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ちょっと違うZEROの使い魔の世界で貴族?生活します

作者:うにうに
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本編
  第22話 王都であれこれ

 こんにちは。ギルバートです。魔の森に関してですが、昔の資料を調べたら途端にきな臭くなりました。ドリアード侯爵とは何者なのでしょうか?

 私は整理した資料を、後回しにする事にしました。魔の森の調査に、ドリアード侯爵が何者か知る事が重要と考えたからです。そこで私は父上と合流するまでの数日を使って、過去の貴族名鑑を調べる事にしました。

 貴族名鑑は魔の森の資料と違いちゃんと整理してあった為、すぐにドリアード侯爵の資料を見つける事が出しました。ドリアード侯爵家はトリステイン王国建国時に、祖王の補佐を務めた由緒正しい家である事が分かりました。領地はドリュアス領の南西に在った様です。(魔の森のど真ん中ですね)

 そしてドリアード家には、二つの分家が存在しました。一つはドライアド家。そしてもう一つが……ドリュアス家。そう、ドリュアス領は元々この分家が治めていた土地だったのです。そしてドライアド領とドリュアス領は、ドリアード家がおよそ1500年前に森の開拓により切り開いた新しい領地だった様です。

 しかしこの三家は魔の森発生に前後して、貴族名鑑から名前が消えていました。私は当然のごとく、お家断絶の理由を調べました。しかし肝心な所に行くと、資料が破られてたり紛失していて、調べる事が出来ませんでした。

(調べれば調べるほど、きな臭さが増して行きますね)



 実はここまで調べるい間に、事件がありました。

 この日はジジさんが不在で、図書館と資料庫に居たのは私1人でした。時刻は昼過ぎでしたがキリが悪く、昼食を取らずに作業していました。そんな時女の子が、資料庫に忍び込んで来たのです。ダークブラウンの髪に、白いドレスを着た女の子でした。歳は私と同じか少し下くらいです。

 女の子は首を左右に動かし、資料庫に誰も居ない事を確認しています。私はその時、高い位置にある資料を探していたので、フライ《飛行》を使っていました。私は見つけた資料を持って、自分の机の側(位置的には女の子の真後ろ)に着地します。この時女の子は、誰も居ないと思ったのか鼻歌を歌い始めていました。

「ご機嫌ですね」

 私が話しかけると、女の子の肩が跳ねました。そして振り向きざまに、女の子の右拳が飛んで来たのです。私は(驚かせてしまったかな?)と思いながら、余裕をもって避けます。女の子はそこで止まる事なく、左拳を私に向かって放ちました。机や椅子等の障害物で避ける事が出来ないと判断した私は、杖を持った右手で女の子の拳を左にはじきます。その勢いで半回転した女の子は、バランスを崩し背中から私に向かって倒れて来ました。怪我をさせる訳には行かないので、私は杖を捨て女の子を抱き止める事にました。

 女の子を抱き止める事には成功しましたが、後ろから抱き締める形になりました。暴れられるのも嫌だったので、とりあえず女の子を拘束する事にします。(資料崩れたら後が大変だし)女の子は焦って逃げようとしましたが、力で私に勝てるはずも無く大人しくなりました。

(……やっと大人しくなってくれましたか)

 しかし女の子は、私が油断した(すき)をついて脱出する心算だった様です。突然万歳をしたと思ったら、しゃがんで私の拘束から抜け出そうとしました。所が私の拘束は、女の子が思っているほど甘くはありません。女の子の体は、少しずれただけで脱出は出来ませんでした。

 しかし、その結果私の右手が掴んでいたのは、女の子の脇腹では無く左胸でした。

(あっ、不可抗力だから仕方が無い……です よね?)

「ッ!! ~~~~!?」

 女の子が声にならない悲鳴を上げると、動揺した私は右手の力を抜いてしまいます。女の子は私の手を振り解き、距離を取る為に跳びました。しかし跳んだ先には、私が先ほど捨てた杖が……。

 女の子は杖を踏んで見事に転びます。私が助ける間もなく、女の子は頭から本棚の角に突っ込みました。

 ゴンッ!!

 すっごい派手な音がしました。恐る恐る確認すると、女の子は気絶している様です。ディテクト・マジック《探知》で確認しましたが、派手な音が出た割に大した怪我はしていませんでした。私はその事に安堵のため息を漏らすと、取りあえず女の子にヒーリング《癒し》をかけ、私が寝床にしているソファーに寝かせると、毛布をかけました。

(しかしこの女の子、誰かに似ている様な気がします。……あっ!! アンリエッタ姫に似てるんだ!! 不味い。本当に姫だったら如何しよう?)

 私は暫く混乱していましたが、それで状況が好転する訳ではありません。取りあえず連絡をと思い外に出ましたが、おかしな事に衛兵が1人も居ないのです。私は嫌な予感がして、資料庫に戻りました。

 未だ気絶している女の子を起こすと、凄く警戒されました。しかし私が状況を説明すると、途端にニコニコし始めます。

「外に逃げた振りして正解だったわ」

 あまりの言葉に、私は絶句してしまいました。そしてその言葉を信じるなら、衛兵が居なかったのは“この女の子(アンリエッタ姫?)を探して外に行っているから”と言う事になります。信じたくはありませんが、私の中で女の子=アンリエッタ姫の公式が正解に近づきました。

「取りあえず、大人の人連れて来ますよ」

「ダメよ」

 私はかまわず人を呼びに行こうとしました。しかし次の一言で、強制的に引きとめられます。

「胸を触られたわ。転ばされて頭を打ったわ。とっても痛かった」

 私はその言葉に固まります。ここまでは完全に嘘ではない為、言われても仕方が無い事です。しかし続きは、泣きたくなるほど酷い物でした。

「叩かれた。ソファーに押し倒された。唇を奪われた。それから……」

「分かりました」

 私はそう返事するしかありませんでした。放っておくと、何を言われるか分かった物ではありません。下手をしなくとも物理的に首が飛びます。

 それから暫くは、女の子の話に付き合わされました。女の子が一方的に喋っていましたが、私はそれに大人しく付き合うしかありませんでした。

 凄く高い壺を割って逃げている事。幼馴染にルイズと言う娘がいる事。そのルイズに最近兄の様な人が出来た事。(この時点で、アンリエッタ姫確定ですね)自分も兄の様な人が欲しいが、周りにそれらしい人がいない事。等を次々に話して来ました。そして何かに気付いた様に、私の顔を見ました。

「ルイズのお兄様は、黒髪のギルバートと言う人なんだけど……。あなたも黒髪ね。名前なんて言うの?」

 私はこの質問に、嘘で答える事にしました。アンリエッタ姫と言えば“ルイズの物を略奪する悪癖がある困った人”と言う認識があったからです。それに加え兄代わりが居る居ないで、始祖の降臨祭の時にルイズとアンリエッタ姫が大喧嘩をしたと聞いています。(ヴァリエール公爵情報)

「残念ながら、私の名前はジルベールです」

 英語読みからフランス語読みにもじったがけですが、アンリエッタ姫には分からないはずです。ジルベールなら、トリステイン貴族に同名の人間が多数いるので、アンリエッタ姫では特定出来ないでしょう。

「ならばジルベールに命じます。これより私に兄として接しなさい」

「はっ」

 アンリエッタは名乗っても居ないのに、こんな事言って良いのでしょうか? ……まあ、適当に合わせて有耶無耶にすれば問題ないでしょう。と言う訳で、早速行動に出ます。

「お腹は空いていませんか?」

 私の質問に、アンリエッタは口をへの字にします。しかし体は正直でした。ぐぅーと言う音が、アンリエッタのお腹から聞こえました。途端にアンリエッタの顔が真っ赤に染まり、俯いてしまいました。

「すぐに食べる物を持って来ます」

 私はそう言って立ち上がると、アンリエッタの頭を撫でてから扉へ向かいました。

「大人しく待っていてください」

 私の言葉にアンリエッタは、顔を真っ赤にしたまま頷きました。

 廊下に出て食堂に到着すると、外の状況は思ったより逼迫している事が分かりました。不味いと思いながらも、老コックにバーガーを10個とピッチャーとコップを頼みました。

 実はベーコンハシバミバーガーの作り方を教えて、何時でも作ってもらえるようお願いしたのですが、相手をしてくれたのが引退寸前の老コックだけでした。忙しいのは分かりますが悲しいです。

 料理が出来るのを待っていると、突然私に話しかけて来る人がいました。

「ギルバート」

 話しかけて来たのは父上でした。隣に苛立った様子のヴァリエール公爵も居ます。しかし妙な事に、ヴァリエール公爵に取り巻きが居ないのです。恐らく、アンリエッタの捜索に駆り出されているのでしょう。

「父上。魔の森について、内密なお話があるのですが……」

 父上は頷くと、食堂脇にある小部屋を指差しました。

「公爵も一緒にお聞きになっていただけると助かります」

「今は魔の森どころではない!!」

「お願いします」

「だから……」

「お願いします」

 公爵は苛立ち見せながらも、父上に続いて小部屋へ入ってくれました。私も2人を追って小部屋へ入ります。扉を閉め、聞き耳防止用マジックアイテムの作動を確認すると、私は口を開きました。

「アンリエッタ姫は、王宮資料庫に居ます」

 私の言葉に、父上と公爵が固まりました。2人が固まっている内に、アンリエッタが外に逃げる振りをして王宮内に潜伏している事と、脅されて報告出来なかった事を話しました。そしてジルベールと名乗った事と、食糧確保の為に外に出れた事を話します。

「何故ジルベール等と言う偽名を使ったのだ?」

 公爵が当然の質問をして来ました。

「ルイズの話でアンリエッタ姫は、ルイズの物を奪い取る悪癖があるようなので……。話がややこしくなると思い、ジルベールと名乗りました」

 公爵にも心当たりがあるのでしょう。黙ってしまいました。私の言いたい事は伝わった様で、とても嬉しいです。

「これから如何するかは、公爵にお任せします。ジルベールなる架空の少年に、架空の罰を与えると言う手もありますね。……姫の将来の為にも。その場合はあくまでドッキリなので、あまりキツイ事はしないでください。トラウマになっても良くないですから」

 公爵は一瞬キョトンとしましたが、すぐに私の意図を察したのでしょう。笑みを浮かべ頷きました。

「分かった。国王に相談してみよう」

「その事でお願いがあるのですが、よろしいでしょうか?」

「何だ?」

「私の名前は一切出さないで頂けますか? 出来れば今後も」

 公爵は不思議そうな顔をしました。

「何故だ?」

「目立つと妬みや僻みで碌な事がありません。それにカトレア様の治療法を探すのに、時間が如何しても必要です。下手に国王に目をかけてもらうと、治療法を探す時間が無くなってしまうかもしれません」

 カトレアの事をダシに使ったのは、かなり気が引けますが嘘と言う訳ではありません。(性魔術以外で解決したいだけ)公爵は一瞬だけ難しい顔をしましたが、一応納得したのか頷いてくれました。


 小部屋を出てカウンターに行き、お金を払ってバーガーとピッチャーに交換すると、すぐに資料庫に戻ります。資料庫に戻ってからのアンリエッタの第一声は、「遅~い」でした。

「ヴァリエール公爵に捕まってね」

 私はそう言いながら、バーガーとピッチャーが乗ったトレイを机の上に置きました。そしてバーガーを、皿ごとアンリエッタの前に差し出します。アンリエッタは公爵の名前が出た事に、少し不安そうな顔を浮かべましたが、食欲優先だった様です。すぐに目の前のバーガーを凝視しました。しかし、なかなか手を出そうとはしません。私はピッチャーからコップに水を注ぎながら、アンリエッタの様子をうかがっていました。

「どーやって食べるの?」

 反応がルイズと全く一緒でした。私はその事に笑いが込み上げて来ましたが、なんとか押し殺す事に成功しました。

「特に作法はありません。サンドイッチと同じ様に、手で持ってそのまま食べます。その際、具が落ちないように注意してください」

 私はルイズの時と同じ説明を口にしました。流石に食べ始めると、ルイズとは反応が違いました。どこか上品にバーガーを食べるアンリエッタを見て、ルイズが普段どれだけ食べさせてもらってないか、不憫に思ったのは私だけの秘密です。

(やっぱりルイズの発育不良は、無理な小食化が原因なのでしょうか?)

 私はそんな事を考えながら、バーガーに齧り付きました。最終的に、私が7個アンリエッタが3個バーガーを片づけました。

「初めて食べたけど、美味しかったわ」

 アンリエッタが、笑顔で言ってくれました。私は嬉しくなり笑顔で頷きました。良い雰囲気になったかな?と思いましたが、次に待っていたのは延々と続くアンリエッタの愚痴話でした。(勘弁してください)

 暫くすると、急に外が騒がしくなりました。私は不審に思い立ちあがった所で、突然扉が開き魔法衛士隊が突入して来ました。呆気にとられている内に、私は捕まり縄を打たれてしまいました。

(ここまで大事にするのですか?)

 私は内心毒づいていると、ヴァリエール公爵が資料庫に入って来ました。私は思いっきり公爵を、睨みつけます。しかし、公爵は涼しい顔で言い放ちました。

「この少年はアンリエッタ姫をかどわかし、トリステイン王国を混乱に陥れた大罪人である」

 やり過ぎだと思った私は、止めようと公爵に詰め寄ろうとしました。しかし次の瞬間、私は床に転がっていました。頬に鈍い痛みが走り、目がちかちかしています。殴られたと気付くのに数秒かかりました。

(ここまでやるか?)

 私は公爵を再び睨みつけます。

「この少年は厳罰に処す。牢に連れて行け!!」

 私は引き摺られて、資料庫から退場しました。私の耳には、アンリエッタが泣き叫ぶ声が聞こえました。

 連れて来られたのは、牢では無く先程の食堂脇の小部屋でした。私は杖を返してもい、殴られた頬の治療を始めました。

 治療を終え暫く待つと、父上と公爵が部屋に入って来ました。私は公爵を睨みつけながら言いました。

「明らかにやり過ぎです!! あれではトラウマになります!!」

 私の言葉に、その場に居る全員が目を逸らしました。どうやら自覚はあった様です。ここで父上が、こうなった理由を話し始めました。

「実はアンリエッタ姫が、国王が大切にしている壺を割って証拠隠滅の為捨ててしまってな。国王に今回の事を話した所、徹底的にやるように命令されてしまったのだ。……公爵は後ほど『やり過ぎだ!!』と、お叱りを受ける事になると思うが」

 父上の言葉に、公爵が溜息を小さく吐きました。確かに私も公爵は災難だったと思います。しかし私にも言いたい事があります。

「私を殴ったのは、明らかに私怨ですね?」

 私の言葉に、公爵は目を逸らしました。その所作から当たりと判断した私は、公爵を睨みつけました。

「カトレア様とルイズが、この事を知ったら如何思うか……」

「脅すつもりか?」

 私は公爵の言葉に、「さぁ? 如何でしょう?」と答えておきました。どの道カトレアには、会った瞬間に全てばれるのです。後々カトレアが、十分な仕返しをしてくれるでしょう。

 この後アンリエッタは謹慎処分(座敷牢の刑)を食らい、1月程王宮の一角から出られなくなりました。アンリエッタに私の事がどう話されたか知りませんが、謹慎が明ける前に領地に逃げられるので問題無いでしょう。

 また、私の事を知っているのは、ヴァリエール公爵とジジさんだけです。(老コックとジジさんの仲間には、自己紹介していない)公爵には秘密にしてもらう様に約束しましたし、ジジさんには……完全に沈黙してもらいました。(何故か泣いていたのは気のせいだと思います。ちょっと、どこぞの魔王式O☆HA……ゲフンゲフン。なんでもありません)



 その後私は、父上と合流する事が出来ました。父上が探し出せた情報は、私が調べた情報と重複していて目新しい情報はありませんでした。(王軍資料庫も、肝心な情報は破り捨てられていたそうです)しかし当時の地図に関しては、精度の高い物を獲得出来ました。

 それから1週間と少しかけて、王宮資料庫に更なる手がかりが無いか2人がかりで調べました。しかし、目新しい成果は出せませんでした。

 それに並行して、マジックアイテム・精霊・強力な幻獣や魔獣についても調べました。

 可能性があったマジックアイテムを調べ、その現在位置を探してみました。その全てが強力なマジックアイテムで、厳重に管理されています。資料を見る限り、マジックアイテムが原因の可能性は低そうです。

 1000年前の資料に、木の精霊の存在を臭わせる一文を2・3発見しました。しかし、見つかったのはそれだけで全く当てになりません。

 強力で珍しい幻獣や魔獣の情報は、全く発見出来ませんでした。

 総括すると、何も分からなかったと言う事です。……泣きたいです。



 領地に帰る前に、魅惑の妖精亭に寄って試験結果を判定しなければなりません。

 早速魅惑の妖精亭に向かいましたが、魅惑の妖精亭は閉まっていたのです。中から人の気配がしますので、少なくとも留守と言うことは無さそうです。

 父上が扉をたたき、開ける様に声をかけました。すぐに鍵が外され、中からジェシカが出て来ました。その様子は、かなり草臥(くたび)れていました。(これで6歳ですか……やっぱりシュールです)

 ジェシカに案内されて店の中に入ると、そこには少しやつれたスカロンさんが居ました。スカロンさんは「お願いします」と言うと、厨房へ引っ込んでしまいました。(あれ? オカマ言葉は?)

 私が困惑していると、ジェシカが私の疑問に答えてくれました。

「お父さんは料理の時だけ、昔の口調に戻っちゃう様になったの」

 その言葉に私と父上は、何となく納得してしまいました。それだけスカロンさんは、今回の試験に真剣だと言う事なのでしょう。

 暫く待って、出て来た料理は厚めのビーフステーキでした。網焼きにしてある様で、網目状の焦げ目が有り、味付けは軽く塩を振ってあるだけの様です。早速フォークとナイフで、ビーフステーキを一口大に切り分けようとして驚きました。

「「柔らかい!!」」

 思わず口に出てしまいました。焼き加減は、ミディアムレアと言ったところでしょうか? フォークで肉を口に放り込みました。

「美味い!! ……だが、これでは」

 父上が言いたい事は良く分かります。良い肉を使えば、それだけ原価が高くなり当然値段も高くなります。平民相手の店では、値段の高さは致命的です。しかしスカロンさんがそんな基本的な事で、失敗するとは思えません。それに、この肉と付け合わせの玉葱は……。そこで、父上の言いたい事を感じ取ったのか、スカロンさんが口を開きました。

「そこらで出している普通の肉と、同じ物を使用しています」

 スカロンさんの答えに、父上は驚きを隠せない様です。

「……摩り下ろした玉葱に、良く叩いた肉を漬け込んだのですか」

「なっ!!」

 私の言葉にスカロンさんが、驚きの声を上げました。

「まさかこんなに早く看破されるとは」

 スカロンさんが、私の言葉に呆然としていましたが、結果は目に見えています。これ程美味しいステーキを出して来たのなら、合格で問題無いでしょう。ついでに、炭の感想も聞いておく事にしました。

「スカロンさんは、炭を使ってみてどう思いましたか?」

 この質問が試験の一環と見たのか、スカロンさんは真剣に答え始めました。

「先ず最初に、本当に簡単に美味しく焼ける事に驚きました。そしてその奥の深さに更に驚きました。少し煽ぐだけで火力が簡単に強くなるし、炭自体の品質の差も見た目からは想像も出来ない程に大きかったのです。同じ炭でも、料理に嫌な臭いが付いてしまうものもありましたから。最初に聞かされた、焼き一生の意味が良く分かりました」

 ここまでは感想の様です。しかし次の言葉に、私も驚かされました。

「それに炭は、厨房だけで使うのは勿体無いと思います。火が出ませんし、炭が燃えている姿はとても綺麗ですから。小型のコンロを作成して、客の前で焼くともっと客を呼び込めると思います。その場合は、肉は最初から一口サイズに切り分けておくと良いと思います。更に言わせてもらえば、焼くのをお客にやらせてみるのも良いかもしれません」

 なんとスカロンさんは、焼肉を提案して来たのです。私は父上の目を見ると、大きく頷きました。

「合格だ」

 父上の言葉に、ジェシカが喜びの声を上げました。スカロンさんは、少し涙ぐんで頷いていました。そこに私が声をかけました。

「先程スカロンさんが言ったのは、焼肉と言う物です。東方では、これ専門の店も在る程です」

 私の言葉に、スカロンさんは苦笑しました。口では「やはり考える事は同じと言う事か」と、呟いていました。

 私と父上はスカロンさんと、新生魅惑の妖精亭について会議をする事にしました。お店自体は新装開店として、当初の予定通り炭火焼を前面に押し出す方向になりました。焼き肉は使わない手はありませんが、常に焼けた炭を用意しておくとなると経費がかさむので予約制にしました。必要な道具や専用のテーブルは、ドリュアス家の方で用意する事としました。その代わりデミグラスソースを、早急に完成させるように条件を出しました。(会議の途中でスカロンさんの口調が、何時の間にかオカマに戻っていました)


 この日は会議で遅くなったので、魅惑の妖精亭に一泊し領地へ帰る事になりました。領地に帰ったら、やる事が山積みです。マギ商会に魅惑の妖精亭の話を通して、必要な道具類や専用テーブルの作成。加えて鍛冶職人との顔合わせや、日本刀の説明と作成依頼もしなければいけません。更には魔の森の調査もあります。

(領地に帰っても忙しそうですね)






 そう言えば折角同年代の男が居るのに、殆ど喋って無いのはいかがな物だろう?

 ……友達欲しいです。 
 

 
後書き
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