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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──

作者:なべさん
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ALO
~妖精郷と魔法の歌劇~
  雑務

黒衣の剣士が階段に消えるのを見届けた後、カグラが新たに頼んだ紅茶を飲みながらぼそりと言った。

「言わなくても良かったのですか、レン?」

「………いいんだよ。僕のことなんか、きっと今のキリトにーちゃんにはどうでもいいことなんだから」

「そんなこと…………!」

レンはもうその話題を打ち切るように、首を一つ鋭く振る。

「そんなことより、カグラ。早く食べ終えて」

「…………また、行くのですね。狩りに」

「ああ、こんなことしてる時間も惜しい。こうしている間にも、マイは苦しんでる」

「しかし、あなたの体はもう………」

レンはその言葉に、静かに首を左右に振る。

「何度も言ったでしょ。休むことはできない。…………時間だ」

「……はい」

レンはするりと席から立つ。

その動きは、見るものが見たら惚れ惚れするような自然な動作だった。フルダイブ下でのアバターの操作は、それなりの慣れが必要となる。

慣れていない者が無理にアバターを操作していると、どうしてもその動作はぎこちないものとなってしまう。

だが、レンの動作にその手のノイズは一切ない。滑らかなその動きは、一度戦闘になったら想像を絶する動きを可能にするだろう。

《すずらん亭》を出ると、スイルベーンの街はすっかり夜の闇に沈んでいた。外に座っていたクーが音もなく立ち上がり、二人の後を付いて来た。

その巨体が歩く時は必然的に足音が響くが、それは全く立たなかった。

冷たく凍った刃の切っ先を向けられているような情報圧がレン達の周囲にゆらりと立ち込める。それは、何者をも拒む圧倒的な拒絶の意思。

何者も近付くことの赦さぬ、虚無の意思。










「リンク・スタート!」

接続ステージを経て、妖精剣士リーファへと意識を移してぱちりと瞼を開けると、すずらん亭一階の風景が色鮮やかに広がった。

テーブルの向かいの席はもちろん誰もいない。と思いきや

「やぁ、リーファねーちゃん」

「こんにちわ」

レンとカグラが席に着き、頼んだと思しき紅茶をそれぞれ飲んでいた。

不思議なエメラルドグリーンの湯気が立ち上っていて、仄かな芳香が接続したばかりの嗅覚を刺激する。

「ず、ずいぶん早いのね」

「あ、う、うん。まぁね、暇だったから………」

微妙に目線を外しつつ、レンが言う。

人のことは言えないが、待ち合わせまで数十分の余裕がある。どれだけ暇を持て余しているのだろう。現実世界では平日の午後二時半という、人も少ない時間帯だというのに。一体現実世界では何をしている人たちなのだろう。

二人を連れ立って店から出ると、スイルベーンの街は美しい朝焼けの空に覆われていた。

毎日決まった時間にしかログインできないプレイヤーのための配慮か、アルヴヘイムでは約十六時間で一日が経過する。そのため、現実の朝晩と一致することもあればこのように全くずれる事もある。

メニューウインドウの時刻表示は、現実世界とアルヴヘイム時間が併記されており、最初は多少混乱したが、今ではこのシステムが気に入っている。

あちこちの店を二人と一匹を連れて駆け回り、買い物をしていく。その途中でリーファはふと思い出して、隣を歩くレンに訊く。

「そういえばレン君。キミはキリト君と違って世界樹に用が無いみたいだけど、それでも付いて来るの?」

「えっ?んー…………」

顎に人差し指を当てて、考え込むレン。

「面白そうだから……ってゆー理由じゃダメ?」

「まー、ダメじゃないけど」

そんなことを言いつつ、ポーションを選ぶ手は休めない。

買い物を済ませると、ちょうどいい時間になっていた。

宿屋に戻ってスイングドアを押し開けると、今まさに奥のテーブルに黒衣の姿が実体化しようとしているところだった。

ログインを完了したキリトは、数回瞬きをしてから、近付くリーファ達を認めて微笑んだ。

「やあ、早いね」

「ううん、さっき来たとこ。ちょっとみんなで買い物してたの」

「あ、そうか。俺も色々準備しないとな」

「道具類は一通り買ったから大丈夫だよ、キリトにーちゃん。でも………」

レンは、キリトの簡素な初期武装に視線を落とす。

「その装備はどうにかしておいたほーがいいんじゃない?」

「ああ……俺もぜひそうしたい。この剣じゃ頼りなくて…………」

「お金って持ってるの?」

「あ?えーと………」

キリトは左手を振ってウインドウを出し、ちらりと眺めてなぜか顔を引き攣らせた。

そして、真正面に立つレンとカグラが顔を見合わせて、軽く肩をすくめる。

「………この《ユルド》って言う単位がそう?」

「そうだよー。…………ない?」

「い、いや、ある。結構ある」

「なら行き先は武器屋だね。早速行こ」

「あ、ああ」

「う、うん」

レンに押されるようにしてリーファ達は宿屋を出ようとする。

その時、妙に慌てた様子で立ち上がったキリトは、何かを思いついたように体のあちこちを見回し、最後に胸ポケットを覗き込んだ。

「………おい、行くぞ、ユイ」

するとポケットから黒髪のピクシーがちょこんと眠そうな顔を出し、大きなあくびをした。

リーファ行きつけの武具店でキリトの装備一式をあつらえ終わった頃には、街はすっかり朝の光に包まれていた。

と言っても、特に防具類に凝ったわけではない。防御属性強化されている服の上下にロングコート、それだけだ。

凶悪なドロップ品の匂いがぷんぷんするレンとカグラの装備に比べたら、まさに雲泥の差だ。

時間がかかったのは、キリトがなかなか剣に納得しなかったからだ。

プレイヤーの店主に、ロングソードを渡されるたびに一振りしては「もっと重い奴」と言い続け、最終的に妥協したのはなんと彼の身長に迫ろうかと言うほどの大剣だった。

先細りになった刀身は、いかにも重そうに黒光りしている。おそらくこれは、土妖精(ノーム)闇妖精(インプ)に多い巨人型プレイヤー用装備だ。

ALOでは、与ダメージ量を決定するのは《武器自体の攻撃力》と《それが振られるスピード》だけだ。

しかし、それだと速度補正に優るシルフやケットシーのプレイヤーが有利になってしまう。

そこで、筋肉タイプのプレイヤーは、攻撃力に優る巨大武器を扱いやすくなるよう設定してバランスを取っている。

シルフでも、スキルを上げればハンマーやアックスを装備できないことはないが、固定隠しパラメータの筋力が足らないためにとても実戦で使いこなすことはできない。

スプリガンはマルチタイプの種族だが、キリトはどう見てもスピードタイプの体型だ。

「そんな剣、振れるのぉー?」

呆れつつリーファが訊くと、キリトは涼しい顔で頷いた。

「問題ない」

………そう言われれば納得するしかない。そこまでリーファが考えて、あれ?と思った。次いで、隣のレンとカグラ、後ろのクーを見る。

カグラの武器は、腰に下げているバカ長い長刀だとして、レンの武器は何なのだろうか。そう言えば、なんだかんだ言ってリーファはこの紅衣の少年の武器を見ていない。

あのサラマンダー隊リーダーを音もなく首ちょんぱした事から、恐らく武器は斬撃属性のものだ。投擲系、つまりはブーメランみたいな物だろうか。

魔法ならば、いかに低位のものでも絶対に派手なライトエフェクトとサウンドエフェクトが発生するはずだ。しかもあれだけの鎧を貫通するものだ。もし魔法だったなら、相当に高位のものだろう。

第一、彼はメイジ特有の杖などのブースト効果のあるものを持っていないではないか。

リーファがうーんと知恵熱を出している間にも、キリトはさっさと代金を払い、受け取った剣をよっこらしょと背中に吊ったが、鞘の先が地面に擦れそうになっている。

まるで剣士の真似をする子供だ、そう思った途端にこみ上げてきた笑いを噛み殺しながら、リーファは言った。

「ま、そういうことなら準備完了ってことだね。改めて皆、これからしばらく、ヨロシク!」

「こちらこそ」

「よろしく!」

「よろしくお願いします」

ポケットから飛び出したピクシーが、四人と一匹の頭上をパタパタ飛び回りながら言った。

「がんばりましょう!目指せ世界樹!」 
 

 
後書き
なべさん「始まりました!そーどあーとがき☆おんらいん!」
レン「やっとALO本番スタートって感じだったね」
なべさん「ま、そーだな。しかし最近ホントに更新が遅くて申し訳ない」
レン「そーいやぁそーだね。何で?」
なべさん「いやぁ、LINEでやってるTRPGにかまけてたら、気がついたら更新する定刻を過ぎてたの繰り返しで…………」
レン「ダメ人間(ボソッ」
なべさん「否定はしない。なにせ俺からPCとスマホを取ったら何も残らないからな」
レン「…………自分で言ってて悲しくならない?」
なべさん「……………………はい、自作キャラ、感想を送ってきてください!」
──To be continued── 
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