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トーゴの異世界無双

作者:シャン翠
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第五十五話 ここでまたあのフラグかよ!

「アーダストリンク?」
「グレイハーツの隣国よ……って何で知らないのよ!」


 いや、そんなこと言われてもなぁ。
 そうか、アーダストリンクというのが、五つある王国の内の一つなんだな。


「まあ、いろいろあってな。この世界の常識に疎(うと)いんだ」
「どんな田舎者なのよアンタ」


 半眼で睨んでくる。
 だって、異世界人だからね。


「はは、でもそっか。国境近くだから、両国のギルドに依頼が出されてたんだ」


 それをたまたま受けたのが、闘悟と彼女だったというわけだ。


「そういうことね」
「そんじゃ依頼はどうなるんだ?」
「そうね、アレを倒したのはアンタなんだし、報告はグレイハーツでいいんじゃない?」
「それでいいのか?」
「まあ、正直アタシは命があったってだけでもホッとしてるんだから」


 彼女はガルーダの死体を見てもう一度身震いした。
 その後は、ガルーダの討伐部位を少女から聞いて取得する。
 羽毛は高価らしく、闘悟は全部むしり取った。
 少女も袋に詰めるだけ詰んでいる。
 その顔はどことなく楽しそうだった。
 やはり、高価なのが嬉しいのかもしれない。


「うふふ、お金お金~!」


 そうみたいだった。
 彼女の名誉のために聞こえない振りをしておこう。


「悪いな、討伐部位もらっちまって」
「いいわよ。アタシだって得したしね」


 そう言いながら、嬉しそうに袋を叩く。


「あ、そういや名前聞いてなかったよな? オレはトーゴ・アカジだ」
「へぇ、トーゴっていうんだぁ」


 意味ありげにこちらに視線を向けてくる。


「な、何だよ?」
「ふうん……よく見ると変わった姿してるわね? ていうか、よくそんな軽装でここに来たわね。まったく信じられない話だわ……」


 まあ、ジャージだしな。
 この世界じゃ珍しいだろうよ。


「そうか?」
「それに黒髪なんて初めて見たし……その目も……」


 あ、そっちのことなのね。
 何だか観察されているようで落ち着かない。
 主導権を握られているようで、釈然としないトーゴは、また彼女をビックリさせてやろうと思った。


「まあな、オレってば異世界人だし」
「……はい?」


 闘悟はキョトンとしている彼女を見て、ほくそ笑んだ。


「何言ってんのアンタ?」


 当然こういう返答が返ってくるだろう。


「ま、信じる信じないは任せるよ」


 彼女は顎に手をやり、何かブツブツ言い出した。


「どういうこと? 異世界人? ううん、そんなわけない。あれは伝説上の人物だし……でもあの異常な強さ……それにアーダストリンクのことも知らなかった……? ならホントに……?」


 闘悟には声が小さ過ぎて聞こえないが、確かに真剣な表情で呟いている。


「お~い」
「ねえ!」
「おっと!」


 いきなり詰め寄られたので驚いた。


「な、何だよ?」
「これから幾つか質問するから答えなさい」
「え~」
「いいから答えなさい!」
「ご、強引だな」
「いいから答えるの! 分かった?」


 有無を言わせないその態度に、闘悟は仕方無く頷いた。


「それじゃ聞くわ。この世界の名前は知ってる?」
「『ネオアス』だろ?」
「それくらいは知ってるようね」
「まあな」
「……だったら、シュレイエ国は?」
「知らねえ」
「……」


 彼女は闘悟の顔を凝視している。
 そんなにジッと見られると、何か変な感じだけど、コイツは多分オレが嘘を言ってるかどうか判断してるみてえだな。


「それなら……」


 それから幾つか質問をされたが、ほとんど知らないことばかりだっだ。


「う~ん、どうやら常識が無いみたいね。アタシの顔見ても何も言わないし……」
「しょうがねえだろ。この世界に来て、まだ一月も経ってねえんだからさ。つうか、お前の顔が何だって?」


 だが、彼女は思案顔で黙っている。
 オレの質問はスルーなのか?
 そして、急にこちらに顔を向ける。


「……ねえ、もう一度あの魔力見せて?」
「は? ここでか? つうかオレの質問に……」
「早く!」


 おいおい、頼んでるのか命令してるのかどっちなんだよ。
 まあ、別に隠そうとしてるわけでもねえからいいけどな。
 闘悟は溜め息を吐き、彼女に少し離れてるように言う。
 そして、彼女が離れたのを確認してから、魔力を解放する。
 サービスして五パーセントくらい出す。
 まあ、何のサービスかは分からないが。
 すると、彼女はキラキラした目で見つめてくる。
 何だろ一体?
 魔力を抑えると、彼女が足早に戻って来る。


「ねえ! アンタ、アーダストリンクに来る気は無い?」
「……はあ?」


 いきなりの勧誘に、今度はこっちがポカンとなる。


「その格好見ても、騎士でもなければ、貴族でもないでしょ?」
「ま、まあそうだけど」


 こんなジャージ姿の貴族や騎士がいるなら見てみてえしな。


「なら来なさい! アーダストリンクは良いところよ!」
「ちょ、ちょっと待て!」
「何よ?」
「いきなり何だそれ? アーダストリンクに来い? アーダストリンクの国民になれってか?」
「そうよ? 何か問題でもあるの?」
「オレはもうグレイハーツ国民だぞ?」
「そんなの、手続きして国民登録し直せばいいだけの話じゃない」


 あれ? そうなの?
 そんなに簡単な話だったの? 


「それに、アタシはアンタのこと気に入ったわ! だからアタシの国に来なさい! アタシの権力使ってでも国民にしてあげるわよ!」
「権力って……お、お前……ホントに強引だな……いきなりアタシの国に……ってはあっ!?」
「ちょ、何よ? いきなり大きな声出さないでよね」


 彼女は耳を押さえながら文句を飛ばす。


「ちょ、ちょっと待ってくれ」
「何よ?」


 アタシの国?
 権力?
 こ、これはもしかしてまたあのフラグか? 


「い、今アタシの国って……言った?」
「言ったわよ」
「……それはつまり……アーダストリンク王国は……」


 闘悟は震える指で彼女を差す。
 すると、彼女はニコッと笑う。


「そうよ。アタシはステリア・セイン・アーダストリンク。アーダストリンク王国、第一王女よ!」


 
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