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魔法少女リリカルなのは〜神命の魔導師〜

作者:星屑
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第一話、時の庭園



数多ある次元世界。そこでは、様々な文化が独自に作られ、そこで暮らす人間はその世界のみで生活を営んでいた。だが、『魔法』という概念の発見と発達により、その営みは異なるものとなった。その一番の原因が、魔法の力によって、他次元世界に移動することが可能になった点だ。
以来、次元世界の人々は魔法を使って互いに領土を増やそうと戦うようになっていった。その巨大な戦火は多数の次元世界を巻き込み、多大な被害を及ぼした。数年が経ち、やがて、その惨状を憂う者達が現れた。その者達は自ら巨大な組織を作り上げ、今から約65年前に、『時空管理局』を設立、同年、その圧倒的な魔法力を以て戦争を沈静化させた。
そして、長い協議の末、管理局が確認し魔法文化が存在する世界は、管理局の管理下に置くということで、後世、第一次次元戦争と呼ばれる長い戦争は終局を迎えた。
以来、時空管理局の本局のある世界、『ミッドチルダ』を中心にして、次元世界はある程度の平和は保っていた。
そのミッドチルダの辺境の地。アルトセイム地方に佇む巨大な庭園を持つ建物、そこでは、雷撃飛び交う熾烈な戦いが繰り広げられていた。

「フォトンランサー…ファイアッ!」

凛とした声が響き、約10発にもなろうかという量の魔力弾が放たれた。
その魔力弾を、向けられた薄茶色の髪を持つ女性は一瞥をして同系等の魔力弾を精製し、互いに打ち消しあった。

「まだまだ制御が甘いですよ、フェイト」

「くっ…」

薄茶色の髪の女性に指摘されて、フェイトと呼ばれた金髪の少女は悔しそうに歯噛みした。

「はい、集中を乱さない」

「うっ!」

直後、背後に迫る魔力弾。それをフェイトは飛行魔法で躱そうと試みた。だが、

「甘いですね」

「っ……!?」

逃げ出そうとするフェイトの体には、二重にした拘束魔法、バインドがかかっていた。必死にバインドブレイクをしようとするも、間に合わず、リニスの放った魔力弾の一発がフェイトに当たった。












「はい、お疲れ様でした」

「あ、ありがとうリニス」

実践を想定した模擬戦を終え、魔力、体力、集中力の限界を超えたフェイトは肩で息をしながら木の幹に腰を降ろしていた。そこに、歩み寄ってきたリニスがフェイトにタオルを手渡す。
リニスにお礼を言ってタオルを受け取ったフェイトは、浮き出た汗を拭った。

「結構いいセンはいっていましたよフェイト。恐らく、並の魔導師では貴女には敵わないでしょうら」

「ありがとうリニス」

冷静にさきほどの戦闘を分析したリニスの褒め言葉に、フェイトは素直にお礼を言った。

「しかし、まだそれまでです。貴女には才能があります。もっともっと努力すれば更に強くなれますよ」

「うん!私、頑張るよ」

ニッコリ微笑んで拳を握るフェイトにリニスは優しい笑みを浮かべた。
しかし、そのフェイトの表情が怪訝なものになり、彼女は疑問符を浮かべた。

「どうかしましたか?」

リニスに言われ、フェイトはゆっくりとリニスの背後の茂みを指差した。

「あれ、なんだろう……手、かな?」

「手?あ、ちょっフェイト!」

リニスに質問をさせる間もなく、どこにそんな体力が残っているのか、フェイトは自分が指差した茂みへと駆け出していた。ため息をついて、リニスもフェイトの後を追った。

「やっぱり、誰かいる!」

「っ、フェイト、引っ張るのを手伝ってください」

「ひ、引っ張るの?」

得体が知れないとはいえ、地面に手が投げ出されているということは明らかに倒れているということだ。倒れている人を引っ張るのは、少し気が引けるフェイトだったが、リニスは首を振った。

「この奥は深い森になっているので、中に入っていくのは今は危険です。それに、天然な迷路でもありますから」

確かに、もう時刻は午後の五時を過ぎており、そろそろ日が落ちてきている。暗闇の中で、森を移動するのはかなり危険なことになる。
以上の理由があり、仕方ないとフェイトは自分を無理やり納得させ、茂みからはみ出している手を握った。

「せーの……」

「「えいっ」」

リニスと息を合わせて、力いっぱいに引き抜く。すると、フェイトの予想外に簡単に手の持ち主は茂みから抜き出た。そう、予想外に。
それはリニスも例外ではなかったらしく、軽く肉体強化魔法も使っていたため、そう、軽く投げ飛ばしてしまったのだ。

「「………あ」」

これは、目が覚めたら謝らなくちゃダメだよね、と考えつつ、フェイトは大急ぎで墜落した場所に駆け寄った。

「子供…だよね…」

フェイトが辿りついた場所に倒れていたのは、自分より少し年下のような、綺麗な青髪を持つ少年だった。

「と、とりあえず持ち帰りましょう。投げ飛ばしてしまいましたので、流石に手当をしないと……」

予想外の事態にテンパっている珍しい家庭教師の様子を見て、フェイトは笑みを浮かべながら頷いた。












ーー暗い、暗い世界。希望もない、絶望すらない、なにもない無機質な空間に、俺は寝転がっていた。
俺はなぜここにいるのだろう。確か、俺は……あれ?…お、れは…なにを、していたんだ?
思い出せない。まるで自分の記憶がある時期から抜け落ちてしまっているかのように。
名前は分かる。それに、魔法の使い方も。そして俺が、どんな存在なのかも。でも、なぜ俺がこんなところに1人でいるのか、それだけが分からない。
ーー1人ーー
それが意味する悲しさ、寂しさを、俺はよく知っている。でもなぜだろう。自分がなぜそれを知っているのか……すれすらも、分からない。

ーーズン!ーー

急に襲ってきた衝撃に、俺は歯を食い縛った。そして、そのすぐ後に、金色の閃光が弾けてーーー俺の意識は、消えた。














「行き倒れを拾ってきた?」

「はい」

倒れていた少年の手当を粗方終えたリニスは、後のことを一旦フェイトに任せ、自分は自らの主であるプレシア・テスタロッサに事の顛末を伝えに来ていた。
巨大な椅子の背もたれに体を預けてリニスの報告を聞いていたプレシアは煩わしげに眉を潜め、溜め息をついた。

「今すぐ何処かへ捨ててらっしゃい。これ以上、邪魔が増えるのは勘弁したいわ」

この反応は、リニスにとっても予想通りだった。自らの主は目的に必要のないものには興味をまるで示さない。
いつもなら、リニスはプレシアの意思に則りあの少年を捨てていただろう。だが、今回は違った。彼女は、あの少年を捨てようとは思わなかった。

「プレシア、貴女先日、気になる一族がいると言っていましたね?」

「ええ、それが?」

それを聞いたのは二日前のこと、いつも通り、無理しながら研究を進めるプレシアの様子を見に来たときのことだ。彼女は一つのモニターをリニスに見せた。
そこに写っていたのは、綺麗な青髪と真紅の瞳、そして虹色の魔力を持つ男の姿だった。そのとき一瞬、リニスはプレシアがこの男に惹かれているのかと思ったが、実は違った。惹かれているには違いないが、それは全く趣の異なる方向だったのだ。
男の名は『オーヴェル・フェルナンデス』。なんと、あの古代ベルカ時代の王『聖王オリヴィエ・ゼーゲブレヒト』の直系だという。
リニスでも昔聞いたことがあった、『聖王の力は人命をも司る』。プレシアはその力に、そしてその力を持つであろう男に、ただ一つの目的を完遂するために注目したのだ。
しかし、調べてみれば、その男と家族、すなわち聖王の力を受け継ぐであろう全ての人間は、惜しくもプレシアがオーヴェルのデータを入手する前に、ある組織によって皆殺しにされていた。四人家族のうち、父母は心臓を毒ナイフで刺され死亡。6歳の長女は首を引き裂かれ即死。そして7歳の長男は、まだ遺体が見つかっていないらしいが、現場に少年のものと思しき血が大量に流れていたため、恐らくは生きていないだろうとされている。
あの時のプレシアの落ち込みようは、それはすごかった。
だが今回は、もしかしたらそれを帳消しにしてくれそうな事態なのだ。

「拾った少年の特徴なのですが、青髪に恐らく真紅の瞳、そして、左目の付近に剣十字の痣がありました」

リニスが報告していく内に、プレシアの表情が驚くほど変わっていった。
諦めから、希望へと。

「どうしてそれを早く言わないのよ!?」

「それは…ぐっ、貴女が捨てて、こいっごふっ、て言うか…首、首締まってる!」

襟を掴んでグワングワン揺すってくるプレシアにタップしながら、リニスは黒い笑みを浮かべていた。

(ふふふ……これでうまくいけば全てがハッピーエンドですね)














「………」

倒れていた少年を治療したリニスはお母さんの元にこのことを報告しに行ってしまい、私は今、目覚める様子もないこの子の様子を一人で見ていた。
でも、このことを報告してしまったらお母さんは多分、捨ててこいって言うんじゃないのかな?でもリニスにそのつもりはないみたいだったし……そういえばそのことを直接聞いたときに、リニスは黒い笑みを浮かべてたっけ。あんなリニス、久しぶりに見たなぁ。
そんなことを脈絡もなく考えながら、私はなんとなくベッドの上で眠る少年に目を向けた。
不思議な少年。それが、私が彼に抱いた第一印象だった。もちろん、あんなところに一人で倒れていたことも不思議だし。なにより、この少年の纏う雰囲気というか、むしろ存在そのものが、触れたら消えてしまいそうな、そんな儚さを持っていた。
そっと手を伸ばして、少年の頬に触れる。この子は、一体なぜ一人で、それに傷だらけで倒れていたのだろうか。それは聞いてみないと分からない。けど、この少年が壊れてしまわないように、消えてしまわないように私が守ってあげなきゃダメだ。
なぜか私は、そう心に決めていた。
















ーーto be continuedーー








 
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