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トーゴの異世界無双

作者:シャン翠
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第五十四話 あんま考えんな! 楽に行こう!

 ローブの人物は悟っていた。
 ああ、終わったと。
 こんなことなら、もっと美味しいものをたくさん食べておきたかった。
 オシャレも、もっと楽しんでおけば良かった。
 新しい魔法も、もっと覚えたかった。
 世界をもっと見てみたかった。


 次々と欲求が出てくる。
 死ぬ時は過去が思い浮かぶとは聞くが、こうして浮かんでくるのは後悔ばかり。


(夢も……叶えたかったな……)


 完全に命を諦めた。
 だがしかし、次に起こったことは、まさに奇跡だった。
 迫り来ていた猛火が、いきなり収縮し始めた。
 そして、全ての火が無くなり、姿を現したのは先程飛び込んだ黒髪の少年だった。


 少年はその勢いのまま、ガルーダの顔を殴る。
 そして、何をしたのか、両翼が切断されて、浮かぶ術を失ったガルーダは頭から地面に突き刺さる。
 骨が折れるような音がした。
 ……動かない。
 どうやら今度は、間違いなく倒したようだ。
 ガルーダが落ちてきたせいで起こった風が、顔を覆っていたフードを取る。
 だが、そんなことが気にならないように、固まっている。
 同じように、空から少年が降りてくる。
 そして、少年はこちらに向かって微笑む。


「無事みたいだな」


 呆然として彼の顔を見つめる。





 闘悟は、未だ放心しているローブの人物に話しかける。


「おい、お~い! だいじょ~ぶか?」


 それでも反応が無い。
 目を開けたまま気絶してるのかもしれない。
 それにしても……。
 闘悟はフードが取れて、露(あら)わになった顔を見つめる。
 どうやら、女性だったようだ。
 まあ、声の高さからそうではないかと思ってはいた。


 燃えるような赤い髪が、風のせいでローブから飛び出し揺れる。
 年齢は闘悟と変わらないように見える。
 幼さの残る顔立ちだが、意思の強そうな瞳が、今は大きく見開かれている。
 どことなく、気品のある雰囲気も感じる。
 所々敗れたローブの間から、頑丈そうな鎧がチラリと見える。
 腰には剣も携えてあるみたいだ。
 ひとしきり観察した後で、闘悟はもう一度声を掛ける。


「おい、おい、そろそろ戻ってこ~い」


 軽く頬を叩いてみる。
 すると、ようやくハッとなって、闘悟を見る。


「お、戻って来たか?」
「え……あ……ガ、ガルーダは?」
「あそこ」


 闘悟は指を差す。
 彼女もその先を見る。
 そして、段々と現実を理解し始めた。
 そして、いきなり四(よ)つん這(ば)いのような姿になる。


「……い……幾つか聞いてもいいかしら?」
「ああいいぞ」
「……アンタは何者?」


 顔だけ上げて闘悟の方を見る。
 まあ、当然の質問だよな。
 さて、何て答えようか……お、ちょうどいい!
 闘悟はポケットからギルドカードを出して見せる。


「ギルド登録者……?」
「そうだ」
「……え?」
「どうした?」


 いきなり眉間にしわを寄せた彼女に対し首を傾げる。


「え……Fランク……ですって?」
「まあな」
「ま、まあなじゃないわよ!」


 いきなり大声を放つのでビックリした。


「な、何だよ?」
「Fランクって何? アンタ、アタシをからかってんの!?」
「はあ? からかってなんかねえって!」
「じゃあ、どうしたらFランクがAランクの魔物に勝てるってのよ!?」


 闘悟は彼女の勢いに押され、仕方無く説明することにした。


「そ、そんな……今日初めて登録して……初めての依頼がCランクで……倒した魔物がAランクで……ああもうわけが分からないわ……」
「まあ、そういうこともあるって」
「あってたまるもんですか!」
「いや……でも事実だしな……」
「……ん? それじゃ来る途中に倒されていた魔物もアンタが?」
「ああ、証拠もあるぜ」


 そう言って、ポケットから改変魔法で小さくした討伐部位を見せる。


「……何これ?」
「ん? ああ、ちょっと待ってな」


 闘悟はもう一度改変魔法を使って元に戻す。


「ええっ!?」


 もちろん説明しましたよ?
 まあ、ポカンとして聞いていたけどな。


「……ね、ねえ?」
「何だ?」
「も、もうこの勢いで聞いてみるけど、ここに来る途中に感じた、異常な魔力って……」
「うん、オレだな」
「……」
「あ、ちなみにこの傷も、オレの能力で治った」


 闘悟はさっそく不死の能力が役に立ったことに満足していた。
 普通ならあの時、闘悟はガルーダに胸を貫かれた時、死んでいたかもしれない。
 だが、今はもう傷も塞がっている。
 これは、自身を不老不死にした恩恵(おんけい)だ。


「もう……何を驚いていいのか……どうしたら致命傷の傷が一瞬で治るのよ……はぁ」
「ま、楽に行こうぜ!」
「……」


 すると、彼女は諦めたように肩を落としながら溜め息を吐く。


「もういいわ。まだいろいろ聞きたいことがあるけど、とりあえずは仕事しなきゃいけないし」
「仕事?」
「ええ、アタシがここに来たのは、生物調査の依頼を受けたからよ。どうやら、その正体はあのガルーダだったみたいだけど……ホント生きてることが不思議だわ」
「へぇ、じゃあオレと同じか」
「同じ?」
「ああ、オレもこの『アクォース山』にいる巨大生物の調査依頼を受けて来たんだよ。でも依頼が重なることもあるんだな」
「無いわよそんなこと。チームでもない限り、依頼は一回しか受理されないわ。まあ、不達成になれば別だけど」
「え? でも現にこうやって……」


 それならこの状況をどうやって説明するのか。
 彼女も思案顔を作っている。


「……ああ、そっか。もしかしてアンタ、グレイハーツから来たの?」
「そうだけど?」
「そう。それなら依頼が重なったのも納得ね」
「どういうことだ?」
「ここはね、グレイハーツとアーダストリンクの国境近くにあるのよ」
 
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