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剣風覇伝

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第二話「魔物との戦い」

 タチカゼは、街道を行く。本来なら関所などが多数ある、街道などは旅を急ぐ身としては通りたくはないものだが、王じきじきの書文もあることだし関所で手間取ることはないと踏んだのだ。
街道近辺には、旅の者を襲って金品を強奪する魔物がよく出る。
 村では子鬼と呼んでいる魔物は、小知恵が効いて山賊まがいのことをやる。子鬼には大鬼という群れのなかではひときわ大きいものが混じっていることがあり、そいつには矢はおろか、剣もあまり効かない恐ろしい存在だ。
 すると、向こうから鎧兜を付けた男たちが、わらわらと逃げてくるのが見える。この向こうには、最初の関所がある。
「わあああ、助けてくれ!ゴブリンの群れだ、関所を乗っ取られた」
 なんとも情けない。関所を任されてるからには王国の正規兵だろうに子鬼ふぜいに逃げ出すのか。
 村では子鬼の襲撃など矢の雨を降らせてさんざんに打ち取ったものだ。
「恐れるな、助太刀いたす」
 タチカゼは馬を駆って関所に向かった。子鬼どもは、気づいたのか、錆びた剣やなたを持って、こちらへすばしっこく群がってきた。まるで猿だ。
 タチカゼは、刀を抜くと、馬上から鋭い一撃を見舞う。たずなさばきは見事なもので、馬を傷つけまいと、すばやく切り返す、まさに人馬一体の攻防を見せて
いた。
 子鬼どもが、馬の後ろに来ようものなら、馬の後ろ足で顔がひしゃげるほどの蹴りを食らわした。しかし、子鬼どもも攻め方を知ったらしくこちらの誘いにのらなくなってきた。右に左に飛びすさって馬上では捉えられない。
 タチカゼはそうと見るや、馬を駆け出し、敵陣を破り、少し離れたところまでかけたあと、馬を下りて白兵戦に出た。
 追ってきた子鬼どもは案の定、足の速いものから先に打ってかかってくる。子鬼にはやはり知恵などないな、と、タチカゼはにやりとした。隊列を組むということを知らぬ、タチカゼの刀が届くところに来ると足の速いものから確実に一太刀で打ち取れる。
 一人、二人、五人、続けざまに切ったあと、やっと相手のほうもわかったと見え、前のほうの奴が止まれと合図した。
 しかし、子鬼どもはどんどん出てくる。物の数ではないが、ここまで来ると一人ではやりにくい。
その時だった。子鬼どもの後ろから、歓声が上がる。
自分が子鬼どもを相手してる間に、逃げに走っていた兵たちが関所を奪いかえしたのだ。タチカゼは、自然と笑みがでる。
そのときだった、タチカゼは、子鬼の一人が矢と弓を武装してるのを見て、その子鬼を切り倒し弓矢を奪った。状態もよく、ふつう子鬼が触った武器はだんだん子鬼の体の毒により錆びてくるのだが、この
子鬼、弓矢を使えもしないでもっていたようだ。
村の長のことばを思い出した。
「子鬼の武器は、錆びているから、一太刀も受けてはならぬ。受ければ、そこから皮膚が腐食して落ち
る。だから、子鬼の武器を奪おうなどとは考えるな、錆びた武器など、折れてしまえば何の役にも立た
ん」
しかし、この弓矢はどうだ。弓の張りも十分だし、矢も矢羽を撫でてみるに使える。
実戦は臨機応変が基本。
タチカゼは賭けに出た。
子鬼たちは、関所に気を取られてそちらのほうへ行ってしまった。
タチカゼは弓に矢をつがえた。
遥か、上空めがけて矢を放った。矢は、大きく打ちあがったとみるや関所を襲おうとしていた子鬼ども
の一匹に急降下してズブリと刺さった。
子鬼は、一度血をばあっと吐いたあとばったりと倒れてしまった。しかし、まだまだ矢が風を切り裂く
音は絶えない。
子鬼どもはどこからくるのかまったく分からずきょろきょろとおびえている。
一人、また一人、どんどん、矢による攻撃で死んでいく。
とうとう子鬼は恐ろしくなって逃げ出していった。
「ものすごい腕前だ、おいどこから矢を射ってたか分かったか?」
「いや、とにかく恐ろしい腕だ。おい、だれか、あの者を探し出して来い、お礼の一つでもせねば」
すると、馬にまたがった麻の服を纏った黒髪の若者がこちらへやってくる。腰には刀を差し、背中に弓
矢を携えている。
「やあやあ、俺は分け合って、王国に向かっている旅の者だ。敵も数が多い、戦いに難ありとみて助太刀いたした。願わくば、今夜の宿を貴方らにお願いしたい」
関所の者たちは関心した、堂々としていながら、礼を欠かないその振る舞い、そしてさきの戦い。
「いや、宿なら私たちのほうからお願いしたい。どうぞ泊まっていってくだされ。お礼の一つもせねば
気がすみませぬ」
そうしてタチカゼは、旅の最初の宿をとった。
夕暮れがゆっくりとその街道のある谷を照らしていた。

 
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