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ロミオとジュリエット

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第一幕その四


第一幕その四

「あの」
 ロミオはその間にキャブレット家の者であるグレゴリオに声をかけた。無論彼はロミオのことには気付いていない。仮面のおかげであった。
「グレゴリオさん」
「はい」
「あの方はどなたですか」
 ジュリエットを指し示して問う。
「あの方ですか?」
「はい。どなたでしょうか」
「まさかとは思いますが」
 グレゴリオはロミオの問いに仮面の下で顔を顰めさせ、同時に首を傾げさせた。
「御存知ないのですか?」
「といいますと」
「お嬢様ですよ」
「お嬢様!?」
「ですから、ジュリエット様です」
 彼は述べた。
「あの方がですか」
「おわかりになられなかったのですか?」
「あっ、いや」
 その問いに何とか取り繕おうとする。
「その。仮面を着けておられたので」
「まあ無理もありませんがね」
 グレゴリオはそれを聞いて納得した。
「仮面は全てを覆い隠しますから」
「はい」
「若しですよ」
 ここでグレゴリオは言った。
「ここにモンタギュー家の者達が紛れ込んでいてもわかりはしないでしょう」
「ええ、それは」
 その本人が答えた。
「誰にもわかりはしないでしょう」
「思えば危険な宴です」
 実際に仮面舞踏会は密会や陰謀、暗殺の舞台ともなっている。華やかな宴の裏には毒があるのだ。
「ですが楽しくもある」
「人は誰もが仮面を着けていますからね」
 ロミオはふと哲学的な言葉を述べた。
「その上にまた仮面を被る」
「確かにそうした面はありますね」
 グレゴリオもそれに同意した。
「人間というのは嘘と虚栄から離れられません、残念なことに」
「ええ」
「それでお嬢様ですが」
「ジュリエット様に」
「御会いになられますか?」
 彼はロミオに尋ねてきた。
「ええ、よければ」
「わかりました。それでは」
 それを受けてジュリエットに声をかけてきた。
「お嬢様」
「何?」
「お客様が御会いしたいそうです。宜しいですか?」
「ええ」
 ジュリエットはそれを受けて返事をした。
「畏まりました。それでは」
 ジュリエットの返事をロミオに取り次ぐ。
「どうぞ。お待たせしました」
「はい」
 こうしてロミオはジュリエットと顔を合わせた。仮面を被ってであるが出会った瞬間に今稲妻が走った。
「貴方は」
 まず言葉を口にしたのはジュリエットであった。
「一体どなたですか?」
「僕ですか」
 ロミオはそれに応えて述べた。
「僕はずっと天使を探していました」
「天使を」
「はい、そして今それに出会いました。誰もが近付けない程尊い天使に」
「それはまさか」
「貴女です」
 ロミオは言う。
「貴女こそがその天使なのです。さあ御手をお貸し下さい」
「ええ」
 それに応えて右手を差し出す。ロミオはその前に片膝をつき接吻をした。
「さあお立ちになって下さい」
「宜しいのですか?」
「はい、そして私の前に」
「わかりました」
 ロミオはそれを受けて立ち上がった。そしてジュリエットと向かい合う。
「心は静まっていますが」
「聖人の様に」
「私はその様な尊いものでは」
「いえ、それは違います」
 ロミオはジュリエットを謙遜を否とした。
「聖人は薔薇色の唇を持っていると聞きます。そして貴女も」
「いえ、私にできるのは祈ることだけです」
 それでもジュリエットは言う。
「ただ祈るだけ」
「その祈りこそが聖人の祈りなのです」
「私の祈りが」
「そう、何もかもが」
 ジュリエットを見詰めて言う。仮面の下の目と目が重なり合った。
「私にとっては尊いものなのです」
 ロミオが言った。
「ですから僕は今ここに」
「私の前に」
「いけませんか?」
 ジュリエットに問う。
 
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