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アメリカンサラダ

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第二章

「お母さんヒスパニックだけれどヒスパニックでもね」
「メキシコ系にプエルトリコ兄にな」
「多いわよ、もう数え切れない位」
「そうだろ、それでな」
「話の本題?」
「ああ、サラダも人種ごとに注文するのが違うだろ」
 こう娘に言う。
「だからな、ここは派手にな」
「派手に?」
「どんなアメリカ人でも食えるサラダを考えたんだよ」
「どんなって」
「俺や母さんや御前だけじゃなくてな」
「お母さん何時帰って来るのよ」
「だからその話は止めろ」
 バーグマンは娘のその言葉にむっとして返した、今の彼の急所であるからだ。
「とにかくだ、どうだよそれ」
「サラダねえ、誰もが食べられる」
「例えばメキシコ系ならタコスの感じでな」
「タバスコとか入れるの?」
「ああ、それでな」
 それに加えてだというのだ。
「中国系だとバンバンじーにかけるたれでな」
「あのお醤油と油の」
「あれをかけたサラダも美味い」
「メキシカンなのもね」
 どちらのサラダもある、メキシコ系や中国系以外の客も注文する。
「いいわよね」
「ああ、アフリカ系だとスペアリブを入れたりな」
「スペアリブサラダ、今日も人気だったわね」
「ドイツ系だとジャガイモだな、やっぱり」
 ドイツからこれを抜いては何にもならない、この国ではジャガイモは主食だからだ。
「ドレッシングだってな」
「フレンチにイタリアンにね」
「あるよな」
「そういえば日系人もね」
 リンダは彼等の名前も出した。
「あの人達シーフード好きだから」
「海草サラダな」
「あれ、最近まで皆食べなかったけれど」
 アメリカ人は長い間海草は食べなかった、食べるものとはみなしていなかったのだ。だがそれも日系人によって。
「変わったわね」
「海草サラダも人気になったな」
「そうよね」
「それもあるしな」
「何か本当に色々ね」
「で、考えたんだ」
 バーグマンは娘に強い声で言った、もうテーブルは全て拭いた。
「その全てを入れたサラダだよ」
「それを作るの」
「どうもイギリスだけ入れられなかったけれどな」
「それはどうでもいいわね」
 リンダはこの国についてはあっさりと終わらせた。
「美味しいものないから」
「ああ、イギリスはどうでもいい」
 父もこれで終わらせる。
「とにかく色々なルーツの人間がいる国でな」
「色々なサラダが食べられるから」
「それでだよ」
 バーグマンはまた強い声で言った。
「そのサラダを一つにしたらどうだ、さながらな」
「アメリカみたいにっていうのね」
「ああ、そうだよ」 
 バーグマンはここで店の壁を見た、木造のダークブラウンの壁に星条旗が飾られている。
「アメリカみたいにな」
「そうね、アメリカは確かに人種の坩堝だから」
「人種のサラダとも言うな」
「そんな言葉もあったわね」
「だからな、もういっそのことな」
「ドレッシングも海草もソーセージもバンバンジーも何でも入れて」
「それでどうだ、名付けてアメリカン=サラダだ」
 娘に対して誇らしげに言う。 
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