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管理局の問題児

作者:くま吉
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第3話 やはり彼らの戦いは間違っている。



 シグナムは困惑していた。
 それは敵が強過ぎたから、というわけではない。単に―――。

「どうも麗しき姫君よ。このような薄汚い戦場は貴女のような女性には似つかわしくありません」

 ―――気色の悪いイケメンが目の前に跪いていたからだった。

 目の前にいる金髪碧眼の美青年は、化物を発見したシグナムが、意気揚々と「いざぶった斬る」と特攻しようと思った矢先に眼前に現れたのだ。
 一切の気配なく現れ、しかも見た事もない特殊な歩法を使用していたので、即座に警戒し、愛機であり相棒でもある炎の魔剣〈レヴァンティン〉を構えたのだが、美青年は即座に跪き、こうして気色の悪い口説き文句を並べている。
 烈火の将であるシグナムもれっきとした乙女。
 目の前の青年が世で言うイケメンに入る事は分かる。だが、シグナム自体男性を容姿で判断しようとは思っていないので、目の前のイケメンの言葉は全くと言って良いほど心に響いていない。

「お前は誰だ?」

「おっと。申し遅れました。わたくし、時空管理局に努めています御剣レイ二等陸士です。貴女はシグナム二等空尉であらせられますね?」

 何故か最初の頃よりも気持ちの悪い態度で接してくる御剣レイに、内心でドン引きのシグナムだが、相手が管理局で、自分が上官に当たると知ったシグナムは、偏見なく、真面目な態度で接する。

「そうだ。一人ではあの化物の相手は少々骨が折れる。力を貸して貰いたい」

 そうシグナムが言うと、レイは少し、だが明確に、笑った。

「なに言ってんすか。あいつは俺一人でぶっ殺しますよ」

 その言葉に、シグナムは思わず眉を寄せる。
 今まで自身の力を過信し、命令無視をし、一人突っ込み重症を負ったり、魔導師人生を終わらせた者を何人も見たり、聞いたりしているシグナムにとっては、この発言は聞き捨てならない。

「待て。何でも一人で突っ走るな。己の力に自信があったとしても仲間を頼れ」

 それはかつて、夜天の守護騎士としての経験を踏まえての言葉だが、レイは軽薄そうな笑みを浮かべ、全く聞き入れた気配はない。
 そんなレイの態度に、流石に怒りを感じたシグナムは怒ろうと声を上げかけたが、レイが。

「ならちょっくら見てて下さいよ。俺が自信過剰なバカじゃないかどうか」

「なに…?」

「じゃ」

 そう言ってレイは化物に突っ込みにかかる。
 が、そんな言葉を聞き入れる訳には当然いかないシグナムは、咄嗟にレイの腕を掴む。

「ふざけるな。そんな勝手を私が見過ごすわけにはいかない」

 そう告げるシグナムだったが、ここにきて初めてレイの瞳に苛立ちが浮かんだ。

「うっさいっすねー」

 そう言ってシグナムの手を振り払う。そして―――。

「ちょっとそこでジッとしてて下さい。―――雷鳴の馬車 糸車の間隙 光もて此を六に別つ。 縛道の六十一“六杖光牢”」

 直後、六つの帯状の光が、シグナムの胴を囲うように突き刺さる。

「なっ―――!?」

 即座に解こうとするが、シグナムの腕力では解けない。

「な、なんだこのバインドは…!?」

「バインドじゃなくて縛道っていうんだけど。まぁ、ミッドでもなければベルカでもない術式だから解くには数分は必要な筈。ま、それまでには終わらせるけどねー」

「なっ、お前!待て!!」

 しかし、レイはシグナムの制止を完全に無視し、化物に突っ込む。

「さてと。お手並み拝見といこうじゃん」

 ニヤリと好戦的な笑みを浮かべ、右手を前にかざす。

「―――破道の三十三“蒼火墜”」

 ドオオン!!!

 蒼い爆炎が化物の頭部を包み込む。
 一目みてもかなりの威力だというのは分かる。が―――。

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!」

 多少の焦げ跡はあるが、大したダメージは負ってはいない。
 それ自体は、レイも分かっていたのか、特に驚きはない。

「やっぱ中級鬼道でしかも詠唱破棄で撃っても大したダメージにはならないか」

 そう呟き、レイは腰に差してある刀―――斬魄刀を抜く。

「ま、リクにも長引かせるなって言われてるしな。―――だから…これで終わりだ」

 言いながら、レイは斬魄刀を縦にし、胸の前に持ってくる。
 そして―――言い放つ。

「散れ―――“千本桜”」

 レイの斬魄刀の刀身が消える。いや、正確には刃が無数に分裂したというべきか。そして、分裂した刃は光の反射を受け、まるで散りゆく桜の花弁を想起させる。

「死ね」

 ズババババッ!!

 巨大な化物の頭部が、無数の斬撃によって切り裂かれる。しかしそれで終わりではない。レイは何度も、何度も、何度も、千本桜で化物を切り刻む。

 そして遂に、化物はその身体を粒子状に散らした。

 既にレイの斬魄刀も元に戻っている。
 レイはクルリと背後を振り返り、未だ“六杖光牢”から抜け出せていないシグナムを解いた。
 シグナムは、レイの凄まじい力を見たせいか、半ば茫然としている。

「お前…その力…」

 しかし、シグナムには目の前の青年が使った力に似た物をどこかで見た感じがしていた。しかし、それがどこかは全くと言って良いほど思い出せないのだが、それでも微かな懐かしさのようなものを感じるのである。

「ね、言ったでしょ。俺一人で楽勝だって」

 そんなシグナムの気持ちなど分かる筈もないレイは、軽薄そうにニヤリと笑った。







 ヴィータは今までにない完全なる混乱にいた。
 それは別に、黒い着物を着て、腰に刀を差した者が来たからでも、あの化物を圧倒しているからでもない。
 いや、現にヴィータの前に現れた黒髪の美少女は、ヴィータの事を「どけクソチビ!!」と叫びながら戦闘に一方的に参加。そして化物をフルボッコしている。
 チビと言われた事に一瞬ブチ切れそうになったヴィータだが、現在そんな気も吹き飛んでいる。

 なぜなら。

「なあ。なんで…お前…」

 なぜなら。

「―――上半身裸で戦ってるんだっ!!?」

 そう。
 現在、ヴィータをバカにし、一方的に戦闘に参加した少女、剣葉アキは上半身裸で化物と闘っていた。
 勿論最初から裸だったのではなく、先頭の途中から肩と背中の衣服が弾け飛び、その結果上半身裸になったのだ。

「うるせえなガキンチョ!!どう戦おうとアタシの勝手だろうが!!」

 相も変わらず口が壊滅的に悪い。
 それに加え態度も悪く、オマケに貞操観念まで崩壊しているので、半ば救いようがないと言える。
 まあ、それを言えばリクやレイも女性関係に関しては最悪なのだが。

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!」

「アハハハハ!!痛いか!?苦しいか!?―――ならば死ね!!」

 そう叫び、高密度に圧縮した魔力を炸裂させ、化物の顔面に叩きつける。

 ―――“瞬閧(しゅんこう)”。

 それがアキが使っており、アキのみが使える格闘戦―――白打による最高戦技である。高密度に圧縮した魔力を背と肩に纏い、それを炸裂させることで鬼道を己の手足へと叩き込んで戦う。
 一撃一撃が既に必殺の威力を持つこの技で、アキは化物を圧倒していた。
 しかし上半身が裸である為に、イマイチ痴女が暴れているだけにしか見えない。

「消えろ能面野郎。雑魚は地獄で泣き叫べ」

 拳一閃。
 炸裂した魔力が化物の頭部を跡形もなく吹き飛ばす。
 化物は、リクやレイの時同様に、塵も残さず消え去った。

「よお、アタシの戦いみてたかガキンチョ」

 アキは不敵な笑みを浮かべてヴィータに言う。

「そんな事より服着ろー!!」

 当のヴィータは、切実な願いを込めてそう叫ぶのだった。







 その後、無剣リク、御剣レイ、剣葉アキの三名は、機動六課隊舎に連れて来られた。
 部隊長の八神はやてがどうしても会って話がしたいと言いだしたからだ。

 そして現在三人は隊長室に横一列に並んで立っている。

 三人共既に黒い着物…死覇装を脱ぎ、最初に着ていた、陸士隊の制服を着用している。ついでに、陸士245部隊を追い出された時と同じ順番で並んでいるのは偶然か。
 そして、三人と八神はやて以外の他に、リインフォースⅡ、そして六課の隊長である高町なのは、フェイト=T=ハラオウン、副隊長であるヴィータとシグナムも立ち会っている。

「改めて協力ありがとうな」

 まず口を開いたのははやてだった。
 あの化物を倒してくれた事に対する感謝の言葉を述べる。

「いえ、管理局員として当然の事をしたまでです」

 三人の中で比較的常識人であるリクが代表してそう言った。もちろん比較的なので、問題児にはかわりない。

「ところであの化物って一体なんだったんすか?」

 レイがそう尋ねるが、はやては申し訳なさそうな顔をした。

「それに関しては目下全力で捜査中や。わかっとんのはアレが人為的に召喚、又は呼び出された事ぐらいやな」

 はやての目の前には先程の戦闘の一部始終が録画された映像が流れている。勿論三人の戦闘映像もキチンと映っている。

「まあ、今はあの化物の事は置いといて、私が聞きたいんは君らのことや。あの力は一体なんや?ミッド式でもベルカ式でもない魔法。というかあれは魔法なんか?魔法陣すらなかったんやけど」

 そのはやての疑問に、他のメンバーも頷く。
 どうやら相当に疑問を持たれているようだ。

「それに―――」

「あー順番に説明するんで聞いて貰えますか?」

 はやてが更に質問をぶつけようとするので、リクが遮る。

「あー、ごめんな」

「いえ。まず俺達の力から。―――俺達が使ってる力に関しては正直あまり分かっていません。ただミッド式やベルカ式とは完全に違う技術体系って事は確かですけど」

「分かってないってどういう事?」

 なのはが尋ねる。

「俺達は昔〈剣の民〉って呼ばれてた一族の末裔なんですよ」

「〈剣の民〉だと!?」

 シグナムが驚愕の声を挙げる。
 その隣に立っているヴィータも、驚きの表情を浮かべている。

「シグナム、ヴィータ、知ってるの?」

 二人の近くにいたフェイトが聞く。
 その問いに、シグナムは若干緊張しながら口を開いた。

「ああ。遥か昔に一度戦った事がある。二度と戦いたくない一族達だった」

「そうだな。あたしも二度と戦いたくないな…」

「そ、そんなに強いんだ…」

 管理局の中でもトップクラスの実力を持つシグナムとヴィータが二度と戦いたくないとまで思う相手に、なのは、フェイト、はやては自身の頬が引き攣るのを感じる。
 つまり、目の前に立っている少年二人と少女一人は、そんな一族の末裔なのだ。そして自分達は彼らの力の片鱗を先程目撃したばかりである。

「でもそんな強いんやったら何で一度も君らの名前を聞いた事ないんや?」

「あ、それわたしも思ってた」

「私も」

 はやての言葉になのはとフェイトが同調する。

「それは、さっき見せた力を使わなかったからです。何かとアレは目立つんで、基本はミッド式の魔法を使ってました。俺達には合わなくて結局魔導師ランクはC止まりですけど」

「アタシはBだぞ」

 アキが途中訂正を入れてきたが、リクは無視。

「で、話を戻しますと、俺達の力はその〈剣の民〉のみが使える希少技能みたいなもので、原理とかは良く分かってないです。感覚的に使ってる感じですかね。修行も伝承にあるものとかを試してるだけですから」

「成る程…。確かにその力は見せびらかすと面倒な事になりそうやね」

 はやては納得しながら、高速で頭を働かせていた。
 目の前にいる魔導師三人は、公的には魔導師ランクCかBという事になっている。それに今しがた会話しながら調べた所によると、問題を起こして部隊を除隊している。
 はやては考える。目の前の問題児を引き入れた時に生じるマイナスと、プラスの勘定を。

(うーん。男子二人に関しては酒に酔った結果と書いてあるし酒さえ気を付ければ大丈夫やと思うんやけど、問題は女子の方やな…)

 剣葉アキ。
 正直この少女が三人の中で最も扱いづらいとはやては感じていた。

(私の勘が告げてる。この子は悪人でもないけど善人でもない。それだけに読み難いわ)

 しかし、彼らの実力を見た以上、放置するには余りにもおしい人材である。
 はやては―――覚悟を決めた。

「―――君ら、機動六課に入らへんか?」

 これが吉と出るか、凶と出るかは誰にも分からない。

 
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