! もうその格好止めて!! また御客さん逃げちゃったじゃない」

「ダメよ~。ジェシカ。仕事中は~、ミ・マドモワゼル。それ以外は~、パパでしょ~う」

「いいから脱ぐ!! 数少ないお客さんも逃げちゃうじゃない!!」

「あっ!! ダメ!! そんなに引っ張ったら魅惑の妖精のビスチェが!!」

「良いから脱げー!!」

「そんな!! 娘に脱がされちゃうなんて~!!」

 ……状況は良く分かりました。先程から父上の口から「私はノーマルだ。シルフィアを愛している。私はノーマルだ。シルフィアを…………」と、繰り返される呟きの原因も良く分かりました。

「父上。大丈夫です。父上が見たのは、魅惑の妖精のビスチェです。魅了の魔法効果があるビスチェなだけです。安心してください。父上」

「それは本当か?」

 私が大きく頷くと、父上はマジ泣きし始めました。父上の口は「良かった!! 良かった!!」と、繰り返し唱え始めました。(相当嫌だったみたいですね)

 暫くして父上が落ち着いた頃、中から「これなら良し!! さあ、稼ぐわよ!!」と聞こえました。どうやら中はもう安全の様です。

「父上。中の精神汚染空間は消滅した様です。もう中に入っても安全です」

 私の言葉に頷きはするものの、父上は全く動こうとしませんでした。埒が明かないので、無理やり引っ張って、魅惑の妖精亭に突入します。

「いらっしゃいませ~」

 黒髪の6歳位の女の子が、明らかな愛想笑いを浮かべ頭を下げていました。その光景は、私の目にとてもシュールに映りました。

(お客が来なくなった原因は、スカロン店長だけでなく君にもあると思うよ。ジェシカ)

 私が一泊すると告げると、ジェシカは嬉しそうに料金を説明し始めました。(うん。やっぱりシュールだ)

「父上」

 結局財布の紐は父上が握っているので、決めてもらおうと視線を向けます。

「うむ。取りあえず一番良い部屋に一晩だな」

 ジェシカが嬉しそうに頷くと「ミ・マドモワゼル!! 一番の部屋に2名入ります!!」と、元気に声を上げました。意気揚揚と私達を部屋へ案内してくれます。部屋はそこそこ広く、調度品も決して悪い物ではありません。値段に比べて丁度良いか、むしろ少し安い位でしょうか?

 父上は案内してくれたジェシカに、銀貨を一枚渡しました。(これだけでチップ1スゥとは、太っ腹ですね)

 ジェシカは笑顔でお礼を言うと、部屋から出て行きました。私達は荷物を置くと、夕食を取る為下に降ります。

「あ~ら、お客様如何なさいました~」

 話しかけて来たのは、普通の格好?をしたスカロン店長でした。父上はその姿を見て、一瞬だけ身体が強張りましたが、すぐに平静を取り戻します。その時、心の底からホッとした様な表情をしていました。

「夕食を取りたくてね」

 平静になった父上は、何事も無かった様に答えました。

「でしたら、こちらがメニューで~す」

 出されたメニューを確認すると、料理名が三つほど表記されていました。

「少ないな」

「少ないですね」

 スカロン店長はその言葉に、申し訳なさそうな表情をしました。私と父上は、取りあえず全て頼んでみました。出て来た料理は、見た目良しボリューム良しで値段の割に高クオリティでした。

「うん。美味そうだな」

「はい。美味しそうです」

 私と父上は、喜んで料理を口に運びました。期待通りの味が口の中に広がります。私達は料理を口に運ぶ事に、夢中になっていました。そしてすぐに料理は無くなってしまいます。追加注文をしようと、メニューに再び目を向けたました。

「少なすぎです」

「少なすぎるな」

 通常なら先の三品で、お腹いっぱいになっているはずですが、ドリュアス家の人間は全員健啖家だったりします。(やっぱり精神力が高いメイジは、燃費が悪いのでしょうか? タバサやルイズの例もあるし)仕方が無いので、同じメニューをもう一度頼んで食事を終了します。スカロン店長は、私達の食べっぷりに驚いていました。

 食後に父上は食後酒を、私は果汁を飲んでいました。お酒も果汁も、クオリティは高いです。だからでしょう、父上の口からこんな声が漏れました。

「これで何故、私たち以外の客がいなのだ?」

 父上の言葉に、スカロン店長が凹みました。それを見た父上はエキュー金貨数枚を取り出すと、適当に酒を持ってくるように言いました。ボトル数本とグラスを持ってきたスカロン店長に、父上は席に着くように言います。その言葉にスカロン店長は、大人しく従いました。

「良かったら話してみないか? 話すだけで楽になるかもしれんし」

 スカロン店長は小さく頷くと、ぽつぽつと喋り始めました。

 2年前に妻が逝った事から始まり、それまで妻と分担してお店を経営していた事を話してくれました。スカロンさんは経理・酒類の仕入れ・組合を担当し、奥さんが人事・食材の仕入れ・厨房を担当していたそうです。しかし奥さんが急死し、厨房の事を分かる物が居なくなってしまいました。レシピ等も残っていなかった為、店の味が一気に落ちてしまったそうです。コックを雇っても、奥さんと比べると明らかに腕が劣っていました。この状況に料理目的のお客が、パタリと来なくなってしまたそうです。これにより魅惑の妖精亭はもう駄目だという噂が立ち、料理以外の客もどんどん減って行ったそうです。この状況に従業員も、次々に辞めて行きました。(スカロンさんのオカマ化も一因だと思いますが、これは言わぬが花でしょうか?)

 この状況を何とかしようと考えた所、料理でダメになったのなら料理で取り返すと言う結論を出したそうです。生前の奥さんの料理を再現し、レシピを書き出し料理で客を取り返す作戦でした。しかし未だに再現できた料理は、メニューに載っていた三品だけだそうです。ただデミグラスソースが完成間近で、これが完成すればメニューは一気に増えるそうです。

 原作ではこれから数年かけて、失った信用を少しずつ回復し、繁盛店に返り咲くのでしょう。そしてそれが自信と経験になり、原作のスカロンさんやジェシカにつながるのですね。私は他人事の様に、そんな事を考えていました。そして今私の様な人間が、取引等持ち込むべきではないと思いました。しかし、話はそんな私の思いを無視して進んで行きます。そして……。

「ギルバート。助けになってやれないか?」

 父上が突然、私に話を振って来ました。正直に言わせてもらえば、如何するか困っています。

「そ そうですね……」

 正直に言えば、簡単な案があります。炭と木炭コンロを、提供してしまえば良いのです。そして店の売りとして、炭火焼を前面に押し出せば客が簡単に集まるはずです。場合によっては王家に卸すついでに、この店に炭を卸しても良いでしょう。後はこの店のクオリティなら、客がいなくなる事は無いはずです。しかしそんな案を、手軽に与えてしまって良いのでしょうか? と言う想いが、私の中に出て来ました。

「考えてみます」

 結局私はお茶を濁す事で、その場を逃げる事にしました。それから暫くして、父上と一緒に部屋へ戻りました。

 思い返せば、私は何人の人間の人生を変えたのでしょうか? 私と言う存在は、この世界に影響を与える一因子として存在が許されています。しかし私が与える影響は、良い物だけとは限らない事に今更気付きました。

(人間って見たくないものは、見ないでいようとする……か。真理ですね。私も例外ではない。と言う事ですか)

 私はこの晩、なかなか寝付く事が出来ませんでした。この時私の頭から、カトレアの顔がなかなか離れてくれませんでした。



 一晩悩んだ結果、私が出した答えは開き直るでした。私の存在を考えれば、本当に今更です。与える影響が、良い方に向くよう最低限心がける。それが私と言う存在に許された、最低限のマナーと考える事にしました。

 今回の魅惑の妖精亭では、自力で這い上がっている2人の安易な助けにならず、試験の形を取ろうと思います。そこで父上に相談し、炭と木炭コンロの譲渡は条件付きとしました。条件は私達がドリュアス領に帰るまでに、私達を満足させる料理を作る事としました。

 スカロンさんとジェシカには、炭と木炭コンロの話と私達の正体について話す事にしました。早速2人と話す為に、1階に降ります。

 1階で厨房をのぞくと、スカロンさんとジェシカが仕込みをしていました。私は2人に声をかけ、テーブルについてもらいます。

「先ずは名乗りましょう。……父上」

 私が促すと、父上が頷き名乗りました。

「私の名は、アズロック・ユーシス・ド・ドリュアス子爵だ。王都の人間には、《岩雨》のアズロックの方が通りが良いかな?」

「ドリュアスって、タルブ領主の。それに《岩雨》って……」

 スカロン店長の表情が、驚愕に染まりました。一方ジェシカは、キョトンとしていました。

「そして私が息子の、ギルバート・A・ド・ドリュアスです」

 私が続けて名乗りましたが、反応は殆どなしでした。(ちょっと悲しい)しかしここで、めげる訳には行きません。

「実はドリュアス家では、マギ商会と言う商会を運営しているのです。ドリュアス家はマギ商会を通じて、王家に炭を卸しています。本来ならば王都に支店を持つのが筋なのですが、ドリュアス家と高等法院の仲が悪く支店を持つとなると、法外な賄賂を要求される可能性が高いのです。よってマギ商会は、王都に支店は出しません」

 私はここでいったん区切ります。しかし私が次の言葉を発する前に、スカロンさんが口を開きました。

「王都での拠点となる宿が欲しいのね?」

 私は大きく頷きます。そして、更に言葉を続けました。

「加えて王都の平民層に、炭を認知させたいと思っています。炭を使って物を焼いた場合、炎が出ない事・余計な水分が出ない事・食材に火が通りやすい事。この三点の理由により、薪よりも簡単に美味しく焼き上げる事が出来ます」

 スカロンさんが驚いた顔をしています。

「炭焼きは簡単であるが故に奥が深く、東方では煮炊き三年、焼き一生という言葉も有る位です」

 私の言葉に、スカロンさんが笑みを浮かべます。

「この“炭火焼きを前面に押し出した料理”を出してくれる店を、探していたのです。当然下手な店に任せて失敗し、炭のイメージダウンにつながる事は避けたいです」

「炭の宣伝塔は、この魅惑の妖精亭に是非任せて欲しいわ」

 スカロンさんが、間髪いれずに答えました。私はその言葉に、首を横に振りました。ジェシカが「なんで!!」と、声を上げました。

「メニュー三点しかない、“今の魅惑の妖精亭”ではお任せ出来ません」

 私の言葉に、ジェシカが黙ってしまします。しかしスカロンさんは、自信がうかがえる表情をしました。

「つまり昨日のメニューと、同等のクオリティの料理を作れば良いのね? 何品作れば良いの?」

「メニューの数は関係ありません」

 私の答えに、スカロンさんの顔が驚きに歪みました。

「ど 如何言う事かしら?」

「味・ボリューム・見た目・値段。昨日の料理は、それら全て合格点です。メニューの数も、昨日の話ではすぐに増えるでしょう。問題は炭を上手く扱えるかと、炭を生かすメニューが出来るかです。来月(ウルの月)中に私達を満足させる、炭火焼きを売りにしたメニューを一品作ってください」

 スカロンさんは私の言葉に、力強く頷きました。私は持ってきた炭と木炭コンロを、スカロンさんに渡しました。



 いよいよ資料探しです。私は気合を入れて、父上の後について行きます。しかし父上は王宮に向かわず、貴族の別邸が集まる一画に足を向けました。

「父上?」

「ヴァリエール公爵に挨拶をしておこうと思ってな」

 確かに両家の関係を考えれば、ここで挨拶無しと言うのは良く無いのでしょう。私は大人しく父上の後に続きました。

 ヴァリエール公爵の別邸は、本邸と比べれば小さいですが周りの館と比べると群を抜いて大きいです。使用人に案内され、暫く待つとヴァリエール公爵が入室しました。

 父上に習い挨拶をすると、父上と公爵は雑談を始めました。私は長くなるのは勘弁と、内心で考えていました。すると父上が、今までより少し大きな声で言いました。

「公爵。申し訳ありません。年金の受け取りを忘れておりました。すぐに行って来ますので、その間ギルバートをお願い出来ますか?」

(父上!! 公爵に向かって何と言う失礼を!!)

 私が内心で戦々恐々としていると、公爵は何故か笑顔になりました。 

「それは不味いな、ギルバートは私が責任を持ってあずかろう」

(? ……如何いう事ですか?)

 私が混乱している間に父上は逃げ出し、公爵は私の肩をガシッと掴みました。

「……さて、ギルバート。君には色々と聞きたい事があるのだ。……主にカトレアの事とか。……そう、兎に角カトレアの事だ!!」

 私はこうなってから、ようやく状況が理解出来ました。

 ……父上に売られた。

「カトレアは病弱で無垢な娘だったのだ。なのに、お前と仲良くなってからはまるで別人だ!! 言え!! カトレアに何を吹き込んだ!! …………とにかく…………だから…………カトレアは…………」

(カトレアは何をやらかしたのでしょうか? ……泣きたいです)

「聞いてるのか!?」

「はい!!」

 私はこの後、2時間ほど問い詰められました。それで気が済まなかったのか、そのまま練兵場へ引きずられて行きました。……射的の的の気持ちが良く分かりました。部下の人が公爵を迎えに来なかったら、生きて無かったかもしれません。

(父上。公爵。……オボエテロヨ)



 今度こそ資料探しです。もう何処にも寄りません。

 私は父上に思いっ切り、(かたき)を見る様な視線を向けていました。父上は私の視線が突き刺さる事に、居心地の悪さを感じている様です。

「ギルバート。その、……すまなかった」

 私は返事をしません。流石に居た堪れなくなったのか、父上は資料探しの事に話題を切り替えます。それでも私は必要最低限の事しか、返答をしませんでした。

「ギルバート。私は王軍資料庫を担当するから、お前は王宮資料庫を担当してくれ。私の方は早く終わるから、残りの王宮資料庫は合流して2人でやろうな。……王軍資料庫は、公爵にバッタリと言う可能性が高いし」

 父上の気遣いを無碍にする事も無いでしょう。私はその案に乗る事にしました。

 私は父上に、王宮資料庫まで案内してもらいました。資料庫は王宮図書館と併設されていて、管理を任されている司書が居ました。分からない事は司書のジジさんに聞くとして、最低限食堂やトイレの位置を聞き作業開始です。そして、資料の量を見て思ったのは……。

「終わらない」

 ……でした。一つ一つ見て見ると年代もバラバラで、欲しい資料を探すだけで何カ月かかるか分かった物ではありません。

 そこで私は、秘義“探し物はかたずけながら”を発動する事にしました。と言っても、人手が圧倒的に足りません。周りを見て見ると、私に毛布を持って来てくれてたジジさんが居ました。

 ジジさんは私と目が合うと「私は関係ありません」と言わんばかりに、逃げようとしました。しかし、私が逃がすと思ったら大間違いです。素早く移動し肩をガシッと掴み、振り向いてもらいます。そして、とっても良い笑顔で言ってあげました。

「資料整理を手伝ってくれますよね?」

 8歳の子供に言われているのに、ジジさんは涙目になっていました。実際にジジさんは、父上に私の手伝いをする様に言われています。魔の森の調査を父上が王命で動いている以上、魔の森関連で父上に逆らうのは王命に逆らうのと一緒です。ですがそれ以前に、この資料の整理はジジさんの仕事です。

(先代以前から溜めに溜めて来た負の遺産を、自分が片付けるの嫌だったんだろうな。ジジさんも可哀想に。……でも逃がさん)

 ジジさんは物凄く凹みながらも、作業計画を立て始めました。ジジさんの口から「明後日の虚無の曜日には、彼とデート。これを乗り切れば彼とデート」と、呟いていました。……何かごめんなさい。でも言わないといけません。

「虚無の曜日も手伝ってもらいます。と言うか暫く休み無しです」

 私は笑顔で、死刑宣告(やすみなしせんげん)をしました。ジジさんは、たっぷり十数秒ほど石化します。そして復活すると、私に詰め寄って来ました。

「あんまりです!! 横暴です!! 酷過ぎます!! と言うか、お願いだから彼とのデートだけは許して~~~~!!」

 ここまで言われては、私も鬼ではありません。

「では、代わりの人材(みがわり)を用意して頂ければ良いですよ。それと応援(いけにえ)を用意しないと、睡眠不足でお肌荒れ荒れになり彼に嫌われますよ」

 私はとっても良い笑顔で、ジジさんに言ってあげました。……前言撤回します。鬼でした。まあ、ジジさんやジジさんの前任の方達がサボっていなければ、私がここまで苦労する事も無かったのも事実です。(少し罪悪感もあるけど)

 ジジさんはこの後、本気で泣いていました。

 しかしその後ジジさんは、見事に代わりの人材(みがわり)応援(いけにえ)を用意したのです。女の執念とは凄まじいの一言です。



 資料の整理だけで、3週間もの時間をかけてしまいました。父上との合流は、まだ後数日かかりそうです。

 そして私の目の前に、魔の森に関する一番古い世代の資料があります。資料の年号が正しければ、1200年前の資料と言うことになります。そして気になるのは、資料にあるドリアード侯爵の名前です。資料の中には、ドリアード侯爵が魔の森に深い関係がある様なのです。しかし肝心の情報が書かれていると思われる所が、全て破られ紛失していました。

 私は破られた数々の資料に、きな臭さを感じ大きく溜息を吐いたのでした。






 ドリアードとドリュアス……同じ木の精霊の名は偶然なのでしょうか? 
 

 
後書き
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