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剣の世界の銃使い

作者:疾輝
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プネウマの花の採取

「さてと、こっからはフィールドだから、気をつけていこう」

「はい」

今はフィールドと街との境目の南門に来ている。俺の言った言葉にシリカが表情を引き締めて、頷いた。

「今の状態なら、特にギリギリの戦いになるって状況は、ほぼ無いだろうけど・・・」

もう一度シリカの顔を見て、続ける。

「いざという時にの為に、転移結晶は準備忘れず。あと、何よりも優先すべきは自分ね」

「で、でも・・・」

「人のことに気を配るのは大切だけど、それで自分への注意切らしちゃなんの意味もないからね。これだけは、覚えておいてね」

念を押すと、シリカは頷いてくれた。少し暗い表情になりかけるのを見て、二ッっと笑いながら締める。

「んじゃ、行こうか」

「はい!」

すぐに明るい笑顔を取り戻したのを確認して、俺はアイテム欄から武器を取り出すと、オブジェクト化されて、俺の腕に装備される。

「短剣ですか?それも2本?」

「まあ、銃は他にプレイヤーがいない時で、必要な時しか使わないしな」

取り出したのは2つの短剣。だが、左右ともに少し秘密がある。右の短剣を先に示してから、

「薄い・・・?」

右の短剣は持ち手の部分以外、非常に薄くできていて、縦から見るとほとんど厚さが見えない程度にまでなっている。

「まあね、とある能力に特化してるからこんな形に。んで、こっちは一応分類的にも正真正銘の短剣なんだけど、こっちは・・」

そういって左の手を振る。すると、短剣が4つに別れ、扇子状の形になる。

「短剣としても一応使えるんだが、実際は投剣を4つまとめたものでな。投擲して使うんだ」

「そんなの初めて見ましたけど・・・」

「まあ、これも製造アイテムだから、作れないことはないんだけど。色々作んのに手間かかるらしいし、若干装飾されてるから。これ見たことあんのは、俺もいつも買いに行ってる場所しか知らないな」

そのまま、4つの投剣を元に戻す。一通り武器の紹介を終えたところで、フィールドへ繰り出す。
シリカは足手まといになるまいとしているようだが、実際それよりも心配なことがある・・・・。
なんてことは露知らず、シリカは俺の横を歩いている。
その懸念が見事に的中したのは、すぐ後だった。

「ぎゃ、ぎゃああああああ!?なにこれ──!?き、気持ちワル────!!」

フィールドに出てから数分後、最初のモンスターとエンカウントしたのだが、どうやら俺の予想は当たってしまったようだった。今俺たちと敵対しているのは、一言で言うと《歩く花》だ。さっきも考えたとおり、この層は街だけでなく、モンスターなども《花》だ。目の前には、ヒマワリの様な花の中にぱっくりと口の開いた、よくゲームであるような花型モンスターがいる。画面越しに見ているからこういうのは平気なのであって、実際かなり怖い。

「や、やあああ!!来ないで────」

「アクティブモンスターだから、近づいてくるぞー」

特にブンブン腕を振り回しているせいなのか、シリカの方に向かっている。

「やだってば────」

花好きだからこその嫌悪感があるのだろう。てかそうじゃなくても普通にキモい。シリカは目をつぶりながら短剣を振り回している。あれじゃあ、モンスターに攻撃が当たることは無いので、少し忠告してやる。

「きちんと見て攻撃しないと当たらんぞー。花の下の少し白いところ突けば簡単に倒せるはずだから、やってみな」

「だ、だって、気持ち悪いんですううう──」

「あー、もう我慢しろってせっかくのおいしい狩場なんだから、レベルアップしやすいだろうに・・・」

「そんなこと言ったってーーー・・・」

「とりあえず、一回やってみな」

「ううう・・・・」

もう見るのも嫌なのだろう。シリカが闇雲に走りながら、滅茶苦茶なソードスキルを繰り出す。ほとんで相手を見ていないその攻撃は、当然空を切る。すると、2本のツタが技後硬直時間で動けないシリカの両足をぐるぐると捉え、その外見からは想像できない怪力でひょいと持ち上げた。

「わ!?」

っと流石にまずい。このまま切り落としてもいいが・・・。
俺は歩く花に一瞬で近づき、右の短剣で一閃。2本のツタをいっぺんに切り落とすと、逆の投剣を歩く花の弱点部位である場所に向かって投擲。

「はい、終了」

「きゃっ」

そのまま落ちてきたシリカをキャッチする時には、歩く花はポリゴンと化している。

「だいじょぶかー?」

「ふぇ!?だだだ大丈夫なんで早くおろしてください!!」

体勢的に、お姫様抱っこになってしまった。すぐに彼女を下ろすと、彼女はそのまま先に走っていってしまった。
その後、5回ほど戦闘をこなしたあたりでシリカもモンスターの姿にも慣れ(というか諦めたらしい)、2人で快調に行程を消化していった。俺は戦闘ではほとんど攻撃せず、シリカが避けたり捌ききれていない敵の攻撃に対して、投剣で投擲してその攻撃を止める、ということに徹していた。この世界のパーティプレイではモンスターに与えたダメージの量によって経験値が分配されるため、ほとんど経験地はシリカの方にいき、彼女のレベルはたちまち上がっていった。

「レイトさん、あれって・・・」

「ああ、そうだ」

赤レンガの街道をひたすら進むと小川にかかった小さな橋があり、その向こうにひときわ小高い丘が見えてきた。道はその丘を巻いて頂上まで続いている。

「あれが《思い出の丘》、今回の目的地だ」

「見たとこ、分かれ道は無いみたいですね?」

「ああ、頂上まで一本道だ。だけど、進むにつれてエンカウント率が高くなるから。がんばって」

「はい・・・!」

もうすぐピナが生き返らせられるのという気持ちと、これまで以上に花たちと戦わなくてはいけないという気持ちがぶつかり合っているのがよく分かった。

「レベル上げなくていいんなら、全部俺やるけど?」

「ううー、頑張ります・・・」

予想通りモンスターとのエンカウント率が高くなり、ひたすら向ってくるモンスターたちを返り討ちにする。とはいえ、複数で出てくる敵には、シリカが狙ってる一匹以外のヘイトは管理しているので危険に陥るようなことはなかった。もちろん、シリカへの援護も忘れない。
モンスターの襲撃を何度も退けて、高く繁った木立の連なりをくぐり、やっと頂上についた。

「うわあ・・・!」

シリカが歓声を上げて、先に駆けて行く。
そこは木立に周囲を囲まれ、ぽっかりと開いた空間一面には美しい花々が咲き誇っている。

「ふう、ついたか・・・」

とりあえずモンスターがPOPしない安全地帯に着いたことに一安心しながら、シリカを追いかける。

「ここに・・・その、花が・・・?」

「ああ、そこに見える岩のてっぺんに咲くらし・・・ってもういないし・・・」

シリカは俺が言い終わる前に走り出していた。まあ、気持ちはわかるけど。
彼女の胸ほどまである岩に駆け寄り、おそるおそる上を覗き込んでいる。シリカの方に歩いて行くと、突然彼女の血相が変わった。

「え・・・」

「ん?どうかした・・・?」

シリカの元にたどり着くと、彼女がこっち振り返って叫んできた。

「ない・・・ないよ、レイトさん!」

「は?あのな・・・急ぐ気持ちはわかるが、もうすこし見てみろよ」

もう一度シリカを促して、岩の方に視線を戻させると、柔らかそうな草の間に、一本の芽が伸び始めているところだった。若芽は普通の花の成長速度の何倍もの速さで成長していき、やがて先端に大きなつぼみを結んだ。蕾は内部から真珠色の光を放っている。
レイトとシリカが見守る中、徐々にその先端がほころんで、しゃらんという音と共につぼみが開いた。
おお綺麗。今までの花とは大違いだ・・・。
二人はしばらく身動きもせずに、咲いた花を見つめていたが、やがてシリカがこちらに確認するような目線を向けてきた。これを取ってもいいのか?そういう視線だった。

「何のために来たんだよ・・・」

呆れたように頷くと、シリカが意を決したように頷き返し花にそっと手をのばした。細い茎に彼女が触れた瞬間、花は氷のように砕けシリカの手に光る花だけが残った。
シリカがその花の表面をそっと指でなでる。すると、ネームウインドウが音も無く開いた。そこに書かれた名前は___《プネウマの花》。

「おめっとさん」

「ありがとうございます!!」

今のシリカの笑顔は、俺が彼女にあってから最も可愛い笑顔だった。  
 

 
後書き
感想とか待ってます!! 
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