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ドン=カルロ

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第三幕その二


第三幕その二

「もう過去も現在も未来もありません。私の全てを貴女に捧げましょう!」
「それは本当ですか!?」
 彼女はもう我慢が出来なかった。身体をこちらに向けた。
「は、はい」
 カルロはここで妙なことに気付いた。王妃の背が普段より低いように見えたのである。そして声も低いような気がした。しかし気のせいだと思った。
「殿下、私も貴方のことを思い焦がれておりました」
「その言葉、お待ちしておりました!」
「それではこんなものもう必要ありませんね」
 公女はそう言うと仮面を取り外した。
「!」
 それを見たカルロは表情を凍らせた。
「殿下、お慕いもうしております!」
 そう言ってカルロを抱き締めようとする。だが彼はそれから身をかわした。
「ど、どういうことなのだ、これは!?」
 カルロは顔を蒼ざめさせていた。
「・・・・・・どうしたのですか!?」
 皇女はそんなカルロの顔を見て不思議に思った。
「つい先程まであんなに嬉しそうでしたのに」
「それは・・・・・・」
 見ればエボリ公女である。カルロはそのことに益々顔を青くさせた。
「こんなに強張ってしまって・・・・・・。折角お互いの気持ちを確かめることができたというのに」
「いや・・・・・・」
「違いますの!?」
 公女はカルロの顔を見上げて問うた。
「殿下、私は知っているのです」
「何をですか!?」
 カルロは顔を近付ける公女に対して問うた。
「貴方が今どういう立場におられるかを」
「立場といいますと」
 カルロはその言葉にギョッとした。
(エリザベッタのことかも・・・・・・)
 そう思うと恐怖した。今彼女の名を呼ばなくて本当に良かったと思った。
「お父上とポーザ侯爵が貴方について色々とお話しております。貴方は今大変危険な状況にあるのです」
(ロドリーゴが・・・・・・そんな・・・・・・)
 カルロは親友と思っていた男の思いもよらぬ行動を知り愕然となった。
「ですが御安心下さい、殿下には私がいますわ」
「貴女が・・・・・・」
「はい、先程も言いましたがお慕いもうしております、一生殿下を愛しますわ」
「有り難う」
 カルロは彼女に対しとりあえずは礼を言った。
「貴女の気持ちはよくわかった。しかし」
「しかし・・・・・・」
 その言葉を聞いて公女は表情を変えた。いぶかしむものとなった。
「私は貴女の気持ちに応えることは出来ないのです」
「どういうことですか!?」
「それは聞かないで下さい」
「・・・・・・・・・」
 公女はその言葉に顔色を暗くさせた。そしてあることに気がついた。
「殿下、まさか・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
 カルロは公女の言葉に顔を蒼白にした。
「答えて下さらないのですね」
「それは・・・・・・」
 答えられなかった。もし答えたなら全てが終わるからだ。
「いえ、もうわかりました」
 だが答えなくとも結果は同じであった。
「そのようなことが許されると思っているのですか!?」
「言わないでくれ」
「いえ、言わずにはおれません!」
 公女は声をあらいものにした。
「それが一体そういうことかわかっておられるのでしょうか!」
「わかっていてもどうにもならないことがあるんだ!」
 彼は激昂してそう言った。
「開き直りましたね」
 公女はカルロの顔を見上げて言った。
「この期に及んで」
「それは・・・・・・」
 彼は自分が底なし沼にはまったことを悟った。そこへ誰かがやって来た。
「誰だ、そこで騒いでいるのは」
 見ればロドリーゴである。
「殿下、どう為されたのですか!?」
 彼はカルロに近付いて来た。
「エボリ公女も。一体どうしたというのです!?」
「殿下の秘密を知りましたの」
 公女は悪魔めいた笑みを浮かべて彼に対して言った。
「殿下の!?」
 彼は最初フランドルのことかと思った。
(いや、違うな)
 だが彼はそうではないとすぐに察した。
(まさか・・・・・・)
 ここでは彼は王が彼に対し語ったことを思い出した。
「では私はこれで」
 公女はそう言うとその場を立ち去ろうとする。
「お待ち下さい」
 彼はそんな彼女を呼び止めた。
「何処へ行かれるのです?」
「急用が出来まして」
 彼女は素っ気無く答えた。その時チラリ、とカルロを見た。
(やはりな)
 彼はその目の動きを見て全てを悟った。そし彼女に対して言った。
「貴女を行かせるわけにはいきません」
「何故ですか!?」
「貴女は今邪なことを考えておられるからです」
「あら、それはどうでしょう」
 公女はロドリーゴに対し不敵な笑みで返した。
「むしろ貴方の方が邪なことを知っているのではなくて!?」
「何!?」
 ロドリーゴはその挑発的な言葉に対し顔を顰めた。
「貴方が殿下のご親友であることはご存知ですわ。けれど私は殿下も貴方も地獄へ送って差し上げることが出来るということはご存知ないようですね」
「それは一体どういう意味だ!?」
「私も力を持っているということです」
 彼女と彼女の兄の宮廷での力は良く知っている。だがこの口調からはそれ以上のものを感じるのだ。
「殿下と私をか」
 ロドリーゴは彼女を睨み付けた。
「面白い、私はともかく殿下には指一本触れさせぬぞ」
 彼はカルロを庇うようにして言った。
「あら、強気ですわね」
 公女はそんな彼を嘲笑して言った。
「私が怒ればどういうことになるか一切ご存知ないというのに」
「戯れ言を。もし言ってみろ」
 彼は語気を強めた。
 
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