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魔法少女リリカルなのは ViVid ―The White wing―

作者:鳩麦
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第二章
  十話 消えがたき心

 
前書き
どこできるかを迷った十話 

 
無人世界カルナージへは、次元世界の中心地ミッドチルダから臨港次元船で四時間程の移動を行えば到着する。まあ無人と言っても、完全ではない一応あちらこちらに人の住む場所はあったりする。用途は別荘地であったり、或いは今回行くような合宿地で有ったりと様々だが、一概に纏まった人里と言う物が殆ど無い、“元々無人だった”世界を開拓して作った為、未だに無人世界の一つとして呼称されているのだ。

平均時差は七時間と比較的少ないが、次元移動の機会の多い執務官のフェイトやティアナはともかく、まだその機会が少ないヴィヴィオを中心とする初等部中等部の少女達にしてみると少し大きく感じる。

家を出たのが十二時、次元船に乗り込んだのは十四時、其処から四時間なので着くのは十八時……ではなく、マイナス七時間で十一時。夕方のつもりで次元港を出たチビーズは、少しばかり混乱した様子だ。

とは言え、昨日の夜はしっかり眠り(早めに寝たものの、ワクワク+テストの結果が怖く少し寝るまでに時間が掛かったらしい)先程まで次元船の中でもぐっすりだったため元気一杯のちびっ子たちにしてみればその程度の事なんのその。直ぐに気を取り直し、即座に宿へと向かう魔力浮遊車に乗り込む。

そして――

――――

「こんにちはー」
「お世話になりまーす」
なのは、フェイトの二人が挨拶しつつ、先頭になって歩いて行くのに続いて、残りのメンバーが歩いて行く。ミッドから来たこのメンバーで実に11人。合宿とはいえ、一世帯を中心としただけで集まるメンバーにしてはなかなかの大所帯であった。

「「みんな、いらっしゃ~い♪」」
そんなメンバーを、紫色ががった髪を揃って腰辺りまで伸ばした二人の女性が出迎えた。一人は十代も前半の少女。もう一人はなのは達大人組よりも幾らか年上の、おっとりとした雰囲気を持つ大人の女性だ。エプロンをつけた服装と、傍らにいる自分をそのまま若返らせたかのような少女と並んでいる事もあって、母親の印象が一目で強く残る人物である。

勿論、この二人は親子だ。少女こと、娘の方は、名をルーテシア・アルピーノ。母親は、メガーヌ・アルピーノと言う。
カルナージでこの宿舎、と言うより合宿所を営むこの親子は、JS事件で娘のルーテシアとなのは達の間に一悶着ありはしたものの、それ以来は友人として付き合いの続く二人家族だ。

「皆で来てくれて嬉しいわ~。食事も沢山用意したから、ゆっくりして行ってね!」
「ありがとうございます!」
メガーヌと、なのはやフェイト、スバルと言った大人組が挨拶を交わす横で、チビッ子たちも交流している。

「ルーちゃん!」
「ルールー!久しぶりー!」
「うん。ヴィヴィオ、コロナ」
ルーテシアと顔見知り、と言うか知り合いのコロナ、ヴィヴィオは真っ先に彼女の元へと駆け寄る。ちなみに、“ルールー”と言うのはルーテシアの愛称だ。
と、同じく駆け寄ったリオと、ルーテシアが向き合う。

「リオは、直接会うのは初めてだね」
「いままでモニターだったもんね」
と、不意にルーテシアが微笑みながらリオの頭を撫でる。

「うん、モニターで見るより可愛い」
「ホントー?」
少し照れたように赤くなりながら、リオ笑顔で返した。
と、其処にアインハルトを連れたヴィヴィオが彼女を示して言う。

「あ、ルールー、此方がメールで話した……」
「アインハルト・ストラトスです」
ぺこりと頭を下げながら言ったアインハルトに、ルーテシアは胸の前で片手を結んだ形で答えた。

「ルーテシア・アルピーノです。此処の住人でヴィヴィオの友達、十四歳」
「ルーちゃん、歴史とか詳しいんですよ」
と、コロナが後ろから付け加えると、ルーテシアはえっへんと胸を張った。
ひとしきり、挨拶を終えたチビッ子たちの一人、ヴィヴィオが、ふと気が付いたようにクラナ達の方を向く。
ライノは何故か少し苦笑気味に此方を見ていたが、クラナは相変わらずの無表情だった。

「あ、そうだ、ルールー、あの……!」
「……!」
ヴィヴィオがそちらを向きつつルーテシアに向き直ると、彼女もどうやら気が付いたらしく、少し目を見開いた後、クラナの方へと歩み寄って行く。

「おろ?もういいの?」
「あ、はい!あ、ルールー、此方は……」
「ライノスティード・ドルク。クラナのダチで十五歳だ。よろしく、ルーテシア嬢」
「ふふっ、ご丁寧に。こちらこそよろしく。それと……」
ルーテシアはラインの言葉に微笑みながら応じると、不意にクラナの方に向き直る。ヴィヴィオはその顔にほんの少しだけ不機嫌そうな表情が宿っているような気がしたが、はっきりとは分からなかった。そして……

「今日は、来てくれてありがとう、ございます……ディリフスさん」
「…………」
ぺこりと、頭を下げて丁寧な態度でクラナに感謝を述べた。一つ聞いただけで心からの感謝が聞いて取れたその発言に、ライノは一瞬目を見開いて、ほぅ。と息を吐く。
そして、クラナはと言うと……

「…………」
しかし、完全にそれを無視して、ルーテシアの横を通り抜けようとした。瞬間、ヴィヴィオは気がつく。
クラナの瞳、どこかで見覚えのあるそれに、ヴィヴィオは不意に気が付いた。あれは、ついこの間まで自分を見ていた瞳だ。徹底的に無視、一切干渉するつもりの無い、そんな意思を感じさせる、極度に冷たい瞳。

「…………」
「あっ……」
完全な無視と共に通り抜けようとしたクラナの服の裾を、ルーテシアが思わず、と言った様子で少しだけ掴む。
その瞬間、大人同士で話していたフェイトやなのは、スバルやティアナ、ノーヴェが気がつき、反射的に叫びかけた。

「ルーちゃん駄……!」
「え……」
「……っ!さわんなっ!!!!」
突如、凄まじいフピードで振りきられたクラナの腕が、ルーテシアを弾き飛ばした。
クラナ自身に取ってすら殆ど無意識に行われたそれは、一度だけヴィヴィオにも起こった事。
突然強引な、そしてかなりの力で弾かれたルーテシアは、そのまま地面へと倒れ込み……

「っと!」
その背中を地面の石に打ち付ける寸前で、ライノにその体を受け止められた。

「…………」
「…………っ」
倒れ込んだルーテシアが見上げた先で、彼女とクラナと目が合った。瞬間、ルーテシアは凍りついた。
まるで、視線だけで相手を凍てつかせ、恐怖だけを埋め込む事を目的としているかのような、憎悪と殺意に満ちた瞳。今までに見て来たどんな人間からも感じなかった。ただただ、自分が消えることだけを願っているかのような、真っ黒な瞳。
体がギシリと氷の軋むような音を立てて、思考が停止する。そしてその瞳の中にルーテシアの意識が吸いこまれて行き……

「あははははは!!」
突然、おかしな程明るい声がその冷たい空気を切り裂いた。
いつの間にかルーテシアを地面に着地させた、ライノだった。

「いやー!何か此奴長旅でイラついてるっぽくて!!すみません、少し森の方でリラックスしてきますね!ノーヴェさん、良いですよね!?」
「あ?あぁ」
「すみません!クラナ!オイほら行くぞ!!」
「……あ……え?あ、え?」
「ほら!早く来いっ!!」
後半は半ば怒ったような口調でまくし立て、首根っこを掴んでそう言ったライノは引きずるようにしてクラナを連れ去って行く、その様子をルーテシアは……否、その場にいた全ての人物は、ただ茫然と眺めているしかなかった。

――――
何やらウォーロックから案内を受けながら進んでいるライノに引きずられながら、クラナは歩いて居た。

「ら、ライノ!わかった、もう良いって……!」
「うるせぇ、ちっと頭……冷やせっ!」
「わっ!?」
ブンッ!と音を立てて、ライノはクラナを背負い投げの要領で投げ飛ばした。下を見ると……其処は水の上。咄嗟に、持っていた鞄を吊り下げてあったアルごとライノの方に投げる。放物線を描いて飛んできたそれを受け止めながら、ライノは小さく呟く。

「ナイス判断」
言い終わるより先にバッシャァァン!!と派手な水音を立てて、クラナは水没した。

――――

同じ頃、クラナとライノが居なくなり、少し暗い雰囲気となった他のメンバー達は少し人数を増やして黙り込んでいた。

増えたメンバーと言うのは、なのは達と同様、元六課メンバーである召喚師のキャロ・ル・ルシエとその召喚龍、フリードリヒ。彼女のパートナーである、龍騎士の少年。エリオ・モンディアルである。
クラナとライノがその場から去ったほんの少し後にやってきた二人は、挨拶もそこそこにフェイトから少し事情を聞くと、即座に状況を察して座りこんだままのルーテシアに駆け寄った。

「ルーちゃん……」
「ルールー、大丈夫?」
「う、うん。平気……」
言いながら立ち上がるものの、その声に何時もの張りと滑らかさは見られず、明らかに意気消沈している事を察したキャロとエリオはより心配そうにルーテシアを見る。

「…………」
「ルーちゃん……」
さて、かたや大人チームはと言えば……

「メガーヌさん、ごめんなさい……!」
「ううん。頭を上げて?二人とも。クラナ君にも是非来て欲しいって言ったのは私達の方だもの。あなた達がそんなに頭を下げる事無いのよ」
「…………」
メガーヌの言い分はなのはやフェイトに取っては有り難くもあったが、同時にそれは流石に無理だとも思える言葉だった。
義理とは言えあくまでもクラナはなのはとフェイトの息子なのである。例え子供達同士の関係がどうあれ、自分の息子が他の家の娘を傷付けたとなればなのは達とて責任を感じない訳にはいかなかった。首を横に振って、なのはは言った。

「私達がクラナから目を離さなかったらこんな事には……」
「本当に、申し訳ありません……」
フェイトもまた、保護者として責任を感じ頭を下げる。その様子にメガーヌは少し困ったように苦笑して、ふと思い付いたように、笑いながら言った。

「それよりも、これからどうする?ご飯ができるまでまだ時間もあるわ。なのはちゃん達はトレーニングできるし、ヴィヴィオちゃん達も少し遊んで来たいんじゃないかしら?」
「え……」
凄まじく暗い雰囲気だった空気を壊すように放たれた明るいそんな言葉。話題転換にしては少々強引だったが、其処は少々失礼ながら年長者の聡さと言うべきか。メガーヌが軽く目配せをした先にいた、ティアナやノーヴェが、気が付いたようにそれに乗った。

「そう……っすね。とりあえず川遊びでもしようと思ってたんで……」
「あたし達も、あんまり此処に居るだけって言うのもあれよね……あくまでも合宿に来たんだし……ね?スバル」
「え?えっと……(キッ)あ、うんっ!そうだね!訓練したい!」
一人だけ察しの悪いスバルが一瞬着いていけなくなり、しかし即座にティアナに睨まれて話を調子を合わせる。
少々わざとらしかったのはご愛嬌だ。

「…………」
「みんなでトレーニングして、遊んで、少し気分を切り替えていらっしゃい。その間にご飯の準備しておくから、ね?クラナ君の事は……今夜にでも話しましょう」
「……はい」
微笑みながら言ったメガーヌに、なのははしっかりと頷く。そうして彼女はすうぅぅぅ……。と、大きく息を吸って、吐いた。

「うんっ!」
気合いを入れ直すように手の平をぐっ、と結んで、一つ頷く。既にその顔は、何時もの教導官の顔をした彼女の物に変わっていた。

「それじゃ、大人チームは準備して十分後にアスレチック前に集合!」
「「「「「はいっ!」」」」」
元気を取り戻したように明るい声で言ったなのはに、他メンバーは少し安心したように元気よく答える。それに続くようにして、ノーヴェも子供たちに呼びかけた。

「それじゃ、こっちも水着に着替えてロッジ裏に集合だ!」
「「「「はーいっ!!」」」」

――――

ぷかり。と浮かび上がってきたクラナは。流れに身を任せてゆっくりと下流の方へと向かいながら、心なしかミッドよりも深い色をしているように感じる空を眺めた。

「…………」
大小様々な大きさ、形をしたそれらを眺めながら、ゆっくりと先程自分がしたことを思い出していく……

『さわんなっ!!!!』
考えるよりも先に出た手。
一歳とは言え、年下の少女を殴り飛ばすようにして弾いた自分。事情があったにしろ、何にしろ、到底褒められるような事では無い行為をした、自分。

「……俺、変わって無いじゃん……」
誰に問うでもなく、クラナはそう一人ごちた。

────

「あの……ノーヴェさん」
「ん?お前ら二人か?ヴィヴィオ達三人は?」
素早く着替えを終えたノーヴェがロッジの外で待っていると、着替えを終えたコロナとリオが顔を出してきた。

「ヴィヴィオとルーちゃんは、今アインハルトさんの水着をルーちゃんの水着の中から選んでます」
「アインハルトさん、水着忘れちゃったらしくて」
「あー、まぁ、彼奴あんまりその方面の事には注意向けなさそうだしなぁ……」
二人を言葉に頭を掻きながら言ったノーヴェに対して、リオとコロナは苦笑して、しかしすぐに、少し憂いを帯びたような表情に戻る。

「……どうした?」
大体予想は付いたが、敢えてノーヴェは尋ねた。
もしかするとこういう場合大人の方から察しを付けた事を言って話しださせてやるのが正しいのかも知れないと思わないでも無かったが、自分自身、それがいやなのかも知れないなと思わないでも無かった。

「あの、こういうのってその、聞いて良いのか分からないんですけど……」
「ルーちゃんと、クラナ先輩ってその……仲、悪いんですか?」
「あ、あー……」
予想通りの問いであったせいか、それ程驚くような話でも無かったがしかし、正直に彼女達に話すべきかノーヴェは迷った。理由は、幾つかある。
そもそも問題自体の根が深く、何より当事者が多い事もあるし、それによって彼女達のメンバーに対する印象が変わってしまう可能性を考慮する意味もある。
何より、まだ十歳其処らの子供に少々黒々しい内容のこの話をして良い物かと言う点でも、ノーヴェは悩んだ。一人で結論を出すことにも少々躊躇いを感じ始め、やがて、二人に少し待つように言うと、水着の上に羽織っていた上着のポケットから、クリスタル型の自らのデバイス、ジェットエッジを取り出し、通信回線で各メンバーに向けて念話を使う

会話に関する詳しい内容は省くが結果的には、クラナを除く各メンバーそれぞれからOKの返事をもらった。理由は単純。彼女達もまた、これからクラナやヴィヴィオと友人、あるいは見知った仲で居る以上は、いずれ知っておいてもらわねばならない事だからだそしてその当のクラナからは……

『……クラナ』
『あ、ノーヴェさんですか?』
『?アルか?』
『あ、はい。あの、すみません、相棒今私と離れてるので……少し待って下さいね、今私を媒体にして通信をつなぎます』
そのまま数秒待つと、今ではすっかりと聞きなれた声がノーヴェの頭に響いた。

『……ノーヴェさん……』
『クラナ、まぁ、なんだ。さっきの事は、またその内、な。で、それとは少し違うんだけどよ、その……リオと、コロナが──』
話を終えると、クラナは数秒黙っていたもののすぐに返してきた。

『……分かりました。俺は、構いません。ただその……』
『ん?どうした?』
沈むような声にノーヴェが尋ねる。

『いえ。俺がこんな事言うのもなんだかおかしいかなっては思うんですけど……なるべくなら、その子たちが極度にショック受けないように、フォローしてあげて下さい』
『……おかしくねーよ』
『……え?』
『おかしくねぇ。お前がチビ達の心配してやる事に、何にもおかしい事なんかねぇだろ……分かった。あたしなりに気を付けてはみる』
『……はい』
そうして通信を切る。目の前には、既にヴィヴィオやルーテシア、アインハルトも、水着の上に上着を着た状態で立っていた。今の状況は、ヴィヴィオとルーテシアには説明してある。アインハルトにはこれから説明すればいいだろう。少し息を吐くと、ノーヴェは言った。

「……とりあえず、歩きながら話すか」

────

「…………」
ノーヴェから通信念話を受け取って数分後、なのはは他のメンバーと準備運動をしながら、ある女性の事を思い出していた。

アルテア・ディリフス

そう。
クラナとなのはを含む、何人もの運命が変わったあの日、起動六課の中で唯一死亡した女性、クラナの、母親の事である。
彼女はなのはにとって、いや、なのはの周囲に居る何人もの人物にとって、言わば“恩人”とも言うべき人物だった。

初めて出会ったのは、まだなのはが魔法と言う物と出会ったばかりだった頃。13年前の海鳴市。当時、アルテアは今のフェイトの兄で、その頃最年少執務官として有名だった、クロノ・ハラオウンの相方のような存在で(実際はまだ未熟な所のあったクロノの監視役を、彼女の母親であるリンディが頼んだらしい)、少々高慢というか……高圧的な態度で接してきたクロノを、「馬鹿ちん!相手がまだどう言う相手かもちゃんと分かって無いのに犯罪者扱いするんじゃないわよ!そんなんじゃモテないわよ!?」等と言って叱りつけていた事をよく覚えている。
それから以降リンディやクロノ達と共に行動する事になったなのはは、必然的にアルテアと多く行動するようになった。

あの頃のアルテアの事を一言で表すとするなら、なのは達にとっては“姉”と言った所か。元々なのはには姉が一人、兄も一人いたし、当時なのはは九歳、アルテアは十九歳と大分離れていたが、それでもアルテアは自分を対等な存在として扱ってくれる事が多かった。子供心に、自分を子ども扱いするばかりでなく、しっかりと認めてくれる彼女の事が、すぐに好きになった事をよく覚えている。そして同時に、必要が有れば自分を守り、引っ張ってくれる、そんな存在でもあった。
その頃、色々な事が有ってフェイトとは戦い合う者同士だったのだがその事件の間、彼女はずっとなのはや、あるいはフェイトを励まし、引っ張ってくれていた。(此処でその話を語りたい所では有るのだが、文字数が飛んでも無い事になってしまうので作者としてもやむを得ず省かせていただく事を、読者に置いてはご理解いただきたい)その後も、はやてと出会うきっかけになった闇の書事件に置いても、今は完全になのは達の友人となった守護騎士達と激闘を重ねつつもなのはやフェイトを守り、共に闘い(此処でその話(ry)なのは、はやて、フェイトが正式に局入りしてからも、それこそ何度も何度も世話を焼いてもらっていた。
いや、寧ろ闇の書事件が終わってからの九年間の方が彼女には世話になった気がする。丁度その頃、アルテアはとある事件から息子を……クラナの世話をするようになり、忙しくなったようだったが、それでも彼女は何度となくなのは、フェイト、はやてを助けてくれた。

なのはは任務中に何度彼女に助けられたか分からないし、一度は命を救われた(ただそれだけでは無かったのだが、それについてはいずれ語るとしよう)また、自分に教導官と言う道を示したのも彼女だ。何故か二級教導官の資格(正教導官の一歩手前、副教導官にはなれるが主任教導官にはなれない)を持っていて、そのくせ正教導官レベルに教導の能力が有った彼女は、何度もなのはの勉強を手伝ってくれたものだ。

またフェイトが執務官試験を受ける際には、つきっきりで勉強を見てもらったらしい。フェイトの執務官合格に関してはクロノもそうだが、アルテアの助力が特に大きいと、合格した時嬉しそうに微笑んでいたのを良く覚えている。

はやてに関しては、これは本人から聞いた話だが、上層部の渡り方や取引の仕方、交渉の術等をはやてに教え込んだのはアルテアなのだそうだ。おかげで随分やりやすい事も多かったとはやてと共ににゃっ、と笑っていたのが印象的だった。

そんな彼女は……四年前、JS事件の際の時空管理局本局公開意見陳述会の際に起きた本局、そして起動六課隊舎襲撃事件の際に、死亡した。

後の事情聴取から、この日ヴィヴィオと共に遊んでいた彼女は、襲撃時にヴィヴィオ奪取の為内部に隊舎内部に突入してきたルーテシアと、その召喚獣であるガリューと交戦。全力の戦闘中に、ルーテシア自身は殺害するつもりは無かったにもかかわらず謝ってガリューの爪がアルテアの胸部を貫き、慌ててルーテシアが確認した際には既に呼吸、心肺機能共に停止。恐らくは即死だったのだろうと言う事だった。

彼女を失った際には、一度心が折れ掛けてしまったが、それでも互いに支え合う事で全員がなんとか持ち直していた。
同時にルーテシアの事もまた、スカリエッティを倒し、ヴィヴィオを助け出すことで、被害者の一人として見ることで、ある程度には許す事が出来た。

唯一人、母親を殺された、クラナを除いては。

────

事件が終結して、一月程が経った頃、ルーテシアや他のナンバーズ達の居る更生所にクラナを連れて言った事が有った。
理由は其処まで複雑では無い。被害者であるクラナに、ルーテシア達が謝罪をしたいと言った為だった。そうして連れて言ったクラナは……ルーテシアが口を開くよりも前に、彼女に向かって殴りかかった。

咄嗟に間に割って入ったオットーがギリギリでそれを受けて吹っ飛ばされ、しかそれでもなおルーテシアを殴ろうとするクラナを、スバルとエリオが二人がかりで抑えたのだ。

『クラナ君!だめだよ!駄目だってば!!』
『離せ!離せよスバルさん!此奴は……此奴ら三人は、殺してやる!!』
『クラナ!落ち着いて!』
『うるせぇ!!良いから離せエリオォ!!』
凄まじい力で暴れるクラナを、やむなくなのはがバインドで拘束しとりあえずルーテシア達が居た部屋から引きはがし、少し説得を試みた。
その時の会話は……今でも、なのはの頭に焼きついたままだった。

『お願いクラナ君、怒るのも、憎むのも当たり前だと思う。でもせめて、少しで良いの、あの子達の話を聞いてあげてくれないかな?』
『……は?』
一瞬きょとん、とした顔でなのはの顔を見たクラナは、少し俯いて歯を食いしばりながらこう返してきた。

『……聞いてあげて……?聞くって何をですか?彼奴等が自己満足の為に謝るのと、言い訳を、彼奴等の自己満足の為に聞いて、彼奴等の罪悪感を俺は少しでも緩めてやれば良いんですか?』
『そ、それは……そう言う事じゃないよ……!』
それ以上否定する暇も、反論する暇も与えてはもらえなかった。

『じゃあ何ですか!?彼奴等の話を聞いたら俺に何か得が有りますか!!?彼奴等の言葉を聞いたら過去が変わりますか!!!?彼奴等の言い訳を聞いたら、何もかもが無かった事になりますか!!!!?彼奴等の……!』
そこで耐えかねたように一度俯くと、見えなくなったクラナの顔から何かが零れ落ち、床に丸い染みを作った

『……彼奴等の謝罪を聞けば……母さんは戻って来るんですか……!?』
その涙声を聞いた瞬間、なのはには、もうそれ以上何も言う事が出来なくなった。

────

「(……アルテアさん……)」
こういう時、ときどき今はもういない彼女を頼りたくなってしまうのは、自分の悪い癖なのだろうとなのはは自分でも分かっていた。と、不意に、彼女に正面から声がかかる。
同じくアップをしていた、フェイトだった。

「……なのは」
「え?あ、何?フェイトちゃん」
「考え事してた?」
「う、うん……ちょっと……」
にゃはは、と苦笑しながら言ったなのはにフェイトは悪戯っぽく微笑んで言う。

「クラナの事?それとも、アルテアさんの事?」
「え、えぇ……?フェイトちゃん、なんで分かったの?」
戸惑ったように返したなのはを相手に、フェイトは楽しそうだ。

「分かるよ。こういう時になのはが考えそうな事……」
「うぅ……私って分かりやすいのかな……」
なのは自身に自覚は無いが、彼女は案外感情が表情に出やすい達の人間だった。まぁとはいっても、長い間なのはと付き合いのある人間でなければ何を考えているかまでは分からないだろうが。

「ふふ……やっぱり、アルテアさんの事考えてたんだね」
「うん……駄目だね、こういう時、あの人なら!って、どうしても考えちゃう……こんなんじゃ叱られちゃうのにね」
少し俯いたような様子で言うなのはに、フェイトはコクリと頷く。

「そうだね……でも……私も、やっぱりときどきそう思う事、あるかな」
「フェイトちゃんも?」
「うん……特に、クラナとの事は、ゆっくり距離を縮めて行きたい。っては思ってても、やっぱり、アルテアさんが居たら。って思う事あるんだ」
「そっか……」
座り込んで、二人は揃って思いだす。
かつて自らを導いてくれていた、一人の女性の事を。

「クラナ……やっぱり、まだ怒ってたね」
「うん……止められなかった……お母さんなのに……」
「なのはだけのせいじゃないよ。私も、ちゃんとクラナの事見てなきゃいけなかったんだ……」
互いに俯きながら、先程の事を反省する。と……

「あの……なのはさん?」
「フェイトさん、大丈夫ですか?」
「え!?あ、スバル……」
「キャロ……ううん、ごめん。少しボーっとしてた」
いつの間にか、目の前にアップを終えたスバルとキャロが立っていた。二人の後ろにはティアナとエリオも心配そうに此方を見ている。
フェイトは微笑みでそれに返すと、ふっとなのはの方を見た。なのはは視線に気がつくと、コクリと一つ頷く。
訓練、トレーニングを問わず、体を動かす時には集中している事。出来ないならば、休憩する事。
集中しなくては怪我の元となる。これは、魔導師として訓練を始めたばかりの頃に、そして教導官の勉強をを始めたばかりの頃にも、アルテアから言われた事だ。

「よし!それじゃあ張り切って、トレーニング始めようか!」
「「「「「おーーっ!」」」」」

たとえその考え事が、自らの息子と、恩人の事だったとしても。
 
 

 
後書き
はい、いかがでしたか!?

とりあえず初めに申し上げます。
ルーテシアファンの皆様申し訳ありません!!!(土下座

えっと、ルールーに関しては正直こういう扱い方がこの章におけるデフォルトとなってくるかな、と思っております。本当に申し訳ありません……

さて、では予告です。

ア「アルです!今回は、いやなんか、本当に申し訳ありません」

ス「まぁ、仕方ないっすよ!周りがなんとかフォローしてあげるのが大事っす!!」

ケ「そ、そうですね、マスター達も心配ひて……してましたけど……」

ア「ストラーダさんにケリュケイオンさん!ようこそ!後ケリュケイオンさん噛みましたね!!」

ケ「い、言わないでくださいぃ……」

ス「あはは。相変わらず良く噛むっすねぇ」

ケ「ストラーダ君も言わないでよぅ……」

ア「あははは。さて、そう言えば、ちょっと思ったことが有るんですけど良いですか?」

ス「ん?なんっすか?」

ア「いや、今回の話なんですけどね、原作における同じ場面を実は他の作品でも見てきたんです」

ケ「あぁ。そう言えばあるんですよね。並行世界っていうのかな?」

ア「そんな感じでしょうかね?で、それを見てて思ったんですけど……」

ス「……?」

ア「ウチって、vividとして暗すぎません?」

ス、ケ「「それは、今更だと思います(思うっす)」」

ア「…………」

ス「…………」

ケ「…………」

ア「では次回!」

ス「“楽しい合宿”ッス!」

ケ「ぜ、是非みてくだひゃい!!」

ア「あ!また噛みましたね!」

ケ「いわないでってばぁ!」

 
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