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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──

作者:なべさん
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ALO
~妖精郷と魔法の歌劇~
  悪夢を打ち破らんがために

さわさわ、さわさわ

頬を、柔らかな晩秋の微風が撫でていった。寝っ転がっている草地の名も無き雑草たちは全身一杯に穏やかな陽光を受けて、ふわふわと柔らかな感触になっていた。

さわさわ、さわさわ

風が鳴る、柔らかに。

樹の梢を透かして届く、晩秋の柔らかい日差し。遠くの湖を吹き渡ってくる微風。少しだけ潮風のような香りが、鼻を刺激する。

さわさわ、さわさわ

草が鳴る、穏やかに。

胸に頬を寄せてまどろむ一人の少女。

規則正しく頬に当たる、穏やかな寝息。

頭を巡らせて頭上を見ると近くの幹に背を預けて、こちらも熟睡している女性の姿。

いかなる時も腰に差している、一メートル半を超える長刀。正式名称《冬桜(とうおう)》は、今は鞘に収まって幹に立て掛けられている。

どんなものでもぶった切るその情報圧でも、このうららかな陽気を冷やす事はできないようだった。

さわさわ、さわさわ

僕は間近にある、陽光を跳ね返す純白の髪をそっと撫でる。眠りながらでも、少女は唇に微かな笑みを浮かべる。

梢を渡っていくリスの親子。

家から持ってきたピクニック用のランチボックスからは、サンドイッチのいい匂いが緩やかに漂ってくる。

真横に生えている花の周りをひらひら飛び交う蝶のカップル。

ささやかな花畑の脇で、僕達は寝ている。敵意を持つ者など入ってこない、正真正銘の僕達だけの領域。僕達だけのテリトリー。僕達だけの箱庭。

この時間が永遠だったらいいのに、と僕は晩秋の陽光を全身で浴びながらぼんやりとそんなことを思った。いや、願う。対象は誰なのだろうか。

神様?

いや、この世界に君臨する神は、あの漆黒のタキシードを着込んだデータの神。ありがたみの欠片もない神様だ。願ったって、帰ってくるのは不幸くらいしかないだろう。

じゃあ、誰だろう。

知らない、知りたくない。解からない、解かりたくない。なぜなら───

それが叶わぬ願いであることを、知っているから。それを僕は、知っているから。

あの小さな黒猫と、今はいない女性に教えられたから。

さらさら、さらさら

時間という砂の粒が、一粒ずつ滑り落ちていく。この時間の終焉を、着実に知らせる。

抗うように、胸の上の少女を強く引き寄せようとする。

だが、伸ばしたその両腕は空しく空気だけを掻く。

まどろむ眠気が一瞬で弾け飛び、はっと眼を開ける。

一瞬前まで、確かに体を触れ合わせていたはずの少女の姿が、幻のごとく跡形もなく掻き消えている。僕は急いで上体を起こし、辺りを見回す。

まるで趣味の悪いホラー映画のように夕焼けの色がみるみる濃くなっていく。鮮やかなオレンジ色から、毒々しい真紅の───

血の色へと。

背後で《冬桜》が倒れた音が響いた。からん、と。生命がいなくなったその空間内では、その音はひどく耳の奥深くまで響きわたった。

思わず、僕は少女と彼女の名前を呼ぶ。

しかし返ってくる声はない。しん、と沈黙という音の暴力が耳に響く。わんわんというセミの声にも似た耳鳴りが鳴る。

その音達に押し潰されそうになって、僕はもう一度叫ぶ。だが、返ってこない。全く、返ってこない。

いつの間にか、周囲は闇に押し潰されていた。

何もない虚無の空間の中で、僕は一人でふわりふわりと浮いている。

その闇に、僕は本能的に恐怖を覚えて叫ぶ。まるで壊れる寸前の玩具のように、無我夢中で叫ぶ。

怖イカ?

声が響く。金属質なエフェクトが混じった、ひどく耳障りな声だった。

それでも、この何もない世界では救いの神のように思えた。だからレンは震えながら頷いた。

憎イカ?コノ状況ヲ創リダシタ者ヲ殺シタイカ?

その声に、僕は思わず動きを止める。殺す?そのあまりにも非現実的な単語が頭の中で乱反射する。

コロス?何だそれ、と。

手前ェノ心ハ闇ダ。何モナク、何モナイ、無限ノ虚無………

何を言ってんだ、こいつ。

俺ノ名ハ殺戮。災禍ヨリ生マレシ三兄弟ノ一人。殺ス意思ヲ受ケ継イダ化物ダ。

ナニヲイッテンダ?コイツ。

知レ、全テヲ。喰エ、欠片モ残サズ。

Naniwoittennda?Koitu.

サァ、解キ放テ。怠惰ヲ、暴食ヲ、色欲ヲ、嫉妬ヲ、強欲ヲ、傲慢ヲ、憤怒ヲ。全テヲ薙ギ払イ、一面ヲ焦土ニ変エロ。

止めろ、やめろ、ヤメロ、Yamero!

準備ハ整ッタ。宴ヲ始メロヨ、虐殺者(アウトノッカー)










つがいの小鳥が、白いテーブルの上で羽根を寄せ合って朝の歌をさえずっている。

そっと右手を伸ばす。碧玉のように輝く羽毛に一瞬指先が触れる、と思う間もなく、二羽の小鳥は音もなく飛び立つ。

弧を描いて舞い上がり、光の指す方向へと羽ばたいていく。

椅子から立ち上がり、数歩後を追う。

だがすぐに、金色に輝く格子が行く手を遮る。小鳥達はその隙間から空へと抜け出し、高く、高く、どこまでも遠ざかる───

アスナはしばらくその場に立ち尽くし、鳥達が空の色に溶けてしまうまで見送ると、ゆっくりきびすを返してもとの椅子に腰掛けた。

「だいじょうぶ?アスナ」

隣の椅子に座っていたマイが、心配そうな顔で訊ねてくる。

アスナはそれに自分でも明らかに力がないと分かる笑みを力なく返す。これで何度目だろうか。

白い大理石で造られた、冷ややかに硬い丸テーブルと椅子。

傍らに、同じく純白の豪奢な天蓋付きベッド。

この部屋の調度品はそれだけだ。いや、この世界はそれだけだ。

やはり白のタイルが敷き詰められた床は、端から端まで歩けば二十歩はかかろうかという大きな真円形で、壁は全て煌く金属の格子でできている。

格子の目はアスナでも、ましてマイちゃんなどは余裕で通れそうなほど大きいが、それはシステム的に不可能である。

十字に交差する黄金の格子は垂直に伸び上がり、やがて半球状に閉じる。その頂点には巨大なリングが取り付けられ、それを恐ろしく太い木の枝が刺し貫いて、この構造物全体を支えている。

枝はごつごつとうねりながら天を横切り、周囲に広がる無限の空の一角を覆いつくす巨大樹の幹へと繋がっている。

つまりこの部屋は、途方もないスケールの大樹の枝からぶら下がった金の鳥籠───いや、その表現は正しくない。時折遊びに来る鳥達は皆格子を自由に出入りしている。

囚われているのは、アスナ。そして、隣の椅子にちょこんと座って脚をプラプラ揺らし、眩しいほどの純白の長髪を惜しげもなく白日の下に晒している幼い少女、マイ。

だからこれは檻だ。

華奢で、優雅で、美しい、しかし冷徹な樹上の檻。











アスナとマイがこの場所で覚醒してから、すでに六十日が経過しようとしていた。

いや、それも正確な数字ではない。何一つ書き残すことのできないこの場所では、日数を記録できるのは頭の中だけだし、どうやら一日が二十四時間よりもかなり短く設定されているようで、体内時計に従って寝起きしても朝と夜が安定しない。

目覚めるたびに、今日は何日め、と自分に言い聞かせているが、近頃ではその数字にも確信が持てなくなってきている。

ひょっとしたら同じ日付を何回も繰り返しているのではないか───実際にはすでに数年の月日が過ぎ去っているのではないか。

そんな想念に囚われてしまうほど、《彼》と過ごした懐かしい日々は遠い記憶の中に没しようとしている───

マイちゃん、怖くないの?と、ここに来てほどなくしてから、アスナはマイに訊いた。

実際、怖くないはずはなかった。

こんな訳の分からない所に連れてこられ、強制的に囚われの身になってしまったのだから。さらに、格好も違っているのだから、尚更だ。

ゴシック調のベッドの天蓋を支える壁には、大きな鏡が据えられている。

そこに映る姿は、それぞれ昔とは微妙に異なっていた。

アスナの場合、顔の作り、栗色の長い髪の毛は元のままだ。だが身にまとうのは、心許ないほどに薄い、白のワンピース一枚。胸元に、血のように赤いリボンがあしらわれている。

一方のマイは、皮肉だろうか。ゴスロリ風の真っ黒なドレスのようなワンピースを着ている。こちらもびっくりするほど薄い。

剥き出しの足に、大理石のタイルがしんしんと冷気を伝えてくる。

武器はおろか何一つとして持っていないが、背中からは不思議な透明の羽根が伸びている。いや、鳥というよりは昆虫の翅のようだ。

本当に最初は、死後の世界に来てしまったのかとも思った。

だが今では、絶対にそれが真実ではないことが判っている。

手を振ってもメニューウインドウは出ないが、ここはアインクラッドではない。新しい仮想世界だ。

コンピューターの作り出すデジタルの牢獄。アスナ達はそこに、人間の悪意によって幽閉されている。

そう、マイにこっぴどい仕打ちを受けてから一度も顔を見せていない、あの男。

現実での名前は、須郷(すごう) 伸之(のぶゆき)、ここでの名前は確か……オベイロンだったか。

さすがにあの技は、マイ自身にもそれ相応のリスクがあるようだったが、それでも希望は充分に与えてくれた。

今はまだ、準備期間。マイがあの絶大な力を再度振るえるまでの。

ならば負けるわけにはいかない。悪意に心を挫かれるわけにはいかない。そう思って、アスナは日々襲ってくる孤独感と焦燥に二人で耐えている。

なぜなら少女は言ったのだ。アスナの問いに対して。

だって絶対にレンが助けに来てくれるんだから、と。 
 

 
後書き
なべさん「なんか久しぶりだよコンチクショー。そーどあーとがき☆おんらいん!」
レン「ホントに久し振りだね~。最終更新っていつぐらいだったっけ…………うわっ、8月19日だって」
なべさん「10日以上も開けちまったのか~」
レン「んで、その間何してたの?」
なべさん「そうそう、それなんだよ。ほら、俺って暁のSAO作者様達のLINE入ってるじゃん」
レン「うん」
なべさん「そこで、いつも俺が自由気ままに決めてる改行についての話題が上がってね」
レン「うん?」
なべさん「そんで、変えようって思って、ここんところずぅっと直してました」
レン「あっそ、自業自得だね」
なべさん「も、もうちょっと優しい言葉をかけてくれても………(泣)」
レン「(無視)はい、自作キャラ、感想を送ってきてくださいね~♪」
──To be continued── 
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